Amazonオリジナル映画『愛すべき夫妻の秘密』は、ニコール・キッドマンとハビエル・バルデム主演で、アメリカで1950年代に毎週6000万人が視聴したとされるシットコム『アイ・ラブ・ルーシー』の主人公で実生活でも夫婦だったルーシーとデジの栄華と苦悩を描いた傑作。
劇中で撮影されるシーンはコメディでありながら、逆に登場人物の心情吐露の装置となっている巧みな構造で、ラストのドラマティックな展開に心を揺さぶられます。
ネタバレなしのあらすじと見どころ、ぶっちゃけ感想・評価、ラストシーンのネタバレ考察を読みたい人向けに記事をまとめました。
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです)
映画『愛すべき夫妻の秘密』キャスト・作品情報
原題:Being the Ricardos
監督:アーロン・ソーキン
脚本:アーロン・ソーキン
撮影:ジェフ・クローネンウェス
製作:Amazon Studio
アーロン・ソーキンが、『モリーズゲーム』(2017)、Netflix『シカゴ7裁判』(2020)に続いて監督・脚本を務めます。
ルシル・ボール(ルーシー)役|ニコール・キッドマン
ルーシーは、数々のテレビ番組・映画で名を馳せた実在のスター女優。なかでも1950年代に放送された「I LOVE LUCY」(アイラブルーシー)は国民的な人気番組となり、その重圧たるや相当なものでした。
演じたニコール・キッドマンはルーシー本人に似せているのか眉が細すぎるのが気になりましたが、エレガントな仮面の裏に潜むプロ意識・狂気・苦悩を迫力満点で表現していました。演技のうまさとか以上に、凄みが先に伝わって来る感じ。ほんと名女優ですね。本作で2022年のゴールデングローブ賞主演女優賞に輝きました。
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デジ|ハビエル・バルデム
デジはルーシーの夫。シットコム「アイラブルーシー」にはプライベートと同じく夫婦役で出演して、製作にも大きく携わっています。
ハビエル・バルデムはスペインの俳優で、ペネロペ・クルスの旦那さん。『ノーカントリー』の助演男優賞獲得で世界的に認知され、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『デューン砂の惑星』(2021)にも出演しています。
本作では人たらしでしたたかなデジの役柄を完璧に演じていました。
ウィリアム|J・K・シモンズ
ウィリアムは「アイ・ラブ・ルーシー」に登場する俳優。常に相手役の女優ヴィヴィアンに文句を言っています。
俳優J・K・シモンズは映画『セッション』のフレッチャー教官役で有名な個性派。
本作では酸いも甘いも噛み分けた老俳優を貫禄たっぷりに表現していました。
ネタバレなし感想・見どころ・あらすじ
あらすじ:実生活でも夫婦のルーシーとデジがリカード夫妻役を演じるシットコム「アイ・ラブ・ルーシー」は、全米で6000万人が視聴するモンスター番組に成長していました。そんな中、ルーシーの共産党員疑惑とデジの不倫報道が新聞に掲載され、番組存続の危機に…。渦中での台本読み合わせから本番収録までの激動の1週間を描きます。
エンタメ寄りではないですが、考え抜かれたセリフ・会話によって感情の機微が巧みに表現された傑作です。
ラストの複雑な感情表現が秀逸で、ハイクオリティなヒューマンドラマが見たい人はぜひAmazonプライムで視聴しましょう!
おすすめ度 | 84% |
キャストの演技 | 87% |
ストーリー | 90% |
IMDb(海外レビューサイト) | 7.0(10点中) |
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト) | 批評家70% 一般73% |
※以下、映画『愛すべき夫妻の秘密』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『愛すべき夫妻の秘密』ネタバレ感想・評価
アーロン・ソーキン監督作品の中でもNo.1の完成度だったと思います。
Netflix『パワー・オブ・ザ・ドッグ』と並んでアカデミー賞レースにも絡んでくるのでは?と感じられる切れ味抜群の映画でした。
- ルーシーが脚本家や監督にダメ出しをしまくるプロ意識が光る前半
- デジとの馴れ初めやすれ違いを描き、シットコムに理想の夫婦生活を重ねていることがわかる中盤
- シットコムでルーシーの心情を痛切に表現した後半
こんな感じの構成でシュチュエーション的な盛り上がりよりも主人公ルーシーの感情がジェットコースターのように揺れ動いているのが見て取れ、心を打たれました。
登場人物がセリフや展開を話し合う場面で、ルーシー、デジ、制作のジェス、脚本のマデリンらが意思疎通できているようで、全員バラバラなことを言っているシーンなども見事。
全体的に、セリフ自体が洗練されていてかつ笑えました。
後半でルーシーの共産党員疑惑が晴れるかどうかがかかる収録の前に、J・K・シモンズ演じる共演者や脚本家がルーシーの周りに集まります。
この時の会話も直接的な言葉でルーシーを励ますのではなく、「アイ・ラブ・ルーシー」というシットコム番組におけるそれぞれの役柄の本質を語り合うことで心情吐露し、結果的に彼女を勇気づける流れが巧みです。
感動と狂気のラストシーン:ネタバレ考察
映画『愛すべき夫妻の秘密』では、感動と絶望を同時に表現した理屈を超えたラストが絶品でした。
ハビエル・バルデム演じるデジが共産党員疑惑を払拭に成功した直後にニコール・キッドマン演じるルーシーが夫の浮気の証拠を突きつけ、ルーシーの中で大切な何かが崩壊していくシーンです。映画でしかできない表現だと思います。
ルーシーがシットコムで繋ぎとめていた理想と現実がバラバラになっていくさまは、悲劇と喜劇が同時に訪れたようで耽美的。
そして本番、ルーシーは自分でこだわって変更したシーンのセリフを飛ばしてしまいます。
ルーシーがデジの帰宅に気づかず立ち尽くすと提案した場面は、もともとの台本の目隠し名前当てゲームになりました。
ルーシーの夫に気づいてほしい気持ちがそのまま反映されたシーンを自らつぶしてしまった格好です。
この時ルーシーは、夫デジの「I’m home(ただいま)」という声を、いつもと同じ心境で受け取れずショックを受けているようです。
自分のキャリアと“家庭”という夢の結晶である「I Love Lucy」が単なるテレビ番組でしかないと気づいたのでしょう。
切なすぎる演出ですね。アーロン・ソーキンは天才だと思いました。
複雑な構造
『愛すべき夫妻の秘密』は、ルーシーとデジ夫妻に共産党員疑惑と不倫疑惑という番組存続の危機が降りかかり、J・Kシモンズ演じる共演者や脚本家マデリンたちとの皮肉的なやり取りを含めて、シットコム制作の裏側をセリフの読み合わせ・リハーサル・本番の流れで展開していくストーリー。
ルーシーたちの馴れ初めなどの過去も、随所に差し込まれて行きます。
ここに、数十年後の脚本家マデリンや製作総指揮ジェスを別の役者に演じさせた当時を回想するインタビューまで入ってくるのが1番のスパイス。ドキュメンタリー色を強め、ノスタルジーが感じられる仕上がりになっていました。
また、終盤に差し掛かる丁度そのときに時系列的に1番後である、すでに娘が生まれているルーシーが深夜2時に共演者を呼び出し、新たな演出を稽古させる狂気がポンと差し込まれいるのも、ラストの感動に向かって効果的に機能しています。
ルーシーや脚本家たちがセリフについて議論する際にルーシーの頭の中で白黒のシットコム映像が流れているのも面白い演出です。
そもそも主人公ルーシーをはじめとした登場人物たちの会話自体にジョークが踏んだんに盛り込まれ、シットコムの舞台裏でシットコムを見ているような多重構造的でもあります。
『愛すべき夫妻の秘密』は、野心的かつ計算しつくされた構造により、単にシリアスなヒューマンドラマとしての素晴らしさのみならず、1つの芸術と呼ぶに相応しい作品に仕上がっていると感じました。
最後のまとめ
映画『愛すべき夫妻の秘密』は番組の危機をプロ意識とユニークなアイデアで切り抜ける過程がバランスよく描かれた傑作でした。
もう年末ですが、個人的に2021年見た作品の中で1位・2位を争う素晴らしい映画だと思います。
エンタメ全盛の現代だからこそ、演技・セリフ・演出すべてが高次元でシンクロしたような本作のような作品を大事にしたいですね。
視聴者の人生に哲学的・メタ的に何らかの気づきを与えてくれる映画は価値があります。
また、Amazon スタジオがハイレベルなヒューマンドラマを提供できると証明したと言えるでしょう。(このレベルの作品が揃うなら将来Netflixを抜くかも。)
ここまで読んでいただきありがとうございます。映画『愛すべき夫妻の秘密』レビュー終わり!
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