映画『パンズラビリンス』映像は超がつくほど綺麗、随所にギレルモ・デル・トロ監督の職人魂が光る!
パンズラビリンスに対し、僕は良い意味でファンタジーでなくリアルな反戦映画だという感想を持った。
そしてその理由を考察してみた。
映画『パンズラビリンス』あらすじ・予告動画
内戦下のスペインで父を亡くしたオフェリアは、母の再婚相手である独裁政権政府軍のヴィダル大尉と、彼の軍が駐在する山の中の砦で暮らすことになった。
山への旅の途中から不思議な虫がオフェリアにまとわりつき、彼女は知らない世界にいざなわれる…。果たして内戦やオフェリアの運命は?
映画『パンズラビリンス』見どころ
アイデアと映像美
アカデミーで撮影賞、美術賞、メイクアップ賞と、”映像”に関する賞を3つも獲っており美しさは折り紙つき。
特に序盤は、はっと息を呑むようなシーンが多いので見逃せない!
映像は美しいだけでなく、ファンタジーとしてどんな怪物が登場するかも楽しんでほしい!
みんな大好きなペイルマンもでるよ!
できれば事前知識なしに観て、心に小さなトラウマを植え付けよう!
映画『パンズラビリンス』ネタバレ考察:ファンタジーと現実を両立させた物語
パンズラビリンスのストーリーを簡単にまとめると↓
スペイン内戦下で極度の緊張下に置かれた少女が悲惨な死を遂げるが、自らが作り出したファンタジー世界によって精神的には救われるというもの。
内戦状態の国では、現実にはこういった救いのない世界は存在する。
頼りの親が死に、生きていくためにはゲリラ(反政府側)になるしかない。少女であれば身売りされる可能性も高い。どう転ぼうと地獄なのだ。
そんな状況下の子供たちは、自分で幸せな世界を作り上げ、その物語の中で死んでいくのかもしれない。
記事を読んでる人も自身の子供時代を振り返ってみてほしい。
子供時代って、結構自分だけの世界でルールを作ったり、幻想を見たり、話したりするよね。
王国と王女というオフェリアの妄想は決して特別ではなく、子供なら誰もが考える物語。
そういう訳で、パンズラビリンスはファンタジーでなく、完全に現実的な問題を取り扱った映画とも言えるのだ。
映画『パンズラビリンス』は実在するか考察
僕は、パンズラビリンスはオフェリアの空想だと考えているので実在しないと思う。
ヴィダル大尉にパンが見えていないのも1つの理由だが、それだけでは、パンは少女にしか見えないという説明も可能かも知れない。
オフェリアが見ていた世界が存在するとしたら、作品的に面白くなくなってしまうというのもある。
もし仮に「パンズラビリンスはありまぁす!」という場合、残酷な現実と可愛らしい妄想の対比という2重構造のストーリーに変なファンタジーが混ざるよく分からない話になってしまう。
厳しい現実の中に変なファンタジーが混じる!という見方をしてしまった人にとっては、この作品は怪物だけが見どころのつまらない作品になってしまうだろう。
あえて”パンズラビリンスはある”という視点で考えるとオフェリアと母だけ地下の素晴らしい王国に逃避し、弟やその他の人たちが暮らす内戦下の地獄はどうでもよい感じで話が終わってしまう。
こっちの方が後味悪い。
映画『パンズラビリンス』怪物ペイルマンを徹底解説
ペイルマンは英語で書くと「Pale man」で、顔色が悪い男、青ざめた男という意味。
ここだけ見ると、「いないいないばあ!!」
みたいで結構かわいいのだが、彼は子供を食べるというファンタジーの典型的な怪物。手の爪が長く血のようなものがこべりついている。
で、僕がペイルマンに対して怖いと思ったところはシワなどの老人的特徴。
なぜかというと、老いるまで子供を食い続け、老いても子供を喰う欲望が尽きていないということが見て取れるからだ。
この世に純粋悪のおじいさんほど怖いものはない。
ギレルモ・デル・トロや製作陣がどのように考えてこの老人体型にしたかわからない。
しかしペイルマンが完成したときインパクトにガッツポーズし、俳優ダグジョーンズにペイルマンの格好をさせたまま、映画のあのテーブルで飲み会を開いたことは間違いない!
ペイルマンの元ネタは日本の妖怪「手の目」
ペイルマンすげえ!これを考えついたギレルモ監督のセンスぱね〜!って思ってたのですが、実はペイルマンは昔日本で誕生した妖怪が元ネタのよう。
名前は「手の目」というド直球!!江戸時代初期には書物などに存在していたようだ。
300年前に日本で誕生した「手の目」が現代のスペイン映画に登場するなんて!感慨深いというか、ある意味ロマンチック。
よいアイデアは何年経っても色褪せないという証明でもあると思います!
引用元:Wikipedia
ちなみに、手の目の動画もあったのでどうぞ。色んなタイプの手の目が見れるよ。
日本の文化って素晴らしい!ギレルモ先生が参考にするのも納得のアイデア!
映画『パンズラビリンス』ネタバレあらすじラスト解説
1:オフェリアとパン
ヴィダル大尉(セルジ・ロペス)は、自分の子の出産に立ち会いたいというワガママな理由で、身重の再婚相手とその娘オフェリア(イバナ・バケロ)、をゲリラ軍制圧の基地である山中のボロ屋敷に問答無用で連れてくる。
出産が近いため母の体調は安定しない。オフェリアに気を使ってくれるのは、基地政府軍の召使いでいかにも幸が薄そうなメルセデス(マリベル・ベルドゥ)だけ。
外では反政府軍ゲリラをあぶり出すため、ヴィダル大尉がウサギ狩りをしていただけの爺さんをビンでボコボコ殴るなど、ひどいことがたくさん。
ある夜、オフェリアのベッドでキモイナナフシが妖精になり、昔造られたという外の迷路へ誘う。
迷路の奥にはパン(ダグ・ジョーンズ)というツノが生えた変テコな怪物がおり、「地下の国の王女の魂が地上にあり、オフェリアがその王女なので、試練を乗り越えて証明してみろ」と言う。
2:ペイルマンの恐怖
一つ目の試練、オフェリアは試練を導く本を頼りに、大きな木の地下で、ゴキブリを喰いながら住む”ヌメヌメ大ガエル”を倒し、金色の鍵を手に入れる。
次の日、オフェリアが二つ目の試練に向かおうと本を開くと、ページが真っ赤になり、母の容体が悪くなる。
夜、パンがオフェリアを訪ね、母を助けるために、人型の根っこ(マンドラゴ)を牛乳に漬け、母のベッドの下に置くように伝授。早く次の試練を受けるよう催促する。
二つ目の試練は、チョークで書いた扉から、妖精たちを連れご馳走がたくさんある部屋へ行き、砂時計がこぼれ落ちる前にあるものを取ってこい!ご馳走は絶対食べるな!というもの。
テーブルにはキモい怪物(ペイルマン)が座っていたが動かなかったため、パンは側の鉄の扉に金の鍵をさし短刀を取り出す。
しかし帰る途中お腹が空いたのでブドウを2個食べてしまう。すると怪物は手の平に目玉を嵌めオフェリアを目視。
ペイルマンは、妖精を喰いちぎりながら追ってくる。
砂時計が尽き、入口が塞がってしまったが、チョークで別の扉を描きなんとか脱出!
妖精からオフェリアがブドウをつまみ食いしたことを聞いたパンは、オフェリアに地下の王国に戻る資格はないと言い放つ。
3:独裁者ヴィダル大尉
一方ヴィダル大尉は、ゲリラとの一連の争闘から、メルセデスと駐在医がゲリラではないか?と疑いを抱く。
実際メルセデスと駐在医はゲリラのスパイであり、メルセデスの弟はゲリラの中心的人物であった。
ヴィダル大尉はゲリラの一人で吃音の男性を捕え、酷い拷問を加える。
駐在医はいたたまれなくなり、その男性を注射で殺すが、彼は背後からヴィダルに撃たれて死亡。
ヴィダルはベッド下の腐った牛乳に浸かっているマンドラゴを発見し、激オコで暖炉で燃やす。
そのせいか、オフェリア母の容態は悪化。難産となり、男児を出産した後に死亡。
吃音の男の発言からスパイがいることを知ったヴィダルは、会話の中でメルセデスがゲリラ側であると確信。
メルセデスがゲリラであると知っていたオフェリアを部屋に閉じ込める。
メルセデスを拷問しようと縛るが、彼女は持っていたナイフでロープを切り、大尉の口をかっ切って逃走。
部下たちが馬で追いかけ、メルセデスは助からないかと思われたが、ゲリラの待ち伏せにより、逆にヴィダル側の兵士が壊滅状態となる。
4:オフェリアの最期
閉じ込められたオフェリアのもとにパンが現れ、もう一度チャンスを与えるので、最後の試練として弟を外の迷路に連れ出せと言う。
オフェリアはチョークで扉を描き、ヴィダル大尉の部屋まで行くが、チョークをテーブルに置いたため怪しまれる。
ヴィダルは気を取り直し、酒を飲むが、オフェリアが母親が使用していた睡眠薬を混ぜていたため、意識が遠のきそうになる。
そのときゲリラの夜襲による爆撃の光で、オフェリアの影を発見。オフェリアは弟を抱いて外の迷路へ走るが、ヴィダルもフラつきながらついてくる。
迷路の中心でパンが現れ、オフェリアに短刀で弟を刺し血を地面に垂らせば試練は終わりだというが、オフェリアは断る。ヴィダルに追いつかれ銃で撃たれるオフェリア。
一帯を制圧したゲリラ軍にヴィダルは捕まり銃殺され、オフェリアの弟はゲリラ軍に引き取られた。
オフェリアはメルセデスに抱えられながら死亡。
彼女が最後に見たものは地下の王国の大きな宮殿にいる母と、自分を王女であると迎えるたくさんの人々。
パンの説明によると、身を呈して弟を守ることが真の試練だったのだ。
映画『パンズラビリンス』の印象的なシーン
オフェリアにつきまとうナナフシ
序盤でオフェリアにつきまとうナナフシ紛いの虫がいるのだが、こいつが金ぴかに光ってとてもキレイなのだ!昔虫捕りをしていたであろう人にはたまらなく魅力的な造り!
ビンでボッコボコ
ヴィダル大尉はただウサギ狩りをしていた男性をビンでボッコボコに殴って殺す。
痛々しい!痛過ぎて目を伏せたくなるシーン!
近年稀にみるサイコパス野郎だが、彼はパンズラビリンスにおいて登場シーンも非常に多く、現実の悲惨さを伝えるという面で、もう一人の主役となっている。
森の光
森の日差しなどの光がイチイチ素晴らしい。眺めているだけで満足!
映画『パンズラビリンス』イマイチな点
パンズラビリンスで「オイオイ」って感じたシーンをまとめる。
オフェリアはブドウ喰うんじゃねえ!
普通ならペイルマンの部屋から、恐怖ですぐに走り去りそうなものだし、ご馳走に手をつけない約束もしているのに、いきなりブドウを喰うオフェリアに違和感。
ペイルマンというキモい怪物がテーブルにいて、壁の壁画の絵で子供を喰う怪物だと分かってるはずなのに、「ブドウを喰うんじゃねえ!!」
オフェリアは確かにお腹は空いていたかもしれないが、飢餓状態ではなかったはず。ファンタジーの世界での事なのでとやかく言うのも野暮かもしれないが。
しょうもないカマかけに引っ掛かるメルセデス
倉庫の鍵は二つあるのだが、メルセデスはヴィダル大尉に1つしかないと嘘をついて鍵を持たせ、もう片方の鍵でゲリラのために扉を開放したりしていた。
ヴィダル大尉から「倉庫から酒を持ってこい」と言われ、彼から鍵を借りないでそのまま行こうとしたため、スパイだとばれたメルセデス。
それまで聡明な描写が多かった彼女が、ここだけとてもマヌケな印象になった。
なんか頼まれた時に「鍵を貸してください」と言う想定くらいしておこう。
チョークを机に置くな!
オフェリアがヴィダル大尉の部屋に来て、わざわざチョークをテーブルの上に置いて怪しまれる描写に違和感。
オフェリアにとっては大事な魔法のチョークなんだから、せめてポッケに入れろよ!
映画『パンズラビリンス』の魅力
結論を言うと、パンズラビリンスの映画としての大きな魅力は、オフェリアという少女を取り巻くファンタジー側と、生々しく描かれたスペイン内戦側の2つの対比である。
特にスペイン独裁政権側ヴィダル大尉のリアルな鬼畜描写は、正直12才以上でも観ていられない残酷で痛々しいものだが、実はこれらの徹底したシーンが、映画成功の秘訣。
なぜなら、悲惨な状況であればあるほど、オフェリアがファンタジー世界を作る必然性や説得力が増すから。
少女が試練を乗り越えるというファンタジーな内容ながら、はなから子供層を狙わなかったギレルモ・デル・トロは果断である。
ヴィダル大尉の行動が中途半端だったり、彼がオフェリアにちょっとでも情をかけようものなら、この映画は中途半端ファンタジーという駄作で終わっていた可能性すらある。
パンズラビリンスは映像や登場人物の魅力もさることながら、2つの世界の絶妙なバランスによって名作となり得ているのである!
映画『パンズラビリンス』キャスト・作品情報
公開年/制作国 | 2006年・スペイン・メキシコ |
監督・脚本 | ギレルモ・デル・トロ |
キャスト | イバナ・バケロ セルジ・ロペス マリベル・ベルドゥ ダグ・ジョーンズ |
音楽 | ハビエル・ナバレテ |
興行収入 | 約91億円 |
監督脚本ともギレルモ・デル・トロ。
最近だとパシフィックリムやシェイプオブウォーターのやナイトメア・アリーの監督としても有名だ。
本作には、彼が小さい頃みた幽霊とか、暴力事件に遭遇した経験とか、パーソナルな部分が色濃く反映されている。
パンズラビリンスを観て、ギレルモ・デル・トロは感受性が非常に豊かな人だと再認識した。
アカデミー撮影賞を受賞したギレルモ・ナヴァロは、ナイトミュージアムやパシフィックリムなどでも撮影を担当している。
監督としても活動をしており、TVドラマのハンニバルなどを手がけている非常にマルチなおっさん。
最後に感想まとめ
映画『パンズラビリンス』には、鬼才ギレルモ・デル・トロ監督の空想や恐怖がふんだんに詰め込まれ、美しい世界を構築している一方、裏側に内戦の狂気を忍ばせたある意味リアルな反戦映画だという視点をご理解していただけただろうか。
映画史に残る怪物・ペイルマンの造形など、本作が映画界・映画好き与えた影響は計り知れない。
ギレルモ・デル・トロ監督の健康と、これからも傑作を作り続けることを願って乾杯!
- SF・ファンタジー, サスペンス
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