映画『ザ・メニュー』(The Menu)、孤島のレストランでシェフが出すフルコースに客が絶望していくサスペンスホラー!
究極のシェフ役にレイフ・ファインズ、客の美女にアニャ・テイラー=ジョイが出演
作品情報・キャスト・見どころ、ぶっちゃけ感想・評価、考察:チーズバーガーの意味、ラストの解釈・意味不明な物語のメッセージ、ストーリーあらすじネタバレ解説を知りたい人向けに徹底レビュー!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)
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映画『ザ・メニュー』作品情報・キャストと役柄
原題:『The Menu』
ジャンル:サスペンス・ホラー・ブラックコメディ
年齢制限:R15+指定
監督:マーク・マイロッド
脚本:セス・リース/ウィル・トレイシー
撮影:ピーター・デミング
マーク・マイロッドは『運命の元カレ』やHBOドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の監督として有名な人物です。
撮影監督のピーター・デミングは過去にデヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』や『ロストハイウェイ』でも仕事をしています。どうりで本作『ザ・メニュー』の映像はアート性や没入感がすごく、退屈しないわけです。
登場人物・キャスト紹介
©︎サーチライト・ピクチャーズ
シェフ役のレイフ・ファインズ。大好きです。本作では内に想いを秘めながら淡々と料理のコンセプトを語る渋い役柄ですが、どこかチャーミングさもある不思議なキャラクターを作り上げていました。
『嵐が丘』『シンドラーのリスト』『イングリッシュ・ペイシェント』『グランド・ブダペスト・ホテル』『007ノータイム・トゥ・ダイ』など名作・大作に多数出演しています。『ハリーポッター』シリーズのヴォルデモートも有名ですね。
マーゴ役のアニャ・テイラー=ジョイは今作でも美しい。ロバート・エガース監督の『ウィッチ』や、M・ナイト・シャマラン監督の『スプリット』で好きになりました。
Netflixのチェスドラマ『クイーンズ・ギャンビット』も最高におもしろかった。
2021年の『ラストナイト・イン・ソーホー』の美しいサンディ役も記憶に新しいです。
2022年は『アムステルダム』にも出演。
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世界中で評価されており日本では2023年公開予定のロバート・エガース監督『ノースマン 導かれし復讐者』もすごかったです。2023年公開の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』でピーチ姫の声優も務めています。この数年はアニャ・テイラー=ジョイから目が離せません。
あとは、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のウォーボーイズ・ニュークスなどで知られる俳優ニコラス・ホルトが空気のよめないグルメな男性テイラーを演じます。彼のキャラクターも物語の鍵になっていました。
ザ・メニューあらすじ
マーゴ(アニャ・テイラー=ジョイ)は恋人のタイラーに連れられて孤島にある絶品レストランへ。
船には落ち目の映画スターや、IT企業の成金、資産家など権力者たちが乗ってきた。
島につき案内係のエルサが、島の自然や燻製場などを案内してまわり、一行はテーブルにつく。
グルメのタイラーは、このレストランのシェフ/ジュリアン・スローヴィクを信奉していた。
働いている料理人たちもスローヴィクの指示に軍隊のような掛け声と機敏な動作を見せる。
スローヴィクは前菜の説明をはじめるが、彼が提供しようとしているフルコースには恐るべき秘密があった…。
ネタバレなし感想・海外評価
海外では非常に高く評価されている本作。
急に衝撃的なシーンになり、画面に引き込まれます。
ただ論理的なサスペンスや血まみれのホラーを期待していると肩透かしをくらうでしょう。
映画を見終わったあとあれこれ考察するのが好きな人には最高のフルコースですが、そうじゃない人にとっては意味不明な物語に映るでしょう。
おすすめ度 | 75% |
世界観・コンセプト | 95% |
ストーリー | 70% |
IMDb(海外レビューサイト) | 7.6(10点中) |
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト) | 批評家 90% 一般の視聴者 80% |
メタスコア(Metacritic) | 71(100点中) |
※以下、『ザ・メニュー』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『ザ・メニュー』ネタバレ感想・評価
シェフの壮大な自殺に巻き込まれる表面上の筋書きはありつつ、その物語自体が壮大なメタファーです。
料理人の誇りと客の傲慢さがぶつかり、全員死ぬ運命だと悟るプロットは、広い視点では何かを創造する人と消費する人、権力者のおごりが描かれており、資本主義社会に生きるすべての人を華麗に風刺しています。
料理は一品一品がコンセプトをもつ現代アート。
レストランの客目線でフルコースを堪能しながら、美術館に迷い込んでいるようでもありました。
ザ・メニュー考察(ネタバレ)
ラストの解釈、贖罪
本作の場合はレストランの客が消費者で、シェフが作り手です。
エンタメ映画でも、小説でも、音楽でも消費者は作り手の苦労を知りません。なんとなくは知っていても実際に経験した人は少ないでしょう。
そのくせ映画を批判したり、本を酷評したり、流行遅れの音楽にダサいと言ってみたりします(ブログで語っちゃってる私シネマグも同罪です。焼き菓子にされる運命です)。
しかし一流の映画監督、作家、ミュージシャンは基本的にシロウトの批判に文句をいうことができません。レストランのシェフも「味がわからんくせに店にくるな」とは言えません。
なぜなら世の中が資本主義社会かつ、多様性の時代だからです。
金が支配する大きな流れのなかで作り手と個の受け手のパーソナルな関係は崩れ、サービスの提供者と金を、払ってサービスを受ける消費者に大別されてしまうのです。
ネット社会なので作り手が「消費者のレベルが低い」とか口にすれば商売として成り立ちません。
そして批判のレベルが低かろうが、作り手が消費者から作品の解釈を奪うのはイコール多様性を認めないことと考えられてしまいます。
簡単にいえば「金払ってるんだから好きに味わっていいだろ」ということ。
サービスとして考えればそうですが、創作者への敬意が欠けているのは問題です。
金を払う消費者側が傲慢になり、作り手は思想をおさえて消費者の要求に無限にこたえ続けなければなりません。
パワーバランスが崩れていると言い換えることもできます。
ジュリアン・スローヴィクのような芸術性が高いシェフからすればこの世は地獄なのです。
(作り手のうっぷんを晴らすため、うんちくばかり垂れて実際には何も作れないテイラーを馬鹿にして自殺に追い込みました)。
『ザ・メニュー』では上から目線の客が次第に大人しくなり、殺されると知っててチョコの被り物を頭に乗っけられても暴れない展開には違和感があるようにみえます。
しかしこれは客が消費者としての罪を受け入れたサインなのです。
シェフはフルコースで客に己の罪をさとし、客もそれに気づいたからこそ暴れずに焼き菓子になったのでしょう。
広い視点でみれば資本主義の原罪にたいする贖罪(しょくざい/犠牲で罪をつぐなう行為)の物語なのです。
チーズバーガーの意味
傲慢で無限大な消費者の要求にひたすらに応え続けることで失われるものはさまざまです。
そのひとつが初期衝動でしょう。
スローヴィクのシェフとしての初期衝動は最高の技術で芸術的な料理をつくり、人を笑顔にすることだったと思います(マーゴがシェフの自宅に行ったとき、ハンバーガー作ってた若い頃は笑顔だったとわかりますし)。
しかし批評にさらされ続け、評価される作品を追い求めるようになってしまいました。
さらにレストランは資本家の配下におかれ、メニューに口出しされてシェフが激怒していることもわかります。
料理で人を幸せにするWin-Winな関係が崩れ、料理人 VS 世間の対決の不毛な構図です。
その人のためを思って料理を作り、食べた人はほほ笑みと感謝を添える。
チーズバーガーを注文したマーゴと精一杯作ったシェフは初期衝動の再現です。
シェフはさんざんマーゴに「ここにふさわしくない」と罵倒していましたが、それは彼女の正体が他の客と同じような傲慢な消費者ではないと知ったからです。
さらに「チーズバーガー持ち帰ります!」と言われて料理人として完食してほしい職人魂もあり、マーゴを解放したのでしょう。
シェフと客の生態系
スローヴィクシェフは自分のもとで働いてくれる料理人たちに愛を示すと同時に、さんざん罵倒(ばとう)した客にも愛を伝えているようです。
今は憎しみあう関係になってしまいましたが、料理人はお客がいないと成り立ちません。
本来は愛のある共存共栄(きょうぞんきょうえい)の関係で、シェフも客も同じ生態系(エコシステム)の住人なのです。
1品目の料理で岩に海藻と貝が添えられ、シェフが生態系について熱弁していました。
シェフと客の生態系も、もっと自然で愛があふれるものにしたい。
そんなシェフの切実な願いが、最後の全員で焼き菓子になるという結末です。はじめは騒いでいた客たちも受けいれます。
全員で燃え死ぬとても奇怪なラストでしたが、シェフと客が同じ皿のうえで一体化したことで、理屈を超えた感動が生まれました。
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