映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ネタバレあらすじ感想!犬の力やラストの意味考察・評価・伏線解説 Netflix

  • 2023年9月29日

Netflix映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は、アメリカの大自然をバックに登場人物の複雑な心模様を浮かび上がらせた素晴らしいヒューマンドラマでした。

ベネチア映画祭で銀獅子賞を受賞し、2022年の第94回アカデミー賞では作品賞・主演男優賞・助演男優賞など主要部門含む最多の12部門ノミネートを果たしました(邦画『ドライブ・マイ・カー』のライバル)。

そして2022/03/28のアカデミー賞発表で、ジェーン・カンピオンが監督賞を受賞

主演はマーベル『ドクター・ストレンジ』で有名な俳優ベネディクト・カンバーバッチ。

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エンタメ性はないので一般受けしないでしょうが、個人的には名作『ブロークバック・マウンテン』をさらに渋くしたような傑作だと思いました。

ぶっちゃけ感想・評価、タイトルにもなっている「犬の力」の意味/キャラの関係を深掘り考察ストーリーネタバレあらすじ解説を知りたい人向けに記事をまとめました。

(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです)

Netflix映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』おもしろかった?

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Netflix映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』キャスト・作品情報

公開・制作国・上映時間:2021/12/01・Netflix
原題:The Power of the Dog
監督:ジェーン・カンピオン
脚本:ジェーン・カンピオン
原作:トーマス・サヴェージ小説「The Power of the Dog」
主演:ベネディクト・カンバーバッチ
出演:ジェシー・プレモンス、キルスティン・ダンスト、コディ・スミット=マクフィー、トーマサイン・マッケンジー

女性監督ジェーン・カンピオンは映画『ピアノ・レッスン』(カンヌ国際映画祭パルムドールとアカデミー脚本賞受賞)、『ある貴婦人の肖像』などで非常に評価の高い人です。

ベネディクト・カンバーバッチはマーベルの『ドクター・ストレンジ』や『裏切りのサーカス』『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』などで有名。

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そのほかに『スパイダーマン』シリーズヒロインのキルスティン・ダンスト、『ブレイキングバッド』『ジャングルクルーズ』のジェシー・プレモンスも。2人は実生活でも夫婦で、今作でも夫婦役を演じています。

コディ・スミット=マクフィーは、『猿の惑星: 新世紀』『X-MEN』シリーズ。

トーマサイン・マッケンジーはシャラマン監督の『Old/オールド』や『ジョジョ・ラビット』『ラストナイト・イン・ソーホー』などの映画に出演しています。

ネタバレなし感想・見どころ・あらすじ

あらすじ:牧場を営む男性・フィルの弟ジョージが、飲食店を営む未亡人・ローズ(キルスティン・ダンスト)と結婚。フィルは家にやってきたローズを「女狐!」と罵り、彼女の息子・ピーターが女っぽいと笑いますが…。

言葉による説明の少ない、渋いヒューマンドラマ。

登場人物それぞれのトラウマや憎しみが浮かび上がってきて、想像の余地も多分にある傑作です。

個人的には超オススメですが、エンタメ性を重視する人には全く向かない映画です。

下記の表からも分かるとおり、海外でも批評家は絶賛していて一般の視聴者はそうでもない感じです。

おすすめ度 85%
世界観 84%
ストーリー 86%
IMDb(海外レビューサイト) 6.9(10点中)
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト) 批評家95% 一般77%

※以下、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のストーリーネタバレありなので注意してください!

映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ネタバレ感想・評価

映画パワーオブザドッグの主人公を演じたベネディクト・カンバーバッチ

Netflix映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の評価は86点。
回りくどい説明は一切なしで淡々と進んでいくのですが、常に息苦しいほどの緊張感が漂っていて没頭できます。
ベネディクト・カンバーバッチやキルスティン・ダンストを筆頭にキャストの演技も素晴らしく、表情を見ればストーリーがわかり、さらに想像を張り巡らせられるつくりになっています。
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無駄なセリフを省いて視聴者の思考を映画に没頭させることに成功した、ジェーン・カンピオン監督の手腕に脱帽です。
ベネディクト・カンバーバッチ演じる主人公・フィルの非常に深い悩みや、ラストの驚愕の結末まで、全部足して1枚の絵画になるような心に残る映画でした。
劇伴の大部分が不協和音だったのも印象深かったです。
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主人公・フィルが求められるカウボーイ的男らしさと同性愛者の相反を、楽曲の不協和音で表現していたのでしょう。
次は、記事の本題:犬の力やラストシーンの意味、登場キャラの関係性を深掘り考察していきます!

考察:ラストや犬の力の意味!

旧約聖書に出てくる犬の力

犬の力のメタファーになっているロープ

タイトルのThe Power of the Dogは日本語で犬の力という意味。

これは旧約聖書に出てくるフレーズから取られています。

わたしの魂を剣から、わたしの愛を犬の力から、解き放ってください。「旧約聖書」詩編・22章20節

ここだけ読んでも意味がわからないと思いますが、旧約聖書に置いて犬は人の屍肉などを漁ることから不浄(汚れた)の動物と考えられていました。

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よって犬の力(パワー・オブ・ザドッグ)の意味は、穢れた力になります。

何か良からぬ力と考えるとよいでしょう。

その力って一体なんのこと?という疑問が当然浮かびますが、見る人によって様々な解釈ができるでしょう。

敢えて答えを出すなら個人の意思を尊重せずに押しつぶすことが犬の力だと思います。

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主人公・フィルは牛を追い立てる牧羊犬のように、人々に怒鳴り散らして言うことを聞かせています。

さらにフィル自身も、

  • 弟への愛情の屈折
  • ゲイをカミングアウトできずに葛藤

など、世間の常識によって自らの意思を追い立てられ、苦しんでいるようです。

精神を屈折させる見えない圧力が犬の力なのでしょう。フィルがピーターに作ってあげたロープがこの犬の力のメタファーになっています。

権力と男らしさを振りかざし犬の力を操るフィルが、その力に自らも苦しめられるアイロニカルな構造だと思いました。

ラストシーンの意味

ラストでフィルは突然熱を出して死んでしまいますが、これはピーターが炭疽病で死んだ馬の皮をフィルに渡したからです。

フィルは手を怪我しており、その馬の皮でロープの仕上げをしたので炭疽病を発症しました。

ピーターは医者志望なので確信犯です。

権力を振りかざす家主のフィルがゲイだと知り、彼を好きなフリをする作戦を立てたのでしょう。

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ピーターは自らを犬の力から解放したのです。
ラストシーンだけ考えると突然のサスペンス展開!ですが、フィルがピーターを想う気持ちは純粋だったように思えますし、しみじみ余韻が残ります。
あとは、フィルの部下が「原因は炭疽菌だ!」と言っていたのにジョージはスルーしていました。
もしかすると、ジョージーは義子・ピーターが犯人だと感づいていたのかもしれません。
単なる“静かな殺人”ではなく、登場人物それぞれの想いが複雑に絡み合った終焉になっていました。

主人公フィルの秘密、弟との関係

馬に乗る主人公フィルと弟ジョージ

ラストは衝撃的でしたが、映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』の本質は主人公・フィルのバックグラウンドや、弟との関係を想像する余地が多いところにあります。

フィルはイェール大学で古典を学んだ秀才でしたが、それがブロンコ・ヘンリー(男)と仲良くなって牧場経営を引き継ぎました。

フィルとブロンコは恋人同士だったとわかります。

序盤の伏線的な演出ですが、弟ジョージは兄フィルからアカシカ狩りやブロンコの名前が出ると暗い顔をしていたので、その事実を知っていたと推測できます。

さらにいうとフィルはジョージとローズが結婚することになったとき、ローズを異様に嫌ったので、兄弟で肉体関係があったのかもしれません。

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ジョージはローズと結婚したときうれし泣きしていましたが、これはブロンコや兄の呪縛から精神的に逃れられた喜びなのかも。

それと関連して、もう一方のローズと息子・ピーターの関係も怪しく見えてきます。ピーターが母親に対して「キレイだ」とか「守らなきゃ」とか、やや不自然なセリフもありました。

劇中ではローズの前夫が首吊り自殺した理由が明かされていませんでしたが、ローズとピーターが不適切な関係にあったからかもしれません。

正しい答えは出せませんが、人生って複雑だとしみじみ考えさせられました。

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