映画『母性』。湊かなえの原作小説を戸田恵梨香と永野芽郁で実写化!母と娘の苦悩と絶望をめぐるサスペンスです。
作品情報・キャスト・あらすじ・見どころ、ぶっちゃけ感想・評価、考察:本当は怖いラストの意味・桜の木のメッセージ、ストーリーネタバレ結末解説、湊かなえの原作小説との違い比較を知りたい人向けに徹底レビューしていきます!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)
作品についての視聴者・口コミアンケートも投票お願いします↓

映画『母性』作品情報・キャストと演技の印象
英題:『Maternal Instinct』
ジャンル:サスペンス・ヒューマンドラマ
年齢制限:G(何歳からでもOK)
監督:廣木隆一
脚本:堀泉杏
原作:湊かなえ「母性」(2012)
2022年は廣木隆一監督の作品の公開ラッシュですね。
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登場人物・キャスト紹介
主人公・ルミ子を演じた戸田恵梨香さんについては彼女の作品を全作みてるわけではないですがキャリアNo.1だと思います。
上品さ・優雅さと狂気が融合していて素晴らしかったです(LIAR GAMEとは雲泥の差…)。
娘・清佳(さやか)役の永野芽郁さんもみずみずしさがあり、ぴったりだったと思います。高校生役でも全然いけますね。
(戸田恵梨香さんと永野芽郁さんはドラマ『ハコヅメ たたかう 交番女子』でも共演しましたね)
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上品で愛情深い実母を演じた大地真央さんも、文学作品っぽい回りくどいセリフと透明感がすてきでした。
そして、いじわるな義母を演じた高畑淳子さんは完璧すぎました。前時代の「いるでしょこういう嫌な義母」の究極系、アルティメット姑(しゅうとめ)です。
ごはんを口に入れてモゴモゴしながら暴言をはくシーンなんか最高でした(身近にいたらちょっと絶望です)
あらすじ
現在
ある女子高生が首つり自殺で死亡。
母親はインタビューで「精一杯愛してきた娘がなぜこんなことになったのか」と答えていた。
過去
24歳で結婚したルミ子(戸田恵梨香)は、母(大地真央)から無償の愛を与えられて育ち、自分も母がよろこぶように行動してきた。
絵画教室に通うようになったルミ子は、そこでのちに夫となる田所(三浦誠己)と出会った。
ルミ子は田所の暗い絵が嫌いだったが、展示会を見にきた母は絶賛する。
ルミ子は母がよろこぶと思い、田所からその絵をゆずりうけた。
2人は結婚し、林のなかにある家で暮らすようになる。
ルミ子の母はよくたずねてくれた。
ルミ子に娘・清佳(さやか)も生まれるが、ある出来事をきっかけに人生が180度変わってしまう。
(※ストーリーの結末解説は記事の後半にあります。)
ネタバレなし感想・海外評価
母性の狂気や愛しさを鋭い視点で切り取ったすばらしい作品でした。
個人的には映画『告白』より本作のほうが好きです。
エンタメ映画をみたかった人は肩透かしをくらうのではないでしょうか。
あと母と娘の不仲を非常にリアルにあつかっているので、家庭環境にトラウマを抱えている人はみないほうがいいような気もします。
家族仲がわるくない人も、とりあえず劇場を出る頃には気分がどんよりすること間違いなしです。
いっぽうで親子関係が身につまされ、新たな発見があるという点では絶対見てほしい作品でもあります。
個人的に2022年公開映画では妻夫木聡、安藤サクラ出演の映画『ある男』には若干およばなかったですが、親子の絆を新たな視点でとらえたい人にはおすすめです。
おすすめ度 | 84% |
世界観・テーマ | 94% |
ストーリー | 67% |
IMDb(海外レビューサイト) | 5.6(10点中) |
※以下、映画『母性』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『母性』ネタバレ感想・評価
母娘の葛藤からくる芸術的なテーマと気持ち悪さが融合した唯一無二の作品でした。
湊かなえさんの原作小説もとても面白かったですが、映画のほうが話しが複雑でないぶんメッセージがスッキリ見えて好きでした。
母と娘の証言が違うということが大々的に宣伝されていたので、黒澤明の『羅生門』や最近だとリドリー・スコットの『最後の決闘裁判』(2021)みたいな感じかと思っていました。
しかし実際は証言の食い違いはこの映画の一部であり、メインではないです。
首をしめるか抱きしめるか以外は細部が違うだけで、大枠で見れば母と娘の事実にそこまでの差がないようにも思えます。
戸田恵梨香さんの演技の切りかえは見応えありますが、「母の証言」の時点で十分怖いです。
それより母と娘がおたがいの罪を問いかけあうような漆黒の心理描写や全体のメッセージがメインでしょう。もはやホラーです。
ルミ子が母親になることや、娘に対しての嫌悪感がリアリティたっぷりに描かれており、心をえぐられました。
胎内の子を“私と違う生き物”と表現したり、娘を母に好かれるための道具として利用していたり…。
単なるマザコンという言葉を超えたおそろしさがあります。
台風でルミ子の母がタンスの下敷きになり、ルミ子が娘ではなく母を助けようとするシーンは衝撃的で、見てはいけないものを見ているかのようでした。
言葉は悪いですが、胸糞レベルです(それが作品全体の良さでもあるのですが)。
ラストはハッピーエンドっぽい雰囲気でおわりますが、それ自体が呪縛とも感じられ、非常に奥が深い物語でした(本作の複雑なメッセージについては考察の項目で詳しく語ります)。
広い意味では母娘だけでなく自己と他者についての普遍的な物語であり、見た人がそれぞれに解釈できるのもすばらしいです。
戸田恵梨香さん演じる母・ルミ子が元華族のお嬢さまなので太宰治の小説『斜陽』っぽいテイストもありました。
サスペンスとしては、
- 実は冒頭で自殺した女子高生は清佳ではない
- ルミ子の母は自殺していた
の2点がメイン。
母がルミ子の目を覚させるために自殺したのは衝撃的でしたが、それ以外ではおおきな驚きはなかったです。物語のダイナミックさもありません。
(自殺も母性の狂気だと抽象的にとらえれば腑におちますが、冷静に考えてしまうとやりすぎな気がします。)
全体的にメッセージ性が強く、ストーリー性はイマイチな感じ。
あと映画についての難点ではないですが予告と本編でまったく雰囲気が違うのはどうかと思います。
予告もチラシもさもエンタメサスペンスであるかのような宣伝でしたが、実際は濃密なヒューマンドラマといったほうが近いでしょう。
配給側は商売なので仕方ないと思いますが、期待していた内容と全然違って映画が一般視聴者に評価されないことになりかねないので、適度にしたほうがいいと思いました。
母性 考察(ネタバレ)
母性の喪失と再生
母になりきれないルミ子が娘・清佳の自殺未遂でやっと母性を取り戻す。
子が生まれた瞬間でなく、子の命が失われる直前に母性が目覚める結末は芸術的とすらいえます。
(それが真実かは不明ですが、革新的なメッセージです。)
人間として失ってはならないものは、失う直前に見えてくる。
ルミ子は教会で懺悔(ざんげ)をしているシーンがありましたが、物語全体が神の啓示のようですね。
ラストの怖い意味、無償の愛の呪縛
ルミ子が清佳の母であると受け入れ、清佳もまた娘であることを受け入れたことは確かです。
しかし、ルミ子や清佳のトラウマが解決されたかは疑問が残ったように思えます。
結局ルミ子は自分のアイデンティティを何ひとつ持たないまま老いた義母の世話をしていました。
幼い頃から他人のために生きることを強要され、愛を与えられなかった清佳の心の傷は普通に考えれば癒えなそうです。
ルミ子は義母に大切な娘と言われ、目上の人に好かれたい願望は満たされているかもしれません。
いっぽうで無償の愛という呪縛・負の連鎖から抜けきれていないようにもみえます。
大地真央さん演じるルミ子の実母は、娘にも孫にも無償の愛をそそぐ理想的な人物のように描かれていました。
しかし視点を変えれば、彼女も愛ゆえにルミ子の心を壊していたとも考えられます。
過度に依存させてしまったことに加え、目の前で首をハサミで刺して自殺する狂気におよんでしまったわけですから。
なぜ無償の愛が呪縛になってしまうのでしょうか?
『母性』は母と娘の関係だけでなく、広い視点でみれば自分と他者との関係性にも問題提起がなされており、そこに答えがあります。
Apple社の故スティーブ・ジョブズの「他人の人生を生きるな!自分の人生を生きろ…」という有名な演説をご存じでしょうか。
『母性』で描かれている無償の愛は、このジョブズの言葉と対極にあるようです。
ルミ子は母から無限に無償の愛を受けたことで、自分が暗い気持ちを抱えていることすら気づけない人間になってしまいました。
愛だけで悲しみや失望を教わっていないため、自分を大切にすることを知らないわけです。
人間として自分の尊厳に気づいていないと言い換えることもできます。
そしてルミ子は娘・清佳にも他人に無償の愛をあたえ続けることを強要します。
自分を愛せないままに他人を愛する無理難題を押しつけました。
ルミ子は自分の人生を奪われ、子供の人生まで奪ってしまっているわけです。
もちろん無償の愛それ自体は悪いことではありません。
しかし利己的な一面も持てるのが人間の権利です。
『母性』からは、常に他者のために行動することで人間として当然の権利が奪われてしまう恐ろしさが垣間見えました。
清佳が首を吊って自殺未遂を犯したのは母親に首を絞められてショックだったからと考えることもできますが、母親の願いを考えた結果、死を選択したという解釈もできます。
「母が死んでほしいというなら死のう」ってことです。
『母性』では他者の目線に人生を奪われる苦しさと怖さが描かれていたと思います。
桜の木のメッセージ
映画『母性』では桜の木や花びらが何度も登場しました。
桜の木は大地真央さん演じたルミ子の実母(清佳の祖母)をあらわしています。
ルミ子が田所の実家で季節外れの桜の花をみてはげまさるシーンで明らかになり、原作小説ではよりわかりやすく桜=母だと明示されています。
清佳は田所の家の桜の木で自殺をはかりますが、ロープがほどけて命が助かったのも祖母の生きてほしいというメッセージかもしれません。
清佳が教師になっていた冒頭の描写でも窓から桜の花びらが入ってきました。
花びらが舞っているようすは実母を指しているだけでなく、母と娘を表現しているようでもあります。
推測も含みますが、台風で窓を割って入ってきたのも桜の木ではないでしょうか。
ルミ子が娘を救出して母性を得られるように運命づけられて折れたのかもしれませんね。
女性は母と娘の2種類にわけられる?
「女は母と娘の2種類にわけられる」
清佳のこの発言の真意は、彼女が母か娘かどちらを取るか悩むほどに、ルミ子に愛されたと自信を持てたということでしょう。
本来は母と娘の2種類にわけられるというより、母であり娘であるほうが自然ですが、ラストで妊娠を告げた清佳は母も娘も両方えらべる幸せを噛みしめているのだと思います。
ただ、清佳はなんとなくでは済ませられない白黒ハッキリつけたい性格なのが気になりました。
作中の言葉でいうと「遊びのない人」です。
そもそも母と娘のどちらのタイプなのか2択の疑問を持つこと自体が変です(幸せになれる思考回路でないと思います)。
清佳はそこに気づいているのでしょうか。
小説『母性』読了後の深掘り考察レビュー記事です。母性の存在自体を問う斬新なメッセージ、母と娘の逆転現象、第二子・桜の意味の解釈を書いています。↓戸田恵梨香さん、永野芽郁さん出演の映画版の考察・感想については下記記事へ↓[…]
考察動画
考察の動画も作りましたのでよろしければご視聴お願いします。
映画『母性』のあらすじ結末解説や原作小説との比較は次のページへ!
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