トム・ハンクス主演の Netflix配信映画『この茫漠たる荒野で』(ぼうばく)(原題:News of the World)。涙が枯れ果てそれでも生きるような、渋くて味わい深いストーリーが魅力だった。
同じく2020年に公開された傑作『ノマドランド』と通底する部分がある。
この記事では、『この茫漠たる荒野で』のあらすじネタバレ解説、感想レビュー、歴史的な名作映画と比較して考察していく。
『この茫漠たる荒野で』海外レビューサイトと個人の評価
- Rotten Tomatoes 批評家88% 一般の支持89%
- IMDb 6.9/10
- 当サイトCineMag管理人の評価 83点/100
フェデリコ・フェリーニの『道』をハッピーエンドにしたようで渋い!かめばかむほど味が出るスルメ映画!
『この茫漠たる荒野で』ネタバレ感想・評価
エンタメ要素が途中のガンアクションくらいしかない、渋すぎるヒューマンドラマ。評価は83点かな。
トム・ハンクス演じるキッド大尉も、少女・ジョハンナも喜怒哀楽をほとんど表現しないので、序盤は淡々とテキサスの広大な砂漠を進む感じ。
中盤以降から2人の背景が明らかになってきて、味わいが出てくるのだけど、その背景がかなり複雑。
全体的には「それでも生きていく」って感じのテーマで、人が生きる本質を浮き彫りにしている。
わかりやすいヒューマンドラマではなく、叙情画(悲しみを風景で表現したもの)タイプの映画だった。
タルコフスキーの傑作映画『ノスタルジア』をライトにした印象。
つまり、砂漠の風景に心情を重ねる感じ。
『この茫漠たる荒野で』は個人的には良作だったが、エンタメ系が好きな人には向かないだろう(日本で劇場公開が見送られたのもそのせいか…)。
登場人物ジョハンナの背景がとても複雑
新聞読み屋さんって何だよ?
さっき話した登場人物の背景にスポットを当ててみよう。
まずキッド大尉の経歴だが、元新聞印刷→南軍の大尉→新聞読み屋さん。
新聞読み屋さんって何だよって今の時代の人なら思うかもしれないが(僕もツッこんだ)、 南北戦争に敗れた南部には貧しい人々が多く、文字が読めなかったので多少需要があったのだと思われる。
職業「新聞読み屋さん」キッドの使命はなんなのか?ジャーナリズムか、娯楽か?その辺がちょっと曖昧で、序盤は感情移入しにくい。
ドイツ移民でカイオワ族と暮らしていたジョハンナ
結論をいうと、ジョハンナの背景こそが本作最大のオリジナリティ(作家ポーレット・ジャイルスの原作のよさかもだけど)。
彼女はドイツ系移民で、 ネイティブアメリカンのカイオワ族と暮らしていた少女だ。(マイノリティどころか、オンリーワンの境遇)
説明すると、彼女はドイツ人の家族の元に生まれたが、両親と妹がカイオワ族に殺された。そして、カイオワ族として暮らしていたところ、今度は部族が アメリカ軍に殺されて孤立した。ということ。
家族が2回殺されているのも悲惨だし、カイオワ族は恩人であって両親の仇である。
かなり複雑だけど、作品のキーポイントで味わい深い部分だと思う。
ジョハンナに喜怒哀楽がないのには十分すぎる理由があった。
考察/ フェリーニの『道』のハッピーエンド
※ フェリーニの映画『道』のネタバレを若干含んでます。
西部劇で ネイティブ・アメリカンが出てくるので、始まりは ケビン・コスナーの『 ダンス・ウィズ・ウルブズ』みたいだったが、全体的には フェデリコ・フェリーニの『道』(1954)だった。
考察の結論をいうと『この茫漠たる荒野で』は『道』のハッピーエンドバージョン。
『道』でも男と少女が旅で苦難を共にする。
本作では、その男が少女に与えられなかった“一緒の暮らし”を、キッド大尉が叶えてあげたような感じがして感動した。
(映画『道』のワンシーン↓)
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