映画『大河への道』伊能忠敬の大河ドラマを作ろうと思ったら地図完成前に死んでいたとわかり、江戸時代に想いを馳せる落語風コメディ時代劇。
究極の話芸と謳われている立川志の輔の創作落語に中井貴一が惚れ込み、映像化に至った作品です。
全体的にコミカルで笑えますが没入感はなく…。映画としてひどい駄作とまではいませんが超凡作だと感じました。
作品情報、キャスト・あらすじ・見どころ、ぶっちゃけ感想・評価、ラスト考察(ネタバレ)を知りたい人向けに徹底レビューしていきます!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目からどうぞ)
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映画 大河への道 あらすじ
©︎「大河への道」フィルムパートナーズ
香取市役所で観光課の小林が市を盛り上げるためのプレゼンをしている最中に部下の木下が無駄口を叩き、池本は代替案として「市の偉人である日本地図を作った伊能忠敬を主人公にした大河ドラマを作る」と口にします。
大河ドラマ案は知事の耳にも届き、池本が企画を進めることに。知事の意向ですでに引退状態の脚本家・加藤にあらすじを書いて欲しいと頼みますが、断られます。
池本は何度も加藤の家に赴き、伊能忠敬記念館へ連れ出すことに成功。
加藤は200年前に今とほとんど変わらない日本地図を作り上げた伊能忠敬に強い興味を持ち、下調べをはじめました。
あらすじが発表される予定の日、市役所にやってきた加藤は「伊能忠敬は地図を完成させる前に死んだ」と衝撃事実を述べ、彼を主人公にしたドラマは書けなかったと言います。
その代わりに、伊能忠敬の死後に地図を完成させた弟子たちの奮闘を描いたシナリオを出しました。
『大河への道』ネタバレなし感想・見どころ・海外評価
ただ、映画としてはヒューマンドラマ要素にのめり込めなかったのが正直なところ。
傑作落語を映像化するという挑戦は評価できますが、映画として面白いかは微妙です。
おすすめ度 | 65% |
落語っぽさ | 90% |
ストーリー | 55% |
IMDb(海外レビューサイト) | 7.0(10点中) |
※以下、映画『大河への道』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『大河への道』ネタバレ感想・評価
再現ドキュメンタリー感がすごい
©︎「大河への道」フィルムパートナーズ
酷評で申し訳ないです。ひどいとまでは言いませんが、正直つまらなかったです。
本作は令和と江戸という2つの時代を行き来する構造が特徴ですが、それが仇(あだ)になっていたと思います。
伊能忠敬の死後、高橋景保や弟子たちが結束して日本地図を完成させる江戸時代の描写が感動パートですが、市役所で脚本家のあらすじ(フィクション)を聞かされているという前提が頭の片隅にずっとあったため、一歩引いた目線が生まれて没入感が削がれました。
市役所のキャストがそのまま江戸の地図作成隊のキャストに変換されるのもアイデアとしては面白かったですが、逆にみんなで再現VTRやってみました感も生まれてました。
俳優陣のコミカルな演技で終始笑えるのは笑えるんですが、感動まではいくシーンは最後に将軍謁見で「伊能忠敬はここにいます」と言って大きな日本地図を見せる場面くらいでしょうか。
伊能忠敬の死後地図作成の中心になった高橋景保や弟子たちの背景も描かれていないので、登場人物に感情移入するのも難しいと思いました。
この内容なら、江戸時代の描写より現代編のパートを増やしたほうが良かったと思いました。
あと細かい部分では、現代編は最初テンポが早すぎる!かと思いきや、測量体験をする場面は淡々としすぎていて間延びするなど、リズムにばらつきがあったのも残念です。
立川志の輔師匠の落語「大河への道」はダイジェストでしか見れていないのですが、この原作落語を超えたとは到底いえないと思います(映画と落語の比較の良し悪しはさておき)。
どこにも伊能忠敬が感じられない映画
映画『大河への道』の1番の難点は、伊能忠敬の人物像がぼんやりとしか浮かび上がってこなかったところだと思います。
本作は伊能忠敬を一切出さず彼の存在を空白として描くことで、高橋景保や弟子たちにスポットが当たり、かつ伊能忠敬の偉業や人物像までもが見えてくる構造です。
地図だけでなく、みんなで伊能忠敬を描くのが最大のテーマのはず。
しかし、伊能忠敬の偉業こそ伝わってきたものの、彼の人間性・性格などがほとんど見えてきませんでした。
忠敬と弟子たちとの関係、年下の美人妻・栄との関係がどんなだったか語られていないので、想像すらもむつかしいんですよね。
伊能忠敬の人物像については、栄が「測量の手伝いでかなり苦労させられた」っぽいことを言っていましたが、それ以外は一切語られていません。
夢だった地球の大きさを知ったあとで日本地図の作成を続けたのは、日本の国土を確立させて外敵から守るためだということは分かったのですが、もっと人間臭い情熱があったのかどうかもよくわかりません。
そのコンセプト自体は挑戦的で素晴らしいと思いますが、手がかりがなさすぎて伊能忠敬の人間性にまで想いを馳せることは叶いませんでした。
ラスト考察(ネタバレ)
伏線回収
北川景子が2役で演じる市役所職員・小林と栄は2人とも手にホクロがある、西村まさ彦演じる幕府の監視人のネギ嫌い、将軍と県知事が両方草刈正雄。これらの伏線・サプライズ演出は、
- 中井貴一演じる主人公が現実と脚本をリンクするほどのめり込んでいた
- みんなが伊能忠敬一派の生まれ変わりだというSFエッセンス
このどちらかの解釈でしょう。
ただ、これらがうまく機能していたかは微妙でメッセージ性がボヤけた印象でした。
例えばSFっぽくみんな生まれ変わりだとか、血を受け継いでいるとか解釈すると、身内の偉業を身内でPRしているイメージになってしまいます。
中井貴一が新しく物語を作るラスト
結局、橋爪功演じる脚本家・加藤は伊能忠敬ではなく高橋景保や弟子たちなど周囲の人物にスポットを当てた物語しか書きませんでした。
彼らの功績も残したいというのは素晴らしい理由だと思います。
ただ、中井貴一演じる池本が自分で伊能忠敬が主人公の映画の脚本を書くことにして加藤に弟子入りするラストは正直蛇足だと思いました。
伊能忠敬不在の映画で逆に功績の凄さがわかるテーマだったはずが、「やっぱり伊能忠敬が主人公じゃなくちゃね!」に見えてしまったからです。
ノリが軽くて小噺のオチっぽくはありますが、映画としてはメッセージが思いっきりブレてしまった印象を受けました。
落語風コメディは吉か凶か
立川志の輔の創作落語が原作ということもあり、映画『大河への道』は俳優陣の演技がみな“落語風”だったと思います。
つまり本作は時代劇コメディではなく、落語風の時代劇コメディです。
落語鑑賞についてはズブの素人である私なりの意見ですが、落語家って語りはもちろん、1人で何役もこなしますよね。
観客は落語家の芸術的な語り・仕草から様々なキャラクターを連想すると共に、落語家自身も見ているわけです。
落語家がいる現実の世界と、落語家が演じて話すフィクションを両方同時に捉える特殊な二重構造だといえるでしょう。
語り手が見えない(いたとしても消える)映画とは根本的に違いますね。
本作では落語風の演技を取り入れました。しかしこれによって、俳優陣が“キャラを演じている側面”がかなり強くなったと思います。
もともと市役所の職員と脚本家が作り上げた物語というメタ構造に、落語風の演技も加わったことで実質『大河への道』は3重構造だといえるでしょう。
構造だけ考えると挑戦的で素晴らしいですが、映画として観客が入り込むのがむつかしくなってしまったことは否めません。
(落語が好きな人は逆に受け入れやすいのかもしれませんが。)
映画『大河への道』作品情報・キャストと演技の印象
英題:『Dreaming of the Meridian Arc 』
ジャンル:コメディ・歴史・ヒューマンドラマ
監督:中西健二(『花のあと』)
脚本:森下佳子(『天国と地獄 サイコな2人』)
原作:立川志の輔「大河への道」
撮影:柴主高秀
主題歌:玉置浩二「星路/みち」
制作・配給:デスティニー・松竹
立川志の輔による原作は漫画化もされています。
登場キャラ・キャスト令和/江戸
市役所職員・池本/高橋景保|cast 中井貴一→流石の演技力
木下(池本の部下)/又吉|cast 松山ケンイチ→落語っぽさなのか、コミカル過ぎる気が…。
観光課の小林/栄(えい)|cast 北川景子→日本美人的な役柄が印象付いてきましたね。
富海/トヨ|cast 岸井ゆきの
脚本家・加藤/住職|cast 橋爪功
伊能忠敬の医者|cast 立川志の輔
最後のまとめ
映画『大河への道』は、立川志の輔の超人気落語を映像化した意欲作でしたが、コミカルなパートを笑う意外にどう楽しんで良いかがわからない凡作だったと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございます。『大河への道』レビュー終わり!
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