Netflix『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』(奇才ヘンリー・シュガーの物語)。ウェス・アンダーソン監督×ベネディクト・カンバーバッチによるシュールで芸術的な短編です!
作品情報・キャスト
あらすじ
ネタバレなしの感想
視聴してのぶっちゃけ感想・評価(ネタバレあり)
考察:ウェス・アンダーソンが表現したいこと。
これらの情報を知りたい人向けにわかりやすくレビューしていきます!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)
これから視聴する方の参考になるよう、作品についての視聴者口コミ・アンケートも投票お願いします↓
Netflix映画『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』作品情報・予告
制作国:アメリカ
上映時間:39分
原題:『The Wonderful Story of Henry Sugar』
ジャンル:短編映画、アート、ヒューマンドラマ
年齢制限:7歳以上対象
監督・脚本:ウェス・アンダーソン
原作:ロアルド・ダール著「鬼才ヘンリー・シュガーの物語」
ウェス・アンダーソン監督
常識を覆す構図・アングル・技法を連発し、すべてのシーンに芸術性を宿す鬼才。
小道具なども凝りまくりで画面の情報量が多すぎるため、ウェス・アンダーソン監督の作品は何度でも鑑賞したくなります。
映像美だけでなく、人間の生き様を普遍的に描き、大きな感動が呼び起こされるのも魅力です!
『犬ヶ島』『グランドブタペストホテル』『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』『アステロイド・シティ』など芸術性の高い映画を作り続けています。
ウェス・アンダーソン監督最新作『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(The French Dispatch of the Liberty, Kansas Evening Sun)。 Cine[…]
映画『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』キャスト
ヘンリー・シュガー|ベネディクト・カンバーバッチ
目を使わずに物を見る男・カーン|ベン・キングズレー
医者|デーヴ・パテール
作家・ダール|レイフ・ファインズ
映画『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』あらすじ
作家・ダール(レイフ・ファインズ)が物語を描くための小屋でヘンリー・シュガー(ベネディクト・カンバーバッチ)の物語を回想する。
ヘンリーは目を使わずに物を見る男・カーンについての記録を読み、カードゲームで勝つために瞑想の修行を続けた。
しかし修行を終えた彼に、心境の変化が訪れた…。
ネタバレなし感想・海外評価
今回は絵が描かれたたくさんの巨大なボードが登場し、それがパカっと開いて舞台が切り替わる演出がみどころ。
ベネディクト・カンバーバッチが宙に浮くシーンでは背景と同じ絵が描かれたイスを使うなどアナログな手法もおしゃれです。
映画やアートが好きな人からしたら映像だけ見ていても楽しいと思います。(逆にわかりやすいエンタメ作品が好きな人には向かないかもしれません)
カードゲーム(ブラック・ジャック)のシーンなんか構図が美しすぎて名画を眺めているようでした。
ストーリーはさらっとしていますがなぜか感動してしまうから不思議。
39分と短いので気になったらぜひ視聴してみてください!
おすすめ度 | 85% |
世界観 | 97% |
ストーリー | 80% |
IMDb(海外レビューサイト) | 7.5(10点中) |
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト) | 批評家 96% 一般の視聴者 85% |
メタスコア(Metacritic) | 83(100点中) |
※以下、映画『奇才ヘンリー・シュガーの物語』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』ネタバレ感想・評価
いつも通り「映像の美術館」といえるアーティスティックな作風で、視聴中にうっとりしすぎて修行中のヘンリー・シュガーみたいな瞑想状態になりました。
レイフ・ファインズ演じる作家がヘンリー・シュガーの会計士から話を聞き→ヘンリー・シュガーは目を使わずに物を見る男・カーンについての医師の記録を読み→カーンの生涯が描かれるという時代を遡る入れ子構造です。(『グランド・ブタペスト・ホテル』もこの構造でしたね)。
セットの絵を割ってキャラクターが登場したり、スタッフが小道具を移動させるところまで映したりする演出も印象的でした。
スタッフが背景のスクリーンを引っ張ってきて、その前をベネディクト・カンバーバッチが歩いているフリをしいるシーンにもびっくり!
普通に撮れば良いシーンを、あえてアナログ的な手法で分解しています。映像的な奥行きをあえて出さないようにしているのでしょうか。
さらに本作で特筆すべてきは、脚本のト書き部分まで役者に読ませているところ。本来、ト書き(セリフ以外の動作等の指示)の部分は言葉じゃなくて役者の動きで表現すべきところのはず…映画の固定概念を完全にくつがえす演出です。
役者がト書きを読むことで「これは作られた物語だよ!」というメタ構造を突きつけているのでしょうか。
物語は本来、さまざまな人生や視線を経由したものだと表現しているのかもしれません。とても不思議な感覚になります。
また、レイフ・ファインズが作家と警察官。ベン・キングズレーが目を使わずに物を見る男・カーンとカードのディーラーの1人2役をこなしていたのもおもしろいアイデアです。
本作でなぜ1人2役がうまく機能しているのか言語化するのは難しいです。
あえて述べるなら、まったく違う役柄に2人を配置することで、視聴者側がIf(もしも)の世界が発生したかのような想像力を喚起させられるからだと思います。
言語化できない抽象的な部分に対してのアイデアがずば抜けてますね。
ストーリーは感動しましたが、正直もっと長尺で見ていたかったというのもありました。短編映画なので仕方ないですが、最後が少しあっさりに感じられました。
ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語:考察&解説
労力をかけた巨大な紙芝居
映画『奇才ヘンリー・シュガーの物語』を一言でいうなら、「労力をかけた巨大な紙芝居」ではないでしょうか。
その場で背景が組み上がっていくのは演劇的でもありますが、俳優がト書きを読むことで語り部の役割まで果たしています。どちらかといえば昔ながらの紙芝居を表現していたように思いました。
町で歩くシーンを普通に撮影すればいいのに、わざわざ背景をスクロールさせて歩くフリをする…アナログな手法であえて複雑化することで味を出す、ウェス・アンダーソンならではの技法ですね…
ウェス・アンダーソンは何がしたいのか
まずここまで解説したように、劇や紙芝居、語り部の伝聞など、歴史的にみて過去の手法を映画で表現したらどうなるか!?という実験的な要素があります。
ウェス・アンダーソン監督は現在の映画の形態だけでなく、たとえば街角で子供相手にされる紙芝居にも表現としての価値はあると考えているようです。
「フラッと聞いた昔話に愛と真理と驚きとが詰まっている!」そんな作風ですよね。
本作『奇才ヘンリー・シュガーの物語』はこれまでのウェス・アンダーソン作品と比較しても紙芝居的な要素が強いと思いました。
ここからは私の考察になりますが、ウェス・アンダーソンは映画で劇や紙芝居などの表現を混合することによって、物語の本質のようなものを浮かび上がらせているような気がします。
さまざまな技法を見せつけ、「映画は虚構だ」と胸を張っているようです。ただ、「物語それ自体は存在する!」と逆に真実を浮かび上がらせているようにも見えます。
あえていうなら人が人に物語を伝えること、それ自体の感動を表現しようとしているのではないでしょうか。
物語の構造自体を映像表現として見せることで、視聴者は骨組みのような構造をとっぱらって真の感動に到達できる。それこそがウェス・アンダーソン作品だと思いました。
最後のまとめ
映画『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語』は、短編ながら印象に残る映像の宝庫でした。
マーベルやDCなどヒーロー映画もいいですが、本作のような芸術的な作品がメインストリームからなくならないでほしいですね。
もうマーティン・スコセッシもデヴィッド・リンチもWEB配信でしか新作を作れなくなってます…。ウェス・アンダーソン監督には頑張ってほしいです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。映画『ヘンリー・シュガーのワンダフルな物語(奇才ヘンリー・シュガーの物語)』レビュー終わり!
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