映画『パラサイト 半地下の家族』が、なぜアカデミー作品賞をとるほど評価されたのか?なぜ見る人を釘付けにし、カタルシスを与えるのか?答えはポン・ジュノ監督によって完璧に計算しつくされた映画だからだ。
この記事では
- ストーリーあらすじネタバレ
- 率直な感想
- エンタメ3部構造の解剖
- ギウの障害と笑いから考える妄想説
- 石の意味
- 階段の意味
などの解説や考察をしていく。
他サイトで見られないパラサイトの超独自考察がたくさん!
『パラサイト 半地下の家族』ネタバレ感想・評価/社会派エンタメ
映画『パラサイト 半地下の家族』の評判だけ聞くと、韓国の鬼才ポン・ジュノ監督による、生々しい社会派サスペンスなのか、と考えるかもしれない。
しかし観ればわかるが、『パラサイト 半地下の家族』は、完全なエンタメ作品だ。
貧乏家族が富裕層をテンポよく騙す爽快感、随所の笑い、予想不可能なサスペンス展開など、エンタメ要素が際立っている。
富裕層と貧困を斬新な切り口で対比させた社会派な一面は前提としてあるが、エンタメの要素がめちゃめちゃ強い。
もともとエンタメとしてPRされていた本作について、「エンタメ要素のある社会派」という感想や評価がとても多い。
順序が逆だろう、パラサイトはあくまで「社会的なメッセージを持つエンタメ」だ。
悪い意味ではなく『殺人の記憶』や『母なる証明』から芸術性や作家性を少し引いて、面白さを追加している。
『万引き家族』というより、『ジョーカー(2019)』に近いといえばわかるだろう。
誤解を恐れず言えば、ポン・ジュノ監督は韓国の社会問題を利用して、最強のエンタメを作り上げた。
『パラサイト 半地下の家族』は、社会派の皮を被った極上エンタメなのだ。
『パラサイト 半地下の家族』ジャンルを超えたエンタメ構造解説
パラサイトの観賞中、ワクワク感が止まらなかった人が多いのではないか。
ワクワク感の理由は、この映画を時系列通りにパート1〜パート3に分割してみるとよくわかる。
視聴者を飽きさせないように、異なる3つのジャンルを楽しませてくれるのだ。これがポン・ジュノのサービス精神であり、計算なのだろう。
パート1:クライムコメディ
長男・ギウが、裕福なパク家の長女ダヘの家庭教師となり、美術教師、運転手、家政婦が、全員キム一家とすげ変わる。
頭脳と笑いが絡み合ったカタルシスが得られるのがパート1だろう。
前半部分は、言ってしまえば映画『オーシャンズ』シリーズのような印象だ。
騙す爽快感と、笑いが止まらない!
パート2:ステルス・ゲーム
キム一家がパク邸で酒を飲みはじめたところへ、元家政婦・ムングァンが雨の中現れ、地下室とムングァンの夫の存在が明らかに。
そこへキャンプ中のはずのパク一家が帰ってくることになり、ステルス・ゲーム(見つからないように隠れる)がスタート。
キム一家は、料理を作る、ムングァンたちを何とかする、散らかった部屋を片付けるというミッションを8分でこなさなければならず、さらに見つかったらアウト!
ゲーム要素が強く、臨場感抜群だ。
ゲーム『メタルギア・ソリッド』や、映画『ミッション・インポッシブル』シリーズを観ているようなスリルと快感が味わえる。
パート3:サスペンスホラー
洪水で半地下の家が水浸しになり、事情を知らないパク一家がキム一家をこき使ったことで、一家の主・ギテクの怒りが爆発するパート。
まず、地下から逃げ出したムングァンの夫が、パク家庭のパーティーで刃物を持って暴れ、ギジョンを殺傷。
ギテクがムングァンの夫を刺し殺し、パク家の主・ドンイクを殺すところまでは、サスペンスホラー。
そのあと、ギテクがどこに隠れている謎を解くところは、江戸川乱歩のミステリーのよう。
さらにサスペンスに付け加えるなら、ギウがもらった大きな石をパク家まで持っていくところや、頭を石で殴られその治療が終わってずっと笑っているところなどは、文学小説っぽい。
ちなみにギウが笑っていた理由は、常識的に考えれば脳にダメージを受けたから。だが、自分の家族に起った一連の悲喜劇を客観的に見て笑っていたとも考えられるだろう。
エンタメだけではなく、アートっぽい表現も意図的に取り入れたのだ。
エンタメとして異なる3つのジャンルを交互に楽しませ、さらに後半は“石”やギウの笑いという抽象的なスパイスをふりかけた。
これが、『パラサイト半地下の家族』がアカデミー賞作品賞に輝いた大きな理由の1つだ。
同じようにジャンルレスの『グエムル 漢江の怪物』は、ずっと社会派・パニックホラー・コメディが混ざった状態だったが、パラサイトでは、3部構成でジャンルを切り替えたことが功を奏したといえるだろう。
パラサイト石の意味ネタバレ考察!朝鮮半島のメタファー,人間の業(カルマ)
映画パラサイトを観て多くの人が思ったのは「石」の意味がわからない!ということではないだろうか?
作品にアート風味を加えている石については、明確に答えは出せずいろいろな解釈があっていいと思うが、これだけは頭に入れておきたい2つの説について解説する。
石は朝鮮半島をあらわす
映画パラサイトのポスターを見ると、ポン・ジュノ監督は石を朝鮮半島のメタファーとしてとらえていた可能性が高い。
貧困社会を生み出している韓国の体制やあり方そのものに疑問を呈しているのだ。
洪水のときに重い石が浮いてきたのも、国からは逃れられないというメッセージではないだろうか。
そう考えると怖い。。。強烈すぎる皮肉である。
人間の業(カルマ)の集合体
石=朝鮮半島との考察をさらに推し進めてみよう。
結論から言うと、「石」は「人間の業(カルマ)」や「社会のシワ寄せ」のメタファーといえるだろう。業(カルマ)は、悪行や罪の意識の集合体と考えるとよい。
格差社会に生きる人々の業(カルマ)を、重い「石」として表現したのではないだろうか?
友人のミニョクは、ギウに石を押し付けた。
石は業(カルマ)であり「社会のシワ寄せ」なので、ギウはそれを持っている限り裕福な暮らしをすることは許されない。幸せになれないのだ。
そこでギウは、ムングァンの夫グンセに石を押し付けるために地下に行った。彼にとっての石を押し付ける=殺すことだったのだろう。そうすればパク一家への寄生を続けられる。
パラサイトの石は、半地下の貧困家族が、さらに言えば朝鮮半島の人々が、もっと苦しい貧困層を踏みねじってでも裕福になりたいという人間の「業(カルマ)」そのものだ。
ちなみに石は『母なる証明』でもメタファーとして使われている。
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ギウが笑っている理由は障害?すべて妄想説
長男・ギウは物語のきっかけを作ると共に、視聴者の立ち位置に近いストーリーテラーだ。
パラサイトの後半部分は、ギウが石で殴られた後遺症障害により、妹・ギジョンの死を聞いても笑ってしまい、その後は裕福になって地下に父・ギテクが潜伏する豪邸を買い取る妄想をしてその計画を語る。
一つの説として、物語はすべてがギウの妄想と捉えることもできるだろう。
理由は、ギウとその母・チュンスクが“執行猶予”で済んだこと。
初犯とはいえ、経歴詐称して一家でパク家に寄生し、その結果、ドンイク、グンセ、ムングァン、ギジョンの4人もの死人が出ている。
普通、執行猶予で済むか?
もしかしたら、ギウはもとから頭がおかしいか障害を持っていて、なにか他の事件を起こして執行猶予になったのかもしれない。
そう考えるとギウは、ポン・ジュノ映画『母なる証明』のトジュンに近いキャラクターといえる。
ポン・ジュノ監督はあいまいな解釈を入れて、作品をより深いモノにしているのだろう。
すべて妄想というのは、映画『ジョーカー(2019)』にも通じる解釈だ。
ただ、あくまで可能性で一つの説として捉えて欲しい。
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ちなみにギウ役の俳優チェ・ウシクは映画『新感染ファイナルエクスプレス』や韓国ドラマ『その年、私たちは』などに出演している。
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パラサイト/豪邸地下室の意味考察(ネタバレ)
『パラサイト 半地下の家族』を観て1つの疑問が残る。
半地下というのが貧困の象徴だとすると、豪邸の深い地下室は何を表しているのだろうか?
ここに映画の深いメッセージが隠れているような気がする。
3つ考えてみた。
1:超富裕層と超貧困層の対比
豪邸に地下に住む男がいることで、超富裕層と超貧困層の対比ができる。
1つの家族が幸せになる代償として、対極にはムングァンの夫のような存在がいる。
富裕層と貧困層が『パラサイト半地下の家族』では同じ建物の上と下で暮らしているのだ。
とてもわかりやすい対比になっている。資本主義の欠陥が映像で表現されていて面白い。(本作の映像監督を務めたホン・ギョンピョは邦画『流浪の月』(2022)でも撮影を務めた。)
ちなみにパラサイトの豪邸があるのは城北洞という地名だが、ここにはポン・ジュノの祖父・朴泰遠の家があったらしい。
-城北洞に家を新築したという。城北洞はポン・ジュノの映画『パラサイト』でパク社長の豪邸の所在地になった場所だ。(ポン・ジュノ韓国映画の怪物 下川正晴 著)。
ちなみに家政婦ムングァンを演じたイ・ジョンウンはNetflix配信ドラマ『海街チャチャチャ』に出演しています。
2:金持ちもすぐ転落して廃人になる
豪邸に住んでいる金持ちにも、悩みはあり、それなりに闇がある。
- 娘ダヘが男にだらしない、頭が悪い
- 息子ダソンは、芸術家っぽいフリをして周囲を騙している
- 母ヨンギョがすぐに騙されるアホ
「金持ちでも一歩間違えれば、すぐ転落だよ」
「人間、一皮むけばみんな同じさ」
「どこまでも落ちる穴がすぐそばにあるのに、気づかないのか?愚かだね」
超貧困層代表のムングァンの夫の存在は、そんなメッセージを送っているのだろう。
3:もっと深い闇がある
なぜ半地下のアパートを出しておいて、さらに豪邸に地下室があるのか。
ムングァンの夫・グンセ(台湾カステラ事業に失敗して借金)が住んでいる地下室は、キム一家よりも何倍も悲惨な闇の世界がある!
そのことを伝えたかったのだ。
貧困と一括りにするのではなく、貧困にもレベルがある。
一歩間違えれば、さらに下層の生活が待っている。
社会の究極の闇のメタファー、それがあの地下室だろう。
キム・ギテクは道を踏み外し、その闇に落ちていったのだ。
Netflix韓国ドラマ『イカゲーム』と似て、構造により社会的なテーマが際立っていますね。
階段や臭い!視覚と嗅覚のコントラスト
『パラサイト半地下の家族』で、鍵となるのが“階段の高低差”。主人公家族は階段を下った半地下に住んでいるし、金持ちの屋敷は坂を登った先にある。自分たちの家に帰るときは、長い階段を一気に降りてゆくわけだ。
金銭や身分の上下を、階段で視覚的に表現しているのが素晴らしい。
また、臭いによる富裕層と貧民の分け方も見事だ。金持ちのドンイクがギテクを「臭い」というシーンがあり、臭いで身分をハッキリ分ける演出をしている。
ポン・ジュノ監督による視覚と嗅覚のコントラストといえるだろう。
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