映画『余命10年』は小松菜奈・坂口健太郎演じる、難病で余命わずかな女性と、生きる希望を失った男の失望と再生を描いた悲哀のラブロマンス。
難病を患い38歳でこの世を去った小坂流加さんが、実体験・実話を基に書いた同名小説の映画化であります(ストーリーは大筋以外は別物です)。
キャストや演技の印象、ぶっちゃけ感想・評価、原作小説との違い比較、
2人の心の再生・茉莉の母性愛の考察ラストシーン考察、ネタバレあらすじ解説を知りたい人向けに記事をまとめました。
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです)

映画『余命10年』作品情報・あらすじ見どころ
監督:藤井道人
英題:『the last 10 years』
脚本:岡田惠和(『今。会いにゆきます』) 渡邉真子
原作:小坂流加「余命10年」
撮影:今村圭佑
製作:「余命10年」製作委員会
制作:ROBOT
制作:ワーナーブラザーズ
音楽:RADWIMPS「うるうびと」
藤井道人監督は、映画『新聞記者』で日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞(賛否両論でしたが)。
米倉涼子主演のNetflix版ドラマ『新聞記者』(こちらも色々問題になりました…)や、映画『ヤクザと家族 The Family』、『アバランチ』など比較的評価やクオリティが高い作品を手がける若手の監督です。
藤井道人監督、綾野剛主演の映画『ヤクザと家族 The Family』。ヤクザ世界の義理人情と栄枯盛衰と切なさを描いたすばらしい作品でした。シネマグヤクザ映画が好きでない人も楽しめます。キャストの演技と衝撃的なラスト結末に[…]
小坂流加さんは、「余命10年」の文庫本の校正作業を終えた2017年にこの世を去ったそうです…。死後に遺作となる小説「生きてさえいれば」が発売されました。
ネタバレなし感想・見どころ・あらすじ
©︎「余命10年」製作委員会
あらすじ:難病で余命10年の茉莉(小松菜奈)は、そのことを周囲に告げていませんでした。中学校の同窓会で和人(坂口健太郎)と再会。人生に失望していた坂口がある事件を起こしたことがきっかけで、茉莉との距離が縮まっていきます。
ただ泣ける恋愛映画というだけでなく、生きる意味や命の価値などメッセージ性も強い作品です。
小松菜奈さんはじめ、キャストの演技も素晴らしくて引き込まれます。
おすすめ度 | 80% |
切なさ | 86% |
メッセージ性 | 85% |
IMDb(海外レビューサイト) | 8.4(10点中) |
余命10年・キャストと印象
高林茉莉|小松菜奈
©︎「余命10年」製作委員会
茉莉は20歳で肺と心臓を結ぶ血管がうまく機能しなくなる難病・肺動脈性肺高血圧症を発症した女性。
演じるのは、もはや切ないラブストーリーには欠かせない存在の小松菜奈さん。本作でも余命わずかながら、恋人と少しでも一緒にいたい茉莉を熱演していました。
涙を流すシーンでは鼻水まで垂れていて、普段は冷静ながら心の奥底の熱い想いが伝わってきました。
小松菜奈代表作:『糸』『渇き』『溺れるナイフ』『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』など。
真部和人|坂口健太郎
©︎「余命10年」製作委員会
和人は、上京して生きる希望を失った24歳の男性。茉莉の同級生。勤め先をクビになり無職で引きこもりがち。
坂口健太郎さんがゴリゴリのイケてない青年を熱演。茉莉と出会ってからの心の成長も見どころです!
俳優・坂口健太郎 代表作:『おかえりモネ』『シグナル』『東京タラレバ娘』
その他の登場人物・キャスト
高林明久(茉莉の父)|演 松重豊(『孤独のグルメ』)→何も言わずに主人公・茉莉を見守る演技が最高!
高林百合子(茉莉の母)|演 原日出子(『樹海村』『ボクたちはみんな大人になれなかった』)→もはや日本人みんなのお母さん的存在
高林桔梗(茉莉の姉)|演 黒木華(『孤独のグルメ』)
梶原玄(居酒屋店長)|演 リリー・フランキー (『全裸監督2』、Netflix『ヒヤマケンタロウの妊娠』)→この人がちょっと出るだけで作品がグッと引き締まる!
藤崎沙苗(茉莉の大学の同級生)|演 奈緒(ドラマ『竜の道』)
平田先生(茉莉の担当医)|演 田中哲司(『真犯人フラグ』 Netflix『新聞記者』 映画『新聞記者』)
富田タケル(茉莉の中学の同級生)|演 山田裕貴(『ヒノマルソウル』『東京リベンジャーズ』)
(茉莉の大学の同級生)|演 三浦透子(『ドライブ・マイ・カー』)→本作では脇役
三浦アキラ|演者 井口理(King gnu)
※以下、映画『余命10年』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『余命10年』ネタバレ感想・評価
©︎「余命10年」製作委員会
小松菜奈さん演じるヒロイン・茉莉の、誰かと心を重ね合わせたい気持ちと病気との間での葛藤がヒシヒシと伝わってきます。達観・薄幸感と、生きたいと泣きじゃくるギャップが素晴らしい。
キャスティングと演技も良かったです。俳優陣に感情爆発みたいな演技があまりない分、かけがえない日常の価値が伝わってきます。
松重豊演じる、寡黙だけど娘が最後まで楽しく生きることを願う父・明久には超感動。
リリー・フランキー演じる居酒屋店長が和人を諭すシーンもヒューマンドラマとして素晴らしかったです。
感動の物語でありながら、肺高血圧症などの難病患者や家族の生き方にもスポットが当たっているのも特徴です(実際本作には、肺高血圧症の団体の協力もあったようです)。
ヒロインだけでなく、家族を中心として周囲の人物も含めて難病とどう向き合うかについて、映像である種の答えを提示していたと思います。
ひたすら感情移入させるだけでなく、一歩引いた目線で難病に生きる人のリアルを突きつけられました。
感動ポルノや完全なメロドラマになっていないのが個人的には良かったです。ただ思いっきり泣きたい!という人からすると、ちょっとイメージと違ったかもしれませんね。
ちなみに、和人が不治の病だと告げられたあと、「茉莉にすぐ会いに行ってやれよ…」と思ったりもしましたが…
リアルに考えると、茉莉は末期症状で苦しむ姿を和人に見せたくなかったのだとわかります。
映像・演出について
桜、線香花火、お祭りなど、日本の文化を抒情的に切り取っていました。ポスターによると、なんと一年かけて日本の四季を取り続けたようです。
茉莉が沈みゆく太陽をつかもうとするシーンも、精一杯の心情吐露のようで素敵な演出でした。
茉莉は感情を爆発させることが少なかったですが、映像を見れば今どんな心情かわかるようになっています。
全体的に巧みなライティングのカットが多かったです。
また人物の動きは極力抑え、重厚感もありました。色温度を下げた藤井道人監督らしいブルー寄りの映像も健在。
ただ、ラブストーリーでのフィルムノワール(マフィアや犯罪映画)っぽい色補正は、好き嫌いがわかれるかもしれませんね。
他には、後半に藤井監督らしい重厚感のあるシンメトリーの構図が増え、病気で助からない茉莉と和人、家族や友人との対話が重厚感を増していきます。
また、茉莉の気分が悪くなる時は主観(まぶたが閉じられる動き)とリンクするように、画角の縦幅がどんどん縮まって横長になったり、茉莉のビデオカメラで撮影した映像の時は正方形の画角になるなど、視覚的も飽きさせない工夫が多かったです。
演出については、セリフで過剰に説明するということもなくて良かったです。
考察:2人の心の再生・ラストシーン意味
心の再生の物語
茉莉と和人のキャラクターの対比がコンセプチュアルで素晴らしかったです。
茉莉はもっと生きたい、和人は死にたい。2人に共通しているのは希望を持てていないこと。
そんな2人が出会うことで、お互いが生きる希望を見出します。
和人のキャラクターは恋愛映画にしてはナヨナヨしすぎなんですけど、茉莉とだとちょうどパズルのピースのようにピタッとハマるんですよね。
プラトニックな恋と母性
茉莉の病気・肺動脈性肺高血圧症は、肺と心臓をつなぐ血管が正常に機能しなくなる病気なので、激しい運動ができません。つまり2人はセックスできないプラトニックな関係のまま終わります。
愛した人と体を重ねられない茉莉の悲哀と絶望は、相当なものでしょう。難病による恋愛の難しさが伝わってきます。
一方で、プラトニックな関係だったとしても難病でも、それを乗り越える想いのような美しさも浮かび上がってきました。
多様化の時代ですが、茉莉と和人の関係はそれを象徴するような唯一無二で美しい恋愛だったと思います。
あとは、茉莉の和人に対する愛情には母性も強かったのかなと思いました。茉莉は自分の死を確信しているから、和人を成長させたい、何かを残したいという想いが強かったのではないでしょうか。
大きな視点で考えると、茉莉は恋人と夫、そして息子を同時に得て、命を散らせていったのです。きっと短い期間に人生が圧縮されていたんですね。
この恋愛における強い母性は、余命10年をどう精一杯生きるかの本質を突いているようで、本作の特に優れている点だと思いました。
ラストシーンの意味
ラストでは和人が、自分と茉莉が一緒に笑い合っている幻を眺めているシーンで終わります。
茉莉は死んでしまったというのはわかると思いますが、もう1つ重要なメッセージが隠されています。
それは、茉莉と和人が愛し合った想いは生き続けるということ。
言葉にしてみると少し安っぽい感じになってしまいますが、茉莉が劇中で「余命10年」という小説を書いていたことも考えると、味わい深くなります。
つまり、小説を読んだ人々の中で茉莉と和人の恋愛は存在し続けるのです。
和人の心にだけでなく、たくさんの人の心の中に2人のストーリーが生き続けることになります。
映画と原作小説をネタバレ比較
映画が良かったので小坂流加さんによる2017年度発表の原作小説を読んでみました(こちらも感動作なのでぜひ読んでみてください)。
原作小説だと茉莉はアニメオタクで、退院したあと中学の同級生という設定の沙苗の影響でコスプレイヤーになり、小説でなく漫画を描き始めます。
和人は茶道の家元の跡取りの設定で、それがプレッシャーになりパニック障害を患っているものの、茉莉との出会いで茶道の修行を再会しています。
ストーリーの大きな違いでは、映画では茉莉が死ぬ間際に和人が病室に現れますが、小説では和人は茉莉の死後に葬式にやってくる最後です。
原作小説の方は茉莉の死ぬ間際の闘病生活の心情吐露があり、自らの人生に納得しつつも、理性などを失って寝たきりになる失望により、死がただの綺麗ごとではない、ということまで伝えています。
対して映画ではもう少し抽象的で、限られた時間に人間の人生を同圧縮するかや、茉莉と和人のお互いの心の再生を描いていたと思います。
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