映画『ゲット・アウト』ネタバレ考察!最高のホラーである理由,黒人差別の究極形・解説レビュー

  • 2024年1月21日

映画『ゲット・アウト』(Get Out)が最高のホラーである理由を深堀り考察しています!

Us/アス』(2019)や『NOPE/ノープ』(2022)の奇才ジョーダン・ピール監督が2017年に世に送り出して高く評価された本作。その恐怖の本質・実社会に通じる普遍的なメッセージはなんなのか。

新たな視点で徹底解説してみました!

映画『ゲット・アウト』作品情報・キャスト

公開・制作国・上映時間:2017/02/24・アメリカ・103分
原題:『Get Out』
ジャンル:サスペンスホラー
監督・脚本ジョーダン・ピール
撮影:トビー・オリヴァー
音楽:マイケル・エイブルズ
出演者:ダニエル・カルーヤ(『ザ・キッチン』)、アリソン・ウィリアムズ、ブラッドリー・ウィットフォード、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、キャサリン・キーナー、リル・レル・ハウリー、スティーヴン・ルート、ラキース・スタンフィールド

映画『ゲット・アウト』考察(ネタバレ)

沈んだ地で生きる恐怖

映画『ゲット・アウト』涙を流す主人公クリス

映画『ゲット・アウト』でゾッとするような恐怖が味わえる大きな理由は、体を乗っ取られる側の黒人の意識も“沈んだ地”という場所に存在し続けること。

意識だけが幽閉された暗闇のような場所と表現されていました。

『ゲット・アウト』は裕福な白人が若い黒人と脳を入れ替えてさらに長く生きよう!というお話ですが、完全に脳を入れ替えられるわけではなく一部分は残されます

シネマグ
他人の脳とミックスされた挙句、意識の牢獄に閉じ込められるところに根源的な恐怖が宿っていますね。

単に、脳を入れ替えられて死ぬのではなく、一部入れ替えられて意識はぼんやりとある状態。しかし体は白人に乗っ取られてしまっています。

意識だけあって体は動かない。金縛り状態に陥るような恐怖ですね

その状態がずっと続くなんて『ジョニーは戦場へ行った』並みの生き地獄でしょう。

すでに手術されていた黒人使用人ジョージナやウォルター(結局、その家のおばあちゃんとおじいちゃんの脳が黒人の体に入ったもの)も、意識が一部ありながら何もできない苦しさで涙を流しているのだと思います。

『ゲット・アウト』の視聴体験では幽閉された精神の虚しさが垣間見え、そこに殺されるよりも辛い恐ろしさが潜んでいます。

変な行動をする黒人使用人かと思っていたら、正体は黒人の体を乗っ取った恋人・ローズのおじいちゃん・おばあちゃんだった!というサスペンスホラーとして優れたどんでん返しのラスト。

それに加え、画面にただよう“抑圧された精神”の息苦しさが本作を傑作たらしめたのです。

黒人を乗り物として見る倫理的な嫌悪感

倫理的な違和感のピークは中盤に開催されたパーティーでしょう。

パーティー客は裕福な白人で、主人公で黒人のクリスの体を乗っ取るかの品定め…クリスの体を誰が落札するかのオークションのために来ていたのでした。

クリスに話しかける白人はみな、黒人の肉体的な強さや文化をものすごく褒めており違和感です。

あとからわかることですが、心から黒人文化を称賛しているというよりは、自分の脳が乗り移る“乗り物”として褒めているに過ぎません。

かつて黒人奴隷が家畜のような扱いをされた暗黒の歴史がありますが、本作においては家畜ですらなく“物”です。

クリスというちゃんと人格のある黒人青年を、ハイスペックな車を見るように眺める。

シネマグ
集まった白人たちの倫理観に背筋の凍るものを感じます

『ゲット・アウト』抽象的なテーマ解説(ネタバレ)

目が欲しいと語る盲目の画商

クリスの体をオークションで落札した盲目の画商は終盤で、縛られたクリスに向かってモニター越しに「お前の目が欲しい」と言います。

盲目なので機能する目がほしいという理屈はわかりますが、ダブルミーニングのような気がしてなりません。

黒人の視点がほしいと言っているようにも聞こえます。

盲目の画商は黒人の体や文化を崇拝するあまり、黒人の目で社会を眺めてたいと思ったのかもしれません。

黒人としての社会生活に強い興味があるのでは?

「君の目で世界を見たい」→「君の差別を体験してみたい」という意味を含んでいるかのようで、半端ない異常性があるようにみえます。

感想を語る犬
白人が、黒人差別まで自分たちの文化に取り込んでやろうとしてるみたいで、ショッキングなやり取りだと思いました。

黒人文化の乗っ取り

視点を広げると『ゲット・アウト』の黒人の体を乗っ取ることが、白人が黒人の文化を乗っ取ることのメタファーになっていると思いました。

黒人の体や心など人権だけを踏みにじるのではなく、称賛し、差別される側の視点まで得て社会を再体験したいかのような表現。

黒人が持っているいいものは根こそぎ奪おう!みたいなイメージですね。

いわゆる「文化盗用」のシニカルな問題提起になっています。

ちなみに文化盗用とは、例えばフランスのデザイナーが和服をめちゃくちゃセクシーにして発表したりすることです。

文化が変わってしまう危機はありますが、他の文化に興味を持って真似るのは日本的な感覚からすればいいことでもある気がしますよね。

ただ、黒人文化においては、例えばブルース・ロック・ジャズなど黒人が発明した音楽を白人たちが演奏し、白人たちがスターになり、バックで演奏している黒人ミュージシャンに金がほとんど入らなかった、などの悲しい歴史があります。

「白人は俺たちのカルチャーまで持っていきやがった!」みたいな意識を多くの人が持っているのでしょう。

モノ扱いされ、体を奪われ、意識は閉じ込められ、黒人の視点・差別されるという文化まで白人に体験される

シネマグ
そんな黒人の歴史を究極的にシニカルに表現したのが『ゲット・アウト』だと思いました。