『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』ネタバレ感想,評価,考察レビュー!スコセッシが悪魔を描く!実話が基?

  • 2023年12月12日

映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』マーティン・スコセッシ監督×レオナルド・ディカプリオ×ロバート・デ・ニーロが再びタッグを組んだ! 白人社会に吸収されていくネイティブ・アメリカンの実話をもとにした衝撃作です。

シネマグ
人間の奥底まで見通したすごく怖い作品宗教色も非常に強いです。

キャスト

あらすじ・ネタバレなしの感想

物語ネタバレあらすじ・ラスト結末解説

ぶっちゃけ感想・評価(ネタバレあり)

考察:タイトルの意味、エンドロールの蝿(ハエ)の音

これらの情報を知りたい人向けにわかりやすくレビューしていきます!

(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)

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映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』作品情報

映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

公開:2023年10月20日(金)
制作国:アメリカ
上映時間:3時間26分
原題:『Killers of the Flower Moon』
ジャンル:クライム、スリラー
年齢制限:PG12(12歳以下は親の指導が必要)
監督マーティン・スコセッシ
脚本:エリック・ロス(『フォレスト・ガンプ/一期一会』『DUNE/デューン 砂の惑星』)
原作デヴィッド・グラン「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」
撮影:ロドリゴ・プリエト(『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 『アイリッシュマン』)
音楽:ロビー・ロバートソン(『』『レイジング・ブル』)
制作費:2億ドル(約299億円)

1921〜1925年にオクラホマで起こったオセージ族連続殺人事件…その実話を元にした小説を映画化した作品です。

Appleオリジナル作品で、Apple TV+で配信される前に劇場公開となります。

マーティン・スコセッシ監督の長編映画としてはNetflix配信『アイリッシュマン』(2019)以来で4年ぶりですね。

私はスコセッシ作品が大好きですが、もうネット配信事業しか彼に投資してくれないのでしょうか。

シネマグ
スコセッシがマーベルに怒るのも理解できます。

そんな本作は海外レビューサイト・ロッテントマトズで批評家から95%の支持を集めました!スコセッシの逆襲がはじまるのか!?

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キャスト

レオナルド・ディカプリオ

レオナルド・ディカプリオ

アーネスト・バークハート役。レオナルド・ディカプリオが頼りなく芯のない男を絶妙に演じています。

ディカプリオは本作では製作も勤めています。

マーティン・スコセッシとレオナルド・ディカプリオは本作で長編6度目のタッグとなりました(『ギャング・オブ・ニューヨーク』『アビエイター』『ディパーテッド』『シャッター・アイランド』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』)。

ちなみに2015年にはスコセッシ、ディカプリオ、デニーロに加えてブラッド・ピットまで出演の短編映画『オーディション』が制作されています。

↓レオナルド・ディカプリオの出演作レビュー↓

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ロバート・デ・ニーロ

ロバート・デ・ニーロ

街の名士ウィリアム・ヘイル(キング)役。

今作のデ・ニーロには静かに漂う尋常じゃない怖さがあり、『ケープ・フィアー』とまた違った狂気をまとっています。完璧でした。

ちなみに、スコセッシ監督とロバート・デ・ニーロがタッグを組むのは11作品目です。(『ミーン・ストリート』『タクシードライバー』『ニューヨーク・ニューヨーク』『レイジング・ブル』『キング・オブ・コメディ』『グッド・フェローズ』『ケープ・フィアー』『カジノ』『オーディション』『アイリッシュマン』)

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その他キャスト

役名 キャスト
モリー・バークハート

リリー・グラッドストーン

リリー・グラッドストーン(『Room 104』『ビリオンズ』)
連邦警察官トム・ホワイト ジェシー・プレモンス (『ブレイキング・バッド』『ザ・マスター』『パワー・オブ・ザ・ドッグ』Netflix『運命のイタズラ(Windfall)』)
ハミルトン ブレンダン・フレイザー(『ハムナプトラ』『ザ・ホエール』)
ヘンリー・グラマー スタージル・シンプソン
検察官・リーワード ジョン・リスゴー(『ガープの世界』『クリフハンガー』)
ウィリアム・J・バーンズ ゲイリー・バサラバ(『アイリッシュマン』)

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』あらすじ

映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

戦争から帰還したアーネスト(レオナルド・ディカプリオ)は、地元でキングと呼ばれる叔父・ヘイルのもとを頼る。

ヘイルはオイルマネーで潤う先住民・オセージ族と繋がりがあり、幅広い事業を手掛けていた。

ヘイルはアーネストに、先住民のモリーと結婚するように言う。石油で金持ちのオセージ族の受益権を得られるからだ。

アーネストは運転手としてモリーに近づく。やがて2人は恋に落ち、結婚した。モリーは糖尿病でだんだんと弱っていく。

そんな中、モリーの親族(オセージ族)が次々に殺害される事件が発生。しかし地元の警察はろくに調べもしない。

モリーが政府に訴えると、連邦警察のトム(ジェシー・プレモンス)が派遣されてやってきた。そして驚きの事実が明らかになる…。

ネタバレなしの感想

めちゃくちゃ深いテーマを突きつけてくる重厚な作品。しかし3時間26分…とにかく長い。『シンドラーのリスト』より長いです。普通の映画2本分ですね。

シネマグ
前作の『アイリッシュマン』が3時間29分であり、スコセッシの最近の作品は長尺化していますが、見る価値は十分! ただ、長いわりに淡々としているので、寝不足でいくのは絶対にやめたほうがいいです。体調が万全の状態で画面を味わい尽くしてはじめて人間の深淵や怖さが見えてくる作品だと思いました。

※以下、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』のストーリーネタバレありなので注意してください!

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』ネタバレ・ラスト結末の解説

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

モリーの姉・アナが何者かに殺害される。アナの従兄弟も殺された。

警察が動かないため、モリーの妹と婚姻関係にあるビルは独自で捜査を進める。

ヘイルはビルとモリーの妻の殺害を考え、アーネストに手配を依頼。

アーネストは殺し屋に依頼するが、殺し屋は車の窃盗で捕まり、逮捕されてしまう。

アーネストはヘイルに言われるがまま、モリーに糖尿病用のインスリンを投与する。

しばらくするとヘイルは、インスリンに別の薬を混ぜるように言った。アーネストは言うとおりにする。

モリーは日に日に弱っていった。

そんな中、アーネストがジョン経由で依頼した人物が、モリーの妹と旦那のビルを家ごと爆破して殺害する。

オセージ族はホワイトハウスへ行き、大統領に連続怪死事件の捜査をするよう頼んだ。

J・エドガー・フーバーがFBIの前身となる連邦捜査官・トムたちを現地へ派遣した。

トムは現地で聞き取りを開始し、裏に町の名士・ヘイルやアーネスト、バイロンが関わっていると知る。

モリーが独自に雇った探偵もアーネストらによって殺害されていた。

トムはアーネストを逮捕し、証言を迫る。

いっぽうヘイルは関係者たちをはめ、闇に葬っていったが、彼自身も逮捕される。

アーネストはヘイル側の検事にほだされて証言を撤回しようとしたが、末娘の死によって何が正しい道かを考え直し、裁判で証言する。

アーネストはモリーに会った。しかし注射の中身がなんだったかについては、インスリンだった!と最後まで誤魔化した。

モリーはアーネストを見かぎり、去っていく。

その後、ヘイルは終身刑になった。アーネストは長い刑期を務めた後で模範囚として釈放され、弟と暮らした。

モリーは再婚し、のちに糖尿病で亡くなったという。

終わり

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』ネタバレ感想・評価

人間の深淵を描いた傑作

マーティン・スコセッシ監督の新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の評価は90点

まさにスコセッシ監督の集大成! 語るべき要素がありすぎて、何から書いていいか迷ってしまいます。

シネマグ
とにかく人間の恐ろしさが際立っていた作品。特にロバート・デ・ニーロ演じるヘイルなんか悪魔そのものに見えました。

白人がアメリカ大陸にやってきてネイティブ・アメリカンを迫害し、さらに権利まで剥奪していく悪魔の所業が淡々と暴かれていく傑作です。

家族になってすべて奪っていく…これが白い悪魔のやり方かと、人間の恐ろしさを突きつけられて胸が苦しくなりました。

レオナルド・ディカプリオ演じるアーネストは妻・モリーを愛していながら、いっぽうでヘイルから金のために身内の殺害を強いられ、モリーに得たいのしれない薬を注射します。

自己矛盾しているようですが、生きるために自分の意思を押し殺して最悪の矛盾を受け入れてしまうアーネストのような人物がたくさんいたのでしょう。

だからネイティブ・アメリカンの迫害や権利剥奪が大規模に行われたのです。

感想を語る
デ・ニーロが悪魔だとすれば、ディカプリオは人間の弱さと愚かさの象徴ですね。

本作を鑑賞して、ネイティブ・アメリカンの迫害だけでなく、ユダヤ人の虐殺から各国の植民地支配、戦争などの人類史における大惨事がなぜ起こったのか本質が垣間見えた気がしました。

私の解釈ではありますが、スコセッシ監督は人々の中に悪魔がいたから歴史上の悲劇が起こったと表現していたように思いました。

スコセッシ監督の作品は宗教色が強いことが特徴です。本作は『沈黙 サイレンス』と同じかそれ以上に宗教的なテーマの濃い作品でした。

また、スコセッシ監督はマーベルは映画じゃねえ!発言を繰り返していることから、現在の映画界に対しての怒りのようなものも伝わってきました。

オセージ族が白人社会に食い尽くされ、吸収されていく様は、映画の多様性がマーベルに食い尽くされているメタファーのような気がしなくもないです。

設定はレオナルド・ディカプリオ× アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督で、白人とネイティブアメリカンの関係と復讐劇を描いた『レヴェナント: 蘇えりし者』に似ているかと思いきや、主人公の立場は真逆でしたね。

本作ではJ・エドガー・フーヴァーが連邦捜査官を派遣しましたが、ディカプリオがイーストウッド監督の『J・エドガー』を演じていたこともリンクして感慨深い気持ちになりました。

本作はスコセッシ監督の集大成だったことはもちろん、ディカプリオの集大成ともいえる作品だったと思います。

微妙なポイント

ダメな点やひどいところはないです。

ただこの静かなテイストで3時間20分超えは少し長いなあと思いました。

その日の体調や集中力によって映画体験が大きく左右されてしまう作品だと思います。

CineMagの評価 90点
メッセージ性・ストーリー 97%
キャストの演技 95%
IMDb(海外レビューサイト) 8.6(10点中)
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト) 批評家 95%
一般の視聴者 %
メタスコア(Metacritic) 91(100点中)

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』考察

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンの意味

劇中での説明によるとフラワームーンは丘に花が咲き乱れる季節のことのようです。

フラワームーン自体がオセージ族や彼らの文化の比喩でしょう。

よってタイトルのキラーズ・オブ・ザ・フラワームーンは、ディカプリオやデ・ニーロらが演じたネイティブ・アメリカンを迫害して金を貪る白人たちを指しています。

蝿(ハエ)の意味:エンドロール

アーネストやヘイルの周りによく蝿が写っていました。さらにエンドロールにも蝿の羽音が流れましたね。

いろいろな解釈があると思いますが、旧約聖書にも出てきた悪魔・ベルゼブブ(蝿の王)を表現しているのでしょう。

キングと呼ばれたヘイルは蝿の王、彼の言いなりのアーネストは金に群がる蝿のような存在だというメッセージだと思います。

デ・ニーロとディカプリオを蝿扱い。暴力的な場面は思ったほど多くなかったように見せかけて、スコセッシの狂気が多分に反映された作品だと思いました。

沈黙こそが答え

注射の中身はなんだったのかとモリーに問われたアーネスト。彼はインスリンだ!と嘘をつきます。

モリーは病院でみるみるうちに回復したので注射器に毒が入っていたと理解していたはずです。

あえて問いかけたのは、聖母のような彼女にはアーネストの誠実さを信じる気持ちがまだ残っていたからでしょう。

懺悔室での告白のような意味合いの場面だったと思います。

アーネストはなんと答えれば良かったのでしょうか?

嘘をつかずに、「毒が入っていると知っていた」と答えればよかったのでしょうか。

告白は半分世界で半分不正解だと思います。告白は彼の信仰心は救えますが、モリーの心は救えないからです。

私は沈黙こそがその答えだったと思います。

アーネストは頭もよくなく、叔父・ヘイルの言いなりでした。自己矛盾について反芻することなどしなかったでしょうし、毒が入っていると完全に理解できていなかった可能性もあります。

アーネストを愛したモリーも彼のその性質を理解しているはずです。

もしもアーネストが沈黙したならば、

しかし結果的にアーネストは嘘をつきます。自らの信仰心に背を向けたばかりか、モリーの心をさらに傷つける言動をとったわけです。

この瞬間にアーネストは、罪人だけど救いようがある人物から、真に救いようのない人物に堕ちてしまったのではないでしょうか。

ヨーロッパではベルゼブブは堕天使と考えられることもあるようですが、アーネストもまた堕天してしまったように見えます。

本作の最後はスコセッシ作品の中でも特に救いようのない結末だったと思います。

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は『沈黙-サイレンス-』の裏側のような作品だと思いました。

『沈黙-サイレンス-』では、すべてを捨てても捨てられない何かを表現していましたが、本作で描かれたのは、すべてを捨ててしまった男です。

人間の愚かさの本質を露呈させた残酷な傑作だったと思います。

最後のまとめ

マーティン・スコセッシ監督×レオナルド・ディカプリオ×ロバート・デ・ニーロの『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は、オイルマネーで富を得たネイティブ・アメリカンが白人の食い物にされる実話をもとにした作品でした。

決してエンタメ色の強い作品ではありませんでしたが、人間がいかに悪魔に近いかを精緻に描いた点では他の追随を許さない映画に仕上がっていました。

『アイリッシュマン』では、終わりゆくマフィアを描いて若干落ち着いた感がありましたが、本作を見るとスコセッシの炎はまだ消えていない…というか怒りに溢れているとさえ思いました。

できれば毎年スコセッシ監督の作品を見たいです。人生において映画を観る意義をこれでもかと突きつけてくれるのは彼をおいていないと思います。

シネマグ
そろそろマーベルのMCUじゃなくてMSU(マーティン・スコセッシ・ユニバース)に映画界を救って欲しいです。

ここまで読んでいただきありがとうございます。レビュー終わり!

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