アカデミー作品賞を受賞した映画『ムーンライト』を観賞!娯楽映画ではなく、社会へメッセージを思いきり投げかける作品であった!
ある意味問題作!こんなにシャープな問いかけをする映画も珍しい。
今回はそのムーンライトの非常に印象に残るテーマを深掘りしていこうとおもう!
映画『ムーンライト』作品情報・キャスト
監督 | キャスト | 公開年 製作国 上映時間 | 世界興行収入(円)![]() | 受賞歴![]() |
バリー・ジェンキンス | トレヴァンテ・ローズ | 2016 アメリカ 1時間51分 | 27億円 | アカデミー作品賞 アカデミー助演男優賞 アカデミー脚色賞 |
脚本![]() | 撮影 編集 | 制作総指揮 音楽 | 主題歌 |
バリー・ジェンキンス | ジェームズ・ラクストン | ブラッド・ピット ニコラス・ブリテル | – |
今作で2助演男優賞に輝いたマシャーラ・アリは2018年公開の映画「グリーンブック」でも2度目の助演男優賞を受賞している実力派!!
音楽のニコラス・ブリテルは「それでも夜は明ける」の音楽を担当した人物として有名。製作総指揮のブラッド・ピットも「それでも夜は明ける」の製作&出演を果たしている。
ムーンライトのあらすじと予告動画
フアン(マハーシャラ・アリ)はドラッグ売買が行われるストリートでリトルと呼ばれるいじめられっ子の男の子を見つける。放っておけなかった彼は家にリトルを連れて帰り、リトルも次第にフアンを信用するようになるが、、
ムーンライトの見どころは?
ムーンライトには大きく2つの見どころがある!
社会問題の当事者
ドラッグやLGBT、貧困など様々な黒人コミュニティが抱える社会問題とこれほど真剣に取り組んでいる作品は珍しい。綺麗事は一切ない。これらの問題について真剣に考える機会を与えてくれるのがムーンライトなのだ!
ブルーに統一された色彩美
ムーンライトはブラックアフリカンが抱える問題を扱うテーマ性が強い作品であるが、同時にブルーを基調とした色彩美にもとことんこだわっている作品でもある。
映像のカラーを調整したアレックス・ビッケルはコントラストを極端に強調することでこの”ブルーの映像美”を仕上げた。
さらに3幕構成である本作は、幼少期・青年期・成人期それぞれで異なる映像デザインを採用するというこだわりも素晴らしい!
ムーンライトは観るべき?
はっきり言っておくと、ムーンライトは娯楽映画の要素はほぼなく、観終わって楽しかったという感想は出てこない。
ただ、LGBTやアメリカの貧困社会における様々な問題に真正面から向き合った意義のある作品なので、そう言った意味でぜひ観て欲しい!
※以後ネタバレになるので、まだこの映画を観てない人は絶対に次の項目には行かないでください!
ムーンライト、78点B+ランク評価
各要素と、序盤・中盤・ラストの合計を100点満点とし計算しています。
結果78点 B+ランク ☆(星)3.9
評価の詳細を
ムーンライトの各要素を採点(10点満点中)
ストーリー | キャスト・演技(ハマり役) | テンポ | 演技・シーン |
7 | 8 | 8 | 8 |
セリフ | 映像の見やすさ(構図など) | 音楽・楽曲 | 印象度(記憶に残る) |
8 | 10 | 8 | 7 |
序盤・中盤・ラスト(5点満点)
序盤 | 中盤 | ラスト・結末 | 話の筋が通っているか? |
4 | 3 | 3 | 4 |
映画『ムーンライト』ネタバレ感想 テーマは?
良い意味で、実に生々しい作品だった。まず素晴らしいのが、主人公シャロンを始めとした登場人物たちに同情を寄せさせるような、装飾が多く安っぽいヒューマンドラマにせず、彼らの行動をありのまま描いているということ。
この映画は主人公シャロンが頑張って生きてきた!という成長物語ではない。
環境や性質を強烈に反映したアイデンティティーが存在することを伝えるというのが大きなテーマで、肌でそれを感じさせてくれた。そこには善悪の概念もなく”ありのまま”があるだけだ。
また、アメリカの貧困社会が抱える様々な問題も無視できない。
主に取り上げている問題はこの4つ
- LGBT
- ドラッグについて
- いじめ
どれも大事な問題なので映画においてのそれぞれの描かれ方をまとめてみる。
LGBT考察
本作では主人公がゲイというアイデンティティーを発見するまでの過程が青年期、成人期を通じて描かれているが、特徴的なのが、学校に通うティーンエイジャーが同性と性行為を行うという衝撃的な描写を組み込んだことだ。
シーンも同意スレスレで描かれており、強制的に被害に遭うケースも暗に示唆しているように思う。
LGBTの人にとっては当然のことかもしれないが、こういったシーンがLGBT問題についての見識が広がる大きなきっかけになったように思う。
ムーンライトはゲイやLGBTについての偏見も描きながら、だからと言って特別扱いしないでほしいという気高さが感じられる。
ドラッグの負の連鎖
ピエール瀧や韓国のパク・ユチョンらが、バイキングなどお昼のワイドショーを騒がせているが、ドラッグ問題について踏み込んで考える良い機会かもしれない。
ムーンライトではこれらのドラッグ問題についても、非常にアイロニカルに描かれている。
幼少期のシャロンを助けてくれたのはただ一人、社会的に悪とされるドラッグディーラーのフアンだが、フアンはある面シャロンの家庭が崩壊するキッカケを作っている。
さらに、シャロンはフアンに憧れ、大人になってから同じようなドラッグディーラーになり、同じブルーの車に乗っている。
ドラッグを売り捌くということは麻薬の売買を巡ってギャングやマフィアの傘下に入っているということになり、抗争やトラブルで常に命の危険がつきまとう。シャロンはそんな負の連鎖の中に吸い込まれてしまったのだ。
ドラッグの売買は危険なので貧困層の本当に仕事がない人々が手を出してしまう。それによって自らを危険に晒し、周りの人々に悪影響を与える。そして、ドラッグによって家庭が崩壊する幼少期を過ごした人でさえ、仕事がなくドラックディーラーになってしまう。
ドラッグの売人に関してはフアンやテレサが非常にクリーン(ドラッグをやっていない)で超いい人的なイメージで描かれており少し違和感があるが、彼らも普通の人間として生活していると描きたかったのだろう。
そして、ドラッグを売り捌く人だけでなく、貧困や紛争からドラッグの生産しか仕事がない地域の人々や、それに絡む麻薬カルテルの存在がある。詳しくは語らないが、コロンビアやメキシコなど一部は、人の命がぞんざいに扱われる悲惨な状況にあるのだ。
根本を考えると、結局ドラッグを買う人がいるからこそ、今まで語ってきた多くの問題がなくならないのだ。そのことだけでも覚えておいてほしい。
ドラッグについては解説者のモーリー・ロバートソンさんがこちら→海外コカイン事情という記事で非常に鋭利に語っているので参考にしてほしい。
シャロンのアイデンティティー
考えてみてほしい。シャロンは、貧困層、家庭内不和、ゲイ、ドラッグ、黒人という、大きな差別を生み出してしまう”的(まと)”を5つも抱えて生きている。
ひとつひとつを取り扱っている映画はあるが、ムーンライトのように、全部のアイデンティティーを一人の男性に背負わせ、さらに同情もシャットアウトするようなメッセージ性が強い作品が他にあるだろうか?
映画として面白いかと言われればそうでないが、ドラッグ、LGBTについて深く考えるキッカケをくれた作品であったので多くの人に見てほしい。
↓映画『ムーンライト』のあらすじラスト結末解説は2ページ目へ↓
- 1
- 2