映画『ロストケア』ネタバレ感想・ラスト:答えなき介護の狂気…考察,結末解説

  • 2024年8月9日

映画『ロストケア』松山ケンイチが42人の老人を殺害した介護士を、長澤まさみさんが正義を振りかざす検事を演じます。

シネマグ
答えを出してはいけない超シリアスなテーマに心が押しつぶされる!キャストの演技も神がかっています。

キャスト

視聴してのぶっちゃけ感想・評価(ネタバレあり)

テーマや折り鶴の意味など考察

物語ネタバレあらすじ・ラスト結末解説

これらの情報を知りたい人向けにわかりやすくレビューしていきます!

(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)

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映画『ロストケア』作品情報・予告

公開:2023/03/24
制作国:日本
上映時間:114分
英題:『LOST CARE』
ジャンル:サスペンス・ヒューマンドラマ
年齢制限:なし、全年齢対象
監督:前田哲
脚本: 龍居由佳里/前田哲
原作: 葉真中顕の小説「ロスト・ケア」
主題歌:森山直太朗「さもありなん」

2016年に起こった相模原障害者施設殺傷事件などを想起してしまいますが、原作小説は2013年発表で映画も実話をもとにはしていないとのこと。殺人犯のモデルとなる人物もいないようです。

監督・前田哲さんは『そして、バトンは渡された』『老後の資金がありません!』(2021)などで有名。脚本・龍居由佳里さんは中居正広主演の『砂の器』(2004)などで知られています。

『ロストケア』キャスト

松山ケンイチ

松山ケンイチ

老人ホーム八賀の介護職員・斯波宗典(しば むねのり)役。

本作の松山ケンイチさんはお年寄りに優しく接する献身的な笑顔から目に冷たい光を宿らせて淡々と告白する姿まで、神がかっていました。カメラワークまで松山さんを中心に回っているようです。すごい演技力に鑑賞中は圧倒されっぱなしでした。

松山ケンイチさんは『デスノート』『ノルウェイの森』『カイジ 人生逆転ゲーム』『大河への道』などに出演。
近年では『ノイズ』(2022)の影のある演技が印象的でした。

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映画『ノイズ』藤原竜也 松山ケンイチ

長澤まさみ

長澤まさみ

検事の大友秀美(おおともひでみ)役。

長澤まさみさんが正義と正論を振りかざす検事を熱演。松山ケンイチさんとの対面でのやりとりで表情がだんだんと崩れていく演技は必見です!

近年も『コンフィデンスマンJP』『マスカレードナイト』『百花』『シン・ウルトラマン』『シン・仮面ライダー』、Netflix映画『パレード』など数々の話題作に出演!

その他キャスト

映画ロストケアのキャスト解説図

映画ロストケアのキャスト解説図その2

キャスト 役名
鈴鹿央士 椎名幸太(大友の助手)
坂井真紀 羽村洋子(母親を自宅介護する女性)
柄本明 斯波正作(宗典の父)
やす(ずん) 春山登(羽村洋子の同僚)
戸田菜穂 梅田美絵(父親を自宅介護する女性)
綾戸智恵 川内タエ(生活苦と病気で刑務所入りを望む女性)

あらすじやネタバレ少なめの感想はコチラ

※以下、『ロストケア』のストーリーネタバレありなので注意してください!

映画『ロストケア』ネタバレあらすじ解説

老人42人死亡事件の真相は?

検事の取り調べ室。斯波は「事件当日に担当している梅田さんが心配になって夜中に見にいって、そのときに盗みに入っていたセンター長・団ともみ合いになり、彼が階段から落ちて死んでしまった」と語る。

大友がなぜ正直に話さなかったのか聞くと、斯波は「自分が休んだら介護スタッフが足りなくなるから」と平然と言った。

やがて死亡した梅田老人の体内からニコチンが発見され、ニコチンを体内に注射されて殺されていたことが判明。発見された注射器が斯波のものであることから、大友は斯波が犯人だと確信して問い詰めた。

斯波は「人殺しでなく人助けだ。私は42人の老人たちと、その家族を救った」と告白をはじめた。

最初の殺人、遺族の思い

斯波は、父親の正作が脳溢血で倒れて半身麻痺になり、自宅介護中にどんどん認知症も進んでいって自分は仕事やバイトすら辞めざるを得なかった。しかし生活保護の受給資格はないと言われたこと。3食満足に食べられず、認知症で暴れる父の介護で精神的にも肉体的にもボロボロだったこと。父・正作がふと正気に戻ったときに「殺してほしい」と懇願(こんがん)されたことを話した。

大友は「あなたは自分勝手な正義を振りかざしただけ!」と斯波を責める。

しかし逆に斯波から「あなたは安全地帯から正論を言っているだけだ。この世の中には穴があり、そこから抜け出せない人もいる」と言い返されて戸惑う。

車椅子で認知症もわずらっている母・加代を高級老人ホームに入居させた大友は、答えを返すことができずに涙を流した。

大友と椎名は斯波に親を殺された羽村洋子に話を聞く。羽村は「斯波さんがやったなんて信じられないし、救われたという思いもある」と告げた。

ラスト結末

裁判が始まり、斯波は「私がやったことは殺人ではなく救いだ。家族の絆が呪縛になることもある」と証言した。

斯波に父親を殺された梅田美絵が「人殺し!」と叫んだ。

そしてしばらくあと。

斯波に母親を殺された羽村洋子は職場の男性と付き合い、一緒に生きていく決意をした。

大友は何が正義かわからなくなり、老人ホームにいる母親のもとへ。母親は状況をわからないままに大友の頭をなでた。大友は大粒の涙を流す

大友は刑務所にいる斯波に面会に行き、「幼い頃に生き別れた父からの連絡を無視して、父は数カ月後に孤独死していた。後悔している」と話して涙する。

大友の話を聞いた斯波は、父・正作を殺したあとで抱きしめたときのことを回想していた。父が作った折り鶴には「俺の子どもとして生まれてきてくれてありがとう」と書いてあった。

斯波も涙を流す。

映画『ロストケア』終わり

映画『ロストケア』ネタバレ感想・評価

『ロストケア』の評価は85点。(内容が重いので評価すること自体がはばかられますが)

介護で苦しむ老人と家族はどう生きればいいかという高齢化社会へ大きな問題提起がなされています。

異なる正義を対立させたエンタメでは決してありません。スッキリ解決自体が最初から不可能なタイプのテーマです。

安易に答えを出してはいけない!と、しっかり映像や展開で表現できていたのがすばらしいと思いました。

言葉に出せない感情を映像で表現する、そんなコンセプトが伝わってきます。

強いていうならラストで殺人犯の斯波と、検事の大友が涙を流し合ったというのが、本作のひとつの回答でしょう。

キャストの演技もシリアスで見応えバツグンでした。

松山ケンイチさんの淡々とした狂気の表情は必見、白髪で不気味ですし、瞳に映る光をとらえたカメラワークも相まって、深淵を見つめている気分にさせられます。

長澤まさみさんの正義の仮面が次第にはがれて感情むき出しになる過程もすごかったです。心情の変化によってストーリーに重みが加わっていました。

そして「殺してくれ」と願った柄本明さんの狂気の演技…。本当に凄まじくてもはや演技なのかわかりません。(特に柄本さんは凄すぎてたぶん夢に出てくると思います。)

2023年1月発表の日本アカデミー賞で最多13部門を受賞した『ある男』でも柄本明さんの怪演が光っていましたが、今の邦画界って物語の力点の要(かなめ)の部分に柄本明さん出しておけば成立するみたいな雰囲気すらあります。

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あとは少し個人的な話になりますが、私も数年前に認知症の祖父を亡くしているので本作の内容を他人事とは思えず、ある種の罪悪感や後悔も感じました。

おそらく本作を見て自分自身の境遇に当てはめて気分が重くなった人が多いのではないでしょうか。

気分は暗くなりますが、家族や自分の今後のことを考えると避けてはとおれません。人生について真剣に考えるきっかけを与えてくれたという点でも価値があると思いました。

近年は『百花』や『PLAN 75』など、介護や老人の死をテーマにした邦画が増えていますね。希望を見いだしにくいという点では『ロストケア』が1番重い内容だという所感です。

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ロストケア考察(ネタバレ)

答えを出してはいけない問題

殺人犯の斯波と検事の大友がそれぞれの論理をぶつけ合わせる話かと思いきやそうはなりません。

なぜなら、親や家族の幸せを願う想いは共通であるとわかったからです。

そのうえで、経済的に余裕がなく症状が重い場合は、息子や娘の人生を巻き込んでしまうとリアルな描写を突きつけてきます。

斯波に親を殺された羽村洋子は「救われた」と証言し、いっぽう梅田美絵は「人殺し!」と斯波を罵倒しました。遺族の反応もバラバラです。

人殺しは重い罪ですが、もし自分が同じ立場になったら…。もし自分が介護される側で家族の人生を壊していたら…と考えると安易に答えは出せません。倫理や道徳、法だけで整理できる問題ではないのです。

安易に答えを出してはいけない、それこそが本作の主題だと感じました。

長澤まさみ演じる大友検事は斯波から介護の現実を突きつけられ「人は見たいものしか見ない」と納得します。

介護の問題に答えを出せない自分自身の無力さから目を背けていると言い換えることもできます。

しかし、本来は他人が答えを出していい問題ではありません。

斯波の罪をあえて言葉で表現するなら“答えを出してしまったこと”でしょう。

冒頭で語られたマタイによる福音書 7章12節「人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい」の言葉が鑑賞後も頭の中でこだまします。斯波はこの言葉を忠実に実行してしまったわけです。

しかし『ロストケア』のような究極の命の選択を突きつけられる場合、例えば介護される老人側や、介護する家族の気持ちになって考えること自体がより良い選択をする手助けにならない気もします。

介護される側は家族のことを思って「もうこれ以上迷惑はかけたくない」と死を選択するかもしれません。

いっぽう家族は「どんな状態でも生き続けてほしい」と生を選択するかもしれません。

エゴとエゴのぶつかりあいです。しかしこのエゴのぶつかり合いがバランスを生んでいる面もあります。

そんな中で介護される側・する側の気持ちに究極的に寄り添い過ぎてしまったのが斯波なのです。彼は結果として一線を踏み越えてしまいました。

折り鶴に託された願い

斯波は担当する老人たちに折り鶴(ツル)を折ってあげていました。

父・正作も鶴を折っていたので彼の願いを継承したかったのでしょう。

父・正作が折った鶴には“俺の子どもとして生まれてくれてありがとう”と書いてありました。

斯波がとった老人の殺人という方法は間違っていたかもしれません。

しかし斯波は、ギリギリの状態にある介護老人と家族の絆は信じていたのだと思います。

見ているこちら側の倫理観が揺さぶられる解釈の難しい心理描写ですね。

斯波を擁護することはできませんが、彼のような介護で苦しんで殺人に走る人を生まないためにはどうすれば良いかは、社会で生きる以上考えなければならない義務のような気がします。

最後のまとめ

映画『ロストケア』は、現代の高齢社会における切実な問題を鋭く問題提起した秀作でした。

感動した!とか、演技がすごかった!とか言葉だけでは心を整理することができません。見終わったあとしばらく放心状態で今も答えは出ないままです。

日本はこれからどうなるべきなのか、自分や家族が介護が必要になったときにどう生きていくべきなのか。

そう問いかけてくれるだけでも意義深い作品だったと思います。

ここまで読んでいただきありがとうございます。レビュー終わり!

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