ネタバレ考察『すずめの戸締まり』ループ説,白猫ダイジンの正体や2匹の蝶の意味は?徹底解説!

  • 2024年4月14日

新海誠監督最新作『すずめの戸締まり』ネタバレありで深掘り考察!を知りたい人のための記事。

原作小説と映画の内容は変わらないので両方をまとめての考察レビューです。

CineMag
新海誠の新境地ともいえる本作の壮大なメッセージや謎に迫ります。
白猫・ダイジンの正体
2匹の蝶の意味、ループ説
サダイジンと羊朗の関係
環とサダイジンの関係
ミミズのモチーフと表現しているもの

これらを徹底考察!
※記事はネタバレありなので、これから映画や小説を楽しむ人は気をつけてください。

↓映画『すずめの戸締まり』の正直な感想・あらすじ解説は下記へ↓

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映画『すずめの戸締り』

白い猫・ダイジンの正体

『すずめの戸締り』の白猫・ダイジン

©︎「すずめの戸締まり」製作委員会(2022)

『すずめの戸締まり』をとらえるうえで1番重要だといっても過言でないのが猫のダイジンは何を表しているか?正体は何か?でしょう。

ダイジンはミミズを抑える要石であり、白い猫です。

ダイジンの正体は劇中で明言されることはなく、「神のようなもの」とされていましたが、きっと元は人間なのでしょう。

要石(かなめいし)に変えられた草太のように、ダイジンももとは人間だったのが人柱となり要石に変えられてしまったのだと思います。

要石になって何年もたち人間だった頃のことは忘れていましたが、鈴芽に抱きかかえられて人とつながるぬくもりを再びほっしたのです。

だから最初に要石の役割を放棄して逃げだのだと思います。元から神ならもっとしっかり役割をまっとうするはずです。

ダイジンの心理的には「何年もの孤独からやっと解放されたから、もう要石に戻りたくない」という気持ちが勝ったのだと思います。

しかしミミズの発生を防ぐという自分の役割を再認識し、鈴芽の手伝いをするようになったのでしょう。

シネマグ
よってダイジン=要石から人間に戻れなかった草太のような存在と考えられます。

映画では子供の声だったことから、ダイジンは子供が人柱として要石にされたなれ果てなのかもしれません。

本作では草太は人柱として犠牲になることはありませんでした。

しかし、その裏にはダイジンとサダイジンの犠牲があるのです。

新海誠監督は自己犠牲へのアンチテーゼを表現しつつ、誰かのために犠牲になった何かへの敬意も物語に込めたのだと感じました。

ダイジンの元ネタは『魔女の宅急便』のジジっぽいですが、いくつもの重要な意味が込められています。

2匹の蝶の意味

鈴芽が常世で4歳の自分自身と出会ったラストで、そばに2匹の蝶がピッタリくっついています。

2匹の蝶は冒頭で夢から目覚めた鈴芽のそばにもいました。伏線になってたんですね。

2匹の蝶が意味するものはいくつか考えられます。

まず、ミミズを封じ込めるために再び犠牲になった猫のダイジンとサダイジンです。

2匹の体は要石として氷ついてしまいましたが、魂は蝶になって鈴芽の周りをさまよっているのかもしれません。

2匹にとって芹澤の車で鈴芽と旅を続けたことは忘れられない思い出でしょう。


蝶について他には、鈴芽の母・つばめという考察もできます。蝶は常世に紛れ込んでいた子供用椅子へ導いてくれましたから、椅子を作った母の可能性もあるでしょう。

ただ2匹なので、もう1匹はだれ?という疑問が当然残ります。もう1匹は鈴芽の父かもしれません。

小説では鈴芽は幼い頃から母と2人暮らしだったとあり、父親の生死は不明。もしかしたらすでにこの世におらず、鈴芽を見守っているのかも。

あとは2匹の蝶は、4歳の鈴芽と現在の鈴芽過去と現在被災者と遺族など抽象的な二項対立を表現すると考えても面白いと思います。

ループ説

蝶については深読みすればループ説も考えられます。

鈴芽は4歳の自分と常世で出会います。

常世はすべての時間と接続できる場所です。

夢とも接続しているかもしれません。

常世に入った鈴芽の意識の一部が蝶となり、夢を通じて冒頭の鈴芽のベッドまで冒険を告げにやってきた

蝶が常世と現実を超越していつも鈴芽のそばにいるから、鈴芽は閉じ師でないにもかかわらず戸締りできるのかもしれません。

いろんな解釈ができます。

すべての時間が集う常世で起こした奇跡は、どの時代の鈴芽にも伝わるでしょう。

おおきな視点でみれば、鈴芽は今日を精いっぱい生きることで、幼い頃の自分だけでなく昨日の自分も救ったことになるのです。

原作小説では人間の認識の変容について触れられている箇所があります。

現在の認識の仕方によって過去を別のかたちでとらえ、傷を癒せる

そんな普遍的な想いが感じられました。

サダイジンと羊朗の関係

サダイジンについては草太の祖父・羊朗が「おひさしゅうございます」的なことを言ってたので、彼が数十年前にサダイジンを要石としてその地にはめ込んだのだと思います。

シネマグ
きっと羊朗にも草太のようにサダイジンを追いかけながら、大切な人と冒険した時期があったのでしょう。

だから羊朗は、鈴芽から「草太さんのいない世界なんて…」と言われたときに共感して、後ろ戸や常世について教えてあげる気になったのだと思います。

羊朗はその冒険で大切な誰かを救えなかった辛い思い出があり、鈴芽に「自分と違う結末」たくしているようでもあります。

鈴芽とダイジン VS 環とサダイジン

環が鈴芽に「出ていけ!」と暴言をはいたとき背後にサダイジンが現れたシーンを不思議に感じた人は多いのでは。

鈴芽は環さんと被災地・東北のサービスエリアでお互いに本音をぶつけあいました。

このとき、環の背後にサダイジンが現れます

このシーンでは鈴芽とダイジンのペア、環とサダイジンのペアの対立関係があります。

鈴芽は震災のあとで環から「うちの子になろう!」と言われました。

ダイジンも鈴芽から「うちの子になる?」と言われています。

環はうちの子になれと言った側です。とすると、サダイジンとダイジンも何らかの関係があった可能性はあります。

先ほどダイジンが元は人間だったという考察をしましたが、もしかするとサダイジンとダイジンは親子だったのかもしれませんね。

一緒になりたかったけど、要石になって東京と九州ではなればなれに配置されてしまったのでしょうか。

また、サダイジンと羊朗が親交があったことも忘れてはなりません。

きっとサダイジンは環さんと鈴芽に、羊朗と草太のような関係になってほしくないという願いもあるのでしょう。

だからサダイジンは環に本音を言わせ、鈴芽との関係を深まるように仕向けたのです。

また羊朗も草太の成長をみて、これからは肉親として絆を深めていく気持ちになれたのではないでしょうか。

シネマグ
要石は地震をおさえるだけでなく、人と人とを結びつける存在だと感じました。

要石=『君の名は。』の組紐(くみひも)なのです。

要石であるダイジンは鈴芽と草太を結びつけ、サダイジンは鈴芽と環さん、草太と羊朗を結びつけたのでしょう。

ミミズのモチーフとメタファー

日本には昔からナマズが暴れて地震が起こるという迷信がありました。

地震を抑えるための要石も実際に存在し、茨城県の鹿島神宮と千葉県の香取神宮の要石がそれぞれナマズの頭と尻尾を押さえる役割を果たしていると言い伝えられています。

『鈴芽の戸締まり』でもミミズを押さえる要石は鈴芽がいた宮崎と東京にそれぞれあり、頭と尾を押さえなければなりません。この設定は鹿島神宮と香取神宮が参考になった可能性があります。

よってナマズの伝説上の脅威を同じ生き物で置き換えたのがミミズなのでしょう。

主人公の名前が鈴芽(すずめ)なのも鳥の雀にかけているのかもしれません。鳥はミミズを食べるからです。

(初回上映特典の企画書を見ると新海誠監督はアメノウズメノミコトのウズメから取ったと書かれています)

ミミズが表現しているものは、その土地の情念のようなものだと考えます。

ラストで草太が「人の心の重さがその土地を鎮めている」と語っていました。

ミミズが現れるのは廃墟。つまり誰にも思い出してもらえなくなり、人の心の重さがなくなってしまった場所です。

その土地を誰も気にかけなくなったときに、土地の情念のようなものが鎌首をもたげて地震を起こすのではないでしょうか?

土地もきっと寂しいのです。

またミミズは、鈴芽と環のお互いへの葛藤など、人の感情の暗い感情のメタファーになっているとも考えられます。

ミミズはいろいろなものを表現しているのです。

東日本大震災へのメッセージ

『君の名は。』『天気の子』に引き続き自然災害が扱われていました。

前2作でも東日本大震災からの影響は顕著でしたが、『すずめの戸締まり』では東日本大震災そのものが扱われており、新海誠監督も小説のあとがきでそう書いています。

『君の名は。』のように災害での死者が出なかった過去にハッピーエンド的に書き換えられたのではありませんが、死者たちへの鎮魂歌として、遺族へのねぎらいとしてささげられた物語だと感じました。

私は被災者でないので軽々しいことは言えませんが、『すずめの戸締まり』を見て心がフッと軽くなる人・救われる人がきっといるのではないでしょうか。

感想を語る犬
リアルな現実へのレクイエムとして、新海誠作品は新たな次元へ突入しました!

新海誠の過去作との比較

誰にも知られない戦い

『すずめの戸締まり』は新海誠監督の過去作と同じく、“誰にも知られない戦い”がテーマになっています。

日本の未来を左右する戦いだったにもかかわらず、鈴芽と草太以外は詳細を知りません。

これは『君の名は。』『天気の子』にも通底するテーマです。基本的に主人公とパートナーは日本を変えてしまったにもかかわらず、その事実を誰にも知られていません。

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『君の名は。』

大事件にかかわることになってもあくまでパーソナルな視点で物事が進んでいきます。

『すずめの戸締まり』原作小説の主人公・鈴芽が新幹線から外を眺める描写で「いま目に映っている街や人々と私の人生は決して交わることはない」的なことを独白していました。

そこに監督の美学やメッセージが凝縮されているような気がします。

新海誠監督はさまざまな作品を通じて、決して交わることのなかった人生が交差したときに何が起こるか?を表現しているのだと思いました。

ちょっとした人生のクロスオーバーからミラクルが起きるということです。

たくさんの人を巻き込むわけではなくても確実に何かが変わります。そういったコンセプトから作品を作っていると感じました。

天気の子と似たラスト

『すずめの戸締まり』のラストは天気の子と似ていますが、メッセージは異なっています。

鈴芽が自分が犠牲に(要石に)なろうとして、椅子を引き抜いて草太を人間に戻したからです。

天気の子の帆高と陽菜は自己犠牲を拒否しましたが、鈴芽は自らを犠牲にしようとしました。

感想を語る犬
天気の子のような批判は回避できそうです。

ただ、見方によっては多少強引でもありますね。鈴芽は自分が要石になれるか知らなかったわけですし。

結果的にダイジンが要石に戻ってくれたので日本も鈴芽も救われたものの、要石になった草太を救うことで万単位の死者が出た可能性もあるばくちだったのも事実です。

本作の場合はダイジンが鈴芽の自己犠牲的な行動の身代わりになり東北が救われたので、受ける印象は全く違います。

しかし大切な人と世界の重さが天秤で等しく釣り合っている点は一緒であり、新海誠監督が根底に持つテーマは変わっていません。

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『竜とそばかすの姫』へのアンサーソング

邪推も入りますが本作は細田守監督の映画『竜とそばかすの姫』をかなり意識して作られている気もしました。

ヒロインの名前も鈴芽と鈴ですし、母の喪失というテーマも同じです。

両作品は制作や構想の期間がかぶっている部分もあるので偶然かもしれませんが、偶然だとしたらもはやシンクロニシティですね。

『竜とそばかすの姫』では主人公・鈴がちょっと危険な一人旅を決行してそこが賛否両論の大きな争点になりました。

いっぽうで『すずめの戸締まり』では鈴芽の叔母・環さんも途中から旅に加わり、その批判をうまく回避しているようにもみえます。

個人的には主人公の成長譚や母と娘の絆などさまざまな面で、『すずめの戸締まり』は『竜とそばかすの姫』にできなかったことをうまく表現できていたと思いました。

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共通点がある作品

人が住まなくなった場所へのノスタルジーを描いているという点で、廃墟団地が舞台のファンタジー『雨を告げる漂流団地』(2022)と非常によく似ていると思いました。

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しゃべる猫は『魔女の宅急便』、ロン毛の男と呪いは『ハウルの動く城』にも似てますが、設定がちょっと似ているだけでストーリーを見る限りパクっているとかはないです(『魔女の宅急便』については新海誠監督自身がインタビューで参考にしたと言っています)。

あとは鈴芽がキスをしたら草太が目覚めるくだりは『白雪姫』をモチーフにしたかのようです。

3.11東日本大震災を想起させる件について

『すずめの戸締まり』の物語で2011/03/11に起こった東日本大震災を扱っていることについて賛否両論が起こっています。

否定的な意見としては「遺族はじめ当時の心の傷を抱えている人に震災を想起させる」というものが多いです。

今もトラウマを抱えている人がいらっしゃるでしょうし、そういった意見は否定できるものではありません。

ただいっぽうで、何かで傷ついてしまった心を癒すのが映画や小説などコンテンツの役割の一部であると考えると東日本大震災と向き合う『すずめの戸締まり』のようなアニメがあってもいいと思います。

大きな視点でみれば戦争映画やナチスのユダヤ人虐殺を描いた名作『シンドラーのリスト』などが許容されているように必要なことです。

惨事を風化させて悲劇を繰り返さないために、何かが起こったときに少しでも機敏に反応できる人が増えるように、エンタメアニメであろうがドキュメンタリーであろうが“出来事”に対する記憶は紡いでいくべきでしょう。

アニメ映画にそんな役割はになえないと思うかもしれませんが、そんなことはありません。

誰から見ても完璧かは分かりませんが、『すずめの戸締まり』は主人公・すずめが過去の自分・心の傷を癒していく過程に真摯(しんし)に向き合っており、賛否承知でそこに挑戦したことは評価すべきだと思います。

作品が被災した人のトラウマを直接的に癒すかはわかりません。

しかし何らかの心の傷が癒える人はいるでしょう。

もちろん遺族などトラウマを持っている方がいきなり見せつけられない配慮や事前情報は必要です。

ただ個人的には、上記にあげた理由で過度に規制することもよくないと思います。