映画『Us/アス』は、『ゲット・アウト』(2017)や『NOPE/ノープ』(2022)の監督ジョーダン・ピールが2019年に送り出したサスペンスホラー。
サスペンスホラーの王道の要素を多く含みながらも、セリフやシーンの生々しさ、予想できてもゾッとしてしまうドギツイエンディングなど、斬新な表現がたくさんあって楽しめた。
そこで、なぜ『Us』ではリアリティ溢れる恐怖が堪能できたのかを徹底考察。
完全にネタバレしているので、『Us』をまだ観てない人は注意して欲しい。
映画『Us/アス』ラスト考察(ネタバレ)
予想できた結末を見せられたにも関わらず、なぜ『Us』で背筋が凍りつくような恐怖を体験できたのか?
入れ替わっていたという事実も怖いが、厳密にいうと恐怖を生んでいるのは、その部分ではない。
恐怖の正体は、視聴者が感情移入していた幼いアデレードが地下でずっと暮らす羽目になったという事実ではないだろうか。
幼い少女が地下に閉じ込められて30年も悲惨に生きる。
ウサギを生で食べる環境で、誕生日プレゼントはハサミ……。そこで30年!辛すぎる!気が狂う!
こんな風に、拷問よりつらい幼女アデレードの人生がチラッと垣間見えたからこそ、視聴者の背筋が凍りついたのだと思う。
だからこそ、子供時代に入れ替わっていると予想できていても十分ゾッできた。
彼女は仮面の下で失望し、泣いていたのだろう。
逆に、地上で暮らしていたアデレードの心境の変化から考えても面白い、レッドの仮面を剥いでみれば正体は自分だったわけだ。
- アデレードの悲惨な人生
- レッドの正体は自分だという事実
2つの要素を同時に想像させるトリックが、大きな恐怖を生み出したのだと思う。
映画『Us/アス』テザード(クローン)の存在理由を考察!
クローンであるテザードは英語で書くとtethered、家畜を繋ぐ鎖を指すtetherから来ている。
“魂が繋がれた存在”という意味でtetheredなのだろう。
しかし、テザードがどうやって生まれてくるかは全くの謎。未だに存在している理由も謎だ。
もともとアメリカ政府の研究だったことは確かで、クローン技術に成功したが、魂は元の人間と一緒。
それが理由で、クローンであるプルートーが、ジェイソンと同じ動きになったり、似たような人生を歩むらしい。
『Us』のクローンかつドッペルゲンガーという設定は、どちらかといえばホラーやサスペンスというよりSFファンタジーに近いだろう。
ただ『Us』の特権階級への復讐というテーマから分かるのは、テザード自体は地上に生きる人にとって必要で、何らかの意味があるということ。
そうでなければ、今だに施設が存在している意味がなくなってしまう。(リアルに考えれば管理者もいるはずだが…)
そこで、クローンがいることで地上にいる人々には、どんなプラスがあるか推測してみる。
テザード(クローン)は痛みや不幸を被ってくれる
推測だが、テザード(クローン)は地表にいる人間とペアになっていて、テザード側が痛みや不幸を被ってくれると考えてみると、それがテザードが存在する理由にならないだろうか。
クローンが痛みを受けることで、物理的に地表で生きる人間の痛みは和らぐのだ。
魂が繋がれているテザードなら、その可能性はありそう。
だから不幸な暮らしを強要されているのかもしれない。
テザードが不幸になるぶん、地上の人間が幸福になるという可能性がある。
怪我なども、クローンが被ってくれそうじゃないか?
ジェイソンのテザードであるプルートーには顔にただれた傷があるが、ジェイソンが怪我や火傷を負うはずだったのが、プルートが代わりにそれ被ったのかもしれない。
ジェイソンとプルートー入れ替わり説/火傷の伏線(ネタバレ)
家族全員襲われているのにアデレードの息子・ジェイソンは冷静沈着。
さらに、自身のテザードであるプルートーとテザリング(接続)して、彼の動きをコントロールする術を知っていたのも怪しい。
もしかするとジェイソンとプルートーも、アデレードとレッドのように入れ替わっていたのではないかという説もある。
一番の根拠は、冒頭の車のシーンでアデレードとジェイソンだけ音楽にノれていないこと。地下から来たので、リズム感がないのだろうか。
しかし、主人公のアデレードは幼少期のトラウマから、今までサンタクルーズには行ってもビーチには絶対近づいていないので、彼女の子どもの幼いジェイソンが1人でビーチに行って入れ替わっていたという線は薄い。
同じ動きをするテザリングも、ジェイソンはコテージの小屋でプルートーと一緒にいた時も確かめていて、いきなり使ったわけではない。
ただ、地下へ通じるビーチ以外の出入り口もあるようなので、そこで入れ替わった可能性はある。ジェイソン=プルートー入れ替わり説は否定できない。
今のプルートー(もともとジェイソン)は顔に大火傷を負っている。序盤で「去年の火のマジック」という会話があったので、それが伏線なのかもしれない。
マジックが原因で火傷を負い、その後入れ替わった可能性もある。
明確な答えはないが、「もしかするとジェイソンとプルートーも入れ替わっていたかも…」と考えると、この映画の余韻に浸れる。
地下のテザードたちが決起した理由はレッド
なぜテザードたちは、今頃になって地表を奪おうと決起したのか?
ウサギの生肉を喰らう生活なら、もっと早く決起しろよ!と聡明な視聴者なら思うかもしれない。
この点は、決起を計画した人物がレッド=アデレードだと考えると合点がいく。
テザードたちはレッド以外喋れる様子はない。理性もなさそうだ。つまり計画など立てられない。
しかし、子ども時代まで地上で過ごしたレッドなら、理性も知能も発達している。彼女は地下から脱出できずに、大人になるまで計画を練っていたのだろう。
映画『Us/アス』ネタバレあらすじ結末解説
あらすじネタバレ1:そっくりな家族
1986年、少女・アデレートは、サンタクルーズにあるビーチ沿いの行楽地で迷い、自分のドッペルゲンガーと会って失語症になってしまった。
現在、成長したアデレードは、夫のゲイブや子どもたちと、休暇でサンタクルーズのコテージに滞在していた。
しかし夜になると、自分たちそっくりの邪悪な家族が出現。
あらすじネタバレ2:レッドたちテザード家族
レッドと名乗るアデレードそっくりな女性は、自分たちはテザード(クローン人間)であると語る。
レッドは自分の分身であるアデレードが裕福な生活をしていることを恨み、復讐しようとした。さらに地下にいる地表の人間たちのクローンを決起させ、地上を占拠しようとしていたのだ。
友人家族らが、クローンのテザードに殺されて行く中、アデレートの家族は隙をみてレッドたちから逃げる。
逃げ惑う最中、レッドの家族たちを倒していったものの、レッドがジェイソンをさらっていった。
Usのラストネタバレ:レッドの正体
アデレードはレッドを追い、サンタクルーズビーチの地下にある施設へ。そこはテザード(クローン人間)たちが暮らす場所だった。
アデレードはなんとかレッドを殺害。ジェイソンを助け出す。
しかし彼女は、1986年の子供時代にアデレードを気絶させ、入れ替わったことを思い出していた。
アデレードこそがレッドだったのだ。
映画『Us』END!
微妙な点。結末の予測が容易
映画『Us/アス』の中盤くらいから、アデレードがレッドと入れ替わっているんだろうな〜と予想できた人は多いのではないか。
アデレードが、ビーチのミラーハウスでドッペルゲンガーに会った過去のシーンが何度も出てくるからだ。
このとき入れ替わっているのだろうと、サスペンスやミステリーが好きな人は容易に予測可能だろう。
クローンと本物が入れ替わっているというのは、お決まりなオチだ。
この映画の難点をいえばそこくらいだろう。
ただし、それをシンプルにそのままやったわけではない。
入れ替わりの見せ方がとても上手く、恐怖を掻き立ててくれたのが『Us』という映画なのだ。
テーマ解説
映画『Us/アス』で出てきたテザードたちクローンは、貧困社会で生きる人々のメタファーであることは、ジョーダン・ピール監督もインタビューで明らかにしている。
一部の特権階級の人々が楽しい暮らしは、他の人々の悲惨な生活の上で成り立っているという社会問題が、『Us』のテーマである。
そしてアデレードとレッドの正体が入れ替わるというオチから、貧困社会で苦労して生きる人々は、特権階級の人々と違いはない!と明確に訴えている。
映画『Us』のテーマは、2020年6月に起きた黒人差別抗議デモにも通じるだろう。
黒人男性ジョージ・フロイドさんが、白人警官によって胸を押さえつけられ死亡してしまった痛ましい事件の根底には、差別と貧富の格差があるからだ。
映画『Us/アス』作品情報・キャスト
- 公開:2019/03/22
- 監督・脚本/ジョーダン・ピール
- 主演/ルピタ・ニョンゴ
- 出演/ルピタ・ニョンゴ(アデレート、レッド役) 、ウィンストン・デューク(夫ゲイブ役)、エヴァン・アレックス(ジェイソン、プルートー役)
監督のジョーダン・ピールは、黒人差別サスペンススリラー『ゲット・アウト』で大成功した人物。
主演女優のルピタ・ニョンゴは、『それでも夜は明ける』でアカデミー賞助演女優賞を獲得した実力派。マーベルの『ブラック・パンサー』では主人公の恋人役として出演している。
最後のまとめ
これまでの考察を総合して映画『Us/アス』を捉えるなら、
資本主義社会や差別の問題をベースにした、異質なホラー映画
という結論になるだろう。
『ゲット・アウト』もそうなのだが、ジョーダン・ピール監督は、社会性のあるテーマに見せかけて、まったく新しいタイプのホラーを作り出している。
差別というテーマは先にあったものの、監督の芸術性を加えることで特異な映画になったという印象。
黒人であるジョーダン・ピール監督が社会的なテーマを盛り込みたいのは事実にしろ、彼のアート性が、そこだけにスポットを当てることを許していないということだ。
上手くいえないが、おそらく彼は人間の魂が恐怖する瞬間を探し求めているのだろう。
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