映画『DOGMAN ドッグマン』リュック・ベッソンが、たくさんの犬を買う女装した男の半生を描く衝撃作!
物語ネタバレあらすじ・ラスト結末解説
考察:最後のシーンの意味、女装した理由、ドッグマンは第二のキリスト?
視聴してのぶっちゃけ感想・評価(ネタバレあり)
これらの情報を知りたい人向けにわかりやすくレビューしていきます!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)
※以下、『DOGMAN ドッグマン』のストーリーネタバレありなので注意してください!
『DOGMAN ドッグマン』ネタバレ・ラスト結末解説
簡単なあらすじとネタバレ少なめの感想はコチラ←
少年期〜青年期
ダグラスの父・マイクは闘犬用の犬を飼って生計を立てていたが、非常に暴力的で、ダグラスや母親をよく殴った。兄のリッチーは父親に似て性格が歪んでおり、犬をいじめては喜んでいた。
闘犬の日程が近くなると、マイクはわざと犬たちに餌をあげずに飢えさせた。ダグラスは犬たちを可哀想に思い、隠れて食べ物をあげる。しかしそれを兄が告げ口し、ダグラスは外にある犬小屋に閉じ込められる生活を強要されることとなる。
しばらく犬小屋で生活をしながら、犬たちとの絆を深めていった。
ある日、子犬が生まれる。父・マイクは子犬は必要ないと射殺しようとした。ダグラスは父の前に立ちはだかる。父が散弾銃をぶっぱなす。ダグラスは手の小指を失い、さらに跳ね返った弾が脊髄に当たって動けなくなった。
ダグラスは犬に自分の小指を渡し、近くにいるパトカーに届けるよう指示。犬小屋にパトカーが駆けつけ、父と兄は捕まる。父は刑務所に収監される前に自殺した。
その後、ダグラスは車椅子の生活になり児童養護施設に入れられる。そこで知り合った年上のサルマはシェイクスピアなど演劇が大好きだった。ダグラスはサルマに影響されてシェイクスピアを読み、サルマと一緒に養護施設で演劇を披露した。ダグラスはサルマが好きだった。
犬たちとの暮らし
その後、サルマは大人になりボストンの劇団へ。そこからブロードウェイで主演をはるほどの女優になった。
ダグラスはサルマに会いに行き、彼女が乗った新聞の切り抜き本をプレゼント。サルマは感激した。しかし彼女には夫がいて、妊娠もしていた。
ダグラスは彼女が自分のものにならないという事実に打ちのめされ、勤めているドッグシェルターへと帰る。
後日、ドッグシェルターへの支援が打ち切られ、施設が閉鎖されることに。ダグラスは犬のミッキーたちを連れて、もともと高校だった廃墟で暮らし始めた。
ダグラスは仕事を探すが、車椅子の自分が受かる仕事などなかった。ある日キャバレーの求人を見て、そこで歌わせてもらえることに。ダグラスは女装して短い間なんとか自分の足で立ち、エディット・ピアフを歌う。会場は沸いた。
ダグラスは犬たちを使ってセキュリティの仕事もやった。フアンという青年からマーサのクリーニング店がエル・ヴェルドゥゴというギャングからみかじめ料を徴収されていると相談を受けたダグラスは、犬たちを使ってヴェルドゥゴを脅す。
そのほかに、犬のミッキーたちを金持ちの家に侵入させて窃盗を繰り返した。
保険屋のアッカーマンが監視カメラを調べ、犬たちが犯人だと特定。ダグラスの住処も見つけた。
アッカーマンはダグラスの住処にやってきて金品を返せと銃を向ける。犬たちがアッカーマンに襲いかかった。アッカーマンは食い殺される。
後日、エル・ヴェルドゥゴと仲間たちがダグラスの住処を発見。数人が侵入して銃をぶっ放してくる。ダグラスは散弾銃で応戦し、犬たちもギャングを噛み殺していく。
最後に生き残ったエル・ヴェルドゥゴはダグラスに向かって銃を向けるが、弾切れ。犬に食い殺された。
ラスト結末
その後、ダグラスは警察に捕まる。犬たちは逃げた。
ダグラスは勾留され、精神科医のエヴリンに自分の人生を話した。
エヴリンには生まれて数カ月の息子がいるが、元夫の暴力が原因で離婚していた。
犬たちがやってきて拘置所の看守を倒し、部屋にいるダグラスに鍵を渡す。
ダグラスは拘置所から逃げ出し、教会のまえで自分の足で立った。そして倒れた。
『DOGMAN』終わり
考察:最後のシーン,女装と犬とキリスト
最後のシーンで死んだ?
ドッグマンは最後のシーンで死んだのか?ここは解釈が分かれる部分だと思うが、個人的には死亡したと思う。
理由の1つ目が、ドッグマンの脊髄には銃弾が入っていて危険な状態だったということ。無理して髄液が漏れると死に至ることもあるらしい(低髄液圧症候群という)。
「日曜日で神のもとにふさわしい」と言っていたし、髭を剃って足の補助器具も自分で外していたし、ドッグマンは自ら死に向かってそれを達成したとも考えられる。
2つ目は、後述もするがラストのシーンはキリストの磔刑のようであり、だとすると贖罪→人類の罪を背負って死亡したと考えられる。
ただ、ドッグマンはギャングのボスが銃を撃たせる→弾が入っていないなど、神に最後の審判を任せているようでもあったことから、最後のシーンでも神が彼を生かした可能性もあると思う。
ドッグマンは何かあると苦しみながらも自分の足で立ち上がっていたが、常日頃から自分の命を神に任せていたのだろう。
女装は母との絆
ダグラスがヨーロッパの古い歌に詳しいのは、幼い頃に出奔した母の影響。そして母はダグラスがいる犬小屋の横に女性向けのファッション雑誌をたくさん置いていった。犬小屋にいる間はその女性誌しか娯楽がなく、かなりの影響を受けたことがうかがえる。
ダグラスが、大人になってから女装をするようになったのは、女性誌の影響もあるのだろう。
つまり、女装して歌うことは、母との思い出や絆を再確認するような行為なのだと思う。
本人は女装する理由について「別人になり、自分を忘れるため」と言っていたが、無意識に“母と一体化する”ことを選択していたとも考えられる。
女装と歌で現実から目を背けつつ、母の背中を追っていた。
そして、自分を守らなかった母親を恨むことはせず、自分は子供たち(犬たち)を守れる母親になったのだろう。
人間と犬の価値転倒
ダグラスは精神科医のエヴリンに「犬は人間の美徳をすべて持っている」「犬の唯一の欠点は人間への忠誠心だ」と語る。
つまり、「犬のほうが人間よりも尊い存在なんだよ」ということ。ダグラスに言われると、説得力がある。
- ダグラスを虐待し、犬を殺そうとする父・マイク
- ダグラスを愛する犬たち
人類は自分たちは頭がいいから他の動物を支配するのが必然だと考えている。
しかし、種の価値は頭の良さで決まるのだろうか?自らを神に選ばれし存在と考えてきた人間のエゴが問いただされる。
ちなみに旧約聖書の箴言26章11節に
“犬が自分の吐いた物に帰って来るのと同じように、愚かな人物は自分の愚かさを繰り返す”
とある。ようするに聖書で犬は下等な生き物の扱いだった。
しかし犬は下等だと差別をしていいのか?神がいたとして、人間は本当に犬や他の動物より偉いのか?そんな痛烈なメッセージがあった。
ドッグマン=第二のキリスト
本作では、明らかにドッグマンにイエス・キリストが重ねられている。
ダグラスは幼少期から父の暴力を受け、大人になっても仕事が得られない弱者として苦労するなど、さまざまな苦難を歩んできた。そして最後は十字架の影の中で絶命。
人類の罪を一手に引き受けて十字架にかけられたイエス・キリストの境遇に似ている。
リュック・ベッソンは、ドッグマンこそが現代のキリスト、第二のキリストだと表現していたのだろう。最後の場面でなぜドッグマンが死んだのかの理由は、脊髄に散弾銃が入っているという理由もあるだろうけど、贖罪を終えて天に召されたという解釈だと考える。
女装したアウトローが第2のキリストとして表現されるインパクトは抜群。
「見た目や身分で判断するな。世の中にはいろんな人がいてそれぞれが救われるべきだ」という、聖書を現代版にアップデートしたような映画だった。
ネタバレあり感想・評価
最近のリュック・ベッソン作品は『LUCY』や『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』などSF全開で派手なものが多かったけど、本作には『レオン』のような静けさと美学が漂っていて最高に面白かった。エンタメと芸術性と感動が三位一体となっている唯一無二の作品!
家族によって犬小屋に閉じ込められた少年の事件…その実話がもとになっているらしいが、人間からは愛情を受け取れず、犬から愛情を教わったというコンセプトがシンプルかつ強烈だった。
「果たして犬は人間よりも下等なのか?」という攻撃的な問題提起が転じて、「犬のほうが人間らしい」と人間社会全体の批判になっている。
社会的弱者が攻撃性と力を保つ様はホアキン・フェニックスの『JOKERジョーカー』(2019)へのアンサーソングとも取れる。
ストーリーは現実的でないといえば確かにそうなんだけど、論理性を求めると本作の良さが損なわれると感じた。
リアルさよりも若干のファンタジーで本質を伝える作品だと解釈したほうが有意義だと思う。
本作は犬とダグラスの絆を突きつけることで人間の価値を問うものであり、別にリアリティを追求した作品ではないのでは?
海外の批評家からの評価が低いのは、統一感のなさからだろう。突飛な設定で人間の本質を暴くヒューマンドラマでもあり、犬たちが泥棒する笑えるシーンもあり、最後にはアクションもあり、キリスト教の神と人間についてのテーマもある。
映画をたくさん観ている人からするとトーンが統一されてないのが気になるかもしれない。
でも逆に詰め込みすぎてはみ出しちゃうのがリュック・ベッソンの個性でもある気がする。
『ドッグマン』は人間の醜さを突きつける衝撃的な映画だった。こんな作品だったら、どんどん新作を作ってほしいと思った。
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズはジョーダン・ピールの『ゲット・アウト』やデヴィッド・リンチの『ツインピークス The Return』の印象だったけど、他の作品もどんどんチェックしていこうと思う。
映画『DOGMAN ドッグマン』作品情報
制作国:フランス
上映時間:114分
原題:『DOGMAN』
ジャンル:人間ドラマ、アクション
監督・脚本:リュック・ベッソン
原作:実話がもと
撮影:コリン・ワンダースマン
音楽:エリック・セラ
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