映画『ボーダー 二つの世界』ネタバレ考察と感想:トロル人を現実的に解釈・ラストの意味

  • 2024年3月24日

ここ数年で一番衝撃を受けた映画『ボーダー 二つの世界』を徹底解説。現実の差別問題や倫理観から考察してみた。

差別の問題を生理的嫌悪感交えて突きつけられる傑作!

この記事には、

  • あらすじネタバレ
  • ラストの意味解説
  • 現実的な問題からの考察

などが書いてあります。

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映画『ボーダー 二つの世界』ネタバレ考察

『ボーダー 二つの世界』はトロルが出てくるダークファンタジーという位置づけなものの、ギレルモ・デル・トロ監督のパンズラビリンスと同じくらいかそれ以上にリアリティのある問題を強く突きつけてくる。

染色体異常や醜い外見・ジェンダー問題の差別意識

ティーナとヴォーレ

アリ・アッバシ監督は、ティーナとヴォーレの外見をネアンデルタール人を基に作ったと言っているが、映画内でティーナは染色体異常と言っているので、エドワーズ症候群(18トリソミー)などの先天性の異常を意図している可能性がある。加えて、醜い外見や、性同一性障害などジェンダー問題も見せているのだろう。

ティーナとヴォーレの異様な性描写などが中盤で出てくるのだが、それを“異様”だと感じた時点で、染色体異常者に対して少なからず差別的な感情があることの証明がなされるのではないか。

この映画は、私たちが潜在的な差別主義者だと強く突きつけているのだ。

人は気付かないうちに、美醜のボーダーという勝手な物差しで物事を判断しているのかもしれない。

児童性犯罪に関わるヴォーレ:種族間の対立

人間から見て外見が恐ろしいトロル。ヴォーレは赤子を誘拐し、児童ポルノ撮影集団に売買するという最悪の犯罪に手を染めている。そしてそれを微塵も悪いと思っていない様子だ。

トロルと人間は違う種族だからというのが理由なのだろうが、これでは彼の両親を拷問した人間とまったく同じではないか。

ほとんどの人が、種族が違えばどう扱ってもいいとの考えには嫌悪感を覚えるだろう。しかし、人間と違う種族がいたら黒人差別以上にひどい争いがたくさん起こっていたかもしれない(実際、過去にネアンデルタール人は人類に滅ぼされているし)。

差別はなくならないと現実を突きつけられているようで、とても暗い気持ちになる。

映画『ボーダー 二つの世界』ネタバレあらすじ解説

あらすじ1:ティーナとヴォーレの出会いボーダー 二つの世界 税関職員ティーナ

染色体異常で醜い外見を持つが、嗅覚が異常に優れたティーナ(エヴァ・メランデル)。その特殊能力を活かして、フェリーの税関で違法な持ち込みを制限する仕事をしていた。ティーナは人間の感情まで嗅ぎ分けられるので、携帯のメモリーの違法児童ポルノまで摘発する優秀な人材だった。

ある日、いかつくてティーナと同じような外見の男性・ヴォーレ(エーロ・ミロノフ)が目の前を通り、怪しいにおいから荷物検査をしてみるが、何も出ない。同僚がヴォーレを裸にして調べたところ、女性器があるとのことだった。

ヴォーレとティーナ初対面シーン

ティーナはヴォーレをつけて行くと、彼は木の幹から小さな虫を取り出して食べている。ティーナも食べてみると、美味しかった。

ティーナは森の中にある自宅に彼を招き、離れを使っていいと言う。恋人のローランドはヴォーレを気味悪がった。

ヴォーレは深夜の森で何かを産み落とし、冷蔵庫の中で育てはじめる。

あらすじネタバレ2:トロル人の秘密

ローランドがドッグレースで家を空けると、ティーナとヴォーレは惹かれ合い、森で性行為をはじめる。男性器を持っているティーナと女性器を持つヴォーレの不思議な交わりだった。

二人は裸で森をはしゃぎまわり、湖で泳ぐ。

湖で泳ぐヴォーレとティーナ

ヴォーレは「自分たちはトロルという虐げられてきた種族だ」と真実を話した。尻尾を切られた傷が二人にあるのが証拠だと言う。ヴォーレの両親は実験施設で拷問を受け死んだらしい。フィンランドにトロルの集団があり、いつかそこで暮らしたいと続けた。

自分が人間でないと知ったティーナは、ローランドを家から追い出した。

その後ティーナは、児童ポルノ摘発の仕事を依頼され、赤子に性的虐待を加えている卑劣な夫婦を発見し、彼らを捕まえる。

児童ポルノに関わっていた男がパトカーで移動中、車の前にヘラジカが現れ一旦停車。その隙にヴォーレが後部席にいた男を撲殺した。

現場の匂いでヴォーレが児童犯罪に関わっていたと知ったティーナは彼を問い詰めるが、「人間に復讐をしている」と返された。

あらすじネタバレ3:ティーナの決断

ボーダー 二つの世界のティーナとヴォーレの境界

ティーナはヴォーレが冷蔵庫に入れている胎児のような生き物が、彼が産んだ無精卵だと知る。その後、ヴォーレはそれを隣人の赤子とすり替えた。

ティーナは施設にいる父親を問い詰めると、昔地域の精神病院でトロルを収容していて、彼らに頼んで譲り受けた娘がお前だと語られる。

ヴォーレはフェリーに来いと、書き置きを残した。ティーナは甲板につき彼に擦り寄るが、合図を出して仲間に拘束させる。

ヴォーレは男二人を突き飛ばし、腕を後ろで縛られたまま海に飛び込んで逃げた。

ある日、ティーナの元に尻尾の生えた毛深い赤ん坊が、箱に入れて送られてくる。フィンランドにようこそと書いてあった。

ボーダー 二つの世界ラスト結末を徹底解説

ボーダー 二つの世界

ラストの尻尾の生えた赤ん坊は誰なのか?

結論は、やっぱりティーナとヴォーレの子どもじゃないかと思う。

逃げたヴォーレがフィンランドに辿り着いて、ティーナをこちらの世界に迎えるために送ったのだろう。

赤ん坊が送られてくるのは怖いが、ティーナの顔には希望が垣間見える不思議なラストだった。

最後のまとめ

湖で泳ぐティーナとヴォーレ

ストーリーも興味深く社会的な意義のある『ボーダー 二つの世界』は、自分を見つめ直す機会のない大人たち全員に観るべき作品だと思う。

ただし、内面の倫理観を激しく揺さぶられるうえに、『群がり』のような虫グロシーンもあるので、それなりの覚悟を持って観なければならない。

私にとっては、近年稀にみる衝撃作でした。