第94回アカデミー賞作品賞を獲得した映画『コーダ あいのうた』(CODA)を深掘り解説!聴こえない歌が家族の絆をより深くする感動の傑作でした。
記事では何が本作を特別なものにしたか徹底考察(ネタバレ)、家族の脱構築、ぶっちゃけ感想を徹底レビューしていきます!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)
映画『コーダ あいのうた』作品情報・キャスト
原題:『CODA』
ジャンル:ヒューマンドラマ・コメディ
監督・脚本:シアン・ヘダー
原作:フランス映画『エール!』(2014)
撮影:パウラ・ウイドブロ
音楽:マリウス・デ・ヴリーズ
キャスト:エミリア・ジョーンズ、トロイ・コッツァー、ダニエル・デュラント、マーリー・マトリン、エウヘニオ・デルベス、フェルディア・ウォルシュ=ピーロ
考察(ネタバレ)
聴こえない歌が持つ引力
©︎GAGA
映画『コーダ あいのうた』をひとことで言い表すなら、聴こえない歌の物語だと思いました。
ルビーがいくら心を込めても、耳がきこえない家族に歌自体を届けることはできません。
しかし父・フランクら家族は、どれだけ心を込めているか、周囲にどれだけ感動を与えていることは理解できます。
親が子供がやっていることをすぐに理解できず、まず先にその情熱を理解してあげるという結構リアルな2段階プロセスなんですね。
それだけに多くの共感を呼ぶのでしょう。
そしてフランクは歌を聴くために、娘・ルビーの喉や胸に手を当てて振動を感じとります。
ルビーは音楽大学のオーディションで見に来てくれた家族に向かって、手話も交えて熱唱します。
情熱を持つ子供と、理解できない親。お互い誠心誠意歩み寄っていく過程に心を揺さぶられました。
「わからない」と思考停止するのではなく、お互いの胸の中に飛び込んでいく。
あたかも聴こえない歌には引力があるようです。
「俺はヒップホップに命かける」「僕はYoutuberになる!」など、子供が親が理解できない分野に夢中になることはどの家庭でもよくあると思います。
そういった一般的な問題をろう者の親と歌が上手い子供という図式で何倍にも濃縮したからこそ、誰もが感動する作品になり得たのだと思いました。
思えば親子関係だけでなく、私たちは誰もが心の声を持ち、それが相手に伝わるよういわば一生懸命“歌”を歌っているのかもしれません。
手話による言語以前の意思疎通、下ネタ
©︎GAGA
本作に感動ポルノ(障害を持つ人に何かさせて感動する構図)の要素がほぼ感じられないかった理由は、父・フランクの下ネタでしょう。
耳が聞こえようがろう者だろうが同じ人間です。
福祉施設関係の人から聞いた話だと、例えば視覚障害を持っている方は、それについて「自分はかわいそうだ」と感じてはいないようです。
フランクたちもそうなのでしょう。それが普通であり、幸せを謳歌する権利はもちろん、下ネタを言う権利もあります。
フランクはそのことを下ネタという形で示してくれました。
また、フランクとルビーの下ネタや口論を手話でやるシーンも新鮮で、美しさを感じました。
(この見方は厳密にいえば若干感動ポルノ的な視点を含んでしまってますが、今まで私はテレビの手話通訳など、お堅い手話しか見る機会がなかったのでご了承ください。)
優美な手の動きを伴った下品な笑いに、人と人とのコミュニケーションの根源的なものがある気がします。
手話による意見のぶつかり合いからは、私たちが漠然と描いているコミュニケーションのイデア(理想形)の片鱗が垣間見えます。
人類が誕生して言葉が優勢になるまでは、ボディランゲージが今より大きな役割を果たしていたことでしょう。
態度を出しすぎて身振り手振りが大きくなろうもんなら攻撃的だと思われてしまう現代。
手話のコミュニケーションには現代人の羨望とノスタルジーが隠されていると思いました。
現代社会で失われているような言語以前の原的な意思疎通が稲妻のように心を打つのです。
手話という言語によるコミュニケーションの魅力を理解し、ヴィヴィッドに表現したからこそ、映画『コーダ あいのうた』は多くの人に感動を与える傑作になりえたのでしょう。
近代以前の家族像を再現
映画『コーダ あいのうた』で何が感動的かを掘り下げると、私たちが思い描く近代以前の家族像が見られたことだと思います。
近代以前というと漠然としていますが、要は子供は子供、親は親の役割がきっちり決まっている現代の家族ではない家族形態です。
主人公・ルビーは家族としてだけでなく、通訳者や漁の手伝いとして経済的にも家族になくてはならない存在です。
それなりに責任を背負っており10代の少女らしく自由にさせてもらえない葛藤はありますが、自分が家族にとってなくてはならない存在だ!という幸福もあるでしょう。
両親と対等な立場で言い争うことができる“人権”があるようです。
口ごたえしても親から「誰のおかげで飯を食って学校に行ってるんだ?黙れ!」と言われることはありません。
現代に生きる私たちは少なからず、子供だから意見がいえない、主体的に行動させてもらえないというもどかしさを感じたことがあるはず。
現代では大前提としてある大人と子供の垣根。それを飛び越えた家族のコミュニーケーションが『コーダ あいのうた』の大きな魅力です。
聴覚障害者の両親と兄という設定によって主人公・ルビーが頼られる物語上の必然性も強まり、本音でぶつかりあえる理想の家族を描くことができました。
ラストではルビーがバークリー音楽大学へ進学を家族が応援してくれます。
家族全員が対等だったのが、急にルビーが現代の子供の権利を行使するという構造の変換も巧みだと思いました。
小さい頃からレストランで家族と店員の通訳を務めるある面1人の大人として扱われていたルビーが、初めて子供になることを許されたかのようでした。
映画『コーダ あいのうた』ネタバレ感想・評価
初っ端から主人公・ルビーの家族がお互いに文句や下ネタを言い合いつつ、いつも笑顔を向けあっている姿に超感動。
歌手を目指すルビーと、歌が聞こえない両親フランクとジャッキー、そしてレオ。
1人だけ耳が聞こえるコーダ(CODA:Children of Deaf Adults/耳が聞こえない親を持つ子供)という設定がインパクト抜群なのはもちろんあります。
ただ考察でも触れましたが、本作の本当の良さは子供がティーンエイジャーになっても家族が本音で、笑顔でぶつかりあっている姿だと思います。
手話を使って話すろう者の親と娘という関係でその本質がより伝わりやすく、大きな感動を呼び起こしたのだと感じました。
ベルナルド・ヴィラロボス先生( V先生)とのやり取りも最高でしたね。
- ボブ・ディランとデヴィッド・ボウイの例えを出し、音楽が技量だけでないことを伝える
- ルビーが手話で歌への想いを伝える
- V先生はCODA(親がろう者の子供)特有の発声こそ個性だと見抜き、それを吐き出させる
コンプレックスは唯一無二の何かに消化できる。
真の教育とは、魂と魂のぶつかり合いである。
そう教えてくれたダンディかつ素敵すぎる先生でした。
CineMag評価 | 90点 |
IMDb(海外レビューサイト) | 8.0(10点中) |
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト) | 批評家 94% 一般の視聴者 91% |
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