アカデミー作品賞を受賞した映画『ムーンライト』を観賞!
娯楽映画ではなく、社会へメッセージを思いきり投げかける作品であった!
ある意味問題作!こんなにシャープな問いかけをする映画も珍しい。
今回はそのムーンライトの非常に印象に残るテーマを深掘りしていこうとおもう!
映画『ムーンライト』作品情報・キャスト
公開年/制作国 | 2016年・アメリカ |
監督・脚本 | バリー・ジェンキンス |
キャスト | ジャレル・ジェローム ナオミ・ハリス マハーシャラ・アリ トレヴァンテ・ローズ アンドレ・ホランド ジャネール・モネイ アシュトン・サンダース |
音楽 | ニコラス・ブリテル |
興行収入 | 約27億円 |
今作で助演男優賞に輝いたマシャーラ・アリは2018年公開の映画「グリーンブック」でも2度目の助演男優賞を受賞している実力派!!
音楽のニコラス・ブリテルは「それでも夜は明ける」の音楽を担当した人物として有名。製作総指揮のブラッド・ピットも「それでも夜は明ける」の製作&出演を果たしている。
映画『ムーンライト』あらすじと予告動画
フアン(マハーシャラ・アリ)はドラッグ売買が行われるストリートでリトルと呼ばれるいじめられっ子の男の子を見つける。放っておけなかった彼は家にリトルを連れて帰り、リトルも次第にフアンを信用するようになるが、、
映画『ムーンライト』見どころは?
ムーンライトには大きく2つの見どころがある!
社会問題の当事者
ドラッグやLGBT、貧困など様々な黒人コミュニティが抱える社会問題とこれほど真剣に取り組んでいる作品は珍しい。綺麗事は一切ない。これらの問題について真剣に考える機会を与えてくれるのがムーンライトなのだ!
ブルーに統一された色彩美
ムーンライトはブラックアフリカンが抱える問題を扱うテーマ性が強い作品であるが、同時にブルーを基調とした色彩美にもとことんこだわっている作品でもある。
映像のカラーを調整したアレックス・ビッケルはコントラストを極端に強調することでこの”ブルーの映像美”を仕上げた。
さらに3幕構成である本作は、幼少期・青年期・成人期それぞれで異なる映像デザインを採用するというこだわりも素晴らしい!
ムーンライトは観るべき?
はっきり言っておくと、ムーンライトは娯楽映画の要素はほぼなく、観終わって楽しかったという感想は出てこない。
ただ、LGBTやアメリカの貧困社会における様々な問題に真正面から向き合った意義のある作品なので、そう言った意味でぜひ観て欲しい!
※以後ネタバレ
映画『ムーンライト』ネタバレあらすじラスト解説
幼少期 リトル
リトル(アレックス・ヒバート)と呼ばれる少年は体が小さく気も小さい。
あるとき、いじめっ子から逃げるため麻薬がはびこる危険区域にいるところを、キューバ人のドラック密売人ファン(マハーシャラ・アリ)に見つけられる。
フアンはこの地域にリトルを置いておくのは忍びないと思い、恋人テレサ(ジャネール・モネイ)がいる家に連れて帰る。
はじめは名前さえ喋らなかったリトルだが、フアンの包み込むような態度で徐々に話し出す。
リトルの母親ポーラ(ナオミ・ハリス)はドラッグをやっており、いつも違う男性を家に呼び込んでいた。
リトルは母親の言動や環境に堪え兼ね、フアンの家に行くことが多くなる。
フアンはリトルに海での泳ぎ方や、生き方を自分で切り開くことを優しく教えた。
フアンは麻薬を売り捌いている場所でリトルの母親を発見、口論になるが、自分がリトルの母に麻薬を売っていたという事実を突きつけられる。
少年期 シャロン
リトルはティーンエイジにシャロンと呼ばれていた。
背こそ伸びたが、まだみんなからバカにされ虐められていて友達はケヴィン(ジャレル・ジェローム)だけ。
母親のドラッグ依存はますます強くなり、母ポーラは金を得るために売春もしていた。
シャロンは環境に耐えかねたときにテレサの家に行き泊めさせてもらっていた。フアンは若くして既に死去。
あるときシャロンはケヴィンが女性と性行為をしている夢を見た。
シャロンはある夜、学校を停学中のケヴィンと海の砂浜に座りドラッグを吸っていた。そのあと2人はキスし、ケヴィンはシャロンに手淫をする。
ケヴィンは不良グループのテレルに脅され、シャロンを殴らされる。
何度殴ってもシャロンは立ち上がるのでケヴィンはもう殴れないと言って逃げたが、シャロンはその後不良グループにボコボコにされる。
シャロンは相談員や大人にいじめのことを話しても無意味だと考え、やり場のない怒りから授業中に椅子でテレルを殴り大怪我を負わせて少年院に入れられてしまう。
成人期 ブラック
シャロンは大人になり、アトランタでブラック(トレヴァンテ・ローズ)という名前の麻薬のディーラーとして幅を利かせている。
ある晩ケヴィン(アンドレ・ホランド)から電話が掛かってきて、謝罪した後、マイアミの食堂で会いたいと言われる。次の日の朝ブラックは夢精していた。
ブラックは薬物更生施設にいる母を訪ねた後、ケヴィンのもとへ向かう。
ケヴィンが働く食堂で話をする二人。
ケヴィンはブラックがムキムキの風貌になっていることや、麻薬ディーラーとして働いていることに戸惑い、ブラックもまた、ケヴィンがバツイチで子供もいることに動揺した。
ラスト・結末
ケヴィンの家に泊まることになったブラック。二人はお互いの想いを打ちあけ、抱きしめ合う。
映画『ムーンライト』終わり。
映画『ムーンライト』ネタバレ感想 テーマは?
良い意味で、実に生々しい作品だった。
まず素晴らしいのが、主人公シャロンを始めとした登場人物たちに同情を寄せさせるような、装飾が多く安っぽいヒューマンドラマにせず、彼らの行動をありのまま描いているということ。
この映画は主人公シャロンが頑張って生きてきた!という成長物語ではない。
環境や性質を強烈に反映したアイデンティティーが存在することを伝えるというのが大きなテーマで、肌でそれを感じさせてくれた。
そこには善悪の概念もなく”ありのまま”があるだけだ。
また、アメリカの貧困社会が抱える様々な問題も無視できない。
主に取り上げている問題はこの4つ
- LGBT
- ドラッグについて
- いじめ
どれも大事な問題なので映画においてのそれぞれの描かれ方をまとめてみる。
映画『ムーンライト』LGBTQ考察
本作では主人公がゲイというアイデンティティーを発見するまでの過程が青年期、成人期を通じて描かれているが、特徴的なのが、学校に通うティーンエイジャーが同性と性行為を行うという衝撃的な描写を組み込んだことだ。
シーンも同意スレスレで描かれており、強制的に被害に遭うケースも暗に示唆しているように思う。
LGBTQの人にとっては当然のことかもしれないが、こういったシーンがLGBTQ問題についての見識が広がる大きなきっかけになったように思う。
ムーンライトはゲイやLGBTについての偏見も描きながら、だからと言って特別扱いしないでほしいという気高さが感じられる。
ドラッグの負の連鎖
ピエール瀧や韓国のパク・ユチョンらが、バイキングなどお昼のワイドショーを騒がせているが、ドラッグ問題について踏み込んで考える良い機会かもしれない。
ムーンライトではこれらのドラッグ問題についても、非常にアイロニカルに描かれている。
幼少期のシャロンを助けてくれたのはただ一人、社会的に悪とされるドラッグディーラーのフアンだが、フアンはある面シャロンの家庭が崩壊するキッカケを作っている。
さらに、シャロンはフアンに憧れ、大人になってから同じようなドラッグディーラーになり、同じブルーの車に乗っている。
ドラッグを売り捌くということは麻薬の売買を巡ってギャングやマフィアの傘下に入っているということになり、抗争やトラブルで常に命の危険がつきまとう。
シャロンはそんな負の連鎖の中に吸い込まれてしまったのだ。
ドラッグの売買は危険なので貧困層の本当に仕事がない人々が手を出してしまう。それによって自らを危険に晒し、周りの人々に悪影響を与える。
そして、ドラッグによって家庭が崩壊する幼少期を過ごした人でさえ、仕事がなくドラックディーラーになってしまう。
ドラッグの売人に関してはフアンやテレサが非常にクリーン(ドラッグをやっていない)で超いい人的なイメージで描かれており少し違和感があるが、彼らも普通の人間として生活していると描きたかったのだろう。
そして、ドラッグを売り捌く人だけでなく、貧困や紛争からドラッグの生産しか仕事がない地域の人々や、それに絡む麻薬カルテルの存在がある。
詳しくは語らないが、コロンビアやメキシコなど一部は、人の命がぞんざいに扱われる悲惨な状況にあるのだ。
根本を考えると、結局ドラッグを買う人がいるからこそ、今まで語ってきた多くの問題がなくならないのだ。そのことだけでも覚えておいてほしい。
ドラッグについては解説者のモーリー・ロバートソンさんがこちら→海外コカイン事情という記事で非常に鋭利に語っているので参考にしてほしい。
シャロンのアイデンティティー
考えてみてほしい。シャロンは、貧困層、家庭内不和、ゲイ、ドラッグ、黒人という、大きな差別を生み出してしまう”的(まと)”を5つも抱えて生きている。
ひとつひとつを取り扱っている映画はあるが、ムーンライトのように、全部のアイデンティティーを一人の男性に背負わせ、さらに同情もシャットアウトするようなメッセージ性が強い作品が他にあるだろうか?
映画として面白いかと言われればそうでないが、ドラッグ、LGBTについて深く考えるキッカケをくれた作品であったので多くの人に見てほしい。
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