映画『線は、僕を描く』ネタバレ感想・酷評,考察:水墨画の深いメッセージ!あらすじ解説

  • 2022年12月11日

映画『線は、僕を描く』は、心に傷を抱えた大学生が水墨画家に弟子入りし、絵に没頭する過程でトラウマを克服していくストーリー。

横浜流星、三浦友和、清原果耶、江口洋介らが水墨画によって人生を見つめ直すディープな物語です。

CineMag
水墨画を描くシーンは圧巻!墨のにじみさえ芸術的です。ただ題材も演技も素晴らしのに、何かが欠けてしまった非常に惜しい作品

作品情報・キャストの演技・あらすじ・見どころ、ぶっちゃけ感想・評価ディープなメッセージ考察ストーリーネタバレあらすじ解説を知りたい人向けに徹底レビューしていきます!

(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)

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映画『線は、僕を描く』作品情報・キャストと演技の印象

公開・上映時間:2022/10/21・1時間46分
ジャンル:ヒューマンドラマ・青春
監督:小泉徳宏
脚本:片岡翔/小泉徳宏
原作:砥上裕將の小説「線は、僕を描く」、漫画版は堀内 厚徳
音楽:横山克
主題歌:yama「くびったけ」Vaundyプロデュース

水墨画家・砥上裕將(とがみひろまさ)さんの原作小説がもとになっていることもあり、水墨画の美しさがスクリーンいっぱいに表現されています。

監督と脚本

小泉徳宏監督といえばなんと言っても『ちはやふる』シリーズですよね。私も大好きです。スローモーションと通常テンポの映像の緩急が抜群に上手いと思います。本作が『ちはやふる』を超えたかどうかはのちの項目で。

脚本家の片岡翔さんは藤原竜也主演のサスペンス『ノイズ』(2022)の脚本などで有名で、玉木宏主演の映画『この子は邪悪』(2022)では監督デビューも果たしました。

ただ個人的に片岡翔さんの作品は割と統一感が薄く、それが本作に良くも悪くも影響している気もします。

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登場人物・キャスト紹介

映画『線は、僕を描く』の主要キャスト

©︎映画「線は、僕を描く」製作委員会

横浜流星さんが主人公の青山霜介を演じていました。2022年は映画『流浪の月』、実写『嘘喰い』、Netflix『新聞記者』などたくさんの作品に出演していますが、どの作品でも全く印象が異なり別人を観ている感覚すらあります。

今作ではイケメン度を抑え、今時の頼りない青年を熱演。演技力高いですね。

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師匠の湖山を演じた三浦友和さんも雰囲気バッチリでハマり役でした。三浦友和さんは西島秀俊主演の『グッバイ・クルエル・ワールド』にウザい左翼ジジイ役で出演していましたが、その映画も良かったです。

清原果耶さんもヒロインである女流画家・千瑛役の雰囲気が完璧。昨年公開の『夏への扉-キミのいる未来へ-』の高校生役からまた雰囲気が大きく変わりましたね。

個人的に好きなキャラは江口洋介さんが演じた兄弟子・湖峰。いざというときはやってくれる頼りがいがあって優しいキャラクターが最高でした。自然と共に生きるって感じで人間性が深いんですよね。

大学生役の河合優実さんは『PLAN 75』(2022)のコールセンター女子役が心に残っています。ブレイクしかけてますね!

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あらすじ(ネタバレなし)

ある出来事がきっかけで心に傷を負った大学生・青山霜介(そうすけ/横浜流星)は、バイトで有名な水墨画家・篠田湖山(こざん/三浦友和)のライブドローイング(観客の前で制作)のイベントを手伝う。

会場で千瑛というサインがある椿の絵に心惹かれ、霜介は涙を流した。

湖山は霜介の人間性に何か感じるものがあり、ライブドローングの舞台で「弟子になってみないか?」と声をかける

内弟子は自分にはつとまらないと考えた霜介は、水墨画教室の生徒として学ぶことに。

兄弟子の西濱湖峰(こほう/江口洋介)や、湖山の孫で水墨画界の注目の若手・千瑛(ちあき/清原果耶)にたくさんのことを教わりながら、霜介は水墨画の世界に没頭してくのだが…。

ネタバレなし感想

それなりに面白いですが、個人的に『ちはやふる』ほどの突き抜けた何かは感じられませんでした。

心の傷と再生という非常に重いテーマに水墨画が絡められていますが、この2つの要素で何かミラクルが起こっているかというとそこまででもないという感想。

キャストの演技は素晴らしいので観に行く価値はあります。

おすすめ度 72%
世界観・芸術性 87%
ストーリー 67%
Filmarks 3.9点(5点中)

※以下、映画『線は、僕を描く』のストーリーネタバレありなので注意してください!

映画『線は、僕を描く』ネタバレ感想・評価

ケミストリーやミラクルがない

実写映画『線は、僕を描く』の評価は70点。

墨がにじむ瞬間まで捉えた水墨画を描く芸術的なシーンは圧巻

キャストの演技も素晴らしく、横浜流星さんが心に傷を抱える冴えない学生を完璧に演じました

水々しい女流画家を演じた清原果耶さん、三浦友和さんや江口洋介さんなど周囲を固めるキャストも演技も完璧に近い。

シネマグ
序盤は水墨画の迫力と芸術性、キャストの演技に心を鷲掴みにされました。

水墨画に興味が出て、習いたくなるほど。

しかし終わってみると、本当に厳しい言い方で申し訳ないですが、予想を超えてこない平坦な物語になってしまっていたと感じました。ケミストリーやミラクルが感じられません。

題材・演技ともに良かっただけに、勿体ない気持ちでいっぱいです。

決して面白くないというわけではなく、感動するシーンも多かったですが、『ちはやふる』のような突き抜けたカタルシスがなかったのです。

序盤はもう本当にこの映画の虜になりそうだったのですが、後半にかけてどんどん心の距離が開いてしまいました。

予想外のことがなく、山場もなだらかだった印象。

ここからはなにが問題だったのか?思うところを具体的に書いていきます。

命を描くテーマに物語が負けてる…

本作のメインテーマは人生を一本の線に込めること。劇中でもあったとおり「命を描く」ことでした。

しかし『線は、僕を描く』という作品が命まで描けていたかは少し疑問。

命を描くというテーマであれば、物語の過程だけでなく主人公・霜介が描き上げた作品自体も肝になってきます。

「命を描く」と言い切ってしまっているので、ジャンルは違いますが映画『ボヘミアン・ラプソディー』の最後のライブシーンばりの予想を超えた展開を期待してしまうのも事実です。

霜介が筆でどんな命を描くのか!?と待っているとその直前で終わってしまうので、終わり方として悪くはないですが決定的な何かが抜け落ちた印象も受けました

未完成でもいいので、霜介が感じた命がどういうものなのかが伝わってくる作品を最後に描いてほしかったです(求めすぎですかね…)。

あとはそもそもですが、湖山や湖峰が描いた絵はともかく、作中で霜介が描いた絵の良さが私みたいな水墨画素人にはどう素晴らしいのか具体的にわからないのも難しい問題だったと思います。

もちろんいい絵です。ただ霜介の絵を見て、彼がどんな線を描きたいのかまではわかりません。(絵が映る時間が短いことも問題かもしれません。)

霜介が肉親の死をどう乗り越えるのかはストーリーで伝わってくるのですが、精神的な克服が絵にどのように反映されているのかもわかりません

もちろん水墨画に詳しい人なら霜介の絵の具体的に何が良いのか、序盤と終盤で彼の精神状態がどうのように変わったのか絵から読み取れるのかもしれません。

しかし詳しくなければ“いい絵”で終わってしまい、結局は『線は、僕を描く』という映画の本質は絵自体から完全に読み取れずに終わってしまうと思いました。

結構セリフで説明しちゃう

「命を描く」、「線が自分を描く」などディープなコンセプトをセリフで説明するシーンがやや多かったのも気になりました。

そもそも『線が、僕を描く』というタイトルもあるので、コンセプトを口で言う必要があったかは疑問です。

湖山宅でのみんなの生活や、ひょうひょうとしながらも命に感謝する湖峰の態度を見ていれば、彼らがひと筆に人生をかけていることが十分伝わってきます。

口で説明しすぎるとその言葉が先行してしまいます。

本来であれば観た人それぞれが多様に解釈すべきだった心の波紋が、「命を描く」とひとつの型にはめられてしまった印象です。

感想を語る犬
無理に言語化せず、絵や絵を描く姿勢から何が伝わるかを重視したほうが良かったのでは?

また湖山は、霜介が千瑛の椿を見て涙を流していたのを見ていたことが回想で示されたあと、霜介が「見ていたんですね!」とか言っちゃうんですけど、そのセリフいります?って思いました。

水墨画というミニマル芸術がテーマなこともありますし、脚本やセリフで削ぎ落とすべき箇所があったのでは?と感じてしまいました(上から目線になってしまい本当に申し訳ないですが…)。

考察(ネタバレ)

本質とは何か

小説でも音楽でも映像でも少しでも創作に関わったことがある人にとっての呪いの言葉が“本質”ではないでしょうか?

本作でも語られた通り、芸術の要素は技術だけではありません。江口洋介さんが演じた湖峰が言ったように「目に見えない何か」が必要です。

千瑛が悩んでいたように、技術は十分でも認められない人が芸術の世界には山ほどいます。

湖山の目的は、霜介の心を救い、千瑛に本質を伝えることだったのではないでしょうか。しかし言葉では教えられません。

葛藤を経てパズルのピースがうまくはまります。

千瑛が霜介の真っ白な心を椿の花で彩ることで、彼女自身も水墨画を描く意義を再認識できたからです。

自分1人で生きているのではなく、お互いの波紋が交わりあうことこそが本質なのかもしれません。

またマイペースで達観した湖山や、ひょうきんながら木々や動物を愛する湖峰の生き方を見ていると、本質とは世の中という流れに逆らわず、なおかつ自分の立ち振る舞いに迷いがない悟りの境地に思えます。

作中ではなおかつ個性も必要でした。

この二つの要素を考えると、人生と筆とをぴったりと重ねて迷わないことが『線は、僕を描く』における本質ではないでしょうか。

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