Netflix独占配信の映画『薄氷』(2021)【英題:Below Zero、スペイン語:BAJO CERO(ゼロ度以下という意味)】。濃厚で冷たい、異色のパニックサスペンスだった。
囚人護送車が襲われて七転八倒するストーリーと、答えのない絶望感が特徴。映画好きは楽しめる渋いタイプの作品。
あらすじネタバレ解説と、感想や評価、特筆すべき点の考察をしてみました!
スペインサスペンス特有の湿り気のある暗さがクセになるぜ!
『薄氷』ネタバレ感想・評価/七転八倒の異色サスペンス
評価は85点くらい。
スペインのサスペンス映画の中では、個人的に『マーシュランド』『マジカル・ガール』に次いで第3位の面白さ。
スペイン映画らしい湿っぽい暗さと冷たさ、見終わった後の勝利者のいない絶望感が心地よかった。(勝利者のいない!とか、答えがない!という結末が、芸術大国スペインの映画の特徴のような気がする。)
ストーリーはマフィアのボス・ミハイがすぐ死んだり、警官のモンテシノスが生きていたり、ミスリードも多く、二転三転どころか何転もする、とても凝った作り。
凍った湖に護送車が沈んでいく演出も素晴らしい!
そして、凝ったストーリーや演出以上に、全体的な暗く冷たい雰囲気が存在感を持つ不思議な作品だった。
一般受けするかはわからないが、見る価値のある映画だと思う。
『薄氷』徹底考察/多視点・セブンっぽい・シカの意味
多視点
「映画がだれ目線で進んでいくか?」がコロコロ変わるのが、『薄氷』のひとつの特徴だと思う。
最初は主人公・マーティン目線だけど、途中からバーを持つのが夢のおっさん囚人・ラミスの視点になる。かと思えば、次は襲撃犯・ミゲル視点で進行するという具合だ。
さらに冷たい雰囲気をさらに醸し出すように、車から離れた森からの俯瞰ショットも多い。
多視点は、見る人が特定の人物に感情移入しずらいデメリットはあるものの、本作は感情移入よりも、全体の芸術的な雰囲気を重視していたように思う。
絵画でいうとピカソの『ゲルニカ』のように多視点・キュビズム的な作品で、内容よりも全体を感覚的に捉えることに価値がある映画だといえる。
サスペンス映画セブンとの類似点
※映画セブンのネタバレあり
冒頭から全体的な色のトーンがブラピ主演の映画『セブン』っぽいと感じた。ラストで上空からヘリに見守られつつ主人公がやらかしてしまう(囚人を撃つ)のはほぼ『セブン』だろう。
主人公がストーリー上でほとんど力を持たず、ハプニングや感情に翻弄されていくところも似ている。
まあ、参考にしたのでしょう。
三つ巴の戦いどころか四つ巴
登場人物たちの立場と関係もわりと複雑。
具体的に分けると、
- 警官のマーティン
- 生きることに必死な囚人・ラミス
- 襲撃犯ミゲル
- ミゲルの娘を殺した囚人・ナノ
と、ほぼ護送車の中というワンシチュエーションながら、関係はかなり複雑だったのも印象的だった。
シカの意味
映画『インビテーション』(2015)やドラマ『ウォーキング・デッド』などなど、映画やドラマで象徴的な意味合いでよく出てくるシカ。
本作でも登場していたので具体的にどんな意味があるのか調べてみた。
ヨーロッパではシカに神という意味があり、キリスト教では悪魔の使い的な意味があるらしい。どっちなんだ?
『薄氷』では犯人・ミゲルがシカを目撃して感慨深い表情を浮かべていたので、シカ=娘という意味が強いと考える。
「娘なら、復讐をやめてほしいと思うだろうな…」
そんなミゲルの深層心理がシカのシーンに反映されているのだろう。
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