映画『Cloud クラウド』ネタバレ考察・ラスト解説「なぜ佐野は吉井を助けたのか?」

  • 2024年10月2日

映画『Cloud クラウド』。

シネマグ
黒沢清節が炸裂した後半は意味不明の作品。しかしどこか現実に根差す恐怖がある。まさに掴みどころのない“クラウド(雲)”な映画

ストーリー考察:クラウドの意味とネットリンチ、なぜ佐野は吉井を助けたのか? 佐野は悪なのか?

視聴してのぶっちゃけ感想・評価(ネタバレあり)

これらの情報を知りたい人向けにわかりやすくレビューしていきます!

(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)

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映画『Cloud クラウド』面白かった?

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映画『Cloud クラウド』作品情報

公開:2024年9月27日
上映時間:123分
ジャンル:サスペンス
年齢制限:G(制限なし)
監督・脚本:黒沢清
原作:なし。映画オリジナル

キャスト

吉井良介(転売屋のラーテル)|cast 菅田将暉(関連記事『キャラクター』『キューブCUBE 日本版』)

秋子(吉井の彼女)|cast 古川琴音(『みなに幸あれ』『実写 幽遊白書』『リボルバー・リリー』)

佐野(吉井が雇ったバイト)|cast 奥平大兼(『ヴィレッジ』『パレード』)

三宅(ネカフェの青年)|cast 岡山天音(『No Activity 本日も異常なし』)

滝本(工場長)|cast 荒川良々

村岡(吉井の先輩の転売屋)|cast 窪田正孝(『ある男』『Diner ダイナー』)

『Cloud クラウド』あらすじ

ハンドルネーム・ラーテルで転売で荒稼ぎする吉井良介(菅田将暉)。医療機器の転売で数百万円を儲けて仕事をやめ、恋人の秋子と群馬県の湖のほとりに移り住む。しかしそこで不審な出来事が数多く起こるようになる。ラーテルに恨みを持つ集団が吉井に復讐しようとしていたのだった。吉井の日常が崩壊しはじめる。

ネタバレ少なめの感想

※以下、映画」『Cloud クラウド』のストーリーネタバレありなので注意してください!

ラスト結末のネタバレ

吉井が目覚めると廃工場にいた。滝本たちは、これから吉井を痛めつけてその様子を全世界に配信するという。

そのとき、工場の入り口で復讐メンバーの1人が佐野に撃ち殺された。佐野は実は元暗殺者で、アシスタントとして吉井を助けるために銃を持って工場にやってきたのだった。

滝本たちは佐野を殺しにいく。

吉井は工場に秋子もきているのをみる。秋子はあとで助けるというが、浮かない表情だった。

吉井はやってきた佐野に拘束を解かれる。佐野は吉井に銃を渡した。2人は工場を進み、殿山や三宅と銃撃戦へ。吉井は殿山を撃ち殺した。

滝本が逃げる三宅を殺した。吉井と佐野は滝本と銃撃戦になり、彼を殺した。

吉井は佐野に銃を向けた村岡を追い詰めて殺した。

銃撃戦の後、吉井は自分が出品した人形が売れているのをスマホで確認して喜んだ。秋子がやってきて吉井に銃を向ける。そしてクレジットカードをよこせといった。佐野が秋子を撃ち殺す。吉井は泣いた。

佐野が車を運転し、吉井さんは商売のことだけ考えていてくれればいい。あとのことは全部俺がやりますから。きっと世界の人を破滅させられるものも手に入る…と言った。吉井は地獄だ…とつぶやいた。

映画『Cloud クラウド』終わり

考察1:ネットリンチを現実に置き換えた

鬼才・黒沢清監督の作品を一つの切り口から語ることができるかはわからないが、本作はネットリンチを現実に置き換えたような作品だと感じた。

吉井は悪質な転売屋・ラーテルとしてネットの掲示板で「死ね死ね!」と無数に書き込まれ、その時点ですでにネットリンチを受けているといえるが、後半の不毛で長い銃撃戦を見ていると、ネットでのアンチコメントとその返しを延々しているようにも見えた。

ネットで炎上すると、相手の尊厳などどうでもよく、すぐに殺す殺さないの話になる。滝本や村岡もそんなノリで出撃しているようだった。

ネットの人間関係は軽い。後半で三宅(岡山天音)が着けていた覆面を他のメンバーにはぎ取られ、お前の顔なんて誰も覚えちゃいないと言われる。ネットのやり取りってこんな側面がある。

ネット上には名前も顔も尊厳もなく、その中で不毛な争いが繰り広げられる。クラウド上の関係は、文字どおり雲のように軽い。それが本作の大きなテーマに見えた。

考察2:なぜバイトの佐野は吉井を助けたのか?

本作で最大の謎が、バイトの佐野(奥平大兼)が吉井を助けた理由だろう。解釈はいくつかあるが個人的な結論は助けてくれる人間に理由がない恐怖を描いたというもの。

吉井の命を狙う滝本や村岡らには、吉井に存在を軽んじられた恨みがある。攻撃してくる敵には理由がある。

いっぽうで同じように所詮バイトだと存在を軽んじられていたはずの佐野は吉井を助ける側にまわる。なぜ助けるのかわからないぶん余計に怖い。

考えてみると、仕事や人生の成功にも実は理由がなかったりする。芸能人はなぜ自分が売れているのかわからなくて怖くなるらしいが、佐野の理由のない助けにも似た恐怖がある。

成功に理由がないということは、逆にいえばいつ転落してもおかしくないということ。吉井は何の理由も持たずに助けてくれる佐野に見捨てられたら破滅である。むしろ、佐野=理由のない成功に支配された存在に成り下がったと言った方が正しい。

自分の実力などまるで関係がない雲のようにはかない生き方。だから最後に地獄だとつぶやいていたのだろう。

佐野は元ヤクザの暗殺者であり、吉井が思っていたような“単なる頭の悪いにいちゃん”ではなかった。佐野が吉井を助けた理由には、吉井が人の表面しか見ない愚かさを描く意味もあるだろうが、本質的には成功には理由がない…その恐怖を表現していると思った。

次のページでは果たして佐野は悪なのか考察していく↓↓