『グエムル-漢江の怪物-』(英題:The Host)は傑作だが、『パラサイト半地下の家族』と比べると、非常にテーマわかりにくかったと思う。
そこで、ポン・ジュノ監督がこの映画で伝えたかったことは何なのか?
あらすじネタバレをわかりやすく書き、考察して徹底解説します!
映画グエムル漢江の怪物 ぶっちゃけ感想(ネタバレなし)
『パラサイト半地下の家族』みたいにエンタメに振り切っているわけではないし、『殺人の追憶』や『母なる証明』のように人間の闇を暴く感じもなかった。
興味深いし、良作の部類に入ることも間違いないけど面白い!というより興味深いタイプの作品。
さまざまなテーマを取り込み、シーンによってジャンルが切り替わる『パラサイト半地下の家族』のような手法は本作で完成したのだという印象。
『グエムル漢江の怪物』ネタバレ考察:セウォル号?
国家間の力の差が国民の命を奪う
あらすじ1部分で、在韓米軍が薬品を捨てさせるところは、明らかなアメリカ批判になっていて、環境汚染や国家間の格差を指摘している。
どこかの誰かのせいで怪物が誕生し、罪のない人が死んでいくのだ。
ネタバレ4も一緒で、米軍が韓国政府を意に介さず、デモ隊がいる状況下で危険な薬を散布する様子は、国の争いに巻き込まれて命を落とす国民そのもの。貧乏な国民の命は、強い国の気分次第ということだろう。
ただ、社会の格差問題だけではなく、韓国社会システム全体を批判している。
セウォル号沈没事故のメタファー
映画グエムルの公開は2006年だが、2014年のセウォル号沈没事故に重なる。
劇中の怪物をセウォル号に置き換えても、カンドゥたち遺族の言動に違和感はない。(セウォル号は救助の遅れで299人の死者を出した事故)
もちろんセウォル号が本作の直接モチーフになったわけではないが、似たようなことを韓国国民はずっと経験してきているのだと思う。
グエムルの大きなテーマは、自分を優先させて人のことを考えて行動できない社会への批判だ。しわ寄せを受ける人々を映画で表現しているのだろう。
グエムルはセウォル号のメタファー、ひいては韓国社会システムの象徴なのだ。
遺族が肉親を二回失う悲しみと憎しみ
さっきの社会システム=グエムルにつながる話だが、本作では、遺族が災害で肉親を失うショックを何回も受けることを具体的に表現している。
娘・ヒョンソは冒頭で怪物に喰われたときに(結果生きていたが)、父・カンドゥらは大きな悲しみを受け、さらにラストでは少し間に合わず救えるはずだった娘が目の前で死んでしまう。
現実に話を戻すと、遺族は第一に事故・災害など直接的な原因を悲しみ憎む。のちに社会構造による人災もあったとわかると、システムに肉親を殺されたように感じ、二度目の大きなショックを受けるのである。
その点が映画グエムルではわかりやすく伝えられた。
『グエムル-漢江の怪物-』ジャンルレスな特徴を考察
グエムルを見て、「ジャンルは何なの?」と感じ、入り込めなかった人は多いかもしれない。
モンスターパニックかと思いきや、コメディシーンがたくさんあるし、家族愛も描かれている。環境問題や社会システムへの風刺もあり、盛りだくさんだ。
グエムルの特徴は、カテゴリー分けに困るジャンルレスなところだといえる。
『パラサイト半地下の家族』の記事で、クライムコメディ、ステルスゲーム、サスペンスホラーの3部構成になってると解説したが、グエムルの場合は複数のジャンルが常にごちゃまぜ状態。
例えば娘・ヒョンソの葬式シーンは主人公の家族たちの破天荒ぶりはコメディだけど、笑っていいか微妙な気分になる。
映像の構図や展開からは、ポン・ジュノ監督は非常に計算高いとわかるので、あえてジャンルわけできないスレスレの配分で描いてオリジナリティを出しているのだろう。
あとは、モンスターパニックで社会風刺をやった点がとても斬新。
パンデミックで社会問題を指摘した映画『コンテイジョン』に笑いまで取り入れた感じだ。
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