2021年6月25日公開の映画『Arc/アーク』は、人類で初めて不老不死になった女性を描いたSFヒューマンドラマ大作!
アートと生命がテーマになっていて、見応えのあるシーンも多かったですが、ストーリーにはがっかりしました。
- ネタバレあらすじ解説
- 感想・評価ぶっちゃけ
- 不老不死に対する答えの深掘り考察
などなど、楽しんでいただけると思います。
映画『Arc/アーク』基本情報・キャスト
監督:石川慶
脚本:石川慶,澤井香織
原作:ケン・リュウ「円弧(アーク)」
撮影:ピオトル・ニエミイスキ
主演:芳根京子/リナ役
出演:寺島しのぶ/エマ役
出演:岡田将生/夫アマネ役
出演:清水くるみ/カナコ役
出演:小林薫/リヒト役
出演:風吹ジュン/フミ役
出演:倍賞千恵子
出演:中村ゆり
監督の石川慶さんは映画『愚行録』『蜜蜂と遠雷』などで有名で、撮影のピオトル・ニエミイスキも両作に参加してます。
芳根京子は『真犯人フラグ』(2021〜2022)の二宮瑞穂役でも話題!
寺島しのぶは2021年は『キネマの神様』への出演でも話題になりました。
原作「円弧(アーク)」は中国出身の作家ケン・リュウ著です。
映画『Arc/アーク』ネタバレ感想・評価
映画『Arc/アーク』の評価は72点。
プラスティネーションで人体の標本を作る過程(ダンスの動きで死体を固定する)など、中盤まではアーティスティックで素晴らしかったのです。
ただ、ストーリーやラスト結末にまったく斬新さが感じられなかったのが残念。
1番残念だったポイントは、肉体は若いままで高齢になった主人公リナに精神的な成長が見られなかったこと。
肉体は変わらずとも何十年も経過しているので、性格などが全く変わっていないのは大きな違和感です。
人類は不老不死で進化したわけではない。時間を止めただけだ!というテーマはわかるのですが、それによってリナの想い出が蓄積された感が薄れ、不老不死物語としての感動がスポイルされています。
リナの精神的な成長をあえて描いていないのだとしても、彼女はそれを悲劇と捉えている感じもなく、カタルシスが得られません。
『Arc/アーク』はストーリー全体としても平凡だったと思います。
自分より年老いた息子との再会も予想できましたし、それっぽい展開は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ベンジャミンバトン』ノーラン監督の『インターステラー』などSFではよくあるため、そこまでの感動が得られません。
最後に主人公リナが不老不死ではなく自ら老化を選ぶという結末も、心の成長が十分に描かれていなかったせいもあって、ありきたりに感じました。
永遠の生命に葛藤する物語としては、手塚治虫の『火の鳥』の方が数段優れていると感じました(ケン・リュウの原作にはもっと細かい情感が書かれていると思いますが)。
テーマ重視でアーティスティックなSFとしてもドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の映画『メッセージ』などの完成度には及ばないでしょう。
不老不死=生命のプラスティネーション
酷評してしまいましたが映画『Arc/アーク』からは画期的な表現が浮かび上がっていました。
それは不老不死=生の標本というもの。
プラスティネーション(血液の代わりに体を樹脂で満たす)で死体を生きているかのように保存する技術が、前半の主軸になっていました。
プラスティネーションはイコール標本と捉えてよいでしょう。
ラストで、リナは不老不死を不完全な生と考え、老化を選択しました。
同じように死体のプラスティネーションも不完全な生といえますよね。
そう考えると、不老不死=プラスティネーションという式が成り立ちます。
テロメア初期化で死なないことは、生命のプラスティネーションなのです。
(姉エマも弟アマネも、不完全な生に対して違うアプローチをしていただけと考えられるのも感慨深いですね。)
89歳になったリナは不老不死を「自然の摂理に1人取り残されるようだ」と表現していました。
永遠の命で歩む人生は、きっとプラスティネーションのように糸で繋がれるようなものなのでしょう。
50歳あたりから映像が色褪せ、89歳時点でカラーからモノクロに映像が切り替わったのも、不完全な命を表現していたのかもしれませんね。
リナはプラスチック漬けにされた偽りの生命に終止符を打つことで、永遠より尊い命のアーク(円弧)を描いたのです。
常に死に触れるリナ
17歳のリナは生まれた子供に意味や幸福を感じず(太宰治の短編小説「トカトントン」みたいですね)、生きる意味を失ないます。
しかしそのあとプラスティネーションという“死の職場”で生きる意義を見出したところが非常に興味深いです。
リナが死体を素手で触ろうとするシーンからも、死から何かを感じ取ろうという想いが垣間見えましたね。
そしてリナは、不老不死になっても人々の死を看取る施設で常に死のそばにい続けます。
死という美学に魅せられ、死のそばにいてはじめて生きていると感じられたのでしょう。
死があってこその命だと直感的に悟っていたのかもしれません。
だからこそ、リナは人の死に触れて自分の心がプラスチックにならないようにしていたのだと思います。
『Arc/アーク』のひどい点
『Arc/アーク』には素晴らしいメッセージやテーマが込められているものの、個人的にストーリーは面白くなかったです。
感想で述べたように主人公リナに精神的な変化が見られなかったのもそうですが、死を超越したときの新しい考え方などがないからです。
人間の命は死で完成する!
素晴らしいメッセージですが、この考え方は何百年も前から言われているでしょうし、新しい驚きがありません。
不老不死で何が得られたのでしょうか?
膨大な時間で傷を癒す以外のメリットが出てきませんでした。
最終的に死も生の一部という答えでもよいと思いますが、比較できる他の考え方が提示されていなかったのが残念です。
夫アマネが急激に老化するのも、「アルジャーノンに花束を」っぽい気もしますね。
あと、132歳で死を決断するのはストーリーとして早計な感がありました。
2021年現在、世界最高齢118歳の田中カ子(カネ)さん(福岡県)と14歳しか違いません。
300歳とかにすればいいのに、不老不死の設定を活かしきれていないと思いました。
また、リナは夫アマネの想いをどう考えているのでしょうか?
アマネは研究者なので、リナが最終的に死を選ぶとしても、不老不死でしか得られない何かを見つけて欲しかったはずです。
その願いに触れられていない気がします…。
受け継いでこその命/アークの良かったポイント考察
孫娘をリナと同じ芳根京子が演じたのは、次の世代に受け継がれてこそ生が完全なものになるというメッセージでしょう。
同じ人物が長く生きる不老不死は不完全で、祖母→子→孫へと受け継がれる流れ自体が生命の正しさを表しているようですね。
あとは、娘を80代で出産したのも、息子を見捨てた過去に対する贖罪や、傷を癒すのに時間がかかったことがヒシヒシと伝わってきて良かったです。
アークというモチーフ考察
Arc(アーク)には円弧という意味の他に方舟という意味もあります。
旧約聖書でノアの家族や動物たちが乗ったノアの方舟(Noah’s Ark)です。
研究者のアマネはテロメア初期化の不老不死こそが人類を救済するアークだと考えました。
また、アークを円弧と捉えればさまざまなシーンと重なります。
19歳のリナが踊っていたダンスも、足で円弧(アーク)を描いているようでした。
プロスティネーションでのダンスも弧を描いていますね。
太陽の登り沈みもアークです。命の軌跡もアークに例えられるでしょう。
主人公リナの人生にしても、地元の灯台のある浜辺から天音島の浜辺に、虹のような弧(アーク)を描いたと言えます。
手のプラスティネーションがよく登場しましたが、リナは自らの手で人生という弧をを描き切ったのでしょう。
話は変わって、エマやリナの部屋にたくさん生き物の標本がありましたしたが、これもプラスティネーションと同じく、不完全な命という意味で不老不死のメタファーでしょう。
ゼンマイネズミのオモチャが出てきましたが、プラスティネーションはこのゼンマイネズミのように、ネジを何回も巻き戻しているだけというメッセージがあるのだと思います。
リナの娘・ハルが飼っていたカメはメロス(太宰治の短編)という名前でしたが、太く短く生きようとした青年メロスと永遠の命を対比させていると感じました。
一般的に寿命が長い亀にメロスと名付けるのは、永遠の命があっても駆け抜けろというメッセージでしょうか。
不老不死に対してのアンチテーゼのようです。
映画『Arcアーク』ネタバレあらすじ解説
リナ(芳根京子)は17歳で息子を産みますが、愛情が湧いてこず、見捨てました。
灯台ふもとの浜辺で手をかざし、空に触れようとします。
19歳。人生に絶望していたリナは、バーでダンサーとして踊っていましたが悪態をついてクビに。
外でうずくまっていると、踊りを見ていたエタニティボディワークス社の黒田永真/エマ(寺島しのぶ)にスカウトされました。
ボディワークス社は、遺族の要望で人や動物を死んだままの状態でプラスティネーション(樹脂を流し込んで生きているかのような標本に)を施術する会社です。
リナはスタッフのカナコ(清水くるみ)から色々教わり、仕事を覚えていきます。
死んだ赤ちゃんのプラスティネーションの依頼を受けたリナは、見捨てた息子を思い出して耐えきれず、エマに過去に子を捨てたことを打ち明けました。
リナは仕事に没頭していきますが、エマが理事から追放されました…。
30歳になったリナは、プラスティネーションアーティストとして、社のリーダー的な存在になっていました。
見学に来た子供たちにボディ(死体)を固定する技術を見せ、拍手喝采を浴びます。
そんな中、エマの弟で研究者の天音/アマネ(岡田将生)が、テロメアを初期化する液体を開発。
政府の承認も得て、エタニティ社は不老不死の実現にたどり着きました。
大晦日、リナはアマネから「一緒に方舟(アーク)に乗ろうと告白され、2人は不老不死の最初の被験者」となります。
一方エマは、死んだ女性パートナーを20年立っても上手く復元できず、プラスティネーションの液体を自身に流し込んで自殺しました。
リナは50歳になります。
リナの肉体は老いず若いままですが。アマネに1本の白髪が生えました。彼には遺伝子異常があり、テロメア初期化が上手く機能していないようです。
アマネは反動で急速に老化し、死んでしまいました。
リナは89歳になっていました。以前アマネがある島を購入して作り上げた場所で暮らしています。
保存されていたアマネの精子を宿して生まれた、幼い娘ハルと一緒です。
天音(アマネ)島には、テロメア初期化を受けなかった人々が暮らし、穏やかな死を迎えるための施設があります。
リナはその施設で介護士として働いていました。カナコの娘ナナもそこで働いていました。
ある日フミ(風吹ジュン)、リヒト(小林薫)の夫婦が島にやってきます。
末期ガンのフミは施設に入りますが、リヒトは漁港近くに小屋を借りて暮らしていました。
リヒトはリナの娘ハルと気が合うようで、ハルにゼンマイ仕掛けのオモチャのネズミをプレゼントしました。
リナはリヒトが描いた灯台の絵(地元の灯台)を見て、彼が自分が見捨てた息子だと気付きます。
リナはリヒトに、今からでもとプラスティネーションを勧めますが、リヒトは聞き入れません。
リヒトは「子供の頃、エタニティ社にリナを見に行ったが気づいてくれなくて絶望した。しかしフミに会ってやっと生まれられたと感じたんだ。母さん」と話します
リナは泣きました。
年越し、リヒトとフミが楽しそうに花火を見ているのを、リナは見守っています。
数週間後にフミは死に、リヒトはその半年後に船でどこかへ行ってしまいました。
リナは132歳になり、老化が進みおばあちゃん(倍賞千恵子)になっていました。
娘ハル(中村ゆり)は結婚し、孫娘が高校生くらいになっています。
3人で天音島の浜辺にやってきました。
娘ハルは母に、永遠に生きられるのに何故死を選択したのか問いました。
リナは悔いのない人生を十分歩んできたからと答えます。
リナは、白い空に手を伸ばし、触れようとしました。
映画『Arc/アーク』終わり!
最後のまとめ
映画『Arc/アーク』はプラスティネーションによるアートと不老不死を組み合わせた画期的な作品でした。
永遠の命は生命の固定であり=死んだプラスティネーションと変わらない逆説的な表現も素晴らしかったです。
アーク(円弧)というモチーフもうまく機能していました。
ただ、主人公・リナが最後に出した結論がありきたりだったのが残念です。
『Arc/アーク』の感想レビュー終わり
(画像引用元:https://wwws.warnerbros.co.jp/arc-movie/)
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