ウェス・アンダーソン監督最新作『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(The French Dispatch of the Liberty, Kansas Evening Sun)。
ストーリー性というより入れ子構造による他人の人生つまみ食い的なコンセプト(良い意味で)ですが、ウェス・アンダーソン監督のファンや、アートっぽい作品が好きな人は必見です!
個人的にはすごく好みで、観て良かったと幸せな気持ちになれました。
作品情報・キャスト、ネタバレ感想・評価、映像についての感想・解説、ウェス・アンダーソン監督のストーリーテリング考察を知りたい人向けに記事をまとめました。
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです)
映画『フレンチ・ディスパッチ』キャスト・作品情報
原題:『The French Dispatch of the Liberty, Kansas Evening Sun』
監督・脚本:ウェス・アンダーソン
撮影:ロバート・D・イェーマン
音楽:アレクサンドル・デスプラ
製作:インディアン・ペイントブラッシュ/アメリカン・エンプリカル・ピクチャーズ
配給:サーチライト・ピクチャーズ/ウォルト・ディズニー・ジャパン
『天才マックスの世界』『グランド・ブタペストホテル』『犬が島』などで世界的なファンを獲得した、ウェス・アンダーソン監督の長編映画第10作目!
架空の雑誌社を映像で表現する独自の世界観・映像美にどっぷりつかれます!
役名|キャスト
アーサー・ハウイッツァー・Jr(編集長)| ビル・マーレイ(「ザ・ニューヨーカー」創始者ハロルド・ロスがモデル)
STORY 1「確固たる名作」
モーゼス・ローゼンターラー(囚人芸術家)|ベニチオ・デル・トロ(『スナッチ』『ユージュアル・サスペクツ』)
シモーヌ(看守)|レア・セドゥ(『007ノータイムトゥダイ』)
ジュリアン・カダジオ(美術収集家)|エイドリアン・ブロディ
J・K・L・ベレンセン(アート記者)| ティルダ・スウィントン
STORY 2「宣誓書の改訂」
ゼフィレッリ(学生運動のリーダー)|ティモシー・シャラメ(『Dune 砂の惑星』)
ルシンダ・クレメンツ(政治記者)|フランシス・マクドーマンド(『ノマドランド』)
ジュリエット(学生運動の会計係)|リナ・クードリ
STORY 3「警察署長の食事室」
ローバック・ライト(グルメ記者)|ジェフリー・ライト(『ウエストワールド』)
警察署長|マチュー・アマルリック
警察料理シェフ|スティーヴン・パーク
囚人|ウィレム・デフォー(『プラトーン』『ライトハウス』)
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- アーブサン・サゼラック(記者)|オーウェン・ウィルソン
記者|エリザベス・モス(『Us/アス』(透明人間))
誘拐犯|エドワード・ノートン(『真実の行方』『ファイトクラブ』)
リーヴ・シュレイバー(『スポットライト 世紀のスクープ』)
ギヨーム・ガリエンヌ(『イヴ・サンローラン』)
エルメス・ジョーンズ(記者)|ジェイソン・シュワルツマン(『天才マックスの世界』『ダージリン急行』)
トニー・レヴォロリ(『グランド・ブダペスト・ホテル』『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』)
アップシュアー・クランペット(骨董収集家)|ロイス・スミス
ボリス・ショマーズ|ウクリストフ・ヴァルツ(007 スペクター)
ルパート・フレンド(『HOMELAND』)
シアーシャ・ローナン(『レディ・バード』)
ヘンリー・ウィンクラー
ボブ・バラバン
セシル・ドゥ・フランス
ドゥニ・メノーシェ
イポリット・ジラルド
アンジェリカ・ヒューストン(『女と男の名誉』『アダムスファミリー』)
グリフィン・ダン(『グラン・ブルー』『プラクティカル・マジック』)
ヴァンサン・マケーニュ
ダミアン・ボナール
ネタバレなし感想・見どころ・あらすじ
フレンチ・ディスパッチ社の編集長が死去し、最終号に載せられるエピソードが記者の回想で語られる物語です。
ただ、ストーリーはミニシアター系なので、アートっぽい映画が苦手な人は全然向かないでしょう。
おすすめ度 | 86% |
オリジナリティ・世界観 | 96% |
ストーリー | 82% |
IMDb(海外レビューサイト) | 7.3(10点中) |
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト) | 批評家75% 一般76% |
※以下、映画『フレンチ・ディスパッチ』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『フレンチ・ディスパッチ』ネタバレ感想・評価
ザ・オシャレの極み映画。
ウェス・アンダーソン監督でいうとストーリー的には『グランド・ブダペストホテル』の方が好きですが、映像面でいうと本作はより完璧に近いでしょう。
雑誌ニューヨーカーをモチーフにしたフレンチ・ディスパッチ誌の記者の個性的な記事を、映像で説明する画期的な構造。
シンメトリー構図・カラフルな色使い・こだわり抜かれたディティールにより、それぞれのカットを美術館で絵画を眺めるように楽しめました。
セリフも詩的でした。何なら詩集で読みたいくらいです。
ただ、映像もゴージャスで情報量モリモリなのに、字幕もたくさん読まなきゃなかったのが非英語ネイティブの悲しいところ。
まとめると、『フレンチ・ディスパッチ』はアート系の映画が好きな人には、映像美・セリフ・メッセージ性ともにドンピシャでしょう。
一方で、ストーリーがめちゃくちゃ面白いor感動系ではなく、一般受けはしないと思います。
フレンチ・ディスパッチ/映像面や絵作り解説
まず、ウェス・アンダーソン監督の特徴であるシンメトリー(左右対称)構図が挙げられます。
シンメトリーな映像は圧迫感がありますが、今作ではいつもよりパステルカラーを多めに取り入れて中和させていた印象。
キャストの服にパステルカラーを使い、背景をもう少しだけ濃い色にした感じですね。全体的にカラフルですが統一感が生まれています。
また、雑誌記事の映像化ということもあって、
①正方形に近いスタンダードとスコープサイズの切り替え。
②モノクロ。
さらに、③昔の海外の漫画的なアニメーションをあえてインサートするなど、凝りに凝っていました。
極め付けは、刑務所での乱闘の場面で俳優たちに動きを止めさせてそのまま撮影する、斬新すぎるストップモーション。
完全には止まれずちょっとブレたりしているところから、良い意味で滑稽さが感じられました。
もう少し主観的な話をすると、雑誌を読んでいるようにボーッと眺めることもできて、なおかつアートのように鑑賞できる2面性があった気がします。
ウェス・アンダーソンのストーリーテリング考察
2重構造で適度な距離感を作りコントロール
絵作りが中心に語られることが多いウェス・アンダーソン監督ですが、映画『フレンチ・ディスパッチ』で改めて感じたのが、ストーリーテリングの巧みさです。
映画内に記者という形で語り手を置き、さらにビル・マーレイ演じる編集長が聞き手となっています。視聴者は2人の話を聞いている構造で、語り口調なため熱量は控えめです。
映像の物語の登場人物だけでなく、語り手・聞き手の心情まで2重に観客に想像させるのです。
結果、ストーリーと視聴者の間に適度な距離感が生まれます。ウェス・アンダーソンはこの距離感を踏まえた上で、俯瞰的なショットとアップをコントロールして、感動を伝えてきます。
突然、ユーモアの殻を突き破って真理が突きつけられます。
人間の心理を構造的に理解し、ピンポイントでツボを突くかのよう。天才です。
人生の輝きを語り口調で儚く終わらせる
ストーリーを誰かに伝えている映像をみせて語り口調にすることで、人生の儚さを表現しているとも感じました。
例えば、ベニチオ・デル・トロとレア・セドゥの囚人画家と看守のエピソード。
革命的な作品が壁に描かれていて売ることができないという衝撃で滑稽な話の後、レア・セドゥが「金を得たので看守を辞めて子供と暮らした」と、ぽろっと語り手が説明します。
ベニチオ・デル・トロは捨てられたのか?それとも子供のための泣く泣くの決断だったのか?なぜ語り手はこんな大切なことをサラッというのか?
熱量のない語り口調の裏に、多岐にわたるイマジネーションと哀愁が泉のように湧き出します。
構造を利用した天才的なストーリーテリングだと思いました。
最後のまとめ
映画『フレンチ・ディスパッチ』は、ウェス・アンダーソン監督の映像美とコンセプトが余すところなく詰まった極上の映像体験でした。
もはやアートとして鑑賞できます。ヒーロー映画が横行する中で、多様性という側面でもウェス・アンダーソン監督がトップ戦線に居続けることに意義があるでしょう。
ウェス・アンダーソン監督次回作『Asteroid City』がもう撮影終了しているようなので(ロケ地はスペイン)、公開が待ち遠しくて仕方ないです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。『フレンチ・ディスパッチ』レビュー終わり!
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