韓国系移民の農家の困難と希望を描いた映画『ミナリ(Minari)』。
期待して見に行ったが、その予想を遥かに超えた感動の作品だった。
ラストの感情の盛り上がり方がすごすぎて、心を鷲掴みにされた印象。号泣している人もチラホラ。もはや感動という言葉すらチープに思えてくる。
家族が支え合う計り知れないエネルギーが伝わってきた。
絶対見るべき映画!ちなみに“ミナリ”とは韓国語で野菜のセリの意味。
映画『ミナリ』の監督や俳優 基本情報
映画『ミナリ』スタッフ・キャスト
監督/脚本:リー・アイザック・チョン
撮影:ラクラン・ミルン
主演:スティーブン・ユァン/役
出演:ユン・ヨジョン/スンジャ(おばあちゃん)役
制作は、アカデミー作品賞受賞の『それでも夜は明ける』のブラッド・ピットのPLAN Bと、同じく同賞受賞『ムーンライト』などで知られるA24。
『ミナリ』もガチガチにアカデミー賞を狙いにきていると考えてよいだろう。作品賞、監督賞、助演女優賞にノミネートされている。
『Mank/マンク』や『シカゴ7裁判』との接戦が繰り広げられるだろう。
監督は韓国系移民2世のリー・アイザック・チョン。移民でしか知り得ないリアリティが期待できる!
アジア系移民の実態を描いたという意味でも社会的意義がある。
『ミナリ』は、海外の大手レビューサイトRotten Tomatoesで批評家の支持率98%という脅威的な数字を叩き出している。話題の『ノマドランド』94%を超えているのがすごい。
スティーブン・ユァンについて
主人公ジェイコブ・イーを演じるスティーヴン・ユァンは、『ウォーキング・デッド』のグレン役で有名。韓国出身の俳優としては、世界で1、2を争う知名度になってきている。
村上春樹の短編小説『納屋を焼く』を映画化した『バーニング劇場版』でも、素晴らしい演技力を見せつけてくれた。
『パラサイト半地下の家族』でアカデミー賞作品賞や監督賞を受賞したポン・ジュノ監督のNetflix映画『オクジャ/okja』にも出演。
スティーヴン・ユァンは世界で今最も注目を集めているアジア系俳優といってもよいだろう。
映画ミナリのネタバレ感想・評価
個人的には生涯ベスト10に入る超傑作
(時間がない方や文字を読むのがめんどい方は、感想レビュー動画を作ったのでご覧ください↓)
youtu.be映画を何千本か見ているはずだけど、はっきり言ってここまで感動できる作品は思い出せない。最近の劇場公開作だと『鬼滅の刃 無限列車編』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』も泣けたけど、それ以上の感動を与えてくれた。
いや、感動という言葉では足りないくらいだ。
トレーラーで雑魚寝するイー家族の姿が、たくましく育ち2度目の収穫が美味しいミナリ(セリ)に重なる。
点数をつけるとすれば94点くらいだろうか。海外レビューサイトで高評価だからと言っても、ここまで感激できるととは思っていなかった。
キャストの演技も素晴らしかった。特におばあちゃん役の女優ユン・ヨジョンのガサツな雰囲気が真に迫っていた。
おばあちゃんと孫・デヴィッドの関係性の変化が美しかった。あとで詳しく語るが、それが納屋が焼けて夫婦の絆が強まるシーンと、おばあちゃんと孫の劇的な結末が重なりあって最高だった。
日本のレビューを見ると酷評多い…
日本のレビューを見るとイマイチだという声が多い。
それぞれの意見なので構わないのだけど、ラストで何がどう解決したかわからないという感想が多い気がする。
ミナリのラストはメッセージ性が強く、ストーリーに完璧に答えを出していたけど、言葉での説明がほとんどないせいで響かなかったのかもしれない。
確かに、感情の機微をしっかり追わないと、ふわふわした印象になるだろう。
次は、ミナリの革新的なラストシーンについて深く考察してみる。
絶望と希望のシンクロ!2つの関係が一瞬で変化
『ミナリ』のラストがなぜあれほどまでに感動的だったのか?
それは絶望と希望をシンクロさせて描いたからだと考える。
夫婦の関係、おばあちゃんと孫の関係が、一瞬で絶望から希望に変わったのだ!
まず、夫ジェイコブの畑仕事を肯定していなかった妻モニカが、燃え盛る納屋の中に入っていき野菜を救い出そうとする。
直前まで別れると言っていた彼女だが、心の奥底では夫ジェイコブの畑仕事を応援していたことがわかる。火事というパニックの事態で、モニカの心情が浮かび上がる(毛並みは違うけど、ホラー映画の『ミッド・サマー』にラストがちょっと似てる)。
モニカが本当は、夫や農作業を大切に思っていたと劇的に浮き彫りになる。ここで超感動。
次に、絶望して反対方向に歩いていくスンジャを、心臓病のデヴィッドが走って止める。病院で治りかけていると言われても、ずっと病気だから走るなと言われていたデヴィッドは、どれほど勇気を振り絞ったのだろう。
死ぬことを恐れず、祖母を追いかけたのだ。クララが立つよりよっぽど感動した。会場のみんなもここで涙腺崩壊していた。
夫婦の想いと、祖母と孫の想い。この2つが交錯したときに、論理を超えた感動が生まれたのだ。
納屋が崩れ、家族の絆ははるかに強まった。
『ミナリ』は絶望の状況下で2つの人間関係が劇的に変化し、強い希望となったのを瞬間的に描いた革新的なラストを提示してくれた。
『バーニング劇場版』との不思議な類似点
偶然か意図的か、『バーニング劇場版』(2018)は、スティーヴン・ユァンが演じたベンが「納屋を燃やす」と言って燃やさない不思議な話だった。
対して『ミナリ』は納屋が燃えるラストだった。
脚本も手がけたリー・アイザック・チョン監督は、もしかしたら『バーニング劇場版』を参考にしたのかもしれない。
ミナリの巧みさ。人種差別テーマを意図的に排除
『ミナリ』が素晴らしかったのは、人種差別をテーマにしなかったこと。
韓国系移民がアーカンソー州の田舎に引っ越すなら、アジア系差別の話になるのか?と考えていたが、差別についてはまったく描かれていなかった。
リー・アイザック・チョン監督ら制作陣は、差別までストーリーに含めると複雑になると判断し、意図的にその要素を排除したのだろう。
結果的にそれが功を奏したと思う。
差別に苦しみながら奮闘するステレオタイプの映画ではなく、素晴らしい家族の物語にフォーカスできた。
お年寄りの家族における意義をリアルに描いた
映画『ミナリ』では、口の悪いスンジャと、遠慮せず気持ちをズバズバ言う孫デヴィッドを組み合わせたことで、お年寄りの良い部分も悪い部分も包み隠さず描かれていた。
『パラサイト半地下の家族』と同じく“臭い”も一要素として描かれていたし、おしっこ事件まであった。
祖母・スンジャは、脳卒中で体が不自由になって手伝いができなくなった。
そしてスンジャのミスで野菜を全部燃やしてしまう最悪の事態になった。しかしそれでも、祖母スンジャは家族の絆を一つにまとめたのだ。
『ミナリ』は年配の人が家族や社会において重要な役割を果たしていることを理解させてくれた。
ミナリと2021年度の第93回アカデミー賞助演女優賞獲得!
予想
映画『ミナリ』は2021年度、第93回アカデミー賞作品賞、主演男優賞、助演男優賞にノミネートされている。
癌で急逝したチャドウィックボーズマンが熱演した『マ・レイニーのブラックボトム』や、ゲイリー・オールドマンの『Mank/マンク』があるので、スティーヴン・ユァンの主演男優賞は難しそうだと予想。
しかし、単純なストーリーの感動でいえば『ミナリ』が数段勝っている気がする。絶望と希望を同時に描いたのも画期的だった。
車上生活者をドキュメンタリータッチで描いた『ノマドランド』は社会的意義のある作品ではあったが、映画としてとても面白いかと言われると、そこまででもなかった。個人的には『ミナリ』を推したい。
ただ、アカデミー賞の投票権のあるアカデミー会員は、監督や俳優など映画制作側なので、単純にストーリーの出来が良い作品が受賞するわけではないので、どうなるかはわからないけど。
2021年のゴールデングローブ賞では、韓国語だからという理由で外国語映画賞の受賞になったが、アカデミー賞では作品賞、主演男優賞、助演女優賞の3つにノミネートされている。
おばあちゃん・スンジャ役の女優ユン・ヨジョンは助演女優賞の有力だろうと予想。
結果
2021/04/26追記)→おばあちゃん役の女優ユン・ヨジョンはアカデミー助演女優賞を見事受賞!おめでとう。
一方、作品賞や監督者は『ノマドランド』に譲る形になった。
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