映画『クライ・マッチョ』は、クリント・イーストウッドがメキシコにいる少年を連れ戻す過程で、人生における本当に大事なものを教えてくれるロードムービー。
素晴らしいメッセージに感動した一方、起伏のないストーリーが少し残念でした。
劇場にいる観客のほとんどが僕より30〜40歳ほどの先輩ばかりでしたが、皆イーストウッドの後輩です。91歳で主演・監督を務め、良作を撮れるイーストウッドは超人だと思います。
ぶっちゃけ感想・評価、クライ・マッチョの意味からメッセージ考察、ネタバレあらすじ結末解説を知りたい人向けに記事をまとめました。
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです)

映画『クライ・マッチョ』キャスト・作品情報
原題:Cry Macho
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ニック・シェンク(『グラン・トリノ』『運び屋』)
原作:N・リチャード・ナッシュ
撮影:ベン・デイヴィス(『エターナルズ』)
音楽:マーク・マンシーナ(『モアナと伝説の海』)
編集:ジョエル・コックス(『チェンジリング』)
クリント・イーストウッド
2022年1月現在、おん年91歳!!!
とっくに引退してもいい年齢で、監督・主演を務めるエネルギーは凄まじいですね。
『ダーティハリー』の成功はもちろん、『許されざる者』(1992)『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)で監督としてアカデミー賞作品賞を2度も受賞した、生ける伝説です。
人生100年時代の先頭を突っ走っています!
ネタバレなし感想・見どころ・あらすじ
あらすじ:孤独な元ロデオスターのマイク(クリント・イーストウッド)は、牧場主からメキシコにいる13歳の息子・ラフォを連れ戻してほしいと頼まれ、車で国境を超えますが…。
起伏の少ないロードムービーですが、人生の真理を捉えたようなシーンがいくつかあり、テーマにも深く共感できます。
クリント・イーストウッド監督の『パーフェクト・ワールド』の刺激を薄めたような作風です。
脚本は酷評されていてストーリーの完成度が高いわけではないですが、個人的にはかなり好きでした。
海外レビューサイトでも、酷評が結構多い印象です。
おすすめ度 | 80% |
世界観 | 78% |
ストーリー | 50% |
メッセージ性 | 86% |
IMDb(海外レビューサイト) | 5.7(10点中) |
Rotten Tomatoes(海外レビューサイト) | 批評家57% 一般64% |
※以下、映画『クライ・マッチョ』のストーリーネタバレありなので注意してください!
映画『クライ・マッチョ』ネタバレ感想・評価
一方で、細かい説明が端折られていたり、敵が都合よいタイミングでしか出てこなかったりと、映画としてクオリティが高いとは言えない部分も。
リアリティやスリルはなく間延びした場面が続き、途中で少し眠くなりました。
ただクリント・イーストウッドが少年に馬の乗り方を教えたり、聾唖の少女としゃべったりといった何気ない場面が人生を集約した一枚の絵画のように切り取られているなど決定的に素晴らしいシーンもありました。
ロードムービーとして物語の起伏にはやや欠けますが、全体的には満足です。
同日公開だったリドリー・スコットの『ハウス・オブ・グッチ』よりは全然こちらの方が楽しめました。
考察:クライ・マッチョの意味とマチズモ
タイトルにもなっているクライ・マッチョの意味が、本作の本質につながると考えます。
マッチョとは少年・ラフォが飼っているニワトリの名前です。
よってクライ・マッチョ Cry Machoの意味はそのまま日本語で解釈すると「鳴け!ニワトリのマッチョ」。
メタファーとして、主に2つの意味があると思いました。
新しい朝に向かって叫べ!
マッチョは勇敢に敵に飛びかかり、マイクたちのピンチを救ってくれました。
さらにニワトリが鳴くのが夜明けであることを加味すると、新しい朝に果敢に挑め!というメッセージに感じられます。
ニワトリのマッチョと登場人物の状況が重なるわけです。クリント・イーストウッド演じるマイクと少年ラフォの2人の心情とピッタリですね。
彼らは、新しい朝がすぐそこにあるのに、今まで胸を張って鳴けなかった鶏なのです。
しかしラストでは、また一歩踏み出す勇気を取り戻しました。
マチズモの救済
Machoとは、スペイン語で男らしいという意味です。
クリント・イーストウッド演じるマイクは、昔はロデオスターで、Machoという言葉そのままの男として生きてきました。
妻子を失って孤独に過ごし、自分が寂しいとすら気づかずに生きてきたのでしょう。
それを踏まえると、クライ・マッチョとは「泣いてもいいんだぜ」的な解釈をしてもよさそうです。
劇中のマイクは、女性・マルタの「ウチで過ごしていいよ」という申し出をマチズモからか断ろうとしますが、結局一緒に住み、欠けていた心を取り戻していきます。
古く凝り固まった価値観を捨てて、人との繋がりを大切にして生きろというメッセージに感じました。
一見すると古くさいロードムービー的な『クライ・マッチョ』ですが、マチズモに苦しむ人々を救済する現代にピッタリなテーマですね。
1971年に発表された原作を、2020年代に映画化したクリント・イーストウッドの慧眼は素晴らしいと思います。
私もそうですが、現代の日本男性は親から「泣くな!」と教えられてきた人も多いでしょう。強く見せなければ、という価値観に苦しんでいる人もいるでしょう。
日本だけでなく昔は世界的にそうだったでしょうし、クリント・イーストウッドも典型的なマチズモ・スターです。
そんなイーストウッドが『クライ・マッチョ』で世の中の男たちに泣くことを許してくれたようで、じんわり感動してしまいます。
映画『クライ・マッチョ』ネタバレあらすじ解説
落ちぶれた老齢の元ロデオのマイク・マイロ(クリント・イーストウッド)は、妻子に交通事故で先立たれた後、仕事も首になり、孤独に暮らしていました。
ある日マイクは、世話になっている牧場主ハワード・ポーク(ドワイト・ヨアカムラファエル)から、メキシコにいる元妻との子供ラファエル(ラフォ/エドゥアルド・ミネット)が虐待されているようだから連れ戻してほしいと依頼されます。
金銭面の面倒を見てもらっているマイクは、仕方なくオンボロ車でメキシコに渡りました。ハワードの元嫁で実業家のリタ(フェルナンダ・ウレホラ)の家に行きますが、そこにラフォはいません。
リタは「ラフォは13歳の少年ながら街で盗みを働くワルで、ストリートで闘鶏をしている」と話しました。
マイクは違法闘鶏場にいるラフォを見つけ、「牧場主の父が会いたがっている」と説得しました。カウボーイになることに憧れていたラフォは了承。しかし荷物を取りに行くと言っていなくなります。
マイクは再びリタの家を尋ねました。リタは「ラフォは逃げた」と言い、マイクをベッドに誘おうとしますが、マイクに断られて激情。「ラフォをアメリカに連れて行くなら誘拐で訴えて、一生メキシコの刑務所で暮らさせてやる」と叫びました。
訴えられてはかなわないと考えたマイクは車で逃げようとしますが、後部座席にラフォが乗り込んでいました。ニワトリのマッチョも一緒です。
マイクはラフォを追い出そうとしますが、彼はアメリカに行くと言って聞きません。
マイクはリタの部下に見つからないように急いで車を走らせます。ある街で飲食店を営むマルタという女性と出会い、そこで食事をします。
マイクたちは車で進みますが、大規模な検問があり、しばらくマルタの街に滞在することにしました。
マイクたちは礼拝堂で寝て、野生の馬を飼い慣らす仕事をしながら、マルタの店で彼女の聾唖の孫たちと仲良くなります。マルタは娘に先立たれてしまったそうです。
マイクとマルタはお互いに惹かれあっていきました。
しばらくたち、マイクは替えの車を修理して出発することにしました。
ラフォの母・リタの部下が追ってきて、銃で追い詰められますが、ニワトリのマッチョが飛びかかり、マイクが銃を奪ってその部下を脅しました。
国境が近づきますが、父・ハワードが母・リタと投資の利益配分の相談のために自分を取り戻して、交渉の材料にしていると知ったラフォは、マイクに激怒。
マイクは「ハワードがお前を気にかけているのは本当だ」と慰めました。
マイクたちは警官にドラッグを運んでいると思われ不当な捜査を受けながらも、無事に国境沿いに到着。ラフォはマイクにニワトリのマッチョを渡し、車でやってきた父・ハワードのところへ向かいます。
マイクは道を引き返し、マルタと一緒に暮らすことにしました。
映画『クライ・マッチョ』終わり。
最後のまとめ
映画『クライ・マッチョ』は、クリント・イーストウッドが新しい人生の始め方を教えてくれた一方、ストーリー展開は微妙な作品でした。
世間的な評価は高くないですが、マチズモ救済というメッセージもあり、個人的には感動できました。
クリント・イーストウッドには100歳まで生きてほしいです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。『クライ・マッチョ』レビュー終わり!
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