映画『ボーはおそれている』考察ネタバレ「逆転の解釈」ラストは子宮に帰還?恐怖と意味を解説

  • 2024年2月19日

アリ・アスター監督の映画『ボーはおそれている』(ボー イズ アフレイド)!『ジョーカー』のホアキン・フェニックス演じる挙動不審な中年男性が、怪死した母の葬式へ向かうまでに遭遇する恐怖と戦います!

シネマグ
意味不明すぎる物語を理解できるように独自解釈!アリ・アスター監督はどこへ向かってしまうのか(笑)!?

考察と解説:ストーリーの解釈「ボーの願望の投影」「少年ボーの夢?」「マザコンというより、母へのエディプスコンプレックス」、「ラストシーンの怖い意味」

これらの情報を知りたい人向けにわかりやすくレビューしていきます!

(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです。お好きな項目から読んでください)

映画『ボーはおそれている』あらすじネタバレ

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映画『ボーはおそれている』ホアキン・フェニックス

映画『ボーはおそれている』考察&ネタバレ解説

登場人物はボーの願望の投影

不安症のボーが恐れた世界を表現されていると同時に、登場人物にはボーの欲望・恐怖が投影されています

ボーが住んでいた街の住人たちも、それぞれボーのなんらかの欲望と恐れの表れです。

バスタブの上の壁にひっついていた男性は、ボーが風呂を恐れていることの具現化です。ボーの回想で、風呂から母と幼少期の自分を見つめている場面がありましたが、母の象徴として水を恐れているのでしょう。

グレースとロジャーは理想の家族の投影です。

神経をやられた軍人・ジーヴスは、消極的なボーの攻撃性の象徴です。

終盤の屋根裏の巨大男性器も、母に抑えつけられたボーの欲望の象徴でしょう。その男性器へジーヴスが突っ込んでいく当たり、攻撃性と性的欲望の同化にも見えます。その辺もアリ・アスター監督の中では爆笑ポイントなのではないでしょうか?

逆転の解釈:少年ボーの夢

映画『ボーはおそれている』

最初から最後まで意味不明だった『ボーは恐れている』の物語。一体どういう意味なのでしょうか?

さまざまな解釈ができますが、個人的に1番しっくりくるのが母親の抑圧によって引き起こされた少年ボーの夢というもの。

母親の異常な愛情によって、少年・ボーは自分の将来を悪夢のビジョンとして先取りして見たのです。

時系列でいうと、船の回想シーンの直後あたりで少年ボーが「自分が中年になったらどうなるんだろう…」という不安と恐怖から見た夢という考え方です。

もちろん中年のボーが見た不条理な世界と捉えることもできますが、少年ボーの視点から描かれた物語だと逆転させて考えたほうが腑に落ちる点が多いです。

(ホアキン・フェニックスの演技からもわかりますが、ボーは中年ながら少年のような心を持っているため、どちらでも解釈の本質的な部分は変わりません。)

なぜボーが暮らしている世界があれほど不条理で暴力的かの理由も、少年ボーが抱える外世界への恐れがそうさせているのだと考えると納得がいきます。

中年のボーが見た夢や幻覚であれば、もう少し常識のある世界として描かれる気がします。

性体験への恐れもそうです。性行為をすると死んでしまうというのは、いかにも子供が信じそうな嘘ですからね。

性に目覚める少年が1番恐れていること。それは「中年になっても母に管理されて童貞のまま!という未来」かもしれません。

神経症の中年男性・ボーが自らの不安を投影させた冒険譚というシンプルな見方だけでなく、少年期のボーの心象風景と捉えるひねくれた見方も成立すると思いました。(なんせアリ・アスターなので。)

ラストシーンの意味:子宮に沈められる

映画『ボーはおそれている』ラストシーン

『ボーは恐れている』は終盤にかけてどんどんドラマがかってきます。

ボーは生きていた母・モナの首を絞めたあと、「ボートに乗っていざ1人だちの冒険の旅へ!」となるかと思いきや、ボートの周囲に巨大なドームと観客が現れ、ボーが生涯に渡って母におこなってきた罪が裁かれます(子供の頃にデパートで隠れて母をパニックにしたなど些細なこと)。

結局ボーは裁判で有罪となり、ボートはひっくり返り、沈んで溺れ死にます

いくら何でも意味わかりませんね。メタファーを考慮しないと意味不明です。

ボートで出発したときに通った洞窟は産道、巨大なドームは子宮、海は羊水と捉えると見えてきます。(アリ・アスター監督はインタビューでフロイトの精神分析についても言及しているので、あながち考えすぎでもないでしょう)

つまりボーの母は、ボーを愛するあまり息子を自分の子宮に戻したいという願望を持っていたのではないでしょうか?

このラストこそがアリ・アスターによる母親が息子に持つ歪んだ愛の新解釈であり、母の愛が最悪のホラー表現として生まれ変わった瞬間でもあります。

シネマグ
マザーコンプレックスに打ち勝てず、マザーに心を殺されて幽閉される!みたいな話ですね。全体的にエディプスコンプレックス(男の子が父を憎む心理過程)の母親版みたいな物語でもあります。

ボーの心が母親の愛情によって破壊され、少年の状態のまま檻(母の胎内)に閉じ込められたと示唆する、救いようのない精神崩壊コメディでした。

感想を語る犬
アリ・アスターの感性が怖すぎる。背筋がゾクっとしますね。

ミッドサマー、ヘレディタリーとの比較

アリ・アスター監督の過去2作、『ミッドサマー』『ヘレディタリー継承』と比較したときに浮かび上がってくるのが、登場人物が何もコントロールできない無力感と、すべてが仕組まれていたという全能の存在です。

ヘレディタリーであれば祖母、ミッドサマーであれば村全体が最初から全てを計画している全能の存在であり、主人公は基本的にあらがうことはできません。

本作の場合は、すべてを計画しているのがボーの母親です。この全能の存在はアリ・アスター監督そのものでもあるのでしょう。

シネマグ
『ボーは恐れている』では私たち観客も、アリ・アスターの手のひらで3時間苦しめられていたわけです。

父に関する嘘

母・モナによると、ボーの父は母と性行為した瞬間に死んでしまったようです。

これは、ボーを他の女性から遠ざけるために母・モナがついた嘘でしょう。

終盤で実家に帰ったボーは、母親に「秘密を教えてやる」と天井裏に挙げられ、そこで飼われている父らしき老人と、その老人が変化した巨大な男性器を見ます。

あきらかに現実ではありません。

母はボーを手放したくなかったので、子供の頃から天井裏で男性に対する嫌悪感を植え付けており、そのトラウマから幻覚を見たのでしょう。

母が父の存在を抹殺したのは、ボーに対して「父親になるな」「私から離れて1人前の男になるな」というメッセージにみえます。この辺も意味をくみとると怖いですね。

ボーが実家に帰った際、石板にボーが生まれたのは1978年で、父が死んだのは1975年と書かれていた気がします。いずれにせよ計算が合わないです。

森の中の劇中劇について

グレースの家から逃げたボーは、森の中で劇を見ます。

劇の内容は主人公の両親が死亡したところから始まり、ボーは自分の物語だと思って勝手な妄想を繰り広げます。

妄想は「冒険をして、妻と3人の子を持つ。しかし嵐で生き別れ、老人になって3人の子供とやっと再会する。しかし自分は性行為をすると死んでしまう遺伝性の病気なので、妻(子供たちの母)と性行為をした覚えはない」という超シュールな物語となりました。

この劇中劇についても解釈がいくつもできそうですが、私はボーが心理的な抑圧によって父親になる道を奪われているとの表現だと思いました。

愛する息子たちを生涯をかけて探して再会したけど、自分には息子を作れるはずがない…。

「あなたの父は性行為した直後に死んだ」という母の嘘が引き起こしたひどい悪夢ですね。

エレインは母に殺された

実家に帰ったボーは少年の頃に出会った女性・エレインと再会して、性行為におよびます。ボーは絶頂に達しますが、死にません。父も祖父も性行為をすると死ぬ家系というのは嘘だったわけです。

その代わりにエレインが死にます。(衝撃的でしたね)

エレインとの性行為は一部始終が母・モナによって監視されていました。

エレインは母に殺されたのでしょう。

ただこのシーンも夢か現実かわかりません。

母親によって少女・エレインと引き離された少年・ボーのトラウマが、「中年になってからエレインと性行為してエレインが死んだ」という変な夢に変換されたようにもみえます。

ホラー映画の解説・考察記事↓

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