映画『エンパイア・オブ・ライト』(Empire of Light)。サム・メンデス監督の最新作は、旧時代の映画館を舞台にした良い意味で人間的な雑味にあふれる鮮烈な作品でした。
作品情報・キャスト
ネタバレなしの感想
視聴してのぶっちゃけ感想・評価(ネタバレあり)
メッセージやストーリーの意味を深掘り考察
物語ネタバレあらすじ・ラスト結末解説
これらの情報を知りたい人向けにわかりやすくレビューしていきます!
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)
これから観る方の参考になるよう、作品についての視聴者口コミ・アンケートも投票お願いします↓
映画『エンパイア・オブ・ライト』作品情報・予告
制作国:イギリス・アメリカ
上映時間:1時間53分
原題:『Empire of Light』
ジャンル:ヒューマンドラマ
年齢制限:PG12
監督・脚本:サム・メンデス
撮影:ロジャー・ディーキンス
音楽:トレント・レズナー/アッティカス・ロス
全世界興行収入:
サム・メンデス監督
1999年公開の『アメリカン・ビューティー』ではアカデミー賞作品賞や監督賞など5部門を獲得。『007 スカイフォール』『007 スペクター』もヒットさせました。
見る人によってとらえかたが全然変わるであろう本作『エンパイア・オブ・ライト』はまちがいなく『アメリカン・ビューティー』の系譜だと思います。
全編がワンカットに見える『1917 命をかけた伝令』(2019)も非常に高い評価を受けましたね。
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キャスト
ヒラリー・スモール役|cast オリヴィア・コールマン(『ファーザー』『ロスト・ドーター』『女王陛下のお気に入り』)
スティーヴン役|cast マイケル・ウォード(Netflix『オールド・ガード』)
ドナルド・エリス役|cast コリン・ファース(『英国王のスピーチ』『裏切りのサーカス』『ラブ・アクチュアリー』『イングリッシュ・ペイシェント』)
ノーマン役|cast トビー・ジョーンズ(『裏切りのサーカス』『キャプテン・アメリカ』『ほの蒼き瞳』『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』)
『エンパイア・オブ・ライト』あらすじ
©︎サーチライト・ピクチャーズ
1980年のイギリス。物憂げな中年女性・ヒラリー(オリヴィア・コールマン)は映画館・エンパイアで毎日同じような日々を送っていた。
ある日、黒人青年・スティーヴンが新スタッフとして映画館にやってくる。
ヒラリーはスティーヴンに今は閉鎖されている上階の上映館を見せた。
スティーヴンはそこにいた骨が折れたハトに治療をほどこした。
大晦日になり、ヒラリーはスティーヴンと屋上でシャンパンを飲む。
ヒラリーは衝動的にスティーヴンにキスをしてしまった…。
ネタバレなし感想・海外評価
オリヴィア・コールマンの狂気的な演技や、美しすぎて心が解放されるような映像も見どころです。
ただ、微妙な恋愛関係が描かれ白黒ハッキリする内容でもないため、賛否両論になるでしょう。
いくつものテーマが網目のように交わるストーリーは、わかりやすい映画が好きな人にはまったく向きません。
わかりやすい物語が受け入れらがちな現代に逆行するような作品で海外でも評価されていないのですが、個人的には傑作だと思いました。
人生の本質を語りかけてくるような濃ゆい作品を探している人はぜひ劇場で鑑賞してください!
おすすめ度 | 80% |
テーマ性・世界観 | 95% |
ストーリー | 85% |
IMDb(海外レビューサイト) | 6.6(10点中) |
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト) | 批評家 44% 一般の視聴者 74% |
メタスコア(Metacritic) | 54(100点中) |
※以下、『エンパイア・オブ・ライト』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『エンパイア・オブ・ライト』ネタバレ感想・評価
こんなに濃厚なヒューマンドラマはなかった!と思うくらい衝撃を受けました。
精神的な病気を患う中年女性と黒人青年のあいまいな恋愛を鮮明に切り取った傑作だったと思います。
グローバル化が進んで社会にタブーが増えるたびに消えていった人生の雑味が凝縮されていると思いました。
ストーリーの軸となる主人公・ヒラリーとスティーヴンの恋愛からして、興味本位でもあり、社会ののけ者という寂しさからの共依存(お互いに依存する)でもあり、本気で好きだった部分もありとかなり複雑に表現されています。
年の差も母と息子くらいあり、世間的には許されないかもしれません。
さらに黒人差別がいまより露骨だった1980年代のイギリスにおいて、2人の関係は想像以上に困難がつきまとうものだったでしょう。
つまり、2人の気持ちも世間的にも不安定で、浮遊感のある恋愛なのです。友情も傷の舐め合いも入り混じっています。
さびしい者同士なぐさめあっただけの記号的な恋愛・崇高な恋愛ではないと思いました。
(この2人の関係をステレオタイプの恋愛の延長と考えてしまうと、本作の評価はまるっきり変わる気がします。)
良いか悪いかはさておき、ヒラリーとスティーヴンの関係のような光とも闇ともいえる微妙な恋愛って昔は多かったのかもしれません。
当人たち以外の人知れず咲き、人知れず枯れてしまう淡い恋です。それを描くことが本作のひとつの大きな意義だったと思います。
いわば現代では見ることができない時代の遺物としての恋愛が、朽ちかけの映画館・エンパイアと重ねられているようでした。
映画のスクリーンという光の裏側に、ヒラリーとスティーヴンの恋愛がひっそりと、しかし確かに存在していたと伝わってきました。
許されないうえに確証も持てない微妙な恋愛って例えばフェデリコ・フェリー二監督の『道』(1954)とかがその代表格でしょうけど、最近の映画ではあまり見ない気がします。
年の差があれば教育上も良くないし、許されない恋愛はコンプラに引っかかるからかも知れません。
でも恋愛感情って本来はもっと繊細で微妙なもので、同じくらいの年の男女に限定されるべきものではない気がします。
最近は、LGBTの恋愛映画は世間で許容されてきてそれは非常に喜ばしいことだと思いますが、欧米の場合は年の差恋愛には厳しそうですね。
ヒラリーとスティーヴンの関係は世の中の流れとともに淘汰されてしまうものなのでしょう。エンパイア映画館の中にある廃墟となった部屋のように。
まとめると、映画という光を使って人生の暗闇をすくって見せたのが本作『エンパイア・オブ・ライト』だと思いました。
海外では評価されていないのが不思議です。
本作にさまざまなテーマが込められているうえに、白黒ハッキリとした答えが提示されていないからかもしれません。
テーマが複雑に絡みあっていて答えがない部分は確かにありますが、その複雑さこそが人生という問いに対しての答えだと思います。
アカデミー賞ではロジャー・ディーキンスが撮影賞でノミネートされるだけにとどまりましたが、個人的にはなんで作品賞とか監督賞とか入らないのか疑問です。
エンパイア・オブ・ライト考察(ネタバレ)
映写機と光と闇
トビー・ジョーンズ演じるノーマンが本作の真理を、24コマのフィルムの間に暗闇があると表現していました。
映画の光の中に闇があるのです。
人生も同じで、ヒラリーとスティーヴの恋愛の裏には、ヒラリーとエリスの不倫関係や、ヒラリーの精神障害、リンチされてしまうスティーヴなど闇の出来事があります。
光もあれば闇がある。それが人生であり世界だとフィルムの構造を通して伝えているようです。
また撮影監督のロジャー・ディーキンスは本作で自然光や逆光を多用しており、光だけでなく日常にある闇の存在を浮き彫りにするコンセプトがあったように思えました。
社会や映画が捨て去ったもの
現代はインスタグラムではキラキラの日常をみんながこぞって投稿するなど光にしか目を向けず、闇を抑圧して無視しているような社会に向かっている気がします。
個性的な自分を演出しているつもりが、SNS社会に許容されるキラキラの日常しかのせないのであればそれは大いなる無個性です。
SNSの流行で社会全体の価値観が重要視されるようになり、多様性をうたっているようで、おおやけには言えないけど本来人間が持っていた微妙な感情は居場所を失っている気がします。
性的な事柄についても、許容されるものとそうでないものが極端な気がします(ロラン・バルトやフーコーなどの哲学者がこの問題点についてはかなり昔から言及しています)。
これは映画制作についてもいえることです。さまざまな規制があり、知らないうちに非常に多くの価値観が排除されていると感じました。
しかし、そんな忘れ去られていく価値観を表現することこそが、映画の意義ではないでしょうか。
『エンパイア・オブ・ライト』はその点が強調されていたと思います。
映画バンザイの映画というより、人の繊細さを表現できる本質を忘れるなといっているよう。
精神障害を抱えて黒人の年下男性と恋愛するヒラリーが映画に救われる結末からも、映画がマジョリティを救うためだけのものであってはならないというテーマが伝わってくるようです。
時代に逆らうことはできないかもしれません、キレイごとだけの社会に逆らうことが正しいかもわかりません。
いったん立ち止まって、社会に抑圧された繊細な感情に目を向けてみてはどうだろうか?
本作からそんなメッセージが感じられました。
『エンパイア・オブ・ライト』は映画についての映画でもありましたが、デイミアン・チャゼル監督の『バビロン』と比較すると圧倒的に本作のほうが映画についての愛が深まりました。
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映画『エンパイア・オブ・ライト』ネタバレあらすじ解説
ヒラリーとスティーヴンの恋愛
スティーヴンはヒラリーのキスを嫌がらなかった。
ヒラリーは大晦日の日にオーナーのエリスにせがまれてセックスをしてしまったのだが、スティーヴンが気になりはじめたヒラリーはエリスの誘いを断るようになる。
ヒラリーとスティーヴンは映画館の使われていない部屋で体を重ねた。
恋愛関係になった2人はビーチにデートに行った。砂の城を作るが、「男はいつも命令ばかりする!」と急に暴力的になったヒラリーは砂の城を破壊してしまう。
映写技師ノーマンは、スティーヴンに映写の技術を教えて助手として使うようになる。
スティーヴンとヒラリーの関係は映画館のスタッフに知られてしまった。
イギリスでは黒人移民反対の差別運動が各地で起こっており、スティーヴンはヒラリーに「この関係はまずくないか?」と問いかけた。
関係に疑問を持たれたヒラリーは、スティーヴンが自分のことを恥じていると考えてショックを受け、昨年の夏に発症した統合失調症の症状が再発してしまい、映画館に来なくなる。
ヒラリーの異変と差別デモ
映画館エンパイアで『炎のランナー』のプラミア上映会が開催されることになった。
エリスの舞台挨拶のあと、おしゃれなドレスを着てヒラリーが舞台に上がり、街の有力者たちに挨拶をする。
館内から出たヒラリーはエリスの妻に、彼が自分と不倫をしていると告げ、その場を去った。
スティーヴンは心配して家へ行く。
ヒラリーはスティーヴンとワインを飲みながら狂気に満ちた表情で、幼い頃に母が自分にした仕打ちを叫んで聞かせた。
隣人の通報で、ヒラリーは警察とソーシャルワーカーに連れられて精神病院に入院することに。
数カ月後、元カノ・ルビーと一緒に歩いていたスティーヴンは、海辺のベンチに座っているヒラリーを見つけて声をかけた。
エリスが他の映画館に移動になり、病気の症状が回復したヒラリーはまた映画館に戻ってきて働くことに。スタッフたちはみんなヒラリーを歓迎してパーティーを開いた。
そんなとき、映画館のまえを黒人排斥のデモ行進がとおる。鍵を閉めようとしたスティーヴンはデモ隊に見つかってリンチされ、肋骨を折るなどの重傷を負ってしまった。
ヒラリーは病院まで付き添う。スティーヴンの治療が終わった。ナースでもあるスティーヴンの母が、ヒラリーに怪我の具合を伝えた。
ラスト結末
ヒラリーはスティーヴンの母が自分より若いくらいの歳だと知ってお見舞いに行けなくなる。
ノーマンは、若い頃に息子や家庭を捨てて逃げてしまい、それ以来息子に会えていないとヒラリーに話した。そして「逃げずにスティーヴンの見舞いに行ってやれ」と続ける。
ヒラリーが病室へ行くと、スティーヴンは喜んだ。
帰り際に、スティーヴンの母は複雑な表情でヒラリーの手をにぎった。
スティーヴンは大学に合格し、他の土地へ行くことになった。
ヒラリーはスティーヴンに「高窓」の詩集を送る。
スティーヴンは列車の中でその詩集を読みながら、ヒラリーのことを思い浮かべた。
映画『エンパイア・オブ・ライト』終わり
最後のまとめ
映画『エンパイア・オブ・ライト』は、人生の光と闇という視点から映画館で働く人々を切り取った傑作でした。
海外では賛否両論ですが、こういう微妙な心情を暴露したような深いヒューマンドラマは今後もつくられ続けるべきだと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございます。『エンパイア・オブ・ライト』レビュー終わり!
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