映画『百花』菅田将暉と原田美枝子が、心の距離がある息子と認知症の母を演じます。
ヒットメーカー川村元気が原作・脚本に加えて初監督を務める話題作!
作品情報・キャスト・あらすじ・見どころ、ぶっちゃけ感想・評価、半分の花火の意味・メッセージ考察!
ストーリーネタバレあらすじ解説を知りたい人向けに徹底レビューしていきます!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)
作品についての視聴者・口コミアンケートも投票お願いします↓
映画『百花』作品情報・キャストと演技の印象
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:川村元気
脚本:平瀬謙太朗/川村元気
原作:川村元気の小説「百花」2021
撮影:今村圭佑
主題歌:KOE「Hello,I am KOE」
全世界興行収入:
監督:川村元気
湊かなえの人気小説の映画化『告白』や、新海誠監督の『君の名は。』、Netflix『バブル』などをプロデュースしたヒットメーカーで、今作で監督デビューとなります。
『百花』では原作小説から監督・脚本まで務めるマルチっぷりを発揮しています。
2024年には自身の小説『四月になれば彼女は』の映画化を担当。こちらにも長澤まさみさんが出演しています。
登場人物・キャスト紹介
登場人物 | キャスト・出演作 |
葛西泉(かさい いずみ)
音楽業界で人工知能歌姫・KOEのプロジェクトに関わる人物。 |
菅田将暉 今作では感情を抑えて内面を浮かび上がらせる渋い演技を見せてくれました。 (『花束みたいな恋をした』『キャラクター』『キネマの神様』『CUBE 一度入ったら、最後』『銀河鉄道の父』) |
葛西 百合子(かさい ゆりこ)
泉の母。1人で暮らしており、近所の子供にピアノを教えている。 |
原田美枝子 画面の中心にいるだけで絵力が凄いです。さすが。 (『半落ち』ドラマ『北の国から』『ちむどんどん』) |
葛西 香織(かさい かおり)
泉の同僚で妻。 |
長澤まさみ 母親役や菅田将暉の夫婦役に安心感があります。 |
浅葉 洋平 | 永瀬正敏 (『ノイズ』) |
永井 翔太郎(ながい しょうたろう) 泉の会社の後輩。 |
岡山天音 出番は少ないながらも、いかにも業界人っぽい独特な雰囲気のキャラがよかった。 映画『キングダム2 遥かなる大地へ』,Amazon『No Activity/本日も異状なし』 |
田名部 美咲(たなべ みさき) | 河合優美 出番少なすぎ。もう少し彼女の演技が見たかった。 『PLAN 75』のコールセンターの女性役が印象的でした。 |
ネタバレなし感想・あらすじ・海外評価
あらすじ:音楽レーベルの企画担当の葛西泉(菅田将暉)は、年末に母・百合子(原田美枝子)が1人暮らす実家に帰りました。しかし母はおらず、部屋は散らかっています。泉は焦って近所を走り回り、百合子を探しました。百合子は公園のブランコで何やらぶつぶつ呟いています。百合子は泉を見て、なぜか「寂しかった」と言ってすり寄ってきます。泉は気味が悪くなり、妻・香織(長澤まさみ)がいる実家に帰りました。後日、スーパーから連絡があり、泉は駆けつけます。百合子はわめきながら料金を払わずスーパーの外に出てしまったそうです。病院で検査をし、母が認知症だったことがわかります。
エンタメ性やドラマ性は控えめで、息子と母の心情描写がメインです。
認知症のリアルな進行過程や、親子の不和などをリアリティたっぷりに突きつけてきます。
感動ももちろんありますが、綺麗事ばかりではなく、見ていて辛くなります。
自分で考えて答えを出すタイプの映画です。
じっくり描くヒューマンドラマを見た人にはもってこい!
刺激が強い映画を見た人には向かないかもしれません。
おすすめ度 | 75% |
メッセージ性 | 90% |
ストーリー | 78% |
Firmarks | 3.6点(5点中) |
IMDb(海外レビューサイト) | 6.8(10点中) |
※以下、映画『百花』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『百花』ネタバレ感想・評価
心が締め付けられるのと同時に引き裂かれる不思議な作品。
登場人物の苦しい心情がにじんでくるようなクロースアップが多く、観ているのが辛くなる2時間でした。
エンタメ性は放棄してセリフを極力排除し、演技と状況で心の中でどんな葛藤が起こっているか見せつける。
現在と過去がマッチカットで繋がり、菅田将暉演じる泉と原田美枝子演じる百合子の衝撃的な過去がわかっていく。
渋すぎる演出で、退屈になってきます。
しかしそれだけに等身大であり、観る人それぞれが人生を重ねることができるのです。
私も数年前に認知症をわずらっていた祖父が亡くなったので、人ごととは思えない内容でした。
認知症の親族を抱える方や、親子で過去に問題があった人は感動を通り越して見ていて苦しかったのではないでしょうか。
『百花』は人生における家族の問題をどう乗り越えていけるか提示した意義深い作品でした。
長回しを使って母・百合子主観で認知症で同じ状況をぐるぐる繰り返すシーンなんかも面白かったです(何回もはいらないと思いましたが…)
演出の他の面ではワンパターンというか、菅田将暉や原田美枝子のクロースアップが若干多すぎた印象。
見ているこちらからすると、息をつける箇所が少なく、ひたすら登場人物の葛藤に心を重ねる状態になり、良くも悪くも疲れます。
映画を見終わった満足感というよりは、人生を勉強した印象ですね。
また、何気ないシーンをジリジリとゆっくりなテンポで描いて心情を表現する箇所がほとんどで、飽きが来ないといえば嘘になります。
ストーリーも前へ進むタイプではないですし。
正直、完成度という意味ではそこまで高くないと感じてしまいました。
個人的には、香織との会話や会社でのA.I.KOEの開発シーンなどをもう少し入れて、メリハリを出したほうが良かったと思いました。
百花 考察(ネタバレ)
二度、忘れられた子供
菅田将暉演じる泉は、母に2回忘れられた悲しい子供でした。
1度目は中盤で発覚した、母・百合子が男と駆け落ちして捨てられた出来事。
2度目は認知症で。
そんな母を見ている泉の内面はとても複雑だったと思います。
まず、幼い頃に捨てられたトラウマは相当なものですから、綺麗事でなく恨みの気持ちもあったでしょう。母が男性・浅葉と暮らしていたときの日記を見て嘔吐していることからも、よほど辛かったのだと伝わってきました。
泉が妻の香織とバスの中で会話していた場面で「もうすぐ全部忘れちゃうんだろうな〜」とあっけらかんとした表情で言っていたのも印象的でした。
母が自分を捨てた過去・男性と駆け落ちした過去まで綺麗さっぱり忘れてくれたら、もう1度親子としてやり直せる。そんな深層心理があったのだと思います。切なすぎです。
一方で、終盤の花火会場で「俺は全部覚えてるんだよ!」と叫んでいた場面から、そんな辛い思い出含めて、2人で過ごした時間を全部忘れて欲しくない。相反する葛藤が感じられました。
本作『百花』は説明的なセリフに頼らずに演技とシュチュエーションで、この極めて人間味あふれる葛藤を描けたのが素晴らしいと思いました。
半分の花火の意味
ラストで半分の花火の本当の意味がわかります。それは家から見る花火が向かいの団地で半分に切れて見える2人の思い出の光景だったのです。
幼少期の思い出と、ラストで完全に息子がわからなくなってしまってから見る半分の花火がシンクロします。感動のシーンでした。
花火が半分なことから、抽象的なメッセージも浮かび上がってきます。
半分の花火とは、泉と百合子の関係のメタファーになっているようです。
百合子が泉を捨ててしまったという取り返しがつかない過去があり、2人の関係は完璧ではありません。半分の花火は、この完璧ではない関係を表していると思いました。
泉は半分の花火のことを思い出し、2人でそれを眺めた思い出で心を満たします。
完璧なものなどない、不完全だけどかけがえのない母子の関係。そんな想いで過去のトラウマを解消できたのではないでしょうか。
百合子の認知症が始まり、記憶を失っていく反面で半分の花火のことだけは覚えていました。しかし、花火を見る前にすべて忘れてしまいます。
泉はほとんどのことを覚えていますが、花火のことだけは忘れていて最後に思い出す。この対比も感慨深いです。
忘れていた記憶を補い合う、お互いにかけがえのない存在だと伝わってきます。
どんな家族にも通じる普遍的なメッセージがそこにありました。
人工知能A.I. 忘れるという行為
人工知能にディープランニングでありとあらゆるアーティストの能力や人々の嗜好を詰め込んだKOEというA.I.
結局、試聴会で誰の心も揺さぶらないプロジェクトだと判明します。
「忘れる機能も必要ではないか?」そんな泉の同僚・永井のセリフが印象深かったです。
すべてを記憶するA.I.KOEは、すべてを忘れていく百合子と対比になる存在です。
なんでも記憶したもの、完全なものが良い訳ではないというメッセージです。
認知症ですべてを忘れゆく百合子のほうが美しく、人の心を揺さぶることができると伝えているのだと思います。
決して綺麗事でなく、人間には忘れられる素晴らしさがあります。
泉の幼少期に百合子に捨てられたというトラウマは下手したら一生残るかもしれないもの。しかし、いくら母に謝られても解消できません。
解消というより、忘れる。目を背けるというネガティブな意味でなく、それが唯一の解決方法なのかもしれません。
1度忘れたことで、半分の花火のように大切な思い出だけが引き出されることもあります。
忘れることで、また思い出せるのです。
最近のことは忘れ、昔のことを思い出す認知症の進行過程とも重なります。
泉はそのプロセスを経て、百合子と一緒に進んでいくのだと思いました。
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