Netflixオリジナル 韓国映画『オクジャ(Okja)』は、自然の中で少女ミジャとビッグな豚・オクジャが楽しく遊ぶ冒頭のシーンとは裏腹に、巨大企業や食肉産業の問題など、かなり重いテーマをリアルに突きつけてきた。
この記事では、
- オクジャと他の ポン・ジュノ作品と比較
- グローバル企業や畜産業の問題
- オクジャ感想や考察
を徹底的に解説していきます!
映像は超絶キレイで見る価値あり!ただかなり切なくなる作品。
『オクジャ』ポンジュノ監督の他作品と比較,ネタバレ解説
『パラサイト』よりシンプル
20年近く前になるが日本で、大阪の小学校で生徒の豚の飼育をさせ、食べるか食べないか決めるプロジェクトが話題になったことを覚えているだろうか。(『豚のPちゃんと32人の小学生―命の授業900日(2003)』で書籍化。2008年『 ブタがいた教室』で映画化)。
ポン・ジュノ監督は似たコンセプトを思いつき、命の授業を壮大なスケールで実践したのが『オクジャ』だったのではないか。
真実はわからないものの、 ポン・ジュノ監督作品にしては、表面的なメッセージが目立つ、ア イデア先行の作品のような気もする。
2019年に公開され アカデミー賞作品賞を受賞した『パラサイト半地下の家族』もア イデア型の作品だけど、構造が入り組んでいて抽象的な表現も多く、より複雑で見応えがあった。
視聴者に投げっぱなし?
知的障害の青年と母の闇の物語『母なる証明』や、傑作サスペンス『殺人の追憶』には、視聴者自身が考えて獲得できるメッセージが多いが、それと比較しても『オクジャ』はより投げっぱなしの印象が強かった。
資本主義の問題や家畜の生産体制など問題の提示はあるけど、作品としての答えは方向性すらあいまいで多様性も乏しい印象を受ける。
より客観的に問題を際立たせたと考えることもできるが、映画としての見応えとしては薄かった。
オクジャのグローバル企業・家畜の 機械的生産批判を考察
表層的で誰もがうなづくテーマが、資本主義下でやりたい放題のグローバル企業や、家畜の 機械的な生産体制に対する批判である。
これらを具体的に解説してみた。
地域文化や倫理を奪う巨大グローバル企業
因果関係の端と端を取り出すと、巨大企業 ミランダ社が、韓国の山奥で暮らすミジャとオクジャの幸せを力づくで奪おうとしたとの構図ができあがる。
わかりやすく述べると、グローバル企業は各地域の素晴らしい文化を奪うとなるだろう。
世界が均一化され、便利になればなるほど失われるものが確かにあるという例を、オクジャはわかりやすく示してくれた。
家畜の 機械的な生産体制
スーパーピッグが死ぬために列をなしている終盤のシーンは衝撃だったが、現実社会も大きくは違わないのだろう。
すべてではないにしろ、家畜は 機械的な生産体制のもとにあるのだ。
命を工場レーンに乗っけていいのか?というメッセージを明確に投げかけている。
この質問に、ほとんどの人が「No!」と答えるだろう。
ただし、資本主義では「Yes!」といえる人間が、安いコストで生産できて競争を勝ち抜けるのだ。資本主義のジレンマである。
オクジャの感想・評価/答えのないダークな作品
救いようのない、あと味の悪さを感じた
冒頭こそ、オクジャと少女・ミジャが自然の美しい山で遊びまわるアクション・アド ベンチャーだったが、終盤はかなりダークで答えがない問題を突きつけている。
最後にオクジャと山に戻って終わったものの、ミジャもALFも結局何も変えられなかった。
そう考えると救いがない作品である。
子どもたくすスーパーピッグ夫婦のシーンが唯一の救い
ミジャとオクジャは、家畜場にいる無数のスーパーピッグたちを尻目に、なすすべもなく歩いて去っていく。
かなり過激な例えをすれば、 ナチス政権下で アウシュヴィッツに収容された ユダヤ人が、仲間を助けられないまま1人で逃げ出す感覚に近いだろう。
そう考える気分が暗くなったが、スーパーピッグの夫婦が電気金網から子どもをオクジャたちに託すシーンが一筋の光だった。
これがなければ、『 火垂るの墓』並みにあと味が悪くなっていただろう…。
登場人物の絡みが薄い
あえてなのか、スケジュールが合わなかったのか不明だが、『オクジャ』は登場人物同士の絡みが薄かった印象だ。
ALFのメンバーと ミランダ社のメンバーに個人的な絡みがなかったのが惜しい。
ポール・ダノ(『 プリズナーズ』などに出演)とス ティーヴン・ユァン(『ウォーキング・デッド』や『バーニング』『ミナリ』に出演)の絡みはよかったが、彼らが ジェイク・ギレンホールと話すところを見たかった。
重厚感のある演技が魅力の俳優 ジャンカルロ・エスポジート(『ブレイキング・バッド』ガス役で有名)は、 ミランダ社CEO役の ティルダ・スウィントンとしか絡んでいない。
もう少し、登場キャラクター同士の関係を広げたり因縁を持たせてもよかったのでは?
オクジャネタバレ考察/少女が社会に組み込まれる過程
ミジャとオクジャの絆を描きつつ、少女が社会のシステムに組み込まれることを描いたのが『オクジャ』のダークサイドだと思う。
柿や社会システムについて具体的に考えてみた。
抽象的な「柿」の意味/無垢なものが現実を知る
工場生産的に家畜を育てて殺す倫理的な意義やグローバル企業問題は、はっきりいって誰もが考えつくし、うなづけるものだと思う。ただ ポン・ジュノ監督の作品は、もっと抽象的なテーマやメッセージを描くことが多い。
では『オクジャ』に一体何があるのかというと、「柿(かき)」だ。
冒頭でミジャが熟れていない柿をオクジャに与えると、喜んで食べる。しかし後半では、数日経って熟れてきた柿をミジャごと跳ね飛ばす。
無垢なオクジャが現実を知って傷ついた過程を、果物を使って
ちなみに『パラサイト半地下の家族』でも桃を使った演出が楽しめる。
ポン・ジュノ監督は果物に意味を持たせたがる?
社会システムに屈しなければ生きられない
人間として生きるからには、社会のシステムを受け入れなければならない。
どんなに止めてくれと叫んでも聞き入れられず、ミジャは金の豚とオクジャを交換してほしいと交渉する。
機転が利いていて映画的な カタルシスが得られるシーンだけど、情熱は拒否されて金がないと話を聞いてもらえないというような、救いようのなさがある。
ミジャは大切な何かを失ったのではあるまいか?それとも賢い大人になる必要な儀式だったのか?
屈服させられる少女ほど、残酷な表現はないだろう。『 風の谷のナウシカ』など 宮崎駿の ジブリアニメと真逆の発想だ。
女性がメスの尊厳を踏みにじる/映画オクジャの皮肉な構造
研究施設で、肉体的にも精神的にも辛いオスのスーパーピッグによるレイプシーンが痛々しい。
そもそも食肉にするなら、交尾の必要はないはず。あえてそのシーンを入れたとしか思えない。
映画『オクジャ』では、 ミランダ社のCEOルーシーも女性だが、彼女がやっているのはメスの尊厳を踏みにじることではないか?
ポン・ジュノ監督が意図していたかは不明だが、この視点は強烈だ。
根底に、そんな物議をかもすような皮肉のテーマがあったからかもしれない。
果たしてALFは正義か?
『オクジャ』で答えが出なかったのは、ALF(動物解放戦線)は正義かどうか問題。
中心にいたス ティーヴン・ユァン演じるケイはコミックリリーフ的な役割も担っていたので、正義として描かれていたようには思えない。
最後ALFに入るメンバーが増えて、いろいろな主張を持った若者が活動を続けていくのは素晴らしいような気もするが、彼らが何かを変えていけるのかは疑問。
企業が動物を虐待していることはわかっても食肉文化と資本主義がある限り、根本的な解決は難しいだろう。
ちなみに動物解放戦線ALFは実在する組織で、放火や盗みなど非合法な運動を行ってきた。
キューブリック風の左右対称・寒色,対比がすごい
余談だけど、『オクジャ』では、 ミランダ社の施設などが、左右対称で寒色のシーンが多かった。 スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』や『シャイニング』、『 フルメタルジャケット』を想起させる。
逆にミジャには暖色を使っていて、対比が素晴らしいと感じた。
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