ホラー映画『みなに幸あれ』(みなにさちあれ)。田舎に帰った看護学生が祖父母の家であるモノを発見し、衝撃の事実に追い詰められていきます!
物語ネタバレあらすじ・ラスト結末解説
考察:ラストの女性の意味、目と口を縫われた犠牲者は私たち観客、
日本の椅子取り合戦と世代間格差
祖母の出産の意味、味噌の意味、いじめられてた中学生の発言
視聴後の正直な感想・評価レビュー(ネタバレあり)
これらの情報を知りたい人向けにわかりやすくレビュー!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目からどうぞ)
これから視聴する方の参考になるよう、作品についての視聴者口コミ・アンケートも投票お願いします↓
映画『みなに幸あれ』作品情報
上映時間:1時間29分
ジャンル:ホラー
年齢制限:R15+
監督:下津優太
脚本:角田ルミ
原作:下津優太の短編映画「みなに幸あれ」
撮影:岩渕隆斗
音楽:香田悠真
プロデュース:清水崇
原作小説はなく、KADOKAWAの「第1回日本ホラー映画大賞」で大賞を受賞した下津優太監督の「みなに幸あれ」を本人が長編として作り直した作品です。
『呪怨』や『犬鳴村』を手がけたJホラーの巨匠・清水崇がプロデュースしていることでも話題になりました。
角田ルミさんは清水崇監督の『ミンナのウタ』の脚本を務めた人物です。
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映画『みなに幸あれ』キャスト
主人公の孫|cast 古川琴音(『十二人の死にたい子どもたち』『雨降って、ジ・エンド。』,Netflix『幽☆遊☆白書』ぼたん役)
幼馴染|cast 松大航也(『劇場版 ねこ物件』)
犬山良子
西田優史
吉村志保
橋本和雄
野瀬恵子
有福正志
映画『みなに幸あれ』あらすじ
看護学生の主人公(古川琴音)は、幼少期に住んでいた祖父母の家に帰郷する。
祖父母はあたたかく迎えてくれた。
主人公は2階の奥の部屋から物音がすることを不審に思った。そういえば、幼い頃に夜に2階の奥の部屋を見に行って、その後の記憶がない。
主人公は幼馴染の男性(松大航也)と再会し、笑われている中学生を助けた。
幼馴染は何かを隠しているようだった。
主人公は祖父母の実家で最悪な光景を目の当たりにし、絶望に包まれていく…。
映画『みなに幸あれ』ネタバレなし感想
個人的には満足できました!
衝撃度!という面では2024年の年間を通しても上位に来るでしょう。いろいろキモすぎるので。
生理的に気持ち悪すぎるシーン、グロテスクなシーン、痛いシーンの詰め合わせなので、苦手な人は注意した方が無難かもしれません(ネタバレ少なめの感想続き)。
おすすめ度 | 80% |
怖さ | 65% |
グロさ・気持ち悪さ | 90% |
ストーリー | 80% |
※以下、ホラー映画『みなに幸あれ』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『みなに幸あれ』ネタバレあらすじ解説
監禁された老人
主人公は祖父母の家で食事をしているときに、目と口を糸で縫われた老人が這いずってきたのを目の当たりにして恐怖で叫ぶ。
祖父母は「あ〜あ〜」と言いながらその老人を2階の部屋に運んだ。そしてベッドに縛りつける。腹に管が刺されていた。
祖母は動揺する主人公に「あなたはまだ知らないのねえ」と言った。
パニックになった主人公は幼馴染の男の家に行った。男の家には体を壊している彼の父がいる。
幼馴染は絵描きになる夢をあきらめ、今は農業していると語る。
主人公は幼馴染に、家にいた老人にその件について相談した。
幼馴染は「協力する」と言って主人公の家まで来てくれた。
祖母はなぜか吐いていた。祖父が介抱する。
主人公は祖母が祖父の指をなめているのを見る。主人公に気づいた祖母は笑っていた。
主人公は幼馴染と2階の奥の部屋へ行く。老人の胸には胃ろうのような穴が開けられており、そばのタッパーには味噌が詰められている。
主人公たちは縛られている老人の目と口の糸を切って外に連れ出した。
それを見た祖父母は「止めろ」と言うが、なぜか棒読みの口調だ。
老人は外を歩き出す。主人公と幼馴染がそれを追いかける。祖父母がその後を追う。
そこへ主人公の家族(両親と弟のまさる)が車でやってきた。
老人はトラックに撥ねられて吹っ飛ぶ。
主人公はパニックになるが、祖父母は「仕方ない」と言ってトラック運転手を許してやった。
やってきた主人公の父親が老人の死体を燃やした。主人公はなぜみんなが冷静なのか意味がわからず泣き叫ぶ。
家に帰ると祖父が口から血を吐いた。
両親が「代わりを見つけてきなさい」と主人公に言う。
犠牲になるような人間を見つけないと家族みんなの命が危険なようだ。
失踪した伯母の家へ
主人公はどうしていいかわからず家を飛び出す。しかし誰かを犠牲にする勇気は出ない。
主人公は、家にある昔の写真に写っている女の子(白く塗りつぶされている)について父にたずねる。
父は「お前と同じぐらいの歳で犠牲を受け入れられず出ていった俺の姉(主人公の伯母)だ」と話した。
近所に聞き込みをし、伯母を探す。伯母は山に住んでいるようだ。
主人公は山に登り、やっと伯母が住んでいる小屋を見つけた。
伯母はアフリカの子供たちが不幸かどうかの話や、世界が0.1の仮想現実だという取りとめのない話をした後、主人公に薪割りを頼んだ。
伯母の今の願いは死んで上の世界へ行くことらしい。
主人公が力いっぱい斧を振り下ろす。伯母が土台の上に頭を突っ込ませる。
主人公は伯母の頭をかち割ってしまった。伯母は笑いながら死亡。
伯母を殺害してパニックになった主人公。さらに伯母の家で監禁された死体を見つけ、気が狂いそうになる。
山を降りた主人公は近所にいる学生を犠牲にしようと思ったが思いとどまった。
このまえ助けた気の弱そうな学生が、他の男の子を舎弟にしている。
その学生は、前より幸せだと言ったあと、「僕がなってもいいですよ」と意味深につぶやいた。
家に帰った主人公は、招き入れられそうになっていた男性に向かって「帰れ!」と叫んだ。
両親が怒り出す。
朝になると、弟・まさるが目から血を流していた。父も口から血を流す。もう時間がないらしい。
主人公は自分のまぶたを糸と針で塗ってみようとするが、針を突き刺したときの激痛で「無理だよ」とあきらめた。それを見た家族が笑う。
ラスト結末
主人公は幼馴染の家へ。
幼馴染の父は亡くなっており、幼馴染は「うちの家は代々犠牲がいないから不幸なんだ」と言った。
幼馴染は主人公に自分の首を絞めさせる。
主人公は動揺して泣き叫ぶが、最後には笑いながら幼馴染の首を絞めていた。
ちょうど家では祖母が破水し、赤ちゃんが誕生していた。
主人公は家に気を失った幼馴染を連れて帰る。
赤ちゃんを抱いた祖母と家族が笑顔で迎えてくれた。
主人公は幼馴染の目と口を糸で縫い、2階の奥の部屋に監禁した。
数年後。看護師になった主人公は医者の恋人の両親に会いに行くことになった。
閑静な住宅街を歩いていると、ある女性が主人公を見てカーテンを閉めた。
映画『みなに幸あれ』考察(ネタバレ)
ラストシーンの意味
ラストシーンでは主人公が、婚約者に連れられた住宅街の2階にいてカーテンを閉めた女性を見て「幸せだ」と笑います。
主人公が何かを犠牲にする社会を受け入れたのはわかるのですが、カーテンを閉めた女性にはどんな意味があるのでしょう。
カーテンを閉めた女性は自分の家の暗部を見られたくなかったのでしょう。彼女も誰かを生贄にしていい家に住んでいるわけです。
わりと豪勢な家に住んでいる人々も、みんな誰かを監禁してその恩恵を享受しているのでしょう。
女性は誰かを生贄にする主人公の生き方を嫌悪しているとも考えられますが、いい家に住んでいるので誰かの不幸を吸い取っている側の可能性が高いと思います。
主人公は社会の生贄システムを受け入れつつも軽蔑の感情を残しているようでもありました。
反乱分子のような主人公と関わりたくなかったのかもしれません。
カーテンを閉めた女性の行動原理はそのほかにも、
他人を踏み台にする主人公と関わりたくなかった(生贄にされるのは嫌だ)。
他人を生贄にしてのし上がってきた田舎者への嫌悪感(自分も誰かを生贄にしているくせに)。
など、さまざまな解釈が考えられます。
主人公は医者と婚約する玉の輿を達成しました。かなりの幸福を享受しています。
もしかすると主人公の家族は幼馴染以外の人物も監禁して生贄にしているのかもしれませんね。
いずれにせよ、主人公が社会の幸せが一部の人の不幸によって成り立つシステムを受け入れると共に、そのシステム自体を嘲笑するようなラストシーンでした。
目と口を縫われた犠牲者は私たち
主人公の家の2階に、目や口を縫われた幸福のための犠牲者の老人が監禁されていました。
祖父母は2階から物音が聞こえたときに豚の鳴き真似をし、「人間に食われる豚は幸せなはずだ」と言いました。
豚=犠牲者の老人の暗喩です。
祖父母にとっては幸せのために犠牲となる誰かは家畜と同等なわけです。
いっぽうで目や口を縫われた老人は、異常な状況に何も言わない人々と表裏一体の存在とも考えられます。
幸せ側の人間も思考停止して何も見てないフリをしているのですから、ある意味で犠牲者と同じように社会に目や口を縫われているといってよいでしょう。
(祖父母はしょっちゅうフリーズしてましたが、これは思考停止を暗示しているようでした)
社会に縛られているという面では、祖父母も監禁された老人も変わりません。
そして映画を見ている私たち観客も、社会の不条理に目をつむっている点では祖父母たちや、監禁された老人と同じではないでしょうか?
俯瞰して見ると、幸せそうな主人公の祖父母の家庭も、誰かの富の犠牲になっているというピラミッド構造のようにも考えられますね。
ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』っぽさもあると思いました。
日本国内の椅子取り合戦と、世代間格差
感想の項目でも語りましたが、本作のテーマは「幸せは見知らぬ誰かの犠牲と不幸の上に成り立っている」というものです。
もう少し詳しく見ていきましょう。
山小屋に住んでいた主人公の伯母が、「やがてアフリカが台頭してくる」的なことを語っていました。
これは日本が先進国ではなくなり、発展途上国を犠牲にできなくなるという意味だと思います。
かつて先進国だった日本は、国内の人間でなく途上国の人間を犠牲にして経済を発展させてきました。
しかし、そろそろ日本国内で犠牲を見繕う(みつくろう)時期に来ているということでしょう。
日本人同士で蹴落とし合っていかないと、幸せを維持できないというメッセージだと思いました。
あと、1番下の弟から死にそうになっていくことから、日本国内ではまず金銭的にも力のない若者から犠牲になるという暗示もありました。
祖母の出産が意味するもの
祖母の超高齢出産は、若い世代からの恩恵を受け続ける高齢者の繁栄の象徴に見えます。
「生贄の恩恵を1番受けているのは高齢者」という、現代日本の社会構造を鋭利に突きつけました。
年金も年齢が高いほうがもらう金額が多いですからね。
主人公が最後に横断歩道で老人を助けなかったのは、老人世代の犠牲になりたくない決意でしょう。
社会に対してのせめてもの抵抗なのですが、老人を助けないようなマインドは人として正しいのか?と疑問も残ります。
味噌は〇〇?
おばあちゃんが作っていた美味しいお味噌。
お味噌のタッパーは監禁されていた老人のそばにありました。
老人の腹には穴が空いていたので、そこから味噌の隠し味になるモノを取り出していたのでしょうか。
クマの胆汁採集(クマの腹にチューブを入れて漢方のために胆汁を取り出し続ける残酷な方法)のような形で、幸福を取り出して味噌にしているという表現でしょうか。
老人は口が塞がれていたので、腹の穴は食料を送り込むための胃ろう(口が使えない患者の胃にチューブで栄養を送る方法)かもしれません。
とすると、タッパーと味噌は何なのか…。
中学生の発言について
主人公と幼馴染が序盤で助けた自転車に乗った中学生。
中盤では舎弟を引き連れており、世の中に迎合することを選んだようです。
そして彼は主人公に向かって「俺なってもいいですよ」と言います。
「犠牲になってもいいですよ」という意味でしょう。しかし、彼はなぜ自ら犠牲者になってもいいと考えたのでしょうか?
その理由は主人公の叔母が話した「アフリカの人たちを不幸に思う?他人の尺度で幸せを考えている時点で幸せになれない」にあると思います。
この発言は裏を返せば皆それぞれの幸せがあるということです。
中学生は社会に迎合して、犠牲者になることも1つの幸せの形だと考えたのでしょう。
何も考えずに社会の犠牲者になるような生き方も、ある面では幸せなのかもしれません。
広い視点で見ると社会の枠組みにはまっている時点で、みな誰かの犠牲者です。
ならば自分は犠牲者だと自覚して受け入れ、その下の犠牲者(舎弟のような存在)を作るのが賢い生き方なのかもしれません。
映画『みなに幸あれ』ネタバレ感想・評価
「昔ながらの日本の幸せが、もはや誰かの犠牲の上にしか成り立たない!」という資本主義の末期を、監禁して犠牲を作り出すというダイレクトかつインパクト抜群の表現で提示したのが素晴らしいと思いました。
ジョーダン・ピールの『Us(アス)』にも通底するテーマですね。
主人公がど田舎にやってきて恐怖の風習に巻き込まれていく流れからはアリ・アスター監督の『ミッドサマー』が想起されます。
グロテスクかつシュールな表現そのものも良かったです。
考察の項目でも語りますが、祖母のヒーヒーフー出産を両親が手伝う場面や、意味深な味噌など生理的に気持ち悪いシーンのオンパレードでした。
主人公が伯母を斧で殺しちゃうシーンは叫びそうになりましたし、自分のまぶたを縫おうとするシーンは痛いたしくて見てられませんでした。
世の中の幸福がどうやって成り立っているか?という割とありがちな功利主義のテーマを、斬新でグロテスクなヴィジュアルで突きつけた点が評価できると思います。
近年は世界的にホラーと社会問題を結びつけた作品が増えていますが、それをJホラー独特の気持ち悪さで作り上げた印象です。
最後のまとめ
映画『みなに幸あれ』は、グロテスクでぶっ飛んでいるシーンと何かの犠牲の上に人々の幸せが成り立つというメタファーを組み合わせた良作ホラーでした。
兎にも角にもインパクトという面では他の追随を許さない斬新なJホラーが誕生したと思います。
下津監督の次回作にも期待したいですね!
ここまで読んでいただきありがとうございます。映画『みなに幸あれ』レビュー終わり!
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