ピクサー最新作『マイエレメント』(Elemental)。極上の映像美によるエレメント・シティを舞台に、火の女性と水の男の恋愛から人生の本質が垣間見えました。
作品情報
あらすじ・ネタバレなしの感想
物語ネタバレあらすじ・ラスト結末解説
ぶっちゃけ感想・評価(ネタバレあり)
ストーリー考察
これらの情報を知りたい人向けにわかりやすくレビューしていきます!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)
これから視聴する方の参考になるよう、作品についての視聴者口コミ・アンケートも投票お願いします↓
映画『マイエレメント』作品情報・予告
制作国:アメリカ
上映時間:1時間43分
原題:『Elemental』
ジャンル:ファンタジー・ヒューマンドラマ
年齢制限:なし
監督:ピーター・ソーン(『アーロと少年』)
脚本:ブレンダ・シュエ
音楽:トーマス・ニューマン
制作:ピクサー、ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ
製作費:2億ドル超(280億円前後)
映画『マイエレメント』あらすじ
エレメント・シティには火、水、土、風の4つのエレメントが暮らしている。それぞれのエレメントはお互いに干渉してはいけないという暗黙のルールがあった。火と水が触れ合えば大変なことになってしまうからだ。
火のエレメントの男性:バーニー・ルーメンは火の国からエレメント・シティに移住し、妻のシンダーと一緒に雑貨屋を営んでいた。一族に伝わるブルーの炎をたやさないようにしながら、生まれた娘・エンバーの成長を見守る。
やがてエンバーは元気な女性に成長。しかし接客ですぐに癇癪(かんしゃく)を起こしてしまう悪いクセは抜けなかった。父・バーニーは大切な店を娘に継がせるため、あたたかい目で娘を見守っていた。
ある日エンバーはセールの接客で怒りが頂点に達し、地下で爆炎をあげてしまう。その影響で地下の水道管が破裂。付近の水路を点検していた役所の職員・ウェイドが、菅に吸い込まれて地下の水道管からとび出てきた。
ウェイドはエンバーに「この店の水道管や設計に違法な箇所があると役所に報告しなければならない…」と言って逃げるように出ていく。エンバーは「そんなことはさせない」とウェイドを追いかけるが…。
2人のおかしな出会いは運命へと変化する。果たして炎と水の前代未聞の恋はみのるのか?
ネタバレなし感想・海外評価
まずエレメント・シティの乗り物や建物のデザインやアイデアが極上すぎて、ぼーっと眺めているだけでも見る価値があります。音楽とのマッチ度も高く、没入感がすごいです。
ストーリーは、火の女性と水の男性という絶対に一緒になれない者同士が惹かれ合う「よくある話」かと思いきや、演出・表現力がハンパないので超感動しました。
おすすめ度 | 94% |
世界観 | 99% |
ストーリー | 88% |
IMDb(海外レビューサイト) | 7.1(10点中) |
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト) | 批評家 73% 一般の視聴者 93% |
メタスコア(Metacritic) | 58(100点中) |
※以下、PIXER『マイエレメント』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『マイエレメント』ネタバレ感想・評価レビュー
ラストだけでなく、多くの何気ないシーンに胸を打つ感動が散りばめられていました。
火のエレメント・エンバーが感情を抑えきれなかったり、水のウェイドが泣き虫で癒し系だったりと、感情の調和と共鳴がテーマの作品で、そこから派生して差別の問題、親子の問題が語られていきます。
心の調和という意味では『インサイド・ヘッド』の系統ですね。エレメントたちの感情表現は『インサイド・ヘッド』のヨロコビなどのキャラを参考にされているそうです。
「教育的なテーマがウザい!」と感じた人もいるかもしれません。
しかしピクサー前作の『バズ・ライトイヤー』と比較すると、それぞれのテーマが非常にバランスよくブレンドされていたと思います。
映画『バズ・ライトイヤー』(Lightyear)はピクサーによるワクワクのSF映像美に、多様性キャラや蛇足展開を詰め込み過ぎた残念な作品でした。 CineMag よかったのは序盤と猫のソックスだけ。 ぶっちゃけ感想・評[…]
なぜバランスが良かったのか言語化するのはむつかしいですが、あえていうなら「火と水の二項対立をベースにして、心の調和・差別の問題・親子の問題の3つのテーマが展開されていったから」でしょう。
視覚的にわかりやすい火と水の対立軸が他のテーマを貫いています。テーマの設計が実に立体的ですね。
心の調和が他の問題の解決の根幹になる明快な構造。良い意味での計算高さがあります。
本作『マイ・エレメント』で提示されたのはデヴィッド・クローネンバーグ、デヴィッド・リンチ、是枝監督作品のように誰も考えつかない斬新な切り口のメッセージではないです。
しかし、普遍的なテーマがわかりやすく深掘りされた作品だと思います。
よくあるテーマでわかりやすいから、イコール「ありがちなやつ」とくくられるべきではありません。
普遍的なテーマがどんな表現でどれだけ深掘りされていたかを評価すべき作品です。
『リーメンバーミー』や『ソウルフルワールド』を超えたかはわかりませんが、それに近い素晴らしい作品だったと思います。
まさかの赤字で爆死!?
アメリカでは2023年の6月に公開されましたが滑り出しはコケて、当初は「ピクサー最悪の赤字で爆死…」という予想も出ていました。
しかし鑑賞者の「おもしろい!」という口コミが功を奏し、2023年8月4日時点で世界で4億ドル弱の興行収入を達成しています。
2億ドル超えの製作費がかけられている本作ですがこのままいけば赤字をまぬがれ、奇跡の大逆転的な成功をおさめる可能性も十分あるでしょう!
『マイエレメント』ネタバレあらすじ解説
惹かれ合うエンバーとウェイド
役所についたウェイドは報告書を提出。
ウェイドは、エンバーから「移住してきた父が命より大切にしている店」だと聞かされて情がうつり、手続きを止めてあげようとする。
しかし報告書は受理されてしまい、数日中に営業停止しなければならないことになった。
店に帰ったエンバーは、「水の男が水道管を壊した」と父・バーニーにウソをついた。
エンバーはなんとか店の営業停止を免れようと、ウェイドに連れられてスポーツ観戦中(風のエレメントが行う空中でのバスケット)の役所の上司・ゲイルに頼みにいく。
しかし頭に血が上りやすいエンバーはゲイルと喧嘩してしまった。
ウェイドは落ち込んでいる選手をはげますため、水のエレメントたちを巻き込んで巨大なウェーブを起こす。試合を見て感動したエンバーはゲイルと和解した。
ゲイルは「ファイアタウンは水を止めているはずなのに水漏れしている。その原因を突き止めれば営業停止を取り消す」と約束してくれた。
エンバーは巨大な布で熱気球をつくり、ウェイドを乗せて街を上空から点検する。すると運河からの水を貯めておく水路の壁が壊れていることがわかった。
エンバーとウェイドは船が通ったあとの激しい水流にのまれそうになりながら壁の穴が空いた箇所に土嚢(どのう)を積んで応急措置をした。
ウェイドは思いきってエンバーをデートに誘った。
2人は映画館などいろいろな場所へ行くが、水と火のデートに対しての周囲からの目線は冷たかった。
エンバーは砂浜で「自分の怒りをおさえられない」とウェイドに本心を話す。
ウェイドは「怒りは心が君に送っているサインだ」と返した。
ウェイドはエンバーが砂で作ったガラス細工を見て「どんな環境にも適応できる花・ヴィヴィステリアに似てとても美しい」と言った。
エンバーは名案を思いつく。彼女は壊れた水路の壁をガラス細工でふさいだ。
2人の家族の反応は?
ある日、エンバーはウェイドのマンションへ行き、彼の家族と楽しいひとときを過ごした。
ウェイドはエンバーが作ったガラス細工の花を母親に見せた。ウェイドの母は感動し、「知り合いのつてで、国で1番のガラス工房のインターンの仕事を紹介してあげると言った。
エンバーはバイクを走らせながら「本当は父さんの店なんか継ぎたくない」と言った。ウェイドは「君が本心を語ったらお父さんもわかってくれる」と言葉を返す。
エンバーの母・シンダーは、娘が水の青年と付き合っていると知ってビックリ。ウェイドを呼び、「エンバーとの相性をみるために、あなたは木の棒に自分の力で火をつけねばならない」と無理難題をふっかけた。
ウェイドは体を広げてエンバーから発せられる光をレンズの要領で集め、木の先を燃やすことに成功。シンダーは驚いた。
ウェイドはエンバーを連れて、水中に沈んだ植物館へ。そこにはヴィヴィステリア(Vivisteria)がたくさん咲いていた。
ウェイドはエンバーと気持ちを通わせ、お互いに触れ合う。奇跡が起こったのか、蒸発することも火が消えることもなかった。
しかし父を裏切っているような気がしたエンバーは、ウェイドにひどいことを言って逃げ出してしまった。
ラスト結末
ついに店をエンバーが継ぐ日がやってきた。近所の人を呼んでパーティーが開催されている。
あらわれたウェイドがエンバーに向かって「2人が結ばれない理由はいくつもある。でも僕は2人が起こした奇跡を信じたい」と言った。
バーニーはウェイドの話から水道管を破裂させたのがエンバーだと知って怒り、「店を継がせるのはやめだ」と言う。
エンバーはその場から去る。ウェイドが彼女を追いかけた。
水路を塞いでいたガラスが壊れ、その勢いで水路全体が崩壊。ファイアタウンに水がなだれ込んできた。
エンバーは一族に代々伝わるブルーの炎を守るために水浸しの店内へ突入する。ウェイドもエンバーをサポートするために店に入った。
青い炎をランタンに入れることに成功するが、2人は奥の部屋に閉じ込められる。
エンバーは水の侵入を防ぐために部屋の入り口を塞いだ。しかしその際の熱でウェイドが蒸発して消えてしまった。
水がひき、バーニーとシンダーがやってくる。エンバーがウェイドの死にショックを受けていると、ウェイドは涙の水滴から復活した。
エンバーとウェイドはキスを交わした。
エンバーは実家から離れ、遠くの街でガラス工房のインターンになるために旅立つ。ウェイドも一緒だ。
エンバーとウェイドは親に別れを告げ、船に乗った。
映画『マイ・エレメント』終わり
マイエレメント考察(ネタバレ)
愛が起こした奇跡とシンクロニシティ
『マイ・エレメント』の1番大きなテーマは愛が起こす奇跡でしょう。
ありがちな題材かと思いきや、今回はキャラクターが火と水という絶対に交わらない物質だったので奇跡が起きたという印象がより強かったです。
私たち大人は火と水が同時に存在できないことを常識として知っています。
しかしその常識が奇跡を遠ざけているともいえるのではないでしょうか。
愛があれば新しい概念が生み出せるということをヴィジュアル化してくれた点が『マイ・エレメント』の意義深さなのです。
火と水が触れ合ってもなんともない!というのは安易な気もしますが、「不可能を可能にする」「第3の選択肢をあきらめない」の表現を、ダイレクトに突きつけたともいえます。ここに感動やカタルシスがありました。
本作のラストでエンバーとウェイドが付き合い始めてから異種カップルが増えていましたね。
彼らの世界でシンクロニシティが起こっているようです。世界はこうやって良い方向に変わっていくのでしょう。
花・ヴィヴィステリアが象徴するもの
エンバーとウェイドが抱き合っても互いに消滅しない奇跡には伏線がありました。
それが水中に咲いていた美しい花・ヴィヴィステリア(Vivisteria)です。(ちなみに現実にヴィヴィステリアという花はありません)
ウェイドによると、ヴィヴィステリアはどんな環境にも対応できる花です。よって火、水、土、風どのエレメントでも触れられるのだと思います。
エンバーとウェイドが触れ合えるのは、2人の関係がヴィヴィステリアの花のようになったと言い換えることもできるでしょう。
さらなるポイントは、エンバーが砂から作ったガラス細工がヴィヴィステリアに似ていたところ。
アメリカの縮図と移民問題
エレメント・シティは多様な人種のるつぼであるアメリカの縮図であり、アメリカのメタファー(暗喩)です。
違う人種と深く関わり合わないということも通底しています。実際、アメリカでは黒人やヒスパニック、アジア系でそれぞれ居住区がハッキリわかれている地区も多く、チャイナタウンなど中華系専用の街があったりします。
ファイアタウンには火のエレメントしか住んでいない構図と一緒ですね。
エンバーは移民2世であり、両親のバーニーやシンダーが青い火の神様という土着信仰を持つことからインドか東南アジアから来た少数派の移民がベースになっていると思われます。
現実の移民問題や人種差別をデフォルメしたのがエレメント・シティなのです。ポップなデザインですが、いろんな場面で問題提起がなされています。
移民2世の物語としては『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が2023年度のアカデミー作品賞を受賞しました。流行りのテーマなのでしょう。
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真に調和のとれた世界とは?
本作は調和のとれた世界についてひとつの正解を示していたと思います。
それは「違いを受け入れる」ということ。言葉にするとあたりまえに聞こえますが、火と水のキャラクターなのでより伝わりやすかったですね。
「みんな同じ人間だから尊重し合おうという」のは大事です。
しかし、その固定観念にとらわれすぎるとどうなるでしょう?
人種問題や個人個人の考え方の違いなど、本来は火と水くらい違うはずの事柄に対して「同じでならなければおかしい!」と強引に決めつけてしまい、誤解や悲劇が生まれます。
アメリカ政府の独断ではじまったイラク戦争などは典型的な例ですね。
現代でも「自分と同じなら正義」「自分と違うなら悪」と、Twitterなど議論に向かないSNSの普及にで二極化が進んでいます。
対して『マイエレメント』のラブストーリーは、相手と自分が違うところを認め合ってからがスタートです。
本来、どんな人間関係もそうあるべきではないでしょうか?
ちょっと皮肉的なことを言えば『マイエレメント』のストーリーをありがちなテーマと断じてしまっている人は、相手の違いを受け入れることについて「知ってる。俺はできてる。簡単なことだ」と思っているのでしょうか。
だとすればそこに一種のエレメントの壁があるような気がします。その考えには「違いを受け入れることがどれだけ難しいか」という本作が表現していたメッセージが抜け落ちているからです。
怒りと向き合う大切さ
店番ですぐに起こってしまうエンバーに向かって、ウェイドは「怒りは、心が何かを伝えようとしている」とさとします。
そして、怒りはエンバーの「本当は親の店を継ぎたくない」という思いから来ていると判明。
怒りを抑え込むのではなく向き合えという、大人にも通じるアンガーマネジメントですね。
怒りは自分自身を映す鏡なのです。しっかり見つめた先に答えがあります。
『マイエレメント』では人間の普遍的な葛藤とそれを乗り越える過程が巧みに表現されていました。
最後のまとめ
ピクサー最新作『マイエレメント』は、3歳の子どもから大人まで楽しめる傑作でした。デザインもキャラクターもメッセージ性もレベルが高いです。
ピクサーの前作『バズライトイヤー』に比べるとテーマの空中分解のようなものがなく、スッキリまとまっていました。
ここまで読んでいただきありがとうございます。映画『マイ・エレメント』レビュー終わり!
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