加納灯里がOL殺しの真犯人?
冤罪が主張されたOL・根津かおる殺人事件の真犯人が雅也の恋人・灯里だという説もあるようです。
灯里は榛村の元獲物であり、後継者的な存在であることはわかりますが、根津かおるの殺害をほのめかすようなシーンや、確証できる場面はありません。
まず、当時中学生だった灯里が根津かおるを殺すのは極めて難しいでしょう。
榛村の指導のもとに灯里が殺した可能性も考えられますが、推測の域を出ません。
そこまで範囲を広げるなら、同じく榛村から洗脳されていたであろう雅也の母・衿子(えりこ/中山美穂)が根津かおる殺しに関わっている可能性も出てきます。
(前提として榛村の供述や回想の真偽は不明なので、登場人物のだれにでも真犯人の可能性があるといえばあります)
「灯里が真犯人の可能性は低い」というのが私の結論です。
よって雅也の推理通り、榛村が自分で根津かおるを殺害した可能性が高いとなります。
逃げた子はだれ?
拷問される燻製小屋から逃げ出した子は灯里だという解説があるようです。
しかし恋人の灯里に拷問の跡などがあれば雅也が気づくはずなので、灯里ではない別の人物でしょう。
ただ、榛村が灯里だけは殺人鬼の素質があると見抜いて洗脳して、意図的に逃したなども考えられるので、灯里が逃げた子だという説もアリでしょう。
灯里たち後継者にすべてを託し、自分は捕まることを選択したのかもしれませんね。
雅也の母も洗脳されていた
榛村に洗脳されていた人物かどうか見分けるポイントは、自分で決断できなくなっていることです。
少年期に榛村から虐待を受けた金山は自分で何も決められない人物でした。
雅也の母・衿子もそうです。映画でも「自分で決められない」と雅也に何度か言ってましたね。
衿子は榛村に洗脳されていたのでしょう。
榛村が「衿子が出産して死産だったから赤ちゃんの死体を燃やした」と言っていました。
死産すらも本当かわかりませんし、衿子は赤ちゃんが生きていると知っていて榛村に委ねたパターンもあります。
榛村と衿子の関係はよく考えると怖いです。
映画『死刑にいたる病』ネタバレ解説
榛村大和の元ネタ:ジョン・ゲイシー
テッド・バンディやジョン・ゲイシーらアメリカの連続殺人鬼が死刑囚・榛村大和の元ネタだと思いますが、個人的にはジョン・ゲイシーに近い気がします。
ジョン・ゲイシーは1970年代に33名の少年に性的暴行を加えて殺害し、キラー・クラウン(殺人ピエロ)と呼ばれています。
起業家で地元の名士だったゲイシーは、パーティーなどでピエロの格好をすることが多く、子どもたちから人気があったそうです。
生まれながらに心臓に疾患を抱えていたゲイシーは幼少期に実父から見放されて虐待を受け、実父の友人から性的虐待を受けます。
実父から見限られる部分は、顔にアザがあり父から虐待された金山一輝と共通しています。
くわえて、拘置所での面会で雅也や灯里たちを操る点は『羊たちの沈黙』(1991)のハンニバル・レクター博士のようです。
実在したシリアルキラー×ハンニバル・レクター=榛村大和 という印象でした。
信頼できない語り手
映画『死刑にいたる病』ではサスペンス・ミステリーでよくある「信頼できない語り手」という手法が使われています。
「信頼できない語り手」は簡単にいうと登場人物から視聴者に提供される情報が正しいか間違っているかわからないということで、
映画だと『ユージュアル・サスペクツ』(1995)『ジョーカー』(2019)などが典型的な例です。
『死刑にいたる病』では、阿部サダヲ演じる榛村大和が雅也に対して語る話のどこまでが本当でどこからが嘘かあやふやな状態です。
この「信頼できない語り手」の手法によって話にフワッとした部分ができ、「灯里がOLの根津かおるを殺害した犯人かもしれない!」など推測の余地が広がります。
推測の余地は広がりますが、そもそも供述の真偽が不明なので正確な答えは出ません。
映画『死刑にいたる病』ネタバレ感想・評価
阿部サダヲの死刑囚のキャラクターが秀逸
阿部サダヲが演じる榛村大和のキャラクターが強烈でしたね。
愛嬌と狂気が見事に共存していました。
セリフも秀逸です。
(英語を勉強する少女に)「英語、難しいよね〜」とか、主人公に「すごいね〜」とか、ペラッペラで中身がないんですよね。
セリフの数々から、榛村大和がまったく共感能力のないサイコパスだと伝わってきます。
映画の榛村大和は、単なる虐待被害者というだけでは片付けられない凶悪犯です。
確かに父親からの虐待は榛村が連続殺人鬼になる要因にはなったかもしれませんが、残酷な方法で多数を殺害し、高い洗脳能力まである榛村は“虐待の被害者”のカテゴリーにおさまりきりません。
ハンニバル・レクター博士のキャラのような映画的な面白さがあり、エンタメとしてわかりやすくした結果ともいえます。
榛村のボランティア時代の同僚・滝内(音尾琢真)が雅也に「虐待を受けた子どもが問題行動を取ることも多い」と語っていましたが、これは榛村をかばっているような発言とも捉えられます。
ある面で滝内も榛村に洗脳されていたのでしょう。
まったく他人に共感してないセリフ+マインドコントロール能力。
人間性が1mmもありません。人間失格です。
映画の榛村大和を語るうえで虐待の問題はもちろん重要ですが、そもそも非人間的な部分も大きいです。
虐待の問題だけでくくってしまうと本質をつかめない二重性があると思いました。
川に桜の花びらかと思いきや爪
オープニングで榛村は川に桜の花びらをまいています。
美しい映像だなと思いきや、話が進むとまいていたのは花びらでなく人間の爪だとわかります。
見事に騙されました。
確かに人間の爪って桜の花びらに見えるかも…すごい演出ですね。
この映像面での裏切りが、『死刑にいたる病』が傑作である証明だと思います。
映画『死刑にいたる病』作品情報
制作国:日本
上映時間:2時間9分
ジャンル:サスペンス・ミステリー
年齢制限:PG12
監督:白石和彌(『孤狼の血』『凶悪』『仮面ライダーBLACK SUN』)
脚本:高田亮(『ボクたちはみんな大人になれなかった』『グッバイ・クルエル・ワールド』)
原作:櫛木理宇の小説「死刑にいたる病」(2017)
撮影:池田直矢
音楽:大間々昂
興行収入:約11億円
キャスト↓
阿部サダヲ(『不適切にもほどがある!』)
岡田健史
宮﨑優
岩田剛典
中山美穂
鈴木卓爾
佐藤玲
赤ペン瀧川
大下ヒロト
吉澤健
音尾琢真
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