映画『ナイトメア・アリー』ネタバレ考察,エノクの正体!リリスやエディプス,メタ構造解釈・キャストあらすじ解説

  • 2024年3月25日

映画『ナイトメア・アリー』は、サーカス見せ物小屋から生まれた悲劇をギレルモ・デル・トロ流フィルムノワールに昇華した至高の傑作

超常現象は何ひとつないにもかかわらず、ゴシックホラー的な雰囲気も漂っている不思議な作品でした。

アカデミー賞作品賞にノミネートされたのもうなづける完成度です(受賞はなりませんでしたが)。

キャスト、ぶっちゃけ感想・評価ビン詰め胎児・エノクの正体考察!リリスの裏切りの理由心理学・エディプスコンプレックス(父殺し)のメタ的ストーリー構造ネタバレあらすじ解説を知りたい人向けに記事をわかりやすくまとめました。

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映画『ナイトメア・アリー』ネタバレなし感想・あらすじ・見どころ

あらすじ:スタン(ブラッドリー・クーパー)は鶏の生き血を吸う獣人(ギーク)の見せ物小屋でクレム(ウィレム・デフォー)と出会い、サーカス団の手伝いをすることになりますが…。

サーカス芸人集団は、現実でありながら異世界のよう。そこから始まる悲劇のストーリーやラストのオチなど、演出・テーマ性ともに優れた傑作

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奇妙な世界観とサスペンスとして完成度の高い物語を楽しみたい人におすすめです!

ギレルモ・デル・トロ監督の真骨頂を堪能できます。

おすすめ度 90%
世界観 90%
ストーリー 87%
IMDb(海外レビューサイト) 7.1(10点中)
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト) 批評家80% 一般68%

※以下、映画『ナイトメア・アリー』のストーリーネタバレありなので注意してください!

映画『ナイトメア・アリー』ネタバレ感想・評価

映画『ナイトメア・アリー』の評価は88点。テーマ性・演出・ストーリーが三位一体となった傑作です。ギレルモ・デル・トロ監督の才能を痛感しました。

1946年に小説が出版され、1947年に映画化されたクラシック名作を、こうも現代的に蘇らせることができるなんて天才のなせる技です。

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特に優れているところは、ストーリーのメッセージは昔話のように教訓めいているにも関わらず、非常に恐ろしいという両輪

ブラッドリー・クーパー演じるスタンが読心術と金儲けにハマり身を滅ぼしていく説教クサイ内容が、根源的な恐怖に変換されたかのように描かれています。

ラストシーンでは、殺人を犯して追い詰められたスタンが獣人(ギーク)として見せ物になることを選択するわけですが、違和感はなく非常に説得力がある流れでした。このときにスタンを映すカメラアングルもエノクの視点っぽいですよね。

序盤で獣人(ギーク)になる自分の運命を見せつけられ、最後まであらがえない残酷さが魅惑的。

また、ホルマリン漬けの胎児・エノクをはじめ、ポスターでは七つの大罪が示唆されるなど宗教的な要素があるのも特徴です。

さらに、心理学でいうエディプスコンプレックス(男児の父親殺しの願望)を上手く取り込んでおり、奥行きのあるストーリー構造により見応えも抜群です。

『ナイトメア・アリー』は、2022年度アカデミー賞作品賞・撮影賞・美術賞・衣装デザイン賞の4部門にノミネートされています。

Netflix『パワー・オブ・ザ・ドッグ』や『ドライブ・マイ・カー』など傑作あるので作品賞は難しいと思います。撮影賞も『Dune砂の惑星』があるので厳しいでしょう。

美術賞や衣装デザイン賞は撮りそうですね。

ネタバレ考察:ホルマリン漬けの胎児・エノクの正体!

エノクに呪われた主人公スタン

ホルマリン漬けの胎児・エノク

©︎サーチライトピクチャーズ

『ナイトメア・アリー』では、ホルマリン漬けの胎児・エノクが悪事のメタファーのようです。

(ちなみにエノクは旧約聖書第五章に出てくる、死することなく天に昇った人物。)

邦題は「悪夢の小路」ですが、スタンにとってはエノクこそがまさに悪夢への小路だったわけですね。

エノクはあくまでメタファーだとしても良いのですが、ストーリーに関わっている解釈をしても面白いと思います。

推察になりますが、主人公スタンが騙した大富豪エズラ・グリンドルが昔傷つけた女性ドリーのお腹の中にいたのがエノクなのでしょう。

ドリーの遺品の中に臍の緒が入っていましたが、子供がどうなったか言及されていません。

ホルマリン漬けのエノクを所持していたクレムが言っていたように、エノクがお腹の中で暴れ回ったために母ドリーは死んでしまったのでしょう。

そして胎児エノクは、スタンの体を借りて父エズラ・グリンドルに復讐したと考えるとストーリーがメタ構造的にもスッキリまとまります。

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つまり本作はエノク≒スタンの構造を持つ、エディプスコンプレックス(父親殺し)の物語なのです。

また、スタンが「俺はアイルランド系だから千里眼を持っている」的なことを言ってましたが、一般的な千里眼のイメージは、頭に丸いコブのあるエノクの姿形と重なりますね

スタンは幼少期に母親に逃げられた過去があり、不甲斐ない晩年の父親を殺したことに始まり、ピートを殺害し、さらに富豪エズラを殺害しました。

スタンはエノクに呪われた存在だといえるでしょう。

さらに本作では、場面が丸く暗転していくアイリスアウトというクラシック映画の手法が使われていたのも特徴でした。

このアイリスアウトは見せ物小屋の観客視点でありつつ、物語を見つめるエノクの視点なのかもしれません!

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視聴者は見せ物小屋に入り、エノク視点でスタンが獣人に変貌していく物語を見つめているというのが『ナイトメア・アリー』の美しい構造です。

観客の視点がスクリーンの外側だけでなく、内側にもしっかり用意されているイメージです。

そして、スタンとエノクがニアリーイコールなことを加味すると、私たちは映画を観ながら、自分自身のエディプスコンプレックスの拗らせた結果を“見せ物”として楽しんでいたとも捉えられます。

ギレルモ・デル・トロの悪魔的な笑い声が聞こえてくるようです(笑)。

ギレルモ・デル・トロ監督はメタ的な多重構造となるストーリーにし、視聴者が空想できる遊び心を入れ込んだのです。このギミックが本作が批評家に評価される大きなポイントだと思います。

心理学者リリス博士の胸の傷・エレクトラコンプレックス

リリス博士を演じるケイト・ブランシェット

©︎サーチライトピクチャーズ

ケイト・ブランシェット演じるリリス博士の胸の傷は、一体誰につけられたものなのか?

劇中では明言されていませんが、リリスの胸に傷はビン詰の赤ちゃん・エノクの姿形と重なります

先程の考察を踏まえれば、本質的な意味で胎児エノクを傷つけたのは、エノクの母に恋をしながらも不幸にした彼の父である富豪エズラとなるでしょう。

リリスも過去にエズラを騙そうとして怒らせ、体を切り刻まれる罰を与えられたのかもしれませんね。

ただ、これだけだとリリス博士がスタンを裏切った動機が何なのかモヤモヤします。

さらに解釈を広げるなら、リリス自身が言っていたエレクトラコンプレックス(女性が父親に執着する、エディプスコンプレックスと対比する心理学用語)を使うと、うまく説明できるでしょう。

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つまりリリス博士はエレクトラコンプレックスによってキンボル判事と密接な関係にあったから独身で、彼を破滅させたスタンを憎んだのだと思います。

もしかすると、以前はエズラとも親密な関係にあったのかもしれません。

胸の傷はエズラによるもの、スタンを罠にかけたのは関係のあったキンボル判事が死んだからだと考えると一応しっくりきます。

また、リリスはエズラをも憎みつつ愛していたとすれば、スタンがエズラを殺したことも裏切った理由になるでしょう。

(解釈はいろいろできますが。)

ギレルモ・デル・トロ監督の演出の凄さ

『ナイトメア・アリー』では超常現象は一切出てきませんでしたが、エノクなどを通して「呪いや霊的な存在はあるぜ」と説得力を持たせるような演出が素晴らしかったです。

感想を語る犬
得意のファンタジーを封印してもなお霊的な存在を感じさせてくれたギレルモ・デル・トロの手腕は恐るべし。

スタンに読心術や暗号を教えたピートやその妻ジーナは、「幽霊降臨ショーは絶対にやめろ」と言っていました。

自分の嘘に飲み込まれてしまうからという理由でしたが、ジーナがアクシデントで仕方なく幽霊ショーをやったときには風船が飛んでその場の雰囲気に異変が起こったような映し方をし、実際は本当に霊がいるのでは?と思わされます。

劇中では言葉で否定しながらも、霊や超常的な存在がいるかもしれないと匂わせる演出なんですよね。今作はこのバランス感覚が素晴らしかったです。

映画『ナイトメア・アリー』ネタバレあらすじ解説

スタン(ブラッドリー・クーパー)は、ある人物を家ごと燃やして放浪します。

クレム(ウィレム・デフォー)がまとめる見せ物小屋集団で、鶏の首を噛んで血を飲む獣人(ギーク)を見たスタン。

感想を語る犬
ギレルモ・デル・トロ監督だから本物の獣人を出すかと思いきや、気が狂った人間でしたね。

行くあてがなかったスタンは、クレムたちのもとで働くことに。

クレムはホルマリン漬けの胎児・エノクなど、不気味なものをいくつも展示していました。

スタンは相手の心を読む詐欺パフォーマンスをするジーナ(トニ・コレット)とピート(デイヴィッド・ストラザーン)の老夫婦のもとで、読心術や暗号を学びました。

ある日警察がサーカスを畳めとやってきますが、スタンはずば抜けた観察力による洞察で警察官に彼の母親の霊の存在を信じさせ、追い返しました。

スタンは若い女性・モリー(ルーニー・マーラ)と恋に落ち、彼女を連れてサーカス団を去ります。

スタンとモリーは、2年後には個人公演で財産と地位を築いていました。モリーの暗号をスタンが読み、客の情報を当てる芸です。

あるホテルで芸を披露していると、心理学者・リリス博士(ケイト・ブランシェット)が「言葉に暗号が含まれている」と言い当てます。しかしスタンは観察力でリリスが小型拳銃を持っていると言い当て、ショーは大いに盛り上がりました。

感想を語る犬
観察力があってもぴたりと言い当てるのは無理ですよね。スタンに何らかの霊的な力が働いていると思わせるような演出に思えました。

スタンはリリス博士の紹介で、キンボール検事と知り合います。

スタンはカウンセラーであるリリス博士の事務所を訪ね、キンボール検事の秘密を聞き出しました。

スタンはキンボール判事と妻フェリシア(メアリー・スティーンバージェン)の前で「戦場で死亡した彼らの息子がそばにおり、いつかみんな一緒になれる」と言います。

モリーはスタンが降霊ショーをやっていることに危機感を覚えました。訪ねてきたジーナはタロットで逆位置のハングドマンを出します。スタンの破滅を示唆していました。

リリス博士はスタンの前で服をはだけて胸の傷を見せ、権力者を騙すと破滅すると忠告。

感想を語る犬
セクシーなシーンと思わせてグロい傷が胸にある驚きの演出が最高でした!

スタンはキンボール検事の知り合いで大富豪エズラ・グリンドル(リチャード・ジェンキンス)に呼ばれます。彼は若い頃に不幸にしてしまった女性ドリーに会いたいようです。

スタンはドリーのことを調べます。ドリーはとうの昔に死んでおり、共同墓地に彼女の写真と子供の臍の緒が保管されていました。

スタンはモリーを説得し、エズラの庭にドリーに変装させて登場させます。エズラはモリーに近づき、彼女が偽物だと気づいて怒りました。スタンはエズラを撲殺します。

スタンは銃を撃ってきたエズラの部下アンダーソンを轢き殺し、モリーと逃げます。モリーはスタンに愛想をつかし、どこかへ消えました。

ニュースでは、フェリシアが夫キンボール判事を銃で撃ち殺したのちに自殺したと流れていました。

感想を語る犬
『バック・トゥ・ザ・フューチャー3』のクララ役で有名なメアリー・スティーンバージェンが笑顔からの夫銃殺!このシーンも最高にインパクトありましたね。

逃亡生活で身をやつしスタンは、とある見せ物小屋・サーカス集団の事務所に立ち寄ります。

事務所内にはホルマリン漬けの胎児・エノクが置いてありました。事務所の男は、廃業した集団から譲り受けたと言いました。

男はスタンに酒を与え、「獣人が見つかるまで代わりをやってくれ」と言います。それは、かつてクレムが語った獣人を作り出す方法でした。

スタンは「それが俺の宿命だ」と笑って言います。

感想を語る犬
ブラッドリー・クーパーの演技力があったからこそ、ストーリーのオチが綺麗に決まった感がありますね!

映画『ナイトメア・アリー』終わり。

映画『ナイトメア・アリー』作品情報・キャストと演技の印象

公開・制作国・上映時間:2022/03/25・アメリカ・150分
原題:Nightmare Alley
監督:ギレルモ・デル・トロ
脚本:ギレルモ・デル・トロ/キム・モーガン
原作:ウィリアム・リンゼイ・グレシャム著「ナイトメア・アリー 悪夢小路」
撮影:ダン・ローストセン
音楽:ネイサン・ジョンソン
製作:サーチライト・ピクチャーズ

ギレルモ・デル・トロ監督

アカデミー賞作品賞を受賞した半魚人恋愛戦争映画『シェイプ・オブ・ウォーター』、スペイン戦争とファンタジーを描いた『パンズ・ラビリンス』、最高な怪獣映画『パシフィック・リム』など数々の傑作を世に放ったザ・変態オタク監督!

『ナイトメア・アリー』でもホルマリン漬けの胎児・エノクなど独特の美意識を突きつけ、さらにストーリーも演出・構造ともに非常に完成度が高いという才能の豊かさを見せつけました。

8つの奇異な物語を集めたアンソロジーNetflix『ギレルモ・デル・トロ 驚異の部屋』(2022)も非常に高い評価を得ています。

スタン|ブラッドリー・クーパー

スタンを演じる俳優ブラッドリー・クーパー

©︎サーチライトピクチャーズ

スタンはある罪を犯した放浪者。見せ物小屋を手伝うことになります。

本作を見て、改めてブラッドリー・クーパーはストーリーに説得力を与えられる俳優だと感じました。本作のスタンは個性的なキャラではないですが、ブラッドリー・クーパーが演じる必然性を感じるんですよね。

俳優ブラッドリー・クーパー 代表作:『アメリカン・スナイパー』『アリー/スター誕生』『ハングオーバー』『世界にひとつのプレイブック』『マエストロ: その音楽と愛と

その他の登場キャラ・キャスト画像と印象

リリス博士を演じるケイト・ブランシェット リリス博士|演 ケイト・ブランシェット (『オーシャンズ8』『ドント・ルック・アップ』『アビエイター』『ブルージャスミン』『TAR/ター』)→キャラにいちいち凄みがあって素晴らしい。

モリーを演じるルーニー・マーラ モリー(サーカス団の若い女性)|演 ルーニー・マーラ (『ソーシャル・ネットワーク』 『ドラゴン・タトゥーの女』)→妖艶と子供っぽさの中間地点。不思議な魅力がありますよね。

クレムを演じるウィレム・デフォー クレム(見せ物小屋のまとめ役)|演 ウィレム・デフォー(『ワイルド・アット・ハート』『ライトハウス』『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』『哀れなるものたち』)→相変わらず個性的なキャラ、ウィレム・デフォー好きです。

ジーナを演じるトニ・コレット ジーナ(読心術の詐欺師)|演 トニ・コレット(『シックスセンス』『ナイブズ・アウト』『へレディタリー継承』アニー役)

ピーを演じる俳優デヴィッド・ストラザーン ピート(ジーナの妻)|演 デヴィッド・ストラザーン(『ノマドランド』)

エズラ・グリンドルを演じるリチャード・ジェンキンス エズラ・グリンドル(大富豪)|演 リチャード・ジェンキンス(『シェイプ・オブ・ウォーター』)

ブルーのを演じるロン・パールマン ブルーノ(サーカス団の力持ち)|演 ロン・パールマン(『ブレイド2』『ヘルボーイ』)

ファリシアを演じる女優メアリー・スティーンバージェン ファリシア(キンボール判事の妻)|演 メアリー・スティーンバージェン(『バック・トゥ・ザ・フューチャー3』クララ役)

最後のまとめ

映画『ナイトメア・アリー』は、ギレルモ・デル・トロ監督が超常現象を封印して描き切った一つの到達点だと思います。

本作のようなクラシック・スリラー的な物語をモダンに作り変え、道徳違反の報いとして根源的な恐怖を与えたような、均整の取れた作品になっていました。

分かり易いストーリーの裏やそのまた裏の物語まで示唆するメタ的な構造も美しかったです。

ここまで読んでいただきありがとうございます。『ナイトメア・アリー』レビュー終わり!