映画『ナイトメア・アリー』は、サーカス見せ物小屋から生まれた悲劇をギレルモ・デル・トロ流フィルムノワールに昇華した至高の傑作。
超常現象は何ひとつないにもかかわらず、ゴシックホラー的な雰囲気も漂っている不思議な作品でした。
アカデミー賞作品賞にノミネートされたのもうなづける完成度です(受賞はなりませんでしたが)。
キャスト、ぶっちゃけ感想・評価、ビン詰め胎児・エノクの正体考察!、リリスの裏切りの理由、心理学・エディプスコンプレックス(父殺し)のメタ的ストーリー構造、ネタバレあらすじ解説を知りたい人向けに記事をわかりやすくまとめました。
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目からどうぞ)

映画『ナイトメア・アリー』作品情報・キャストと演技の印象
原題:Nightmare Alley
監督:ギレルモ・デル・トロ
脚本:ギレルモ・デル・トロ/キム・モーガン
原作:ウィリアム・リンゼイ・グレシャム著「ナイトメア・アリー 悪夢小路」
撮影:ダン・ローストセン
音楽:ネイサン・ジョンソン
製作:サーチライト・ピクチャーズ
ギレルモ・デル・トロ監督
アカデミー賞作品賞を受賞した半魚人恋愛戦争映画『シェイプ・オブ・ウォーター』、スペイン戦争とファンタジーを描いた『パンズ・ラビリンス』、最高な怪獣映画『パシフィック・リム』など数々の傑作を世に放ったザ・変態オタク監督!
『ナイトメア・アリー』でもホルマリン漬けの胎児・エノクなど独特の美意識を突きつけ、さらにストーリーも演出・構造ともに非常に完成度が高いという才能の豊かさを見せつけました。
8つの奇異な物語を集めたアンソロジーNetflix『ギレルモ・デル・トロ 驚異の部屋』(2022)も非常に高い評価を得ています。
スタン|ブラッドリー・クーパー
©︎サーチライトピクチャーズ
スタンはある罪を犯した放浪者。見せ物小屋を手伝うことになります。
本作を見て、改めてブラッドリー・クーパーはストーリーに説得力を与えられる俳優だと感じました。本作のスタンは個性的なキャラではないですが、ブラッドリー・クーパーが演じる必然性を感じるんですよね。
俳優ブラッドリー・クーパー 代表作:『アメリカン・スナイパー』『アリー/スター誕生』『ハングオーバー』『世界にひとつのプレイブック』
その他の登場キャラ・キャスト画像と印象
リリス博士|演 ケイト・ブランシェット (『オーシャンズ8』『ドント・ルック・アップ』『アビエイター』『ブルージャスミン』『TAR/ター』)→キャラにいちいち凄みがあって素晴らしい。
モリー(サーカス団の若い女性)|演 ルーニー・マーラ (『ソーシャル・ネットワーク』 『ドラゴン・タトゥーの女』)→妖艶と子供っぽさの中間地点。不思議な魅力がありますよね。
クレム(見せ物小屋のまとめ役)|演 ウィレム・デフォー(『ワイルド・アット・ハート』『ライトハウス』『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』)→相変わらず個性的なキャラ、ウィレム・デフォー好きです。
ジーナ(読心術の詐欺師)|演 トニ・コレット(『シックスセンス』『ナイブズ・アウト』『へレディタリー継承』アニー役)
ピート(ジーナの妻)|演 デヴィッド・ストラザーン(『ノマドランド』)
エズラ・グリンドル(大富豪)|演 リチャード・ジェンキンス(『シェイプ・オブ・ウォーター』)
ブルーノ(サーカス団の力持ち)|演 ロン・パールマン(『ブレイド2』『ヘルボーイ』)
ファリシア(キンボール判事の妻)|演 メアリー・スティーンバージェン(『バック・トゥ・ザ・フューチャー3』クララ役)
ネタバレなし感想・あらすじ・見どころ
あらすじ:スタン(ブラッドリー・クーパー)は鶏の生き血を吸う獣人(ギーク)の見せ物小屋でクレム(ウィレム・デフォー)と出会い、サーカス団の手伝いをすることになりますが…。
サーカス芸人集団は、現実でありながら異世界のよう。そこから始まる悲劇のストーリーやラストのオチなど、演出・テーマ性ともに優れた傑作。
ギレルモ・デル・トロ監督の真骨頂を堪能できます。
おすすめ度 | 90% |
世界観 | 90% |
ストーリー | 87% |
IMDb(海外レビューサイト) | 7.1(10点中) |
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト) | 批評家80% 一般68% |
※以下、映画『ナイトメア・アリー』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『ナイトメア・アリー』ネタバレ感想・評価
1946年に小説が出版され、1947年に映画化されたクラシック名作を、こうも現代的に蘇らせることができるなんて天才のなせる技です。
ブラッドリー・クーパー演じるスタンが読心術と金儲けにハマり身を滅ぼしていく説教クサイ内容が、根源的な恐怖に変換されたかのように描かれています。
ラストシーンでは、殺人を犯して追い詰められたスタンが獣人(ギーク)として見せ物になることを選択するわけですが、違和感はなく非常に説得力がある流れでした。このときにスタンを映すカメラアングルもエノクの視点っぽいですよね。
序盤で獣人(ギーク)になる自分の運命を見せつけられ、最後まであらがえない残酷さが魅惑的。
また、ホルマリン漬けの胎児・エノクをはじめ、ポスターでは七つの大罪が示唆されるなど宗教的な要素があるのも特徴です。
さらに、心理学でいうエディプスコンプレックス(男児の父親殺しの願望)を上手く取り込んでおり、奥行きのあるストーリー構造により見応えも抜群です。
『ナイトメア・アリー』は、2022年度アカデミー賞作品賞・撮影賞・美術賞・衣装デザイン賞の4部門にノミネートされています。
Netflix『パワー・オブ・ザ・ドッグ』や『ドライブ・マイ・カー』など傑作あるので作品賞は難しいと思います。撮影賞も『Dune砂の惑星』があるので厳しいでしょう。
美術賞や衣装デザイン賞は撮りそうですね。
ネタバレ考察:ホルマリン漬けの胎児・エノクの正体!
エノクに呪われた主人公スタン
©︎サーチライトピクチャーズ
『ナイトメア・アリー』では、ホルマリン漬けの胎児・エノクが悪事のメタファーのようです。
(ちなみにエノクは旧約聖書第五章に出てくる、死することなく天に昇った人物。)
邦題は「悪夢の小路」ですが、スタンにとってはエノクこそがまさに悪夢への小路だったわけですね。
エノクはあくまでメタファーだとしても良いのですが、ストーリーに関わっている解釈をしても面白いと思います。
推察になりますが、主人公スタンが騙した大富豪エズラ・グリンドルが昔傷つけた女性ドリーのお腹の中にいたのがエノクなのでしょう。
ドリーの遺品の中に臍の緒が入っていましたが、子供がどうなったか言及されていません。
ホルマリン漬けのエノクを所持していたクレムが言っていたように、エノクがお腹の中で暴れ回ったために母ドリーは死んでしまったのでしょう。
そして胎児エノクは、スタンの体を借りて父エズラ・グリンドルに復讐したと考えるとストーリーがメタ構造的にもスッキリまとまります。
また、スタンが「俺はアイルランド系だから千里眼を持っている」的なことを言ってましたが、一般的な千里眼のイメージは、頭に丸いコブのあるエノクの姿形と重なりますね。
スタンは幼少期に母親に逃げられた過去があり、不甲斐ない晩年の父親を殺したことに始まり、ピートを殺害し、さらに富豪エズラを殺害しました。
スタンはエノクに呪われた存在だといえるでしょう。
さらに本作では、場面が丸く暗転していくアイリスアウトというクラシック映画の手法が使われていたのも特徴でした。
このアイリスアウトは見せ物小屋の観客視点でありつつ、物語を見つめるエノクの視点なのかもしれません!
観客の視点がスクリーンの外側だけでなく、内側にもしっかり用意されているイメージです。
そして、スタンとエノクがニアリーイコールなことを加味すると、私たちは映画を観ながら、自分自身のエディプスコンプレックスの拗らせた結果を“見せ物”として楽しんでいたとも捉えられます。
ギレルモ・デル・トロの悪魔的な笑い声が聞こえてくるようです(笑)。
ギレルモ・デル・トロ監督はメタ的な多重構造となるストーリーにし、視聴者が空想できる遊び心を入れ込んだのです。このギミックが本作が批評家に評価される大きなポイントだと思います。
心理学者リリス博士の胸の傷・エレクトラコンプレックス
©︎サーチライトピクチャーズ
ケイト・ブランシェット演じるリリス博士の胸の傷は、一体誰につけられたものなのか?
劇中では明言されていませんが、リリスの胸に傷はビン詰の赤ちゃん・エノクの姿形と重なります。
先程の考察を踏まえれば、本質的な意味で胎児エノクを傷つけたのは、エノクの母に恋をしながらも不幸にした彼の父である富豪エズラとなるでしょう。
リリスも過去にエズラを騙そうとして怒らせ、体を切り刻まれる罰を与えられたのかもしれませんね。
ただ、これだけだとリリス博士がスタンを裏切った動機が何なのかモヤモヤします。
さらに解釈を広げるなら、リリス自身が言っていたエレクトラコンプレックス(女性が父親に執着する、エディプスコンプレックスと対比する心理学用語)を使うと、うまく説明できるでしょう。
もしかすると、以前はエズラとも親密な関係にあったのかもしれません。
胸の傷はエズラによるもの、スタンを罠にかけたのは関係のあったキンボル判事が死んだからだと考えると一応しっくりきます。
また、リリスはエズラをも憎みつつ愛していたとすれば、スタンがエズラを殺したことも裏切った理由になるでしょう。
(解釈はいろいろできますが。)
ギレルモ・デル・トロ監督の演出の凄さ
『ナイトメア・アリー』では超常現象は一切出てきませんでしたが、エノクなどを通して「呪いや霊的な存在はあるぜ」と説得力を持たせるような演出が素晴らしかったです。
スタンに読心術や暗号を教えたピートやその妻ジーナは、「幽霊降臨ショーは絶対にやめろ」と言っていました。
自分の嘘に飲み込まれてしまうからという理由でしたが、ジーナがアクシデントで仕方なく幽霊ショーをやったときには風船が飛んでその場の雰囲気に異変が起こったような映し方をし、実際は本当に霊がいるのでは?と思わされます。
劇中では言葉で否定しながらも、霊や超常的な存在がいるかもしれないと匂わせる演出なんですよね。今作はこのバランス感覚が素晴らしかったです。
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