宮崎駿監督最新作・映画『君たちはどう生きるか』。宣伝が一切なかった本作を公開初日にIMAXで鑑賞してきました。
ネタバレ考察:ラストの解釈、宮崎駿という作者の死、青サギの意味、キリコの謎、異世界や墓「我を学ぶものは死す」の意味
元ネタ:ジョン・コナリー小説『失われたものたちの本』からのストーリー解釈
物語ネタバレあらすじ・ラスト結末解説
これらの情報を知りたい人向けにわかりやすくレビューしていきます!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)
これから視聴する方の参考になるよう、作品についての視聴者口コミ・アンケートも投票お願いします↓
映画『君たちはどう生きるか』考察まとめ(ネタバレ)
ラスト:ストーリーの意味
ラストでは異世界が崩れ落ちて、眞人たちが現実世界に戻ります。
重要なのは眞人が殿様(大叔父)のあとを継がなかったことでしょう。
主人公・眞人は13個の積み木を積んで平和な世界を維持することを拒否しました。
自分で積み木を積み上げて自分の世界を作る。戦争や母の死という最悪な状況にも友と立ち向かって生きる。
そんなメッセージが浮かび上がってきます。
眞人は母の死、父の再婚、転校などのストレスからか、自分の頭を石で傷つける自傷行為に出ました。
「自分の心の傷の治し方は誰かから学ぶものではない、自分で学ぶものだ」というメッセージも込められているようです。
また13個の積み木は、本作もふくめた宮﨑駿監督の長編映画13作品を表しているのかもしれません。
クリエイターにも一般の方の人生にも通じますが、だれかの過去を再構築するのではなく、自分の頭で考えて自分の冒険を生きろと言っているのでしょう。
宮崎駿という作者の死
私もそうですが、映画を見た人は「宮崎駿監督がどう思ってこの作品を作ったか知りたい!」と思いますよね。
しかし本作は宮崎駿監督自身も「なんでこうなったのかよくわからない」と公言している重層的で難解なストーリー。
監督のメッセージを考察することはもちろん大事です。
しかし論理的に意味不明な展開、「我を学ぶものは死す」など抽象的なメッセージ(あとで解説)、眞人の心の葛藤をビジュアル化したような内容を踏まえると、もはや作者中心の一義的な解釈を拒否しているように見えます。
いわば意味を超えた映像を紡ぎ出したわけです。
批評家・哲学者のロラン・バルトの言葉を借りるなら総決算であると同時に宮崎駿自身の解体、宮崎駿という作者の死まで踏み込んだ作品といえるでしょう。
なので「このキャラは宮崎駿の投影、このキャラは鈴木敏夫」など、あまりにも作者中心で考えすぎると『君たちはどう生きるか』の本質が損なわれしまう可能性があると思いました。
なぜ青サギ?潜在意識の世界
最終的に主人公・眞人の友達になった青サギ(アオサギ)ですが、意識と潜在意識の間を行き来できる鳥というスピリチュアル的な意味があります。
海外では縁起が良い鳥とされ、古代エジプト神話では生と死を繰り返すベンヌ(ベヌウ)という名でアオサギが登場したようです。フェニックス(不死鳥)の由来という説まであります。
青サギは異なる世界の境界線を飛び越えることができる存在なのです(意識と無意識や、生と死、現実と物語など)。
ひとつの解釈として、主人公の潜在意識での葛藤を、異世界での大冒険としてヴィジュアル化したのが本作のストーリーの正体なのかもしれません。
眞人の無意識世界を表現しているとすると解ける謎も多いです。
たとえば序盤は青サギが敵か味方かわからないのも、眞人が自分の心の一部と戦っていることの表現だからと考えれば納得しやすいです。
青サギは眞人が協力することを学ぶ「友だち」として描かれていましたが、同時に「心の葛藤の相手」にも見えました(この青サギの二重性がテーマのつかみにくさの要因でしょう)。
青サギは、弓矢で穴を開けられたくちばしについて「自分を傷つけたものが直す必要がある」と言って眞人に直させます。
これも自傷行為のあとで眞人の心の傷が癒える過程を表現しているように見えます。
また少女・ヒミが炎使いなのも、母が大空襲の火事で死んでしまったからでしょう。(火事が眞人の心の中で変換)されたわけです。
眞人の母・ヒミの少女時代も眞人の心の中にあると考えると、すごく神秘的な物語ですね。
ただ、潜在意識の物語だと断定するとそれは解釈を矮小化することに繋がるので、「そんな意味もあるかも」くらいで考えるとよいと思います。
母ヒミとキリコの神隠し:時間のクロス
眞人の母は幼少期に神隠しに会い、1年後にすべての記憶を無くして戻ってきたと語られていました。
神隠しにあって少女・ヒミとして異世界で過ごしていたのでしょう。異世界は時間がなく、そこに未来の息子・眞人もやってきました。
異世界は時間という概念がない場所、言い方を変えればすべての時間が存在する場所です。
新海誠監督の『すずめの戸締り』の常世もすべての時間に接続している場所でしたが、その概念と似ていますね。
眞人は「132」と書かれた扉から出て現在へ戻ります。
ヒミは別の扉から出ました。ヒミは自分の時代(眞人から見て過去)に戻ったのでしょう。確かキリコもヒミと同じ扉から出た気がします。
ということは若いキリコは過去のキリコで、仕えている家のお嬢様・ヒミを探しに塔から異世界にやってきたのかもしれません。
ちょうど眞人が夏子を探すのと同じ関係です。
異世界のキリコの頭には眞人と同じ場所に傷がありました。
推測が入りますが、過去のキリコはヒミの存在に葛藤を抱いており、自傷行為をしたのかもしれません。そして考え直した末に、ヒミを助けるために異世界へやってきたのでしょう。
序盤で老婆のキリコが「タバコをくれたら子ども用の弓をあげる」と眞人に言っていましたが、眞人が作ったものを若いキリコが異世界から持ち帰って保管していたのかも。
あれ、そういえば異世界に吸い込まれた老婆のキリコはどうなったのでしょう?
最後に眞人はキリコのお守り人形を持っていました。人形は巨大化して老婆キリコが復活。
異世界に入った老婆キリコは、小さな人形になって眞人を守っていたのでしょう。
いろんな考察が思い浮かびますね…、何回か見て整理したいと思います。
そもそも異世界とは何か?
異世界はさまざまなもののメタファーになっています。
- 青サギを仲介者とした眞人の潜在意識の世界
- いろんな人の無意識が接続された場所(心理学者・ユングの説:集合的無意識のような)
- 死人がいることから、天国、もしくは地獄のような場所
どの要素もあり、決めつけきれないところが本作の良いところでしょう(わかりにくい部分でもありますが)。
あと異世界は、他人が作り上げた創作や芸術を表現しているとも感じました。
「だれかが作り上げた世界を再構築するのではなく、自分の世界を創れ!」
墓と門の意味「我を学ぶものは死す」
異世界にやってきた眞人は、ペリカンの群れに押されて金色の墓の門を開けてしまい、キリコに止められます。
誰の墓で、何の墓でしょうか?
死の象徴である糸杉が生い茂っていたので、不吉なものであることは間違いありません。
門には「我を学ぶものは死す…」的なことも書いてありました。
先程考察したストーリーの意味や、ペリカンが天を目指していたことを考えると、何の体験もさせずに答えだけをくれるのがこの墓なのだと思います。
仮に墓の主が現れたなら、「何の冒険もせずに現実へ戻る道」「死」など、眞人が体験したのとは別のルートになったのではないでしょうか(RPGの別ルート的な)。
また異世界が芸術や創作の世界だと加味すると、「他人が積み上げたモノを学んで終わってしまっては、それは創作者にとっては死と同じ」という意味が墓に込められているのかもしれません。
ちなみに調べてみると、「我を学ぶものは死す」は絵手紙作家の小池邦夫さんが師匠から言われた言葉のようです。真似るだけでは創作は本物にならないという意味でしょう。
宮崎駿自身の墓と墓碑銘では?という考察はこちら←
夏子が異世界へ行った理由
夏子はなぜ異世界へ連れて行かれたのでしょうか?
異世界が眞人の心の葛藤の世界や無意識の世界を指しているのであれば、眞人の夏子への抵抗を解決するために夏子も異世界にいる必然性があります。青サギが夏子を連れて行く理由があるわけです。
ただここに、夏子自身の葛藤もあったような気がしてなりません。
夏子は死んだ姉の夫と結婚することに若干の葛藤があり、眞人とどう接していいか悩んでいたかも。
出産も心理的な負担になり、姉・ヒミと会ってそれらの葛藤を解消したかったのかもしれません。だから塔から異世界へ踏み入って、産屋に幽閉されていたのではないでしょうか。
積み木
大叔父がいる野原にたくさん落ちていた積み木は悪しき力を発しているそうですが、これは何を表しているのでしょうか。
おそらく他人の考え方やアイデアだと思います。
他人の考えを拾い上げて自分の人生を創り上げることをよしとしない、そんなメッセージが伺えました。
吉野源三郎の小説との比較
吉野源三郎の小説からタイトルだけ拝借しただけ…かと思いきや、メッセージには共通点が多かったです。
眞人が劇中で読んでいた吉野源三郎の小説『君たちはどう生きるか』は、コペル少年がおじさんから「自分の頭で考えて初めて、人間は前へ進むことができる」と教えられるストーリーで、大枠でいうと映画のメッセージにも通底したものがあります。
映画は「自分の積み木を、自分で発見して、自分で積み上げろ」的なメッセージでした。
小説の内容も似ています。小説の主人公・コペル少年は、上級生に殴られている友達を助けずに逃げたことを深く後悔し、生きる意義を学んでいく流れです。
本作の眞人も、母の死と父の再婚、そして新しい学校生活から逃げるために自分で自分の頭を傷つけ、学校に行かなくてもいいようにします。コペル少年に通底する卑怯な道を取りました。
ペリカンやインコの理由:パノプティコン
ペリカンの群れやインコの軍勢を出した理由は、ヴィジュアル的に映えるというのもあるでしょうけど、もっと理由があると思います。
まず群れや集団で行動させることで、愚鈍な人間社会のメタファーとして機能しています。要は烏合の衆ですね。
もう少し踏み込むと、吉野源三郎の小説で主人公・コペル君が「人間は人間社会を構成する分子のようだ」と悟るシーンがあります。
鳥の群れはまさに個々の分子が集合したようで、社会活動を行う生き物の全体表現として最適だったのでしょう。
結果的に、集団に流される鳥と、自分で考える眞人の対比の構図が出来上がっています。
また、もう少し踏み込むというか飛躍させると、本作の塔の中に鳥がたくさんいて監視している設定は、哲学者ミシェル・フーコーのパノプティコンという概念を体現しているようでした。
パノプティコンとは中心からすべての囚人が監視できる円形刑務所のことで、国や社会が監視や同調圧力によって個人の自由な決定を妨げていることの表現です。
眞人は塔の束縛から解放されましたがパノプティコン的な視覚イメージを加味すると、真に自由な決定ができる人間になったという物語の意味がより深く伝わってくるようです。
創作活動におけるクリエイターの矜持を示していると考えることもできます。
オマージュ
本作はたくさんのジブリオマージュの集大成でありつつ、他作からの引用も多かったです。
まず鳥がたくさん襲ってくるシーンは、ヒッチコックの『鳥』を想起せずにはいられません。
さらに天国か地獄かの異世界で死んだ親族に会うストーリーはピクサー映画『リメンバー・ミー』的です。
白いふわふわ体系のワラワラが天に登って新しく生まれ変わるシーンは同じくピクサーの『ソウルフルワールド』。
戦争中に子供が田舎で不思議な生き物に導かれるプロットはギレルモ・デル・トロの映画『パンズ・ラビリンス』。
宮﨑駿監督が多大な影響を受けて本作の元ネタになったとも言われるジョン・コナリー著の『失われたものたちの本』。
宮崎駿監督がどれくらい意識していたかは分かりませんが、さまざまな作品に対する敬意が随所で感じられました。
ワラワラは『もののけ姫』のコダマにも似てますが、最近でいうとすみっこ暮らしのキャラみたいでした。
その他の細かい考察
キリコたち7人の老婆はみんな背が低く、「白雪姫」の7人のこびとみたいでした。元ネタの『失われたものたちの本』にも小人たちが出てきます。意識したのかもしれません。
異世界の「我を学ぶものは死す」と書かれていた門の近くに、画家のゴッホがよく描いていた死の象徴・糸杉があったので、関連性を邪推してしまいます。
元ネタ小説から映画『君たちはどう生きるか』を考察
宮﨑駿の『君たちはどう生きるか』の元ネタはジョン・コナリー著の『失われたものたちの本』(2006)と言われています。
『失われたものたちの本』のあらすじ:「第二次世界大戦中のイギリスで最愛の母親を亡くした12歳の少年デイヴィッドが、本の声や母の声を聞き、不思議な王国・おとぎばなしの世界に迷い込んでしまう。デイヴィッドは残忍なおとぎばなしの世界で、現実に戻るために国王が持っている失われたものたちの本を探す」
もちろんキャラクターや細部は映画と全然違います。物語の展開が一致している部分が多いのでモチーフになっているのは間違いないです。
青サギ男=ねじくれ男
青サギの元ネタは、『失われたものたちの本』に出てくるねじくれ男という小さい長細い鼻のおじさん。カササギに変身できます。
小説のねじくれ男は人間の悪の心そのもので、子供に身内を引き渡す代わりに国王にしてやると残酷な取引をさせています。その悪のエネルギーを糧にして生きている存在です。
ねじくれ男は主人公・デイヴィッドに「お前の弟を差し出せば命を助けてやる。お前を国王にしてやる」と取り引きを迫ります。デイヴィッドは断り、ねじくれ男は消滅。デイヴィッドが現実へ帰還する流れです。
『君たちはどう生きるか』のラストに似ていますね。謎が少し解けた気がしました。
さらに善悪への問いが「どう生きるか?」の問いに変換されているのです。
ちなみに、ねじくれ男のモデルは『グリム童話』の作品「ルンペルシュティルツヒェン」です。(ルンペルシュティルツヒェンという悪い小人が、「おまえにあたえた金と引き換えに生まれた子供を渡せ。俺の名前を当てれば見逃してやる」と言い、最後は名前を当てられて死ぬ話。)
インコ人間
異世界になぜインコがはびこっているのか謎でしたよね。
『失われたものたちの本』ではループという人狼が王国を滅ぼす集団として描かれています。これが映画ではインコに変換されたのでしょう。
国王であるデイヴィッドの大伯父がこの世界に来たときにその想像力で赤ずきんちゃんの物語をねじ曲げ、赤ずきんと狼の子として生まれたのが人狼・ループの起源です。
ということは『君たちはどう生きるか』のインコ人間も大叔父が異世界に来たときに、負の想像力で普通のインコに影響を及ぼして作り出してしまったものと解釈できます。
門と墓、キリコと木こり
『失われたものたちの本』では、異世界で主人公・デイヴィッドをサポートしてくれる木こりが登場します。
木こりは「異世界の秘密(王やねじくれ男の契約)を知っていた。しかし秘密を教えただけではデイヴィッドがねじくれ男の餌食になると思い、わざとデイヴィッドに旅をさせて彼を成長させた」と最後に判明します。
とすると『君たちはどう生きるか』の金の門と墓、「我を学ぶ者は死す」も、知識を得るだけではダメ。実際に体験していなければ成長はのぞめないと意味しているのでしょう。
あとはもしかすると、キリコは木こりのアナグラム(文字の並べ替え)なのかもしれません。
キリコも墓の主を目覚めないように魔法を使いました。木こりと役割が一緒ですよね。
眞人の性格
また映画の主人公・眞人は、母を助けに病院へ走る前にご丁寧に服を着替えていました。
これも『失われたものたちの本』の主人公・デイヴィッドが「毎日の決まり事をきっちりこなせば病気の母を救える」と、強迫性障害にルーティンをこなしていた点から影響を受けたのでしょう(ベッドを降りるときは必ず左足から。頭をぶつけたら、ぶつけた数を偶数にするためもう1度ワザとぶつけるなど神経質な人物)。
メッセージ性
『失われたものたちの本』がモチーフになっているとすると『君たちはどう生きるか』には「物語は生きており、現実に影響する」というメッセージが込められていることになります。
宮﨑駿監督がこれまでたくさんの作品で創造したファンタジー世界も私たちの心に確実に存在し、影響を与えています。
最後に眞人が持っていた積み木には、大枠のテーマである「若者たちに自分の真似をしないで進んでほしいという想い」に付け加えて「でもちょっとだけ覚えていて欲しいな」という宮﨑駿監督の気持ちが込められているのかもしれません。
また、眞人が物語に入り込んでいったというより、物語のほうが眞人を誘い込んだという解釈のほうが近い気がしてきます。
ラスト結末は、眞人は異世界での体験で現実を受け入れる強さを学び、大叔父の物語に吸収されることを拒み、友達と自分の物語を作ることを決意した!となるでしょう。
また、ねじくれ男が人間の心を試している完全悪だと加味すると、少しの悪意(自傷行為や義母・夏子への嫌悪)に染まった眞人のような人間でも、物語によって変わることができるというテーマも浮かび上がってきます。
ただ『失われたものたちの本』はあくまでモチーフです。参考にはなるものの映画と小説のテーマがすべて一致するとは考えなくて良いでしょう。そんな解釈こそ、他人のつくった世界を生きることにつながってしまうと思います。
(↓ジブリ映画『君たちはどう生きるか』の感想は下記記事へ↓)
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