ウォーキング・デッドのグレン(スティーヴン・ユァン)出てるじゃん!と思ってユーネクストで配信されていた映画『バーニング 劇場版』を鑑賞。
村上春樹の短編小説『納屋を焼く』を原作にした韓国映画なんだけど、人の影を描いた最高の映画だった。
この記事ではあらすじネタバレや評価、感想を書いて行こうと思っています。
映画『バーニング 劇場版』作品情報・キャスト
監督:イ・チャンドン
脚本:イ・チャンドン、オ・ジョンミ
出演:ユ・アイン(ジョンス)、スティーヴン・ユァン(ベン)、チョン・ジョンソ(ヘミ)
公開年:2018年
上映時間:2時間28分
カンヌ国際映画祭に出品され、是枝監督の『万引き家族』と評価を2分した傑作で、パルム・ドールは『万引き家族』に渡ったが、『バーニング 劇場版』は国際批評家連盟賞を獲得している。米国のオバマ元大統領もこの映画のファンらしい。
監督のイ・チャンドンは、2002年の『オアシス』でヴェネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞するなど、国際的な評価を受けている人物。
ユ・アインは2018年公開の映画『国家が破産する日』などで有名。ドラマ『地獄が呼んでいる』や『終末のフール』にも出演しています。
スティーヴン・ユァンはウォーキング・デッドのグレン役の俳優。2020年公開でアカデミー賞にもノミネートされた韓国系移民を描いた映画『ミナリ』にも主演。2023年にはネットフリックスで主演のダークコメディドラマ『Beef/ビーフ 逆上』が公開されました。
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チョン・ジョンソは2023年にはNetflixの『バレリーナ』で主演を務めました。
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映画『バーニング 劇場版』ネタバレ考察・最高のシュールレアリスム
映画『バーニング 劇場版』には多くの謎が残る。大きな謎を箇条書きにしてみよう。
- 猫のボイルは存在するのか
- ヘミは存在するのか
- ベンは存在するのか
こうやって書き出して見るとわかるが、登場人物の存在自体が謎になっているので、正しい答えなどない。ジョンスが精神を病んでいると考えられるので、この映画に現実と虚構の境界線は一切ないのである。
『バーニング 劇場版』は、むしろジョンスの深い潜在心理にスポットを当てた映画で、登場人物や風景は、彼の潜在意識を投影したものだと考えた方がよいだろう。
サラバドール・ダリや、ジョルジョ・デ・キリコの絵画は、人間の潜在意識にスポットを当てたシュールレアリスムというジャンルで括られることがある。映画『マルホランド・ドライブ』やドラマ『ツイン・ピークス』で有名なデヴィッド・リンチ監督の作風もシュールレアリスムに入る。
『バーニング 劇場版』もこのジャンルに入るだろう。最高のシュールレアリスム映画である。
村上春樹の原作『納屋を焼く』と比較解説(ネタバレ)
映画『バーニング』のもとになった村上春樹の短編小説『納屋を焼く』を読んでみた。
抽象的で独創的なメタファーが多くて素晴らしい小説だった。
小説では登場人物に名前はなく、既婚者で小説家である主人公に彼女ができて、その彼女にまたボーイフレンドができた後で、失踪するという内容。大筋はバーニングと一緒。
映画との主な違いは、主人公が既婚でそれほど変人に描かれていないところ。そしてラストも殺人などはなく、失踪しただけで終わる。
パントマイムの「みかんがあることを忘れればいい」や、主人公の家でのマリファナパーティーの描写、「納屋を焼くんですよ」発言は原作にも登場する。
そして村上春樹らしく、結局すべて謎のまま終わり、明確な答えはない。
ただ、原作を読むと、主人公にとっての納屋=彼女の関係があると思う。
そして主人公の心理状態としては、女を取られたことによる男性への嫉妬があった。
具体的に何があったか推測するとすれば、
- 男による嫉妬で抑圧された精神が、心の中の彼女の存在を消した
- 彼女はその男に殺された
- 主人公が彼女を殺して、失踪したと自らの記憶を書き換えた
これらが考えられる。
イ・チャンドン監督は、『バーニング』をジョンスが自分よりスペックの高いベンを殺す結末にし、納屋=彼女を喪失した恨みを晴らしたと表現したのだろう。
映画『バーニング 劇場版』ネタバレあらすじ感想
あらすじ1:ジョンスとヘミの出会い
主人公イ・ジョンス(ユ・アイン)は兵役を終え大学を卒業し、小説家になろうと定職につかずブラブラしていた。そこへ幼馴染のシン・ヘミが声をかけてくる。ブスだった彼女は整形して綺麗になっていた。ヘミと夜に酒を飲むと彼女はミカンを食べるパントマイムを見せ、「ミカンが無いことを忘れることが大事」と口にした。
ジョンスの父は傷害事件を起こし裁判中。
ジョンスは実家に戻り牛の世話をすることに。家には無言電話が掛かってくる。
ヘミはジョンスを自分のアパート呼び、2人は男女の関係になる。アフリカのケニアに旅行に行くといって、部屋の猫・ボイルの餌をジョンスに頼むが、猫のトイレはあるものの、猫の姿は1ヶ月以上見つけられなかった。
このパートの感想
主人公のイ・ジョンスは猫背でいかにも根暗な青年。ヘミはイタイ女の子という強烈な始まりである。しかも猫のボイルが存在するかしないかが“謎”で、いきなりシュールレアリスムな世界に片足を突っ込んでいる。
韓国の田舎の風景が昔ながらという感じでとても美しく、ジョンス役のユ・アインの演技力も半端ではない。感情の起伏はないながらも、モテない男性の鬱屈というものを十二分に表現している。「ミカンが無いことを忘れることが大事」というセリフも哲学的で、素晴らしいと思う。
あらすじ2:金持ちのベン登場
ケニアから帰ってきたヘミを空港に迎えに行くと、旅で一緒だったというベン(スティーヴン・ユァン)という男性の姿が。ジョンスはヘミの彼氏ではないかと心配するが、ベンはジョンスに親切に接する。3人でホルモン鍋を食べに行った。
後日電話があり、ジョンスはベンとヘミがいるお洒落な街のお洒落なカフェへ。ベンはヘミの手相を見ていた。その後、ベンが住む高級マンションに招かれ、ジョンスはトイレの棚に女性用の化粧セットがあるのを見て驚く。
ある日、ヘミがベンの高級車に乗ってジョンスの実家にやってきた。3人は庭でワインを飲みながら、ベンが出したマリファナを吸う。
ヘミは昔井戸に落ちてジョンスに助けられたと言うが、ジョンスは覚えていない。彼女は、急に上半身裸になって踊り出して寝てしまった。
ジョンスは、母親が出て行ったあと、父親の命令で母の服を燃やしたことがあり、今でもその夢を見ると話す。
ベンはジョンスに、“ビニールハウス”を燃やすという犯罪的な趣味を明かした。そして実は下見に来ていて、近々この近くのビニールハウスを燃やすという。ジョンスはヘミを愛していると話すと、ベンはなぜか笑った。
次の日、ジョンスはベンの車に乗って帰ろうとするヘミに、裸になるのは娼婦と一緒だと言い放った。
このパートの感想
根暗なジョンスが、ベンに経済力などの違いを見せつけられて、ヘミが彼の元に行くのではないかと内心心配しながらも、友達になりかけていて困惑するという、微妙な距離感がたまらない。ベンの“ビニールハウスを焼くのが趣味だ”と語る部分は、個人的にメチャクチャ名シーンだと思う。遠くを見ながら語るスティーヴン・ユァンの演技も物憂げで最高だった。
なぜビニールハウスを焼くのかというのは衝動的なもので、この話が本当なのか何もかも謎なんだけど、シュールで美しい世界観に脱帽という感じ。
あらすじ3:ヘミの失踪/ジョンスがベンを尾行
それ以降ヘミとの連絡が取れなくなった。ジョンスは毎朝走って近くのビニールハウスを周り、燃やされていないことを確かめる。
ジョンスはカフェに行き、ベンに話を聞くが、彼もヘミからなんの音沙汰もないということだった。
そしてベンはビニールハウスを確かに燃やしたという。
その後、ジョンスはベンを尾行するようになり、トレーニングジムや美術館、教会へ行く彼を観察する。ある時は、ベンが一人で山の上のダムに行った時も、バレないようについていった。ベンもジョンスの尾行に気づいていた。
ジョンスが実家で寝ていると、母親から電話があり、16年ぶりに会いたいという。ジョンスは母と会うが、彼女は借金の話しかせず、終始スマホをいじっていた。母親は、昔ヘミの家の近くに確かに井戸はあったという。
このパートの感想
一気にジョンスの挙動が怪しくなった。ただ根暗な青年かと思っていたら、明らかに“犯罪者予備軍”的な行動が目立ってきたのだ。それと同時にこの映画は、犯罪者側の視点で描かれているとわかり、それ自体がある種のサスペンスのカタルシスをもたらしてくれた。
バーニングラスト結末:ジョンスとベンの最期
マンションの下で張り込みをしていたジョンスは、ベンに見つかって部屋に招かれる。
部屋には前にいなかった猫がいた。ベンは捨て猫を拾ったと言う。トイレの棚にはジョンスがヘミにあげた時計があった。
ベンの彼女が来てドアを開けた際、猫は外へ逃げ出し、3人は駐車場を探す。ジョンスは駐車場で猫を見つけ、「ボイラ」とヘミの猫の名前を呼ぶとそばに寄って来た。ベンの部屋には彼の友達たちが次々にやって来る。ジョンスは途中で帰った。
ジョンスはビニールハウスが建ち並ぶ実家付近に、ベンを呼び出した。ジョンスは車から降りたベンを何度もナイフで刺して殺し、車の中に押し込んだ。血がついた服を全て脱いで全裸になり、車内にガゾリンを巻いてジッポで火をつける。
ジョンスは燃える車を直視せず、軽トラックで去って行った。
ラスト結末の感想
ラストの結末パートで『バーニング 劇場版』は、まさに“燃えた”。ジョンスの狂気が頂点に達したのだ。そして、明確な答えは何も出ないまま終幕を迎える。謎が謎のままで終わる浮遊感がたまらない。
最後のまとめ
『バーニング 劇場版』僕なりの見解を述べてみる。
ストーリーとしては、ジョンスがヘミを殺した!のだと思う。
それが彼にとっての“納屋を焼く”ではないか。
ヘミを殺した原因はベンへの嫉妬なので、原因となったベンも殺した。
ジョンスは現実と妄想の間で生きつつ、犯行に及んでしまったのだ。
いろんな解釈があると思うが、これほどの狂気を孕んでいる傑作はそうはない。
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