マルホランド・ドライブ 考察「難解な階層を紐解く新解釈」ネタバレあり解説

  • 2024年3月7日

デヴィッド・リンチ監督の映画『マルホランド・ドライブ』(2001)は定期的に見たくなる作品の1つです。

シネマグ
もう何回見たかわかりません。それでも見るたびに新しい発見があります。

数年前にも長い考察記事↓を書いたのですが、今回はまた新解釈を発見できたので なるべくわかりやすく説明していきます。

マルホランドドライブの細かい考察はコチラ

映画『マルホランド・ドライブ(mulholland drive)』を久しぶりに鑑賞。また新たな発見をすることができました! 鬼才デヴィッド・リンチ監督の最高傑作にして難解といわれる作品ですが、考えれば考えるほど深みにハマって面白い! […]

『マルホランド・ドライブ』

(しかしやはり、考察記事を描きながら何度も頭がおかしくなりそうでした。やはり『マルホランド・ドライブ』は一筋縄じゃいかない…)

記事は全編ネタバレありなので注意してください。

マルホランド・ドライブ定説の解説

いきなり新解釈から入ると混乱すると思うので、まずは前提として『マルホランド・ドライブ』解釈の定説を書いておきます。

簡単にいうと、前半がダイアン(ナオミ・ワッツ)の夢であり、後半がダイアンが見ている現実という解釈です(回想も混じっています)。

  1. ハリウッドに出てきたものの全然売れないダイアンが、嫉妬と絶望から恋人で売れっ子女優・カミーラ(ローラ・ハリング)の暗殺を依頼
  2. カミーラが死なないで、自分と一緒になる願望が夢に現れる(リタとベティが登場する前半部分)
  3. 暗殺完了の合図(青い鍵)を見て絶望し、自殺するラスト

夢ではリタ→現実ではカミーラ

夢ではベティ→現実ではダイアン

上記のねじれた構造があります(フロイト的ですね)。

前半でベティ(ナオミ・ワッツ)が「夢みたい」と言うと、それを聞いたリタがクラクラとよろけるシーンなどがあります。夢だと判明するのを恐れているようです。

前半が夢の世界であることは確かでしょう。

マルホランド・ドライブ考察:新解釈

腐乱死体の夢:夢のねじれ構造

この映画に正解がない点を踏まえて新しい解釈を結論からいうと、夢パート自体が階層を持ち、ねじれ構造になっているというものです。

ダイアンの夢自体が2層以上になっており、ところどころで層が繋がっているということ。

(クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』の設定に近いと言えばわかりやすいかもしれません。)

開始時点のリタの事故は、夢のそのまた夢です。

ダイアンが見ている第1層目の夢は、自分がベッドで腐乱死体となっているフェーズ。

シネマグ
つまり、『マルホランド・ドライブ』の前半は夢の中の夢で、腐乱死体が見ている夢となります。

2層目の夢にいたリタとベティが腐乱死体を見つけるところで1層目の夢にコネクト(接続)→そして青い鍵と箱で現実に引き戻されるのです。

腐乱死体がありルース叔母さんが生きている世界がダイアンの1層目の夢であり、2人がいちゃつく理想世界は2層目の夢(夢でみた夢)となります。

リタが青い箱に吸い込まれていき、青い箱が床に落ちます。ここでルース叔母さんが登場しますが、青い箱はありません。

ルース叔母さんは現実では死んでいるはず(カミーラの婚約パーティーでのダイアンの発言より)。ということはルース叔母さんのシーンも夢です。

リタとベティが腐乱死体を発見する直前にルース叔母さんらしき人がいるので、ルース叔母さんと腐乱死体がいるのは同じフェーズと考えていいかもしれません。

ダイアンの現実パートへ行く直前に、黄色いカウボーイがベッドで寝ている女性を起こしにきます。

カウボーイが1度みたときは普通に寝ているだけ、次の映像では腐乱死体になっています。

腐乱死体になっているだけでなく、マットが破けているのがわかります(ベティとカミーラが死体を見つけたときと同じ状態)。

時間経過というより、それぞれのカットが別の次元(夢の階層構造)と考えたほうがいいかもしれません。

カウボーイが2回起こしに来たようにも見えます。

2回というのはカウボーイがアダム監督に言った「成功すれば1回会う。失敗なら2回会う」のセリフと繋がりがあるようです。

シネマグ
1回起こされるだけなら夢は覚めない(夢が2層以上なので)2回起こされると最悪の現実に戻ってしまう示唆でしょう。

3層目の夢:ウィンキーズ

ウィンキーズでダンともう1人の男が会話しているシーンがあり、ダンは店の裏に回って黒い男に遭遇。ダンは恐怖で死亡します。

(店の中でコーヒーカップがひっくり返っているのは、現実でないことの暗示です。)

そのあとでリタが目覚めるカットが繋がれているので、ウィンキーズのシーンはリタが見た夢に見えます

つまり夢の中の夢の中の夢です。

現実離れしすぎている間抜けな殺し屋のシーンや、アダム監督が不当な扱いを受けるシーンも3層目の夢かもしれません。

ダイアンの夢がカミーラの霊魂を捕える

夢の階層構造を整理してみましょう↓

  1. 腐乱死体とルース叔母さんがいるフェーズ1
  2. リタとベティのフェーズ2
  3. ウィンキーズのフェーズ3

これらすべてがダイアンの夢であり、「全登場人物とその行動はダイアンの願望の具現化」とまとめることもできます。

しかし夢が3層あるのなら、より繊細な解釈ができると思いました。

フェーズ2の夢にとっては、フェーズ1は現実のような扱いになるということ。

そう考えると、フェーズ1ですでに死んでいるカミーラの霊魂が、ダイアンの願望であるフェーズ2に囚われたと考えることもできます。

前半パートでリタは髪を切り、金髪のカツラをかぶります。ダイアンの同化願望(カミーラと同化したい)の現れです。

ダイアンの夢が階層化されているので、考え方によっては彼女の夢の中(フェーズ1)で死んだカミーラの霊魂が、フェーズ2に囚われたとするのもアリでしょう。

夢の中の人物の霊魂が別の夢に囚われる。トリッキーな解釈ですが、前半のリタの主体性が高いことを考慮すると、腑に落ちる部分があります。

最後に『マルホランド・ドライブ』の狂気を言語化

『マルホランド・ドライブ』を考察しようとするときに必要なのが、「この作品はどう狂っているか?」という問いかけです。

狂気の1つ目は「ねじれのフラクタル構造」でしょう。

(フラクタルとは、全体でみたときと、細かくみたときで同じ図形が繰り返し現れること。三角形で構成される三角形や、貝の模様など)

まず、ダイアンの夢のはずが物語はリタ(カミーラ)視点で開始されます。

他の登場人物も夢と現実で名前や役割が違います(アダム監督以外)。

前半と後半で観客の視点がねじれさせられる面白さがあるのです。

時系列もねじれています。全体のねじれ構造の中に、個々の人物のねじれがあるために「ねじれのフラクタル構造」なのです。

狂気の2つ目は、夢の中で自分の死体を探すことに象徴されるアイデンティティーの喪失です。

ダイアンが夢見た人物になれなかったという絶望だけではありません。

(同化願望などにより)自分のアイデンティティーなど無いも当然で、ただ死へ向かう存在だと悟らされます。あまりにも残酷です。

デヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』は近代の個性を脅かし、人間の存在意義を揺るがすホラーなのです。

マルホランドドライブの細かい考察はコチラ

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