映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(Civil War)
作品情報・キャスト
物語ネタバレあらすじ・ラスト結末解説
ストーリー考察:アメリカの戦争中毒の極み、ジャーナリズムの風刺、リーの行動について
正直な感想・評価(ネタバレあり)
これらの情報を知りたい人向けにわかりやすくレビューしていきます!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)
これから視聴する方の参考になるよう、作品についての視聴者口コミ・アンケートも投票お願いします↓
映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』作品情報・キャスト
制作国:アメリカ
上映時間:1時間49分
原題:『Civil War』
ジャンル:政治アクション、ロードムービー
年齢制限:PG12
監督・脚本:アレックス・ガーランド
製作・配給:A24
制作会社:DNAフィルムズ|IPR.VC
撮影:ロブ・ハーディ
リー・スミス|cast キルスティン・ダンスト(出演作『パワー・オブ・ザ・ドッグ』ドラマ『FARGO/ファーゴ』)
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ジェシー・カレン|cast ケイリー・スピーニー(『プリシラ』『エイリアン:ロムルス』)
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ジョエル|cast ヴァグネル・モウラ(『ナルコス』,Netflix『グレイマン』)
サミー |cast スティーヴン・ヘンダーソン(『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』『リンカーン』『DUNE/デューン 砂の惑星』『ボーはおそれている』『フィアーザウォーキング・デッド4』)
リーの記者仲間|cast ソノヤ・ミズノ(『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』『マニアック』)
軍人|cast ジェシー・プレモンス(『ブレイキングバッド』『エルカミーノ: ブレイキング・バッドTHE MOVIE 』『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』)
大統領|cast ニック・オファーマン
※以下、映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』ネタバレ・ラスト結末まで解説
独立を目指して決起したカリフォルニアなど西部軍WFは政府軍と各地で激しい戦闘を繰り広げていた。
戦争ジャーナリストのリー・スミス(キルスティン・ダンスト)、戦闘の現場で生々しい写真を撮っていた。そこでデモと鎮圧部隊の戦闘に巻き込まれそうになった23歳のジャーナリスト志望・ジェシー・カレン(ケイリー・スピーニー)を助ける。ホテルでジェシーはリーに話しかけ、あなたは私のヒーローだと言った。
翌日、ロイター通信のリー、ジョエル、そしてニューヨークタイムズのサミーはワシントンD.C.へ向けて車で1000キロ以上の旅に出発することに。西部軍と政府軍の戦闘に巻き込まれて命を落とす可能性が高い危険な旅だった。なんとジョエルが許可したせいでジェシーもついてくることになった。
ガソリンスタンドには武装した集団がいる。リーとジョエルは相談してガソリンを入れてもらえることに。ジェシーは奥の洗車場に盗みを働いていた男性たち2人が拷問されて吊り下げられているのを見てパニックになる。リーはその写真を撮った。ジェシーは恐怖でカメラを持っていることさえ忘れ、そのあと車の中で記者としてミスをしたと落ち込んだ。
その後、リーたちはある戦闘を取材する。ジョエルは興奮状態だった。ジェシーは恐怖を抑えながら、1人の兵士が撃たれて瀕死の状態のところをフィルムに収める。
さらに進むと、小さなテーマパークのような場所で狙撃される。リーたちは車から降りた。近くにいた兵士たちが敵を狙撃して殺した。
リーたちは避難者たちのキャンプ地へ着く。リーはジェシーの要望で、自分が記者になってからのことを語った。
さらに進むと、戦争なんか気にせずに普段通りの生活をしている自治体を見つける。ジョエルが洋服屋の女性に質問すると、内戦のどちら側にも関わらない方がいいのは明らかだ…という答えが返ってきた。
リーが運転していると、後ろから猛スピードでやってくる車が…ジョエルの友人で記者のトニーたちだった。ジョエルは喜ぶ。
ジェシーはトニーの同僚の車に乗る。その車は猛スピードで先へ突っ走るが、過激派の集団(ジェシー・プレモンス)たちに捕まってしまった。
ジェシーとトニーの友人は、死体がたくさん入った穴の前で膝まづかされ銃口を向けられている。それを見たリーとジョエルは、サミーが止めるのも聞かずに軍人たちのまえに出てきて、記者だから通過させてくれと言う。しかし軍服を着た男(ジェシー・プレモンス)はトニーの同僚を射殺した。トニーは泣き叫ぶ。
軍服を着た男はリーたちに出身地を問う。リーはオレゴン、ジョエルはフロリダ、ジェシーはミズーリと答えた。軍人は香港と答えたトニーを射殺する。
そこへサミーがバンでやってきて軍服を着た男をはね飛ばす。リーたちは車に乗って逃げた。後方から狙撃される。サミーは腹部を貫かれた。
リーたちは西部軍のキャンプ地へ到着。サミーはすでに死んでいた。リーは死んだサミーの写真を撮るが、データを削除する。
ジョエルは知り合いの記者(ソノヤ・ミズノ)から、西部軍はすでに政府軍を打ち負かした…と聞かされて、決定的な瞬間を逃したことに愕然とする。サミーの死は無駄だったのか?
リーたちは西部軍がホワイトハウスへ進軍し、大統領を捕らえるところを撮影することにする。
ジェシーは激しい戦闘の中でまったくひるまずに興奮状態で戦闘を取り続けた。ベテランのはずのリーはサミーの死の影響か恐怖で動けないこともあった。
ついに西部軍はホワイトハウスの周辺の政府軍を倒す。
ホワイトハウスから大統領専用車が出てくるが、リーはそれがフェイクだと見抜く。本物の大統領はまだ中にいるはずだ。
リーたちはホワイトハウス内部へ。ジェシーが通路の真ん中におどりでてしまう。リーはジェシーを庇って銃弾を受けて倒れた。リーはその瞬間までカメラに収めていた。
ジェシーは死んだリーを一瞥すると部屋の中へ入る。ジョエルが大統領に最後に言い残すことはないか聞くと、大統領は「私を殺させないでくれ」と命乞いをする。兵士たちが大統領を射殺した。ジェシーはその様子もカメラに収めていた。
エンドロールには、大統領の死体の前で笑顔になる西部軍の兵士たちの写真があった。
考察1:白昼堂々 戦争の夢を見続けるアメリカ
内戦に至った経緯は描かれていないが、世界各国で戦争を繰り広げてきたアメリカが、それでも飽きたらず自国で内戦をはじめたように見えた。
アメリカ=戦争中毒と表現していたのが興味深い。途中でドラッグの曲が流れたが、薬物を使う人のようにアメリカという国自体も戦争中毒だという意味だろう。
リーの両親も、ジェシーの両親も、田舎の農場で戦争を見て見ぬフリしているらしい。これもアメリカの一つの姿なのかもしれない。
映画の最後では夢を見続ける…という歌が流れた。これも戦争という夢を見続けるアメリカを皮肉っているようだ。
考察2:ジャーナリストの葛藤と風刺
(個人的に戦場で命懸けで事実を記録するジャーナリストを批判する気はまったくないが)シビルウォーでは戦場ジャーナリスへの風刺がかなり効いていたと感じた。
記者が過激な写真を撮るのをやめない理由と、戦争が終わらない理由とが両方とも中毒症状のようなものだと表現されていたからだ。
リーの同僚ジョエルは戦闘の撮影について勃○するほど興奮すると話し、最後にはそのジャーナリストの狂気がジェシーにも伝染してしまう。自分のヒーローであり命の恩人でもあるリーをその場に放置して決定的な写真を撮り続けようとするジェシーはもう普通ではない。
リーがジェシーを過激派(ジェシー・プレモンス)から救おうとした行動はジャーナリスト的ではないかもしれないが人間的だった。
ジェシーがリーの死体に心を動かされずに写真を撮り続けるのはその逆で、ジャーナリズム精神かもしれないが非人間的である。リーは自らの命をかけて最後に人間に戻り、ジェシーはジャーナリズムの狂気にどっぷり浸かってしまった対比に見える。
アレックス・ガーランド監督はジャーナリストの尊厳のために映画の主人公にした…と言っているようだが、映画『MEN 同じ顔の男たち』のような作品を撮る彼のこと。二枚舌というか、ジャーナリズムの崇高性を説きながら問題点や風刺も入れ込むことくらいはしそうである。
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少なくとも、殺害された大統領の横で笑顔で写真を撮る兵士たちと、それを撮影するカメラマンを高尚さだけで括るのは難しいだろう。
熱された報道精神はある種の中毒のようなものなのかもしれないという表現にも見える。
誰かが必死に助けを求める場面に遭遇しても、報道の中立を盾にシャッターをきり続けるリーやジェシー。感情を動かされて助けていては報道の仕事はできないので仕方ないが、どこか健全ではない気もする。
ひとつの解釈であり賛否ある意見だとはわかっているが、戦場カメラマンやジャーナリストは狂気に感染した正義を写真で媒介する存在でもあるのかもしれない。人が人を殺す過激な写真が正義のフレームで切り取られ宣伝として利用されれば、それは次の戦争を助長する一因になり得る。
もちろん戦争の現状を伝えるためにジャーナリストは必須なのだが、それと同時に報道の問題点をかなり深くえぐって伝えているとも感じた。
考察3:過去の自分を救えなかった主人公
最後にリーはジェシーをかばって死亡する。リーはジェシーに過去の自分を見ていたのだと思った。
ジェシーは若い頃に最年少で権威ある賞を受賞し、その後はずっと戦争漬けだった。報道の中立を盾に、悲惨な処刑現場でも冷徹にシャッターを切り続けた。リーにはパートナーや子供がいる様子はない。
リーは過去の自分を救うかのようにジェシーの命を救ったのだと感じた。しかしジェシーの報道の狂気は冷めることはなかった。
現在から過去を救うことはできない…戦争が終わっても過去の被害をなかったことにはできない。そんな戦争のむごい現実と、リーが過去の自分を救いたい願望がリンクしているようだった。
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』ネタバレ感想・評価
自分たちの戦争中毒をエンタメ化し、さらにジャーナリズムの問題点まで突きつけるのだからアメリカってやはり懐が深い国だと思わされた。アメリカの大統領選の暗喩であったり、トランプ批判などの側面もあるが、ジャーナリズムの葛藤をリアルに抉り出していた点がこの映画の本質だと感じた。
ハリウッド映画には、政府は信用できねえ!敵は軍や大統領だ!という展開が山ほどあるが、今作ではそれに加えて内戦、さらにはジャーナリストへの風刺も込められていたのだから文句のつけどころがない。
アクションもリアリティ抜群だった。リアルな銃声を知らない日本人が作った邦画での銃撃戦がお遊戯会に見えるほど。戦場を突然切り裂く銃声にちびりそうになった。
特にジェシー・プレモンスがリーの友人たちを簡単に撃ち殺してしまうときの臨場感が半端なく、心臓の鼓動が止まらなかった。(ジェシー・プレモンスが演じた軍人たちは、政府軍が過激化してアメリカ独立を支持する人たちを殺しまくっている集団なのだろう)。
さらに、死体の山に落ちたジェシーが子供の死体を下敷きに上がってくるシーンなど、戦争の悲惨さをこれでもかというくらい突きつけていた。
ジェシー・プレモンスは妻のキルスティン・ダンストにお前も出ろと言われたのかも。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』でも夫婦で共演してたよね。
史実では南北戦争。映画では東西戦争。今回、独立軍となったカリフォルニアにはIT企業のメッカであるシリコンバレーがある。アメリカの内戦についても“なんかありそう”と思わせてくれる設定も巧い。
ここまで読んでいただきありがとうございます。映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』レビュー終わり!
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