Netflix映画『アイリッシュマン』ネタバレ考察と感想!元ネタのマフィアやキャスト解説!スコセッシの死生観

  • 2024年3月24日

Netflixオリジナルのマーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』は、3時間を超える大作であると同時に傑作だった。ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ3人のキャリアの集大成だといえるだろう。

スコセッシ監督の『グッドフェローズ』や『沈黙-サイレンス-』と比較して考察や解説をしていきます。

映画『アイリッシュマン』の登場人物の元になった本物のマフィア解説

『アイリッシュマン』はフランク・シーランの告白本『I Heard You Paint Houses(君が家にペンキを塗ると聞いた)』を元にしており、登場人物たちは実在する。どんな人だったのか知っておくと映画の理解に役立つだろう!

フランク・シーラン

アイルランド系の父とスウェーデン人の母を持つ、通称・アイリッシュマン。若い頃に陸軍に入り、イタリアなどで豊富な戦闘経験を持つ。

戦時中は、禁止されている捕虜の殺害などを幾度となく行っていたらしい。それがのちにマフィアでの殺人の仕事に役立ったようだ。

全米トラック運転手組合に入り、暗殺や武力行使担当としてホッファをサポートしてのし上がった。

刑務所で服役したあと、ペンシルベニア州の老人ホームで83歳でガンで死亡。

フランク・シーラン

ロバート・デ・ニーロが演じていたので作中では人間味があるように描かれていたが、経歴だけ見るとかなり残忍な人物であることがわかる。捕虜に穴を掘らせて撃ち殺した作中のシーンも真実らしい。

ジミー・ホッファ

若い頃は配送業に従事していたが労働条件が悪く、過激なストライキを指揮して成功させた。武闘派として評判になりトラック運転手組合・チームスターズに招き入れられ、マフィアと手を結び、トップに上り詰めるが、司法長官となったロバート・ケネディにより失脚。刑務所に服役した。

ジョン・F・ケネディ大統領の暗殺を操っていたという説もあり、敵対関係にあった。

ジミー・ホッファを演じたアル・パチーノ
演じたアル・パチーノは、ホッファの気性の荒さをしっかり表現していたことがわかる。

ちなみにフランクの告白本『I Heard You Paint Houses(君が家にペンキを塗ると聞いた)』はホッファがフランクに言った言葉で、殺人で壁に血がべっとりつくことを意味している。

つまり「俺のために暗殺をしてくれるんだよね」とほのめかしているのだ。

実際にフランクが殺した相手の血を隠すためにペンキを塗っていて“ペンキ塗り”の愛称があったという説もある。

俳優アル・パチーノは近年はリドリー・スコット監督の映画『ハウス・オブ・グッチ』(2022)にも出演。

ラッセル・バファリーノ

ラッセル・バファリーノを演じたジョーペシ

マフィアの本場、イタリアのシチリア島からニューヨークに家族で移住。10代の頃から犯罪行為を行い、仲間たちがさまざまな組でのし上がったこともあって自身も多大な影響力を持つようになった。

その後ペンシルバニア州に移ってブファリーノ・ファミリーのドンとなる。トラック運転手のフランク・シーランと出会い、ホッファに紹介した。

恐喝罪などで起訴され、2回服役している。

晩年は病院で老齢により90歳で死亡。

それにしてもジョーペシはおじいちゃんマフィアでもカッコイイ!

『沈黙-サイレンス-』と『アイリッシュマン』を比較考察!スコセッシの死生観と宗教観

※『沈黙-サイレンス-』のネタバレを含みます

マフィアの破天荒っぷりなど序盤の雰囲気は『グッドフェローズ』に近いものの、全体的なテーマはスコセッシに監督による2016公開『沈黙-サイレンス-』と重なる。

映画『沈黙-サイレンス-』

マフィアたち失脚のその後を丁寧に描き、デ・ニーロが演じるフランクの心に何が残ったのかを美しく浮かび上がらせたからだ。

終盤でフランクはカトリックの司祭と交流していることも、宗教的なテーマを明確にしている。ときどき訪ねてくるFBIにも、自分以外全員死んでいるにも関わらず口を硬く閉ざすシーンで、彼が美学や信念を失っていないことがわかる。

棄教した後も宗教を捨てなかったキリシタンの物語『沈黙-サイレンス-』のメッセージにとてもよく似ている

彼が「出るときにドアを少し開けて」と司祭にお願いするシーンは、彼の人生に何が残ったのかと、視聴者に強く問いかけていて素晴らしい!

廊下の手すりを光の線のように描き、最高のエンディングになっている。

スコセッシとデ・ニーロ

マーティン・スコセッシ

だれもが知る傑作『タクシー・ドライバー』をはじめ、『キング・オブ・コメディ』、『グッドフェローズ』、『ケープ・フィアー』など、スコセッシとデ・ニーロがタッグを組んだ傑作はたくさんある。お互いを知り尽くしているからこそいい作品ができるのもあるかもしれないが、とにかく相性抜群だ。

しかし、二人が最後に作り上げた『カジノ』(1995)が個人的に微妙だったので、『アイリッシュマン』がそんな感じの作品になったらどうしようという危惧はあったが、全然そんなことはない。傑作で安心した。

『アイリッシュマン』ネタバレ考察!グッドフェローズやカジノと異なる役割

アル・パチーノとロバート・デ・ニーロ(アイリッシュマン)

ロバート・デ・ニーロとジョー・ペシはスコセッシ監督の『グッドフェローズ』や『カジノ』で共演。

ロバート・デ・ニーロはアル・パチーノと『ゴッドファーザー PART II』や、『ヒート』で共演。

アル・パチーノはスコセッシ映画に初出演となる。

いやいや、豪華すぎるだろ。まさにマフィア映画の同窓会!演技派の3人を画面で眺めているだけで、マフィア映画好きにとってはご褒美だ。

今回、アル・パチーノについては、すぐ怒り出す『スカーフェイス』的な彼がこれまで演じてきた役柄に近いイメージだ。

デ・ニーロの演技も、『グッドフェローズ』や『カジノ』と雰囲気は大きく変わらない。

本作で、一番イメージを覆したのはジョー・ペシだろう。『グッドフェローズ』や『カジノ』で暴言やFUCKを連発した破天荒キャラではなく、どっしりと構え、あまり声を荒げないラッセルという人物を演じた。

ラッセルを演じた俳優ジョー・ペシ

ジョー・ペシのキレっぷりを見たかった想いも確かにあるが、結果的には味わい深い中年〜老齢のマフィアとなっていて、キレキャラ以外もできるのだと感心した。

アイリッシュマン感想・評価まとめ

アイリッシュマンのフランク

エルカミーノ/ブレイキングバッドThe Movie』など、Netflixのオリジナル映画は駄作が多い印象だったが、『アイリッシュマン』がそれを覆してくれた。スコセッシ監督に制作費を100億円以上投資してくれてありがとう。

今作は人生や魂、生きる意味を明確に問う傑作だった。3時間以上と少し長いが、デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシの演技や重厚な映像の数々があり、まったく退屈しない。何回も観たいと思える作品だ。