鬼才ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映像化した映画『DUNE/デューン砂の惑星』を観てきました!美しく壮大な映像は楽しめましたが盛り上がる前に終わってしまい、映画としてはストーリー性の非常に薄い残念な作品になっていました…。
フランク・ハーバートの原作小説で言うと上中下巻ある「デューン砂の惑星/新訳版」の上巻と中巻少しをサラッとなぞった感じで、盛り上がるパートはありません。
セリフや説明が少なく、ゴージャスな映像だけで緊張感やキャラへの共感を維持できず、ずっと中だるみで眠気に襲われる状態(好きだった人はすいません)。
あと正直この作品、個人的には映画を見る前に原作小説が必読だと思います。
原作を読んでいないと情報量が少なすぎて“主人公ポールが悲劇にあって成長する物語”という浅いストーリーしかわかりません。
映画というより映像作品に近く、コレならいっそのことドゥニ・ヴィルヌーヴの撮影ドキュメンタリーが見たかったです。
これなら奇怪なカルト映画になったデヴィッド・リンチ版の方がまだ楽しめました。
ぶっちゃけ酷評や感想、つまらない理由を考察、ストーリーネタバレあらすじ解説をしていきます。

ネタバレなし感想・見どころ・あらすじ
西暦10191年の宇宙では人類は人工知能と決別し、精神や肉体を独自に進化させていました。惑星デューンでは宇宙一貴重な物質メランジ(スパイス)が採取でき、ロケットの移動などに使われるほか、人間の精神進化にも大きな作用を及ぼします。この惑星デューンでアトレイデス家・ハルコンネン家の両家が領地を激しく対立する中、現地の部族フレーメンも争いに参加するというストーリーです。
『DUNE/デューン砂の惑星』(2021)は、映画で映像の美しさを重視する人にはもってこいでしょう。
おすすめ度 | 70% |
SF世界観・映像 | 90% |
ストーリー | 50% |
IMDb(海外レビューサイト) | 8.3(10点中) |
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト | 83%(100%中) |
※以下、映画『DUNE/デューン砂の惑星』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『DUNE/デューン砂の惑星』ネタバレ感想・酷評
「つまらない、ひどい」22%、「イマイチ、見なくてい」20%で 低評価が42%
「超面白い」29%、「まあまあ」20%で 高評価が49%。 意見が割れていますね。
この内容で2時間半は無理がある!
全体のストーリーの流れは、
- 主人公・ポールが砂の惑星アラキス(デューン)に着く
- 攻撃されて父レトや一族が死ぬ
- 母と逃げてフレーメン(砂漠の一族)に会って決闘し、仲間になる
これだけです。
デューンの大まかなストーリーは貴種流離譚(きしゅりゅういたん/英雄が誕生して困難にぶつかって放浪し、困難を克服して復讐を果たす物語の総称)ですが、なんと何も解決していない状態で終わります。
絶対とは言いませんが、シナリオ構成のセオリーとしては砂漠の民・フレーメンと組んで彼らの文化に馴染んだうえで、敵とちょっと戦うパートまでは入らないと…。
カタルシスが得られず「映画としてコレはどうなの?」という感想を持ちました。
古典的な英雄・冒険の物語のセオリーで考えると「1番盛り上がる後半パートが欠如している」ということになります。
他の作品と比較してみると、なぜ物足りないと感じるのかがさらにわかりやすいです。
原作小説版「デューン」から影響を受けた『スターウォーズ』シリーズでいうと悲劇があってから、他の場所にいる主要人物に出会ったところで終わり。
現地の民族と決起するという意味で構成が似ている映画『アバター』や『ラストサムライ』で考えると、現地の民族に出会って終わりということになります。
映画版はパート1なので、続編のパート2でポールたちが決起するパートが描かれるのでしょうけど、1本の映画という意味では物足りなさすぎです。
上中下巻ある原作小説でいうとほぼ上巻の内容だけで、世界観の説明と最初の悲劇だけで終わっています。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は3部作を予定しているようなのですが、映画のストーリーとして成り立たせるためにパート1で小説の中巻くらいまで入れた方が良かったのでは?
キャラの説明が足りな過ぎる
原作ではかなり会話が多いのに比較して、映画ではセリフが極端に少ないのも大きな違いです(ドゥニっぽさですが)。原作で語られている背景などの説明も、尺の関係もあってバッサリカットされています。
例えば、同じくドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の映画『ブレードランナー2049』でも、ライアン・ゴズリング演じる主人公・ジョーに関しても背景の説明は少なかったですが、その作品の場合は登場キャラが多くなかったので、彼の内面を映像で表現できていたと思います。
ただ映画『デューン』の場合は登場キャラが多く、映像でキャラの内面を映すことに関しては、ポール以外の人物に時間を使えていませんでした。
キャラに共感できず、ストーリーが薄くなる一因だったといえるでしょう。
独白がなくても映像でキャラの心情説明をしていればいいのですが、そういう映し方でもなく、あくまで全体的な世界観構築にこだわっています。
映画だけで原作小説のキャラの心情を推しはかるのは難しいと思います。
映画の映像だとポールが困惑している、悩んでいる、という非常にフワッとした印象しか受け取れないでしょう。
少なくとも、原作小説でかなり見どころの心理描写であるポールが巨大なシステムを悟って自分の変貌にすら困惑し、絶望して気が狂いそうというのは推測できないと思います。
全体的にも何も解決しておらず、主要キャラの変化もほとんど汲み取れないので、個人的にはストーリーはほぼないと言った方が近いでしょう。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の哲学がない
『DUNE/デューン砂の惑星』では、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督らしい哲学的なメッセージが感じられませんでした。壮大な映像の撮影で力を使い果たしてしまったのでしょうか?!
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は映画『メッセージ』(2016)では原作小説を凄まじい完成度で映像化し、哲学的な思考をアーティスティックに表現していて、心を鷲掴みにされました。
しかし本作ではそのような感動が得られなかったです。
映像についても壮大ではありますがアート的というよりは理路整然としており、そのぶん哲学的な感覚も薄まってしまっていたと思います。
例えるなら、加工された石は美しいですが、一方で自然石のほうにより神秘を感じる人も多いということ。
本来のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督なら、たとえ原作の上巻だけの内容でも、セリフを排除しても、ウチに秘めた圧倒的なテーマを提示してくれると期待していただけに残念でした。
キャラに狂気がない
小説デューンはメランジというドラッグ的な物資・メランジが鍵となる人類が8000年後に別の進化を遂げた未来を描いており、一見理論的に見えて狂った設定の宝庫です。なので映像化するとなると現在の常識を覆す、常軌を逸した狂気的なキャラやシーンを期待してしまいます。
しかし、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督版『デューン』からは、そんな狂気が削ぎ落とされていました。
機械に計算させることを止め、ドラッグ(メランジ)で精神を拡張させ独自進化を遂げたはずのキャラクターたちが、現在の人類とまったく変わらないような描かれ方なのが映像で見ると違和感です。
本作は1984年デヴィッド・リンチ版や『ホドロフスキーのデューン』(2013)に比べると、狂ったアイデアはほとんどなく(ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督なので仕方ないですが)、物足りなさを感じてしまいました。
原作小説との違い,映画で明かされない衝撃事実!
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督版映画『DUNE/デューン砂の惑星』は、フランク・ハーバートの原作小説のストーリーをかなり忠実に再現していると思います。
ですが、ハッキリいって原作小説を読んでいないとキャラの心情を浅くしか捉えられず登場人物が何を考えているか勘違いする可能性すらあるでしょう。
映画では明かされていない事実もあるので書いていきます。
映画版はキャラクターの掘り下げを放棄
先ほども書きましたが、小説版のデューンはキャラのセリフや内面描写が主体であり、一番の見どころです。主要キャラクターすべての背景や内面が丁寧に描かれます。
映画版の場合は内面描写・バックグラウンドの説明が少なく、映像主体で進んで行きます。映画には尺の都合があり、小説のように心情をいちいち表現するのは難しいので、ある意味当然です。
ただ、ちょっと映画版で致命的だったのは、レディ・ジェシカとレト公爵の背景すらしっかり描いていなかった点。
原作では秘密の宗教ベネ・ゲゼリットの一因であるレディ・ジェシカのバックグラウンドがストーリー本筋に大きく影響しています。
もともとポールが生まれたのもレディ・ジェシカが教団に背いたからで、この悲劇の一番の要因ともいえる人物です。
映画版だとジェシカはベネ・ゲゼリットとアトレイデス家の板挟みの女性だとしかわからないので、彼女が心の奥に秘めた深い葛藤が全然伝わってきません。
実際、ジェシカの正体は彼女自身も知らなかったのですが、レト侯爵を殺したハルコンネン男爵の娘です。
この事実は、原作小説ではジェシカとポールがハルコンネンの襲撃から逃れてテントにいるときに、香料でポールの能力が覚醒して明らかになります。
そして最も重要なのは、原作のポールの心情はかなり複雑だということ。
映画のラストまで見ても「ポールはハルコンネンの襲撃を受けて強く生きることを決意したのかな?」くらいにしか伝わってきません。
しかし小説だとポールはこのとき自分の未来まで全て見通して絶望しているのです。
映画版は別に原作とポールの心理や今後のストーリーを完全一致させる必要はなく、違っても構いません。
ただドゥニの映画の場合は情報が少なすぎるので、原作読んでないと“ポールがたくましく成長している”という、底の浅いヒーロー物語に見えてしまうと思います。
“成長してる”は別に間違ってないですが、実際ポールの変化は成長という言葉では片付けられない運命の狂気で、単なる成長譚とは一線を画しています。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の目標は原作完コピらしいので、ポールの心情についても十分理解しているのでしょうけど、原作未読の人に伝えるのは無理だと割り切っている気もします。
あと、今作では一つのクライマックスとしてレト侯爵の死がありますが、彼を殺すならもう少しキャラを深掘りしておいた方が良かったでしょう。
次ページは『DUNE/デューン砂の惑星』キャスト・ストーリー結末ネタバレ
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映画『DUNE/デューン砂の惑星』キャスト・作品情報
原題:『DUNE』
原作小説:フランク・ハーバート著『DUNE/砂の惑星』(1965)
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
脚本:ドゥニ・ヴィルヌーヴ/エリック・ロス/ジョン・スペイツ
撮影:グリーグ・フレイザー
音楽:ハンス・ジマー
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は『ブレードランナー 2049』『プリズナーズ』『ボーダーライン』『メッセージ』など、映像美とメッセージ性を合わせ持った天才。
ハンス・ジマーは最近だと映画『007ノータイム・トゥ・ダイ』(2021)でも音楽を担当してました。本作でも重厚かつ不穏なテーマが素晴らしかったです。
ポール・アトレイデス|ティモシー・シャラメ
ポールは本作の主人公で、宇宙でもかなりの権力を持つアトレイデス家の後継息子。砂漠の民族フレーメンと過ごす予知夢を見ます。
まだ若く、能力が完全に開花していません。
惑星デューンに移住し、現地で採取できる宇宙の支配で最重要な物質メランジ(スパイス)を体内に摂取し、覚醒していきます。
フランスの俳優ティモシー・シャラメ(米国籍も持つ)は、ノーラン監督映画『インターステラー』や『ストーリー・オブ・マイライフわたしの若草物語』『君の名前で僕を呼んで』、Netflix『ドント・ルック・アップ』『フレンチ・ディスパッチ』で知られています。
かっこいいだけでなく不思議な魅力もあり、完璧なポール・アトレイデスを演じていたと思いました。
デューン絶賛の声の理由は、彼の貢献も大きいと思います。
レディ・ジェシカ|レベッカ・ファーガソン
レディ・ジェシカはアトレイデス家の主・レト公爵の妾でポールの母。
不思議な力を伝える女性オンリーの秘密結社ベネ・ゲゼリットのメンバーで、ポールにも修行を課しています。
スウェーデン人女優レベッカ・ファーガソンは『ミッションインポッシブル』シリーズや、マイク・フラナガン監督の『ドクター・スリープ』、『メン・イン・ブラック:インターナショナル』、ヒュー・ジャックマン主演の記憶潜入サスペンス『レミニセンス』(2021)に出演。
レト・アトレイデス侯爵|オスカー・アイザック
レト・アトレイデスは一族の主。ポールの父。ジェシカを愛していますが正妻ではありません。
惑星カラダンに住みその地域を支配していましたが、皇帝の命令で砂の惑星アラキス(デューン)を支配するために一族で移住します。
俳優オスカー・アイザックは映画『インサイド・ルーウィン・デイヴィス名もなき男の歌』や『スター・ウォーズ』シリーズのポー・ダメロン役で有名。マーベルドラマ『ムーンナイト』の主演にも抜擢されました。
ダンカン・アイダホ|ジェイソン・モモア
ダンカンはポールの親友でありアトレイデス家の軍人。
一族の安全を確保するため惑星アラキスへ先に行き、砂漠に順応する民族フレーメンに接触します。
ジェイソン・モモアは『アクアマン』主演や、Netflix『スイートガール』、『ゲーム・オブ・スローンズ』ドロゴ役で知られています。
ガーニー・ハレック|ジョシュ・ブローリン
ガーニー・ハレックはアトレイデス家の軍人で指揮官。ポールの新しい武術指南役です。
俳優ジョシュ・ブローリンは、コーエン兄弟の『ノーカントリー』でブレイクした遅咲き俳優で、アベンジャーズシリーズのサノス役や、『デッドプール2』への出演でも有名。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督とは『ボーダーライン』でもタッグを組みました。
スティルガー|バビエル・バルデム
スティルガーは惑星デューンの砂漠で暮らす部族フレーメンの族長。
スペインの俳優バビエル・バルデムは『ノーカントリー』のヴィランアントン・シガー役で有名。リドリー・スコット監督の『悪の法則』や、『007 スカイフォール』のヴィラン・ラウル役も印象に残っています。
チャニ|センデイヤ
チャニはデューンの砂漠で暮らすフレーメンの一員。ポールの夢によく出てきます。
歌手で女優のセンデイヤは、『スパイダーマンホームカミング』のミシェル役などで有名です。
ウラディミール・ハルコンネン男爵|ステラン・スカルスガルド
ウラディミール・ハルコンネン男爵は、アトレイデス家と敵対するハルコンネン家の主。皇帝の命により惑星デューンの支配をアトレイデス家に譲ることになりますが、何かよからぬことを企んでいるようです。
俳優ステラン・スカルスガルドはマーベル『マイティ・ソー』シリーズ、『宮廷画家ゴヤは見た』のゴヤ役、HBOドラマ『チェルノブイリ』(2019)で知られています。
グロッス・ラッバーン|デイヴ・バウティスタ
グロッス・ラッバーンは、ハルコンネン家の主ウラディミール男爵の甥で軍人。長年一族が支配していたデューンをアトレイデス家に渡すことが許せず、怒り狂っています。
俳優デイヴ・バウティスタはザック・スナイダー監督のNetflixゾンビ映画『アミー・オブ・ザ・デッド』の主演、『ガーディアンズオブギャラクシー』シリーズや、シルヴェスター・スタローンの『大脱出2』などで知られています。
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