映画『レミニセンス』(原題:Reminiscence)は、記憶潜入を警察から依頼された人物が、失踪した恋人の過去から陰謀を暴いていくスケールの大きなSF作品。
ヒュー・ジャックマン主演で、『ウエストワールド』のスタッフが集結していますが、正直SFサスペンスとしてはイマイチな出来栄えでした。
ひどいとまでは行きませんが、はっきり言って予告や公式サイトの宣伝のイメージと全く違います。
ただ、海に沈みかけたメタファー的な舞台が美しかったのと、記憶に関しての新しい概念を提示していたという素晴らしい部分もあるので、それらを重点的にネタバレ深掘り考察していきたいと思います。
あとは同じ記憶潜入モノとして似たコンセプトであるクリストファー・ノーラン監督の傑作SF映画『インセプション』と比較して、SFサスペンス的に何がダメだったのかネタバレ解説もしています。

映画『レミニセンス』キャスト・作品情報
監督・脚本:リサ・ジョイ
製作:ジョナサン・ノーラン
撮影:ポール・キャメロン
主演:ヒュー・ジャックマン
出演:レベッカ・ファーガソン
出演:タンディ・ニュートン(Thandiwe)『ウエスト・ワールド』『オールド・ナイブズ』
出演:クリフ・カーティス
出演:ダニエル・ウー
出演:アンジェラ・サラフィアン
ジョナサン・ノーランとリサ・ジョイ監督、そして女優タンディ・ニュートンとアンジェラ・サラフィアンはHBOドラマ『ウエスト・ワールド』でもチームを組んでいましたね。
レベッカ・ファーガソンとクリフ・カーティスは、ユアン・マクレガー主演のホラー映画『ドクター・スリープ』でも共演しています。
クリフ・カーティスは巨大サメ映画『MEGメグ』やドラマ『フィアー・ザ・ウォーキング・デッド』への出演で有名。
※以下、映画『レミニセンス』のストーリーネタバレありなので注意してください。
『レミニセンス』ネタバレ感想・評価
おすすめ度 | 70% |
SF世界観 | 80点 |
ストーリー | 77点 |
IMDb(海外レビューサイト) | 5.9(10点中) |
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト | 37%(100%中) |
クリストファー・ノーラン監督の実弟で『ダークナイト』『ダークナイトライジング』や『インターステラー』の脚本を務めたジョナサン・ノーランが制作ですが、それらのノーラン作品と比べるとSFの世界観の緻密さというか、鬼気迫るリアリティに欠けていると思います。
特にがっかりしたポイントは「他人の記憶に潜入する!」という謳い文句とは裏腹に、基本的に寝てる相手の側でその記憶を投影して目視するだけなところ。
厳密にいうと相手の記憶に潜入しているというより、映像データを眺めているだけといった方が近いでしょう。
脳の回路の記憶に潜入しているなら、書き換えなどができないと変ですもんね。干渉できないのが違和感です。
ジョナサン・ノーランは僕が大好きなドラマ『ウエストワールド』の原案,監督,脚本も手掛けていますが、その作品と比較してもクオリティは低いと思います(まあウエストワールドは全てにおいてハイレベル過ぎますが)。
視聴者は、予告や公式サイトを見て期待したようなカタルシスは得られなかったのでは!?
一方で本作『レミニセンス』からは哲学的に深いメッセージを受け取れたので、そもそも緻密なSFサスペンスというより、記憶という概念を哲学的に覆すところに価値を置いた作品だと感じました。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』に近いテイストですね。
ただ、その余韻に浸れるような抽象的メッセージすら、スルメを噛むように反芻しないと単なる悲劇で受け取られてしまう伝わりにくさを孕んでいました。
映画『レミニセンス』徹底考察
記憶は単なる過去ではない!
記憶というと、過去のものだと思う人が多いのではないでしょうか?
しかし実際は、記憶が過去だけに属しているというのは私たちの思い込みなのかもしれません。
主人公・ニックが記憶に生き続ける映画『レミニセンス』のラストを考えると、記憶は過去であり現在であり、未来であり、そしてそのどれにも属していない別世界のようにも感じられます。
サイラスの記憶を眺めるニックに対して、恋人メイが語りかける本作で1番ドラマチックなシーンがありますが、これも記憶が時間や場所を超越できる証明になっていると思います。
サイラスの過去にニックがアクセスし、メイがニックの存在を感じて話かける構図ですからね。
紐解けば、死ぬ直前のメイは未来のニックに想いを伝えていたことになります。
記憶とは単なる回想ではなく、時間や場所を超えて相手に想いを伝えられる手段だという素晴らしいメッセージがヒシヒシと伝わってきました。
実際私たちは自分の頭で、記憶の中にいる誰かを思って大切に感じることはできます。もしかすると、この時に相手にもその想いのエネルギーが伝わっているのかもしれませんね。
時空を超えた愛を感じたからこそ、ニックは記憶の中のメイと過ごす道を選び、そしてその想いは現在から過去のメイに実際に伝わっているのだと思います。
制作陣が本作で1番伝えたかったのは、そんな哲学的な発想ではないでしょうか。
主人公はパラレルワールドへ
実際には、人間の記憶は時間が経過するに連れて頭の中で都合良く改変されていきます。
ここからは推測も含みますが、記憶は単なる過去でなく自分の理想を反映したパラレルワールド(別世界)になり得るのかもしれません。
ラストで主人公・ニックはワッツが見守る中、記憶潜入装置の中でメイと生き続ける道を選び、そのまま記憶から覚めず老人になります。
何となく観ていると、
- 最愛の人との記憶に溺れた
- 1番幸せだった過去に逃避した
と取れるでしょう。
しかし実際は、ニックは記憶が生み出したパラレルワールドで恋人・メイと幸せに過ごしているのかもしれません。
死んだ妻を連れ戻すために冥界に行ったオルフェウスの物語(伏線)が裏切られたハッピーエンドです。
ギリシャ神話のオルフェウスの物語になぞらえるなら、主人公ニックは記憶という冥界の中で、恋人メイと暮らし続けるロマンチックなラストといえるでしょう。
神話のように生者の世界(現実)に帰らなかったパターンですね。
ただこのアイデアが斬新かと言われるとそうでもなく『インセプション』『マトリックス』とか『ミッション8ミニッツ』の設定に近いものがあります。
まとめると『レミニセンス』の結末は、SFサスペンスとして画期的ではないにしろ、純愛が織りなす美しさを孕んでいたと思います。
記憶の海に溺れるメタファー的な世界観!
映画『レミニセンス』の舞台は海面上昇により、一般市民はダムで海水を抑えた足に水が浸かる場所で、ボートなどを移動手段に生活するディストピアでした。
ニックの記憶潜入でも水に横たわりますし、この水に侵食された世界観自体が、人々が記憶の海に溺れたように見えて、メタファーとして非常に美しいと感じました。
作中では過去に大規模な世界大戦が起こった(ニックやワッツも従軍していた)と言及されてましたが、その戦争もメタ的に考えれば人間が過去の価値観に固執したことが原因で起こったのではないでしょうか。
つまり人類社会全体が、過去の記憶=幻想に囚われていたのです。
人々は争いを経て、美しい過去の記憶の海に溺れてしまったと表現しているようですね。
水浸しの世界と記憶潜入のアイデアがぴったりマッチしていたのは、人間の潜在意識の中で記憶と水がある面で共通するイメージを持ち、意味を伝えやすかったからだと思います。
さらに、この水浸しの世界自体がレミニセンス(記憶潜入)されている誰かの頭の中の比喩と考えることもできます。
ニックとメイの恋愛は装置で水に揺られている誰かの記憶の中の物語と考えてみるのも、それはそれで味わい深いでしょう。
推測ですが映画の本編で入子構造まで明かしてしまうとストーリーの結末として微妙なため、世界観での表現に留めたのかもしれませんね。
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