映画『正欲』を公開初日に劇場で鑑賞!
ガッキー(新垣結衣)が水フェチ女子を演じる問題作!稲垣吾郎が正論ばかり吐く検察官を好演!
『桐島、部活やめるってよ』の朝井リョウ原作の、累計40万部ベストセラー小説の実写化です!
2023年の東京国際映画祭では最優秀監督賞&観客賞の二冠を達成しました!
あらすじ・ネタバレなし感想レビュー
物語ネタバレ・ラスト結末解説
正直な感想・評価(ネタバレあり)
考察:「正欲」の3つの意味、「危険な多様性の議論」
これらの情報を知りたい人向けにわかりやすくレビューしていきます!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)
これから視聴する方の参考になるよう、作品についての視聴者口コミ・アンケートも投票お願いします↓
映画『正欲』作品情報・キャスト
制作国:日本
上映時間:134分
ジャンル:ヒューマンドラマ
年齢制限:G(年齢制限なし)
監督:岸善幸(『あゝ、荒野』『前科者』)
脚本:港岳彦(『あゝ、荒野』『アナログ』)
原作:朝井リョウ「正欲」
キャスト
登場人物 | キャスト |
桐生夏月 | 新垣結衣 |
佐々木佳道 | 磯村勇斗 |
寺井啓喜 | 稲垣吾郎 |
諸橋大也 | 佐藤寛太 |
神戸八重子 | 東野絢香 |
矢田部陽平 | 岩瀬亮 |
寺井由美 | 山田真歩 |
越川秀己 | 宇野祥平(連続テレビ小説『ブギウギ』) |
※以下、映画『正欲』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『正欲』ネタバレあらすじ解説
夏月の絶望と希望
とある大学では、男性恐怖症の神戸八重子(東野絢香)がダンサーの諸橋大也(佐藤寛太)に恋をしていた。
実は諸橋も水フェチだった。
寺井(稲垣吾郎)は、同じく学校に行けない友達とYoutube配信をしている息子を理解してあげようとせず、傷つけてしまう。
妻とも口論の日々が続いた。
寺井は話しても無駄だと見限られ、妻と息子は実家に帰ってしまう
夏月(新垣結衣)は佳道(磯村勇斗)が回転寿司で他の女性とデートしているのを目撃。車であとをつける。2人は佳道の家へ入った。家の電気が消える。
絶望した夏月は鉢を拾って窓に投げつけて逃げた。
大晦日になり夏月は車で道脇に突っ込んで自殺をしようとした。すると自転車に乗った佳道を引きそうになり、道脇へ突っ込む。
夏月は佳道が借りているアパートへ行く。
佳道は「デートをしたのは普通になれるか確かめたかったから。でも無理だった」と言う。
夏月は「今まで水フェチだと誰にも話せないで生きてきた」と告白。
佳道は「自分がしゃべっているのかと思った」と言葉を返した。
初めて他人に本当の自分を告白する夏月に涙。新垣結衣さんの告白の演技すばらしかったです。
後日、佳道は夏月に指輪を渡す。そして「この世界で生きていくために普通の夫婦だと偽ろう」と言った。夏月は賛成する。
2人は横浜に移り住んだ。公園で2人で水浴びをするなど、フェティシズムを共有する。
夏月は道で自転車を避けて転び、寺井に助けられた。寺井は夏月がカニクリームコロッケを2つ買っているのを見て、「地面についちゃったコロッケは旦那さんにあげて」と言った。
夏月は「なんで旦那ってわかったんですか?」と聞いたあと、「理解し合える人と生活している」と返した。
夏月は佳道にセッ○スをしてみようという。2人はどうやるのかわからないまま、興味本位でベットでそれっぽいポーズだけ取り、「こんな運動みたいな動作をするなんて普通の人も大変だね」と笑い合った。
夏月は佳道の背中に手を回し、「もう1人で生きていた頃には戻れない」と言った。
ラスト結末:社会は水フェチを受け入れる?
諸橋はダンスチームを抜けていた。八重子は諸橋に「男性が嫌いだけど、男の人を好きになってしまう。あなたが好き」と告白。
諸橋は「ありがとう」と言った。
佳道は水フェチが見そうな動画にいつもコメントしている藤原悟にコンタクトを取ってみる。藤原悟は警察署に侵入して水道を出しっぱなしにして逮捕され、気持ちよかったからやったと告白した伝説的な人物だ。
藤原悟のハンドルネームを使っていたのは諸橋だった。一緒に動画を撮ろうという話になり、諸橋の知り合いの教師・矢田部陽平(岩瀬亮)もやってくる。
3人は公園の噴水で子供たちと水でっぽうを楽しみ、その様子を動画に納めた。
しかし矢田部が逮捕される。彼は水フェチの他に小児性愛者でもあり、少し前に少年を買春していたのだ。
矢田部の動画が押収され、佳道や諸橋も逮捕される。
佳道は子どもではなく水を撮影していたと話すが、寺井は信じない。
佳道は「社会にあふれるさまざまな情報は明日も行きたいと思う人のためのもの。俺はそんな風に考えたことはない」と口にする。
寺井は佳道の妻・夏月を呼んだ。
夏月は佳道が小児性愛者ではなく、水フェチなだけだと言う。しかし寺井は信じようとしない。
夏月は「『いなくならないから』と伝えて」と寺井に言う。
妻と息子に出ていかれた寺井はハッとした。
夏月は寺井の助手・越川(宇野祥平)と一緒に部屋を出る。
ドアが音を立てて閉まり、寺井は1人部屋に残された。
終わり
映画『正欲』ネタバレ感想・評価
良い点:共感に救われた多様性
さまざまな歴史がありLGBTQは市民権を得ており、映画でもLGBTQ・性的マイノリティを描いた作品が急増しています。
でも、水フェチにフォーカスした作品を見るのは初めてでした。
「社会で認知されていない性的嗜好を持つ人はどう生きればいいのか?」という、ダイバーシティの本質がえぐり出されています。
ストーリーも描写も過激ではないですが、コンセプトは非常に過激でエグいと思いました(良い意味で)。
佐藤寛太さん演じる諸橋大也がダイバーシティイベントについての話し合いでゲイコミュニティ発祥のダンスをしようと提案された際に、「そんな上っ面だけ真似ても意味がない」的な本質を突いたことをズバッと言っていましたね。
そういったLGBTQ関連のあるある議論はすっ飛ばされ、かなりディープな内容が展開されていきます。
水フェチのような、社会に認知すらされていないマイノリティ中のマイノリティはどう生きればいいのか?という問いかけです。
相談しようにも、現在の日本社会では水フェチを相談されたらびっくりしちゃいますよね。
そんな自分の性癖に悩む夏月は、同じフェチの佳道と一緒に暮らし、初めての共感の経験によって「生きてもいい」と気付きました。
水フェチという多様性の先端のような問題が、共感という普遍性によって解消されていく過程は見事としか言いようがありません。
正常と正論を振りかざす寺井が孤立し、夏月は佳道を見放さないラストも感動的でした。
夏月は超マイノリティとして苦しんだからこそ、多様性を超えたある意味で普通の極みともいえる共感の真理に到達。
最初から普通の中で疑問を感じることがなかった寺井はそこには到達できませんでした。感慨深いものがあります。
夏月に正常になりたい欲望があるのもリアルだと思いました。本当に味方が見つからない人の場合、表面上は自分を否定して普通に生きる以外に術がないのかもしれません。
また、本作はよく言われる「多様性を認めない人を受け入れろ」への反論にもなっていました。
夏月が佳道に「セッ○スを経験してみたい」という展開から、彼女らがマジョリティを憎んでいるわけではないとわかります。
いっぽうで多様性を否定する人は、マイノリティを排斥しているわけです。
「自分も他人も受け入れる」か、「自分が信じる価値観だけを受け入れる」かの違いです。
「多様性を認めない人を受け入れろ」が完全に間違いだとは言い切れないですが、少なくともフェアではありません。
あとは、寺井(稲垣吾郎)の息子の動画を夏月や佳道が見ているなど、別々の場所で生活していた各人物が結びついていく過程も面白いです。
離れて生活している他人でも関連し合っていることが身につまされます。
2023年に公開された多様性やLGBTQをテーマにした映画としては『怪物』と同じく考え抜く価値のある作品だと思いました。
自分はバグかもしれない、異星人のような感覚がある。そんなふうに悩む夏月は、太宰治の小説『人間失格』の葉蔵のようですね。
広い視点で捉えるなら『人間失格』のハッピーエンドバージョンとも言えるかもしれません。
孤独な登場人物を見て、私だけじゃないって思える点も人間失格っぽいですね。
ダメな点
ダメな点やひどいところはないです。
強いていえば、淡々と進むので2時間14分は少し長くも感じましたが、かといって省けるようなシーンはなかった気がします。
映画にエンタメ性を求める人にとってはイマイチに感じられる部分もあったかもしれませんが、それくらいの温度感が正解な気がします。
エンタメ性を出しすぎて多様性に関する深いメッセージがスポイルされてしまっては本末転倒ですしね。
『正欲』考察レビュー(ネタバレ)
「正欲」の3つの意味
本作のタイトル・正欲には3つの意味があると思いました。
1つ目はもちろん、性欲の同音異義語です。本作では肉体的な愛を超えて、水に対しての性欲が描かれていました。
2つ目は、“正しく”ありたいという欲求です。夏月が「社会に受け入れられたと感じながら街を歩きたい」と言っていたのが印象的でしたが、誰にも相談できなくて本当に追い詰められている人の心境ってこんな感じなのかもしれません。
自分の欲求が正しいと世の中に発信するのがむしろ自殺行為になるような人たちがいるわけです。
そんな人たちは、まずは生きるために自分が受け入れられる居場所が必要なのでしょう。
夏月のような人が世の中にいることも考えなくてはなりませんね。
3つ目の意味は、正しい欲望です。夏月や佳道の水フェチは他人に否定できるものではないでしょう。
夏月にはそれが正しい欲望なのか生まれてからずっとわからないままでした。
しかし佳道との生活と共感を通じて、正しい欲望だと思えるように心境が変化していったのでしょう。
だからこそ、「いなくならないから」と寺井の前で堂々と言うことができたのです。
社会的に正しくありたいという欲望から、自分が持っているのは正しい欲望だという捉え方の変化が重要だった作品です。
ラストが暗示するもの
磯村勇斗さん演じる佳道がすぐに釈放されるのかどうかは不明ですが、それより大事なのは寺井(稲垣吾郎)が1人部屋に残されるシーンです。
このラストシーンは、寺井のような普通以外を許容できない考え方が逆に正常でなくなっていく未来を示唆しているように思いました。
夏月や越川が立ち去ってドアが閉まり、寺井だけが残される。
メッセージの表現の仕方がダイレクトかつ巧みですね。
かつて世界では黒人差別が横行していましたし、日本でもさまざまな差別がありました。今は面と向かって差別する人はあまりいません。
良し悪しの話は一旦抜きにして、もしかすると多様性を受け入れられない人たちが、数十年後には差別主義者的な扱いをされるのかもしれませんね。
危険な多様性の議論
(※少し危険な議論なので、良し悪しの観点は一旦わきに置いておいてください)
『正欲』で踏み込んだ表現だと感じたのは、水フェチかつ小児性愛者の矢田部陽平(岩瀬亮)の存在です。
前提として犯罪と性的嗜好を結びつけてはいけないと思いますが、議論するうえでごっちゃになることも多いですよね。
水フェチのはずが小児性愛者と勘違いされて逮捕される本作を見て、犯罪とフェティシズムを結びつけてはいけないと思ったいっぽう、完全に切り分けられない部分もあるから難しいと思いました。
矢田部がやった少年の買春行為は犯罪で、許すべきではありません。
ただ、それがどうしても押さえつけられない衝動だった場合にどう処理するのかの問題は残っています。
わかりやすく例えると、「世の中がいきなり異性性交禁止になったらあなたは耐えられますか?」という問題です。
社会はいわゆる大多数の人が共有する常識のうえに成り立っています。その常識から外れてしか生きられない人たちをどうするべきですか?
逮捕して全員収監するべきでしょうか?
その判断の根底にあるのは論理でなく「単なる常識」だったりします。
小児性愛者のような立場の弱い子供という被害者が出てしまうものについて許容できないと反論する人が大多数でしょうけど、グレーゾーンに存在している人がたくさんいるのもまた事実。
法律や社会の倫理観は社会を守ることにフォーカスしています。法律では小児性愛者など特定の性的嗜好についてはさまざまな観点から許容されていません。
哲学者のミシェル・フーコーが唱えた生権力(生活や性生活を徹底的に統率し、規範に沿った方が生きやすいという価値観を植え付けて統治しやすくする)に関連する難しい問題だと思いました。
最後のまとめ
万人受けするタイプかはわかりませんが、自分はこの映画を見て良かったです。
こういうと「それは多様性の商業的な消費だ!」となりそうですが、入り組んだ構造にある種の知的な満足感がありました。
実は多様性だけでなく、社会問題は当事者以外がどれだけ知識や関心を持つかが大事です。
本質を失わずに商業化・大衆化させることこそが変革の道だというのが私の意見です。
マイノリティの方々が抱える問題は、特定のグループだけで戦っていては社会変革はできません。投票で決めるのはその他の大多数の人々だからです。
そういう意味で、本作には社会を変える力があると思いました。
ここまで読んでいただきありがとうございます。映画『正欲』レビュー終わり!
(記事の画像引用元:公式サイト)
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