ヴィム・ヴェンダース監督×役所広司主演の映画『PERFECT DAYS パーフェクトデイズ』。
東京のトイレ清掃員の男性の日常をヴィヴィッドに描きます。
役所広司さんが柳楽優弥(『誰も知らない』)以来、日本史上2人目となるカンヌの男優賞を受賞しています。
これらの情報を知りたい人向けにわかりやすくレビューしていきます!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)
これから視聴する方の参考になるよう、作品についての視聴者口コミ・アンケートも投票お願いします↓
映画映画『PERFECT DAYS パーフェクトデイズ』作品情報
制作国:日本・ドイツ合作
上映時間:2時間4分
ジャンル:ヒューマンドラマ
年齢制限:G(制限なし)
監督:ヴィム・ヴェンダース
脚本:ヴィム・ヴェンダース/高崎卓馬
原作:なし、映画オリジナル
撮影:フランツ・ラスティグ
もともとはTOTOなどが主導している渋谷区にデザイン性の高く美しいトイレを設置する『THE TOKYO TOILET プロジェクト』でヴィム・ヴェンダース監督が短編を撮る予定が、構想が湧いてきて長編になったようです。
キリスト教徒の審査員が選出したエキュメニカル審査員賞(人間の内面を深く掘り下げた作品)も獲得しています。(同賞の受賞は濱口竜介 監督の『ドライブ・マイ・カー』や是枝裕和 監督の『ベイビー・ブローカー』など)
ちなみに2023年の第76回カンヌ国際映画祭では是枝裕和監督の『怪物』も『PERFECT DAYS』と同じくコンペティション部門に出品されました。
ルー・リードの楽曲「Perfect Day」が使われ、タイトルもそこから取られています。
『PERFECT DAYS パーフェクトデイズ』キャスト
平山|cast 役所広司(『タンポポ』『VIVANT ヴィヴァン』『THE DAYS ザ・デイズ』『銀河鉄道の父』)
平山という名前はヴィム・ヴェンダース監督が敬愛する小津安二郎監督作品へのオマージュです(『東京物語』の主人公(演-笠智衆)の名前など)。
タカシ(平山の同僚)|cast 柄本時生(『CUBE 一度入ったら、最後』『忍びの家』『真犯人フラグ』)
アヤ(タカシが追いかける女性)|cast アオイヤマダ(『First Love 初恋』『唄う六人の女』)
ニコ(平山の姪)|cast 中野有紗
ニコの母(平山の妹)|cast 麻生祐未(『JIN-仁-』『義母と娘のブルース』)
小料理屋の女将|cast 石川さゆり
女将の元夫|cast 三浦友和(『アウトレイジ』『沈まぬ太陽』)
ホームレスの老人|cast 田中泯(『たそがれ清兵衛』『実写 るろうに剣心』シリーズ,『北斎 HOKUSAI』『銀河鉄道の父』)
映画『PERFECT DAYS パーフェクトデイズ』あらすじ
スカイツリーがよく見える浅草近郊のボロアパートに住む壮年の男性・平山(役所広司)は、TOKYO TOILETという会社の清掃員として、近隣のトイレ掃除をする仕事に就いていた。
朝は近所の老人が箒(ほうき)をはく音で起床し、カセットを聴きながら仕事へ行く。
同僚の若い男性・タカシ(柄本時生)はいつも遅刻してくる。
平山はいくつかの公衆トイレを丁寧に掃除する。ホームレスの男性(田中泯)がゆっくりと踊っている。
神社で昼食をとる。白黒のフィルムカメラで、紅葉の木を撮影するのが日課だった。
和尚の許可を得て、葉っぱから芽を出した小さな紅葉の木を袋に入れる。何本かの紅葉の木を家の中で育てていた。
夕方前には仕事を終えて銭湯へ行き、浅草駅地下の行きつけの飲み屋で一杯やる。
そして家に帰り、小説を読んで寝る。そして白黒の夢を見る。
箒の音が聞こえ、また新しい朝が始まるのだった。
『PERFECT DAYS パーフェクトデイズ』ネタバレなし感想・海外評価
エンタメ作品ではなく、セリフも非常に少ないですが、映像にどっぷり没入してしまって時間が経つのを忘れます。
個人的には全日本人どころか全世界の人に見てもらいたいと思いました。
大きな事件が起こるわけではないですが、それくらい素敵な作品ですし、人生について深く考えさせらます。
東京の日常風景を美しく切り取った映像も見応えがあります。
海外評価もロッテントマトズでは批評家たちが90%以上の支持率と高く評価されています。
おすすめ度 | 95% |
世界観 | 98% |
メッセージ性 | 96% |
IMDb(海外レビューサイト) | 7.9(10点中) |
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト) | 批評家 92% 一般の視聴者 94% |
メタスコア(Metacritic) | 72(100点中) |
※以下、映画『PERFECT DAYS パーフェクトデイズ』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『PERFECT DAYS パーフェクトデイズ』ネタバレ感想・評価
セリフが少ないにも関わらず、映像でこれだけ語る映画はなかなかないと思います。
考察の項目で詳しく解説していますが、木漏れ日の美学を映像化したような唯一無二の作品だと感じました。
偉そうにブログを書いておいてなんですが、『PERFECT DAYS』は言語化すると矮小化されてしまう典型的な作品です。
言葉にすればするほど、捨象(細かい部分を捨て去ること)してしまっている感覚に陥るんですよね。
映像で感じたことを完璧に言語化できない。安易に言語化してしまうと途端に魔法が解けてしまう作品。
そういう意味で、非常に映画らしい映画というか、映画でしかできないことを体現した作品なのだと思いました。
役所広司の演技
カンヌで男優賞を獲得した役所広司さんの演技は素晴らしかったです。同時に、ヴィム・ヴェンダース監督が影にいることをしっかり感じました。
(『パリ、テキサス』のハリー・ディーン・スタントンも前半はセリフがまったくないですし)
ヴィム・ヴェンダースの演出だと一挙手一投足から感じられました。
究極まで無駄を省いた演技だったと思います。
良い意味で自己主張的なものがなく、そのぶん周囲の環境と溶け合っているイメージ。
結果、ときどき笑うだけで全てが伝わってくるようでした。
単純に“演技力”とかだけで語れないと思います。
ユートピアとして描きすぎ?
パーフェクトデイズへの批判として多かったのが、「平山の生活を理想として描いている」というもの。
日本でも貧富の二極化がすすみ、実際にやりたくもなく平山みたいな生活をしている人が多い中で、美化しすぎではないか?ということです。
人それぞれの感想なので、そういう意見を否定する気はありません。
ただ個人的には、平山の生活を具体的に捉えすぎても仕方ない気がします。
「どんな生活スタイルでもこんな心持ちで生きられたらいいね」という話で、「肉体労働してても周囲に感謝するべきだ」という押し付けのメッセージではないと思います。
実際に描かれているのは「年齢や職業に関係ない生き方への問いかけ」だと感じました。
ストーリーの密度が高い
トイレ掃除をする役所広司の日常を哀愁たっぷりに描いているだけのようで、ストーリーの密度は非常に高いと感じました。
ジェットコースターのような起伏の多い物語というわけではないです。
例えばスカイツリーの紫色がアパートの部屋を照らしているワンシーンからしてある面では立派なストーリーです。
役所広司とアパート、そしてスカイツリーの間に抽象的なストーリーが見えてきます。
平山はスカイツリーの影のような存在なのかもしれません。
『PERFECT DAYS』は、そういった繊細で密度の高いストーリーの集合体なのだと感じました。
映画『PERFECT DAYS パーフェクトデイズ』考察(ネタバレ)
木漏れ日の意味
本作の重要なテーマの一つがエンドロールでも語られた木漏れ日です。
木漏れ日は光と影の混在です。そして同じ瞬間は2度とありません。
まず、役所広司が演じた平山の感情の小さなゆらめき自体が木漏れ日のようですね。
演技それ自体が木漏れ日のメタファーになっているのが興味深いと思いました。
完璧に見える日常も、木漏れ日のようなささやかな光と影の混在である。
光と影という存在の揺らぎの中に本質があるというメッセージがあるのかもしれません。
木漏れ日の光の部分だけでなく影にもスポットが当たっているのも特徴です。
平山は女将の元旦那(三浦友和)と影を重ね合わせるシーンがあります。
平山が「影が濃くなっている、変わらないはずがない」と言ったのは、同じような日常を繰り返しているように見えても、実際は木漏れ日のように同じ瞬間は2度と訪れないというメッセージが込められていると思いました。
平山がやっていることは厳密な意味ではルーティンワークではないのです。
ヴィム・ヴェンダース監督はインタビューで、「平山は常に初めてのことを経験している」と語っています。
影が濃くなっているというのは、似たようなことの繰り返しでも着実に前に進んでいるという意志かもしれません。
前に進んでいると思いたい気持ち。一瞬一瞬が何物にも代え難いという心持ち。それら自体が人生を突き動かす衝動だと感じました。
(ちなみに影については、『パリ。テキサス』でハリー・ディーン・スタントンが双眼鏡で離陸する飛行機の影ばかり見ているなど、ヴィム・ヴェンダース監督作品によく出てくるモチーフです。)
役所広司は神か仏か?
特に前半では、達観したように日々のルーティンを完璧にこなす役所広司が神か仏のように見えます。
悟っているように見えるのです。
記憶を無くしたイエス・キリストが現代の東京に降臨したらこんな感じでは?
キリスト教徒の審査員が選んだエキュメニカル審査員賞を獲得するのもうなづけます。
役所広司自体が広い意味で神のような存在に見えます。
キリスト教の神だけでなく、日本の八百万の神にも通じるものがあるというか、トイレの神様を具現化したらこんな感じかもしれません(トイレの神様は女性らしいですが)。
しかし、後半では役所広司が演じる平山に感情の揺らぎが見えるようになってきます。
妹から父のことを聞いて動揺して泣きましたし、同僚が辞めて仕事が多すぎると会社に文句を言ってましたし、小料理屋の女将が元夫と抱き合っているのを見て自暴自棄になっていました。
主人公を神や仏のように見せると同時に、人間そのものであるとも表現しています。
神や人間を含め、あらゆる事象が完全と不完全で木漏れ日のように揺れていると表現しているのでしょう。
ヴィム・ヴェンダースが東京で見た夢
ドキュメンタリー『東京画』(1985)の中でヴィム・ヴェンダースは「東京は夢のようで、そこで自分が撮った映像をあとで見返してみると幻のようだった。他人の夢のように感じた」と言っています。
ヴィム・ヴェンダース監督の中では、自分が東京のトイレ掃除職員に転生するようなイメージがあったのではないでしょうか。
ヴィム・ヴェンダースが東京で見た夢のような映画でした。
役所広司の身体の中にヴィム・ヴェンダースが入っていたような印象がありました。
ホームレスは父親
田中泯が演じたゆったりと踊るホームレスは、田中泯の舞踊家としての生き方そのままに見えました。
平山はいつものトイレ掃除の合間にこのホームレスの老人をいつも見つめていますが、もしかすると自分の父親を投影しているのかもしれません。
平山は妹から「父が認知症?で昔とだいぶ違うから会いに行ってあげて」と告げられたあとに、動揺して泣いています。
妹はかなり金持ちだったので、平山は父親から厳しく育てられて父親の会社で働いていたが、逃げ出したなどのバックストーリーがあるのでしょう。
もしかすると、精神的な虐待を受けていたのかもしれません。
ちなみにホームレスはいつも変な動きをしていますが、あれは田中泯さんの舞踊家としての表現で、その場のノリで適当にやっているわけではありません。
農民としての肉体の動きを表現するコンセプトがあります。田中泯さんの舞踊のシーンはもっと見たかったな。
映画『PERFECT DAYS パーフェクトデイズ』ネタバレあらすじ解説
完璧な日常
仕事を終えそうなタカシのところにアヤ(アオイヤマダ)という女性がやってくる。
2人は平山のバンに乗る。アヤは「職場のキャバクラの前で降ろして」と言った。
タカシは「アヤをものにするために金が必要だ」と言い、カセットテープ屋に平山を連れてきて平山のカセットを売ろうとする。
平山はカセットを売られるのが嫌で、仕方なくタカシに金を貸した。
週末になり、平山はコインランドリーで洗濯をする。
そのあと、カメラのフィルムを現像してもらいに行き、先週分の写真を受け取った。家でいい写真とそうでない写真にわけ、いい写真はカンカンに入れて押し入れにしまった。
夕方になると行きつけの小料理屋へ行き女将(石川さゆり)の歌を聴いた。
平日になり、アヤが平山の前にやってきてタカシがこっそり盗んでいたカセットテープを返してくれる。
平山とアヤは車でカセットを聴いた。アヤは平山の頬(ほほ)にキスをする。
ラスト結末
平山の家に姪のニコ(中野有紗)がやってくる。家出をしたらしい。
翌日、ニコは平山のトイレ掃除の仕事についてきて、少し手伝ってくれた。
平山はニコを銭湯に連れていく。そのあとニコは自転車に乗りながら「この川を下ると海だね。一緒に行こう」と言った。
平山は「今度」と言った。ニコがくいさがると、「今度は今度、今は今」と返した。
家に帰ると妹(ニコの母親)が迎えに来ていた。
妹は「お父さんは認知症になってホームにいる。昔とは違うからお見舞いに行ってあげて」と言った。
妹がニコを連れて運転手付きの車で去ったあとで、平山は泣いた。
朝、タカシから「お世話になりました会社を辞めます」と平山に突然電話がくる。平山は2人分働くハメになった。
また休日になり、平山は小料理屋へ。すると女将がある男(三浦友和)と抱き合っているのを見てしまう。
動揺した平山は酒とタバコを買って川沿いの公園へ。
男(三浦友和)がやってくる。彼は女将の元旦那で、「ガンで先が長くないから女将に会いに来た」と話す。
男は「女将をよろしくお願いします」と平山に言った。
平山から酒とタバコをもらった男は「影って重なると濃くなるんですかね?」と質問。
2人は影を重ねてみる。男は変わらないと言ったが、「濃くなっている!」と言い張った。
2人は影ふみをする。
翌日、平山は箒をはく音で起き、カセットテープでニーナシモンの「Feeling Good」を聴きながら仕事へ向かう。笑顔も涙も浮かんできた。
映画『PERFECT DAYS』終わり
最後のまとめ
映画『PERFECT DAYS パーフェクトデイズ』は、ヴィム・ヴェンダース監督の美学と役所広司の演技力、そして東京という街そのものの魅力が凝縮された至高の作品でした。
安っぽいエンタメ映画が横行する昨今、こんなにも映画らしい映画を劇場で見ることができて感極まりました。
この映画をきっかけに、商業映画が横行する日本の映画界も少しは変わるといいですね。
ここまで読んでいただきありがとうございます。映画『PERFECT DAYS パーフェクトデイズ』レビュー終わり!
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