黒沢清監督の映画『クリーピー 偽りの隣人』は、西島秀俊演じる元刑事が、香川照之演じる気味悪い隣人と接触することで悲劇が訪れるサイコパス不条理サスペンス!
作品情報・キャスト・見どころ、ぶっちゃけ感想・評価、サイコパス同士の対決考察、香川照之の怪演解説、夫婦の関係とラスト考察を知りたい人向けに映画をわかりやすくレビュー・まとめています。
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目からどうぞ)
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映画『クリーピー 偽りの隣人』ネタバレなし感想・あらすじ・見どころ・海外評価
あらすじ:1年前に事件で大きな傷を負った元刑事の高倉(西島秀俊)は、引っ越しを終え近所へ挨拶回りに行く。隣人の西野(香川照之)は奇妙で不気味な男だった。大学で講師をしている高倉は趣味で6年前の事件を調べているうちに、西野との関連を疑う出来事が…。
ミステリーとしてみるとおかしな点がたくさん出てきます。不条理サスペンスとして見るべき作品です。
園子温監督の『冷たい熱帯魚』とか好きな人におすすめ。
海外でもロッテントマトズでは批評家評価が非常に高く支持率90%、一方で一般視聴者の評価は57%と見る人によって感想が大きく分かれる作品です。
おすすめ度 | 80% |
世界観 | 94% |
ストーリー | 78% |
IMDb(海外レビューサイト) | 6.4(10点中) |
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト) | 批評家90% 一般57% |
※以下、映画『クリーピー 偽りの隣人』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『クリーピー 偽りの隣人』ネタバレ感想・評価
ミステリーと見せかけての不条理サスペンス作品です。ミステリーを期待すると肩透かしを喰らうでしょう。
高倉の調べにより、6年前の家族3名失踪事件に隣人・西野が関係しているのではないかと調べを進めるところまではミステリー的。
しかし西野の家の奥に監禁兼死体処理場があり高倉の元部下・野上が殺されて、隣人の田中一家と一緒に燃やされてから、西野の狂気に吸い込まれるように一気に不条理な雰囲気へと誘われます。
特に薬を打たれた高倉夫婦と西野らが車で移動するシーンは車の周りに霧がまとわりついており、まるで悪夢を見せられているような印象です。
劇中の言葉を借りると、『クリーピー 偽りの隣人』という映画自体が“混合型”です。
個人的に不条理サスペンスは大好きなのですが、本作の場合はミステリー的な帰結を期待させての不条理展開なので、ストーリーの解決感という意味では微妙でした。
そもそもタイトルが『クリーピー 偽りの隣人』な時点で、西野がシリアルキラーだという謎がネタバレされているようなものです(笑)。
本質的には不条理サスペンスなのですが、少しでもミステリー的なカタルシスを生むためにタイトルでネタバレしなくてもいいのでは?と感じました。
ただ、香川照之の怪演をはじめ、全体的に狂気と緊張感があり、芸術性の高さは疑う余地がないでしょう。
高倉が人質を取ったサイコパス殺人鬼・松岡と対峙し、彼の行動が読めずに刺され、人質は殺され、松岡は拳銃で撃たれて死亡という怒涛のオープニングも最高でしたね。
コンセプトとしても、元刑事の高倉VS西野のサイコパス同士の対決、高倉が妻・康子から何を奪ったのかを考えると、人間の愚かさや狂気がより色濃く浮かび上がるようでした。
香川照之の怪演…怖すぎ
©︎「クリーピー」製作委員会
香川照之が演じたサイコパス殺人犯・西野は本当に怖かったですね。ハマり役という言葉が霞んでしまうくらい強烈なインパクトを残しました。海外の批評家からも彼の演技を絶賛する声が多いです。
この人が隣人だったら本当にイヤだという嫌悪感を抱かせてくれます。
- 平気で人に背中を向けて喋る
- いきなり距離を詰めて喋る
- 突然、他人の悪口を言う
などなど、「生理的に無理!」を濃縮したようなキャラクターです。
香川照之は『半沢直樹』シリーズの大和田役などを見ていると大袈裟な演技の役者だという印象を受けます。
しかし『クリーピー 偽りの隣人』を観ると、決してそれだけではなく、表情・仕草など細部まで研ぎ澄まされた演技力の高さに改めて圧倒されました。
人間ではない“何か”
ラストで高倉に銃で撃たれて死亡した時の表情は笑顔のままであり、香川照之演じるサイコパスは人間ではない“何か”だったのではないかと、背筋が凍りつくような思いに駆られます。
生物学上はもちろん人間です。しかし思考回路が全く人間的でない生き物。
そんなサイコパス・怪物と対峙する体験をできたという意味でも、『クリーピー 偽りの隣人』には価値があるのではないでしょうか。
『クリーピー 偽りの隣人』考察:混合型サイコパス同士の対決(ネタバレ)
『クリーピー 偽りの隣人』では犯罪プロファイル用語の、秩序型・無秩序型・混合型が高倉によって説明されていました。
- 秩序型は知能や社会的地位が高い、計画殺人型
- 無秩序型は知能や社会性が低め
- 混合型は両方の特性を備えたタイプ
となります。
高倉は講義で、ほとんどの連続殺人鬼は混合型だと言っていましたね。
混合型の場合、衝動的な面がある一方、隠蔽能力もあるなど、理屈で人物像や真相を解明するのが難しく捕まる確率が低いのでしょう。
本作に出てきた西野は計画性こそないものの、死体処理は抜かりなくする混合型です。
主人公・高倉も、殺人事件の解明を趣味だと言ったり、6年前の家族失踪事件で唯一生き残った女性・早紀を乱暴に押さえつけて証言を得ようとするなど、ある種のサイコパスだと考えられる場面が多くあります。
高倉の場合は、社会的な地位が高く能力もあるが、行動は衝動的な混合型でしょう。
本作は、混合型のサイコパス同士の対決の構図なのです。
高倉のサイコパス度は西野より高くはないものの、ミイラ取りがミイラになるような結末を迎えます。
小さな狂気がより巨大な狂気に吸い込まれていく。メタ的に考えても破壊的かつ美しいストーリーですね。
妻・康子が失ったもの(ネタバレ)
©︎「クリーピー」製作委員会
個人的に『クリーピー 偽りの隣人』の本質・キーポイントは主人公・高倉と妻・康子の関係にあると思います。
高倉は殺人事件を趣味だと言い、何か手がかりをつかむと笑います。変人です。
そんな彼は、刑事時代に捜査にのめり込んでいたことでしょう。
時間がないことに加え、事件の被害者に詰め寄るようなサイコパス気質なら、ずっと妻・康子の心を理解してあげることはできなかったのではないでしょうか。
高倉夫妻には子供がいる様子はなく、マックスという名の犬を飼っています。推測になりますが、康子は子供が欲しかったけど、高倉が同意しなかったりはぐらかしたりして今に至るということも考えられます。
高倉は妻の心を壊したのです。そして自分も西野に壊されました。
結局、高倉はサイコパスの行動原理をつかめず、自分がサイコパスでもあり、妻を理解してあげることもできない哀れな人物。
ラストシーンで高倉は、泣き叫ぶ妻・康子を抱きしめていました。2人はやり直せるのでしょうか。
西野という本物のサイコパスと対峙したことで、高倉は人間的に更生する可能性もあるでしょう。
逆に、西野のサイコパス気質は治らず妻・康子は苦しみ続ける結果になるかもしれません。
もしくは今回の件で、康子の心はすでに壊れているかもしれません。
さまざまな捉えかたができますね。
映画『クリーピー 偽りの隣人』作品情報・キャスト
原題:『Creepy』
ジャンル:不条理サスペンス
監督:黒沢清
脚本:黒沢清/池田千尋
原作:前川裕「クリーピー」
撮影:芦澤明子
音楽:羽深由理
興行収入:6億円
登場キャラ・キャスト
- 高倉幸一|cast 西島秀俊(『ドライブ・マイ・カー』『真犯人フラグ』)
- 高倉康子|cast 竹内結子
- 西野雅之|cast 香川照之(『半沢直樹』、実写映画『カイジ』)
- 西野澪|cast 藤野涼子
- 本多早紀|cast 川口春奈
- 野上刑事|cast 東出昌大
最後のまとめ
映画『クリーピー 偽りの隣人』は、サイコパス同士の対決や巻き込まれた人の喪失を不条理テイストで描いた良作でした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。映画『クリーピー 偽りの隣人』レビュー終わり!