Netflix映画『マエストロ: その音楽と愛と』(マエストロ そのおんがくとあいと)。
ブラッドリー・クーパーが監督・脚本・主演を務め、クラシックの巨匠レナード・バーンスタインの人生をつづります!
これらの情報を知りたい人向けにわかりやすくレビューしていきます!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)
これから視聴する方の参考になるよう、作品についての視聴者口コミ・アンケートも投票お願いします↓
Netflix映画『マエストロ: その音楽と愛と』作品情報
制作国:アメリカ
上映時間:2時間11分
原題:『Maesutoro』
ジャンル:伝記映画・ヒューマンドラマ・LGBTQ
年齢制限:16歳以上推奨
監督:ブラッドリー・クーパー
脚本:ブラッドリー・クーパー/ジョシュ・シンガー
撮影:マシュー・リバティーク
音楽:レナード・バーンスタイン
製作:マーティン・スコセッシ|スティーヴン・スピルバーグ
監督・脚本・主演を務めたブラッドリー・クーパーの才能の凄さに驚嘆させられました。
共同脚本のジョシュ・シンガーは『スポットライト 世紀のスクープ』や『ファーストマン』で知られています。
撮影のマシュー・リバティークは『ブラック・スワン』や『アイアンマン』で有名。本作の映像も白黒にフィルムノイズの加工をするなど、こだわり抜かれていましたね。
日本出身のメイクアップアーティスト、カズ・ヒロ(辻 一弘)さんが参加しています。老年期(ブラッドリー・クーパー)のメイクが凄すぎました。
ちなみに製作にスティーヴン・スピルバーグとマーティン・スコセッシが名を連ねていますが、企画当初は本作の監督をスピルバーグがやる予定だったらしいです。
スピルバーグは『ウエスト・サイド・ストーリー』(2022)を作ってますが、この映画のもとになったブロードウェイ・ミュージカルの作曲をしたのがレナード・バーンスタインです。その関係もあって監督をしたかったのかもしれません。
スピルバーグはブラッドリー・クーパーが監督した『アリー/スター誕生』を見て監督を任せる決心をしたようです。
映画『マエストロ: その音楽と愛と』キャスト
レナード・バーンスタイン役|cast ブラッドリー・クーパー(『ハングオーバー』『世界にひとつのプレイブック』『アメリカン・スナイパー』『アリー/スター誕生』『ナイトメア・アリー』)
フェリシア・バーンスタイン役(レナードの妻)|cast キャリー・マリガン(『ドライヴ』『華麗なるギャツビー』『プロミシング・ヤング・ウーマン』『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』)
ジェイミー役(レナードの娘)|cast マヤ・ホーク(『ストレンジャー・シングス』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』『フィアー・ストリート Part 1: 1994』『リベンジスワップ』『アステロイド・シティ』)
デイヴィッド役(レナードの彼氏)|cast マット・ボマー(『アメリカンホラーストーリー』『エコーズ』)
シェリー・バーンスタイン役(レナードの妹):サラ・シルヴァーマン
映画『マエストロ: その音楽と愛と』あらすじ
レナード・バーンスタインの20代から老年期までを描いた物語。
レナード・バーンスタイン(ブラッドリー・クーパー)は主任指揮者の代役としてニューヨークフィルハーモニーを指揮し、喝采を浴びる。
レナードはたくさんの男性と関係を持っていた。
ある日、レナードは女優のフェリシア(キャリー・マリガン)と出会い、恋に落ちる。
指揮者としてのキャリアも、教育者としてのキャリアも順調だった。映画やミュージカルの音楽も手がけている。
フェリシアも女優として有名になっていった。
やがてレナードはフェリシアと結婚。子供たちも生まれ幸せに暮らしていた。
フェリシアはレナードの男遊びに我慢できず、夫婦関係に徐々に亀裂が入っていく…。
ネタバレなし感想・海外評価
実在した偉大な指揮者レナード・バーンスタインの半生が展開されていきます。
特段エンタメ性が高いわけではないですが、主人公の葛藤や二面性が音楽に昇華されていくようなカタルシスがあり、個人的には傑作だと思いました。
ブラッドリー・クーパーが指揮する演奏など、音楽もすごいです。
海外レビューサイトの評価もかなり高いですね。
ロッテントマトズの批評家の総評は「すばらしいです演技により、才能の豊な偉大な音楽家の半生を大きな視点で捉えている」となっています。
おすすめ度 | 90% |
世界観 | 95% |
ストーリー | 90% |
IMDb(海外レビューサイト) | 7.3(10点中) |
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト) | 批評家 81% 一般の視聴者 88% |
メタスコア(Metacritic) | 77(100点中) |
※以下、映画『マエストロ: その音楽と愛と』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『マエストロ: その音楽と愛と』ネタバレ感想・評価
多様性を音楽で昇華した傑作
最高のクラシック音楽とその情熱に加え、LGBTQ・師弟愛、最愛の妻との関係、娘との関係など、多様なテーマが含まれています。
細かい要素としては、ユダヤ人差別、父からの虐待などもありましたね。
さらに前半と後半で白黒に分けるなど、映像面も変化に富んでいました。
しかしそれでも物語は空中分解していません。
それらがブラッドリー・クーパーの超絶な演技力でまとめあげられた印象です。
本作とテーマが似ている作品は多いです。
ゲイのカウボーイたちとその家族を描いた『ブロークバック・マウンテン』、ゲイのロックスターを描いた『ボヘミアン・ラプソディ』、レズビアンの指揮者を描いた『TAR/ター』など
ただ、そのどれとも違った独特の仕上がりになっているのは間違いありません。ブラッドリー・クーパーの監督・脚本家としての手腕に脱帽です。
『スポットライト 世紀のスクープ』も担当したジョシュ・シンガーが得意とする、出来事を淡々と描いているにも関わらず感情移入できるつくりも見事でした。
映画の完成度は私などが理解できないほど高いレベルにあると思います。
圧巻の演技力
ブラッドリー・クーパーの演技力に終始圧倒されました。
特に1時間28分からの大聖堂での情熱的な指揮は、オーケストラや観客、空間のすべてをブラッドリー・クーパーが支配している感じがあり、映画史に残る名シーンだと思いました。
海外サイトIMDbによると、ブラッドリー・クーパーはこの6分21秒のシーンを生演奏で撮るために6年間指揮の勉強をしたようですね。
クラシック音楽版の『ボヘミアン・ラプソディ』ともいえるカタルシスがあります。
2時間以上わりと淡々と進んでいく物語にも関わらずまったく中だるみしなかったのは、演出や映像の良さはもちろんのことブラッドリー・クーパーの演技力に引き込まれたからです。
特殊メイクの良さもありますが、ブラッドリー・クーパーではなくレナード・バーンスタインにしか見えません。手足の動かし方や喋り方まで完全に役に入りきっています。
一体どれほどの才能があればこんな風に他人になりきれるのか? 不思議で仕方ありませんでした。
キムタクの演技がキムタクにしか見えない(それはそれで良さでもあるのですが)とは対極をなすようなイメージです。
さらにセリフが多いシーンでもずっとタバコをくわえながら自然体で演じているのですから、本当に器用だと思いました。(タバコ落としてヤケドしたりしたのでしょうか?その辺も知りたいですねw)
「タバコ吸いすぎだよ」と思うかもしれないですが、レナード・バーンスタイン本人が1日に100本吸うと言われるくらいのチェーンスモーカーだったようで、それを忠実に再現しているのです。
キャリー・マリガンもすごく良かったですね。
有名女優になる前の初々しさ、中盤ではお世辞を言われまくって夫レナードとの満たされない夫婦関係による心の隙間を埋めようとし、壮年期の癌宣告から死亡まで、実に人間味あふれる健気な演技を見せてくれました。
趣向を凝らせた映像
ブラッドリー・クーパーとキャリー・マリガンが出会って、2人とも成功して、夫婦として幸せに暮らす前半パートはクラシック映画風のつくりです。
モノクロにして画角もスタンダードサイズ(1.33:1)、さらにフィルムノイズ(黒いザラザラ)まで再現しています。
映像に加えて編集のつなげ方や演技のわざとらしさまでクラシック映画に近づける徹底ぶりでした。
そして、バイセクシャルであるバーンスタインの男遊びに妻・フェリシアが耐えられなくなり夫婦関係に亀裂が走る後半パートからはカラーに戻ります。
前半の白黒パートを理想の人生、後半のカラーパートを現実として対比させる意図があったように思いました。
映画『マエストロ: その音楽と愛と』考察ネタバレ
芸術家が持つ二面性
オープニングで「芸術がもたらすのは答えでなく問い。矛盾する緊張の中に本質がある」というモノローグがありました。
さらに↓
- レナード・バーンスタインは女性も男性も愛せるバイセクシャルで、愛妻家と男遊びの二面性を持っていた
- 格式高いクラシックもやりたいし、映画やミュージカルの音楽もやりたい
- 指揮も作曲も両方大事
など、対極にあるような事柄を追い求めるのがバーンスタインの特性として語られていました。
バーンスタインは「人間は捕らわれた獣だ」とも言っていましたね。
これらの要素から、クリエイティブな人物は引き裂かれるような自己矛盾の中にいるというテーマが見えてきます。
このような矛盾は創造的な人間だけでなく、だれしもが多かれ少なかれ抱えているでしょう。
つまり人間の普遍的な本質を表現した作品なのです。
妻と子供たちがいる家庭があるのに男遊びをするのは許されないような気もしますが、本作ではレナード・バーンスタインはみんなから好かれる魅力的な人物として描かれていました。
良い意味で、人間が抱える闇や二面性に倫理的なジャッジを下すような作品ではありません。
2023年はディズニーが映画『ウィッシュ』で当たり障りのない多様性を表現して酷評されていますが、『マエストロ: その音楽と愛と』こそ真に多様性を表現した映画だと思いました。
アガペーとエロスに区切りはない
レナード・バーンスタインは音楽を愛するだけでなく、音楽教育にも情熱を注いでおり、情熱を注ぐがゆえに弟子たちに性愛の感情まで抱いてしまう感じで描かれています。
性愛と師弟愛に区切りがないということでしょう。
今の社会ではけっこう危険な思想だと言われるのではないでしょうか?
(現代の常識で考えればパワハラやセクハラで社会的地位を追われますよね)
バーンスタインは人と会うのが好きだったようです。
劇中でも、生徒に手を出す最悪の人間として描かれているわけではありません。
なんだか無償の愛(アガペー)と性愛(エロス)に区切りを持っていない人物に見えました。
古代ギリシャでは哲学者のソクラテスやプラトンもバイセクシャルで弟子たちと関係を持っていたようです。
バーンスタインが弟子を愛してしまうことと似ていますね。
『マエストロ: その音楽と愛と』は現代社会の価値観に一石を投じるような作品ですね。
(決してセクハラやパワハラを肯定しているわけではありません)
最後のまとめ
映画『マエストロ: その音楽と愛と』は、芸術家が抱える二面性や、人間の本質に関する普遍的なテーマが、ブラッドリー・クーパーやキャリー・マリガンの抜群の演技力と音楽の素晴らしさでまとめ上げられた傑作でした。
ブラッドリー・クーパーの監督作品では『アリー/ スター誕生』はレディ・ガガの演技がノイズで個人的には微妙でしたが、『マエストロ: その音楽と愛と』は大好きな作品になりました。
ここまで読んでいただきありがとうございます。『マエストロ: その音楽と愛と』レビュー終わり!
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