『愛すべき夫妻の秘密』感動と狂気のラストシーン:ネタバレ考察
映画『愛すべき夫妻の秘密』では、感動と絶望を同時に表現した理屈を超えたラストが絶品でした。
ハビエル・バルデム演じるデジが共産党員疑惑を払拭に成功した直後にニコール・キッドマン演じるルーシーが夫の浮気の証拠を突きつけ、ルーシーの中で大切な何かが崩壊していくシーンです。映画でしかできない表現だと思います。
ルーシーがシットコムで繋ぎとめていた理想と現実がバラバラになっていくさまは、悲劇と喜劇が同時に訪れたようで耽美的。
そして本番、ルーシーは自分でこだわって変更したシーンのセリフを飛ばしてしまいます。
ルーシーがデジの帰宅に気づかず立ち尽くすと提案した場面は、もともとの台本の目隠し名前当てゲームになりました。
ルーシーの夫に気づいてほしい気持ちがそのまま反映されたシーンを自らつぶしてしまった格好です。
この時ルーシーは、夫デジの「I’m home(ただいま)」という声を、いつもと同じ心境で受け取れずショックを受けているようです。
自分のキャリアと“家庭”という夢の結晶である「I Love Lucy」が単なるテレビ番組でしかないと気づいたのでしょう。
切なすぎる演出ですね。アーロン・ソーキンは天才だと思いました。
複雑な構造
『愛すべき夫妻の秘密』は、ルーシーとデジ夫妻に共産党員疑惑と不倫疑惑という番組存続の危機が降りかかり、J・Kシモンズ演じる共演者や脚本家マデリンたちとの皮肉的なやり取りを含めて、シットコム制作の裏側をセリフの読み合わせ・リハーサル・本番の流れで展開していくストーリー。
ルーシーたちの馴れ初めなどの過去も、随所に差し込まれて行きます。
ここに、数十年後の脚本家マデリンや製作総指揮ジェスを別の役者に演じさせた当時を回想するインタビューまで入ってくるのが1番のスパイス。ドキュメンタリー色を強め、ノスタルジーが感じられる仕上がりになっていました。
また、終盤に差し掛かる丁度そのときに時系列的に1番後である、すでに娘が生まれているルーシーが深夜2時に共演者を呼び出し、新たな演出を稽古させる狂気がポンと差し込まれいるのも、ラストの感動に向かって効果的に機能しています。
ルーシーや脚本家たちがセリフについて議論する際にルーシーの頭の中で白黒のシットコム映像が流れているのも面白い演出です。
そもそも主人公ルーシーをはじめとした登場人物たちの会話自体にジョークが踏んだんに盛り込まれ、シットコムの舞台裏でシットコムを見ているような多重構造的でもあります。
『愛すべき夫妻の秘密』は、野心的かつ計算しつくされた構造により、単にシリアスなヒューマンドラマとしての素晴らしさのみならず、1つの芸術と呼ぶに相応しい作品に仕上がっていると感じました。
最後のまとめ
映画『愛すべき夫妻の秘密』は番組の危機をプロ意識とユニークなアイデアで切り抜ける過程がバランスよく描かれた傑作でした。
もう年末ですが、個人的に2021年見た作品の中で1位・2位を争う素晴らしい映画だと思います。
エンタメ全盛の現代だからこそ、演技・セリフ・演出すべてが高次元でシンクロしたような本作のような作品を大事にしたいですね。
視聴者の人生に哲学的・メタ的に何らかの気づきを与えてくれる映画は価値があります。
また、Amazon スタジオがハイレベルなヒューマンドラマを提供できると証明したと言えるでしょう。(このレベルの作品が揃うなら将来Netflixを抜くかも。)
ここまで読んでいただきありがとうございます。映画『愛すべき夫妻の秘密』レビュー終わり!
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