小説『元彼の遺言状』を読んでみたので、感想を書きました(ラスト結末までネタバレ全開)!
本作についての読者アンケートもお願いします↓
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『元彼の遺言状』斬新な犯人選考会の設定
栄治が死亡して彼の遺言書によって殺害した犯人に遺産を相続されることになり、弁護士である主人公・麗子が栄治の友人・篠田の依頼で犯人だと名乗り出る設定は本当に素晴らしいと思いました。
真犯人が推理から逃げる従来のミステリーのプロットを見事に逆転させているからです。
この「犯人の選考会」設定が斬新だったからこそ第19回このミステリーがすごい! 大賞で大賞を受賞したのではないでしょうか。
ここから主人公・麗子が持ち前の頭脳で自分のクライアント・篠田が犯人である論拠を並べていく展開か?と、とてもワクワクしましたが、栄治の顧問弁護士・村山の殺害事件が発生してしまうことで内容が複雑になり、期待していた流れからどんどんずれていきます。
すごい邪推になりますが、作者の新川帆立さんは東大大学部卒で弁護士・元プロ雀士。エリートかつ異色の経歴の持ち主で、頭が良いのでしょう。
それが足枷になって“犯人選考会”設定が論理破綻しないように気を付けているうちに、逆にアイデアの面白さからどんどん遠ざかっていく結果になってしまったような気もします。
『元彼の遺言状』主人公・麗子の毒舌キャラ
冒頭で主人公・剣持麗子は彼氏にプロポーズされますが、婚約指輪の価格が安いとブチ切れて「内臓売ってこい!」みたいな発言をします。めちゃくちゃパンチが効いていますね。
私のような男性読者の反感を買うことで、逆に心を鷲掴みにすることに成功していたといえるでしょう。
ソシオパス気味の主人公・麗子のキャラクターが実にパワフル!何気ないシーンでも常に上から目線の地の文章が楽しく読めました。
兄の婚約者について↓
なるほど小ぶりな豆大福みたいな女だった
©︎新川帆立『元彼の遺言状』(2021)
と表現するなど、皮肉とユーモアが効いた文章が最高でしたね。女性の脳内をのぞいているようで興味深さもあります。
『元彼の遺言状』ラスト結末感想:つまらない犯人の動機(ネタバレ)
真犯人の動機が小さすぎ
元彼を殺した犯人の選考会が始まる!という大風呂敷が広げられたのはいいものの、中盤から後半にかけてリアリティがどんどん欠けていき、真犯人の正体や動機に至っては行動原理からしてボロボロでがっかりでした。
私はサスペンス・ミステリーにおいて、犯人の行動原理を重視するほうだからかもしれませんが、「妻の浮気を他人に知られたくない」という理由で栄治と顧問弁護士・村山の2人を殺害した獣医・堂上の犯行動機にまったく納得できませんでした。
真犯人の獣医・堂上的には、死んだ栄治の元カノリストで妻が栄治と不倫しているのがみんなに知られる…男には触れてはいけないプライドがある!みたいな感じでしたが、
おまけに元カノリストを持っていた紗英も3人目として殺そうとしてますし…。妻の浮気を知られたくないシリアルキラー。シリアスさのかけらもありません。笑えるのか笑えないのかもわかりません。
さらに小説『元彼の遺言状』では、動機の矮小さを隠すために主人公・麗子の男性への毒舌によって、男の器やプライドの小ささを浮き彫りにしています。
麗子の毒舌会話はメタ的なテーマに繋がるかと思いきや、男女の二項対立は犯人・堂上の行動原理を捕捉するためのものだったのが残念でした。
麗子の心の成長などもっと大きなカテゴリに帰結して欲しかったと思いました。
栄治は株を国庫に入れるため遺言や元カノリストを作った
そもそもなぜ殺された栄治はややこしい遺産分配や元カノリストを作ったかですが、従兄弟の拓未と自分が半々で持っているゲノムセットという会社の株を国庫に入れるためでした。
拓未がヤクザと関係があると調べずにゲノムセットの株を手に入れたミスを隠すため、複雑な栄治の遺言にみんなが振り回されている間に、新商品の販売調整をするためにこの大掛かりな遺産分配を仕掛けたとのことですが、それが理由ならもっと他の方法があったのでは?…とツッコミたくなります。
ラストで怒涛の言い訳みたいな形で説明がなされていますが、犯人選考会や元カノリストの必然性・それが唯一の方法であったかについては触れられておらず、誤魔化されているような印象を受けます。
最後に感想まとめ
小説『元彼の遺言状』は、犯人の選考会という発想転換にグッと引き込まれましたが、後半やラスト結末にかけてどんどん尻すぼみになっていく、個人的にはがっかりの作品でした。
フジテレビのドラマ版では小説と設定が全然違うので、原作の欠点をうまく補って素晴らしいミステリーに仕上げて欲しいですね☆