夏目漱石の『こころ』は、なぜかずっと敬遠していたのだが、本屋で見かけて「名著だから読んでおくか」というくらいの気持ちで買って読んでみた。
個人的な感想なので本当に許して欲しいが「めちゃくちゃつまんなかった!」
僕は本は好きだが、読むのが早い方ではないので、結構な時間を費やしてつまらなかったらつい腹を立ててしまう。しかし、ここでは僕の習性はひとまず置いておいて、
なぜ名著『こころ』がつまらなかったのか、いくつか理由を挙げ、それに対しての感想や分析などをしていこうと思う。
ちなみに、『こころ』が好きという人も勿論いると思うので、そういう方は先を読まなくてもいいかもしれない。気分を害したくて書いているワケではないし、僕が完全に正しいワケでもないので。
小説『こころ』ネタバレ感想!倫理観・分析が薄い
『こころ』は先生(主人公が尊敬する人物)の遺書で話が終わっており、しっかり完結していない。先生の遺書が長過ぎるなどの欠点は以前から言われているが、問題はそこではない。
『こころ』がつまらない最大の理由は、先生の倫理観や分析が非常に薄いというところにある。
個人的な結論を述べると、一般人が誰でも考えたことがあるような内容がほとんどで、人間に対する分析力の非常に弱い物語になってしまっている。
『こころ』は学生の“私”と“先生”による、自己や人間の洞察が主体になっており、エゴイズムや個人の倫理観と社会の相違を追求した作品だといわれている。なのに、人物の内面描写がめちゃくちゃ浅いのだ。
確かに、西洋の倫理観が完全に輸入されていない1914年当時は斬新な内容だったのだろう。現在でも読める文章を書いた功績自体は非常に大きい。しかし、今の人が読むと「こんなことみんな考えてるよ」と感じるような内容である。
考え方自体が真新しいものではなくても、独自の理論などがうまく表現されていれば、いつの時代になっても面白いはずだが、『こころ』には、そのオリジナリティーが殆どない。
例えば、有名な『精神的に向上心がないものは馬鹿だ』という有名な文章。
セリフとしてはいいと思うけど、K(先生の親友)が普段先生に言っている、世俗にうつつを抜かさないで、達観を目指せ!という、誰もが考えている感情を逆手に取っただけで、中学生ならまだしも、エリート大学生が言うには説得力のなさすぎる文章だ。
今の中高生風に言い換えると「お前、今アイツに告白して付き合ったら受験失敗するぜ!」という感じの恋愛戦法だろ・・・なんかとても浅く感じてしまう。
小説『こころ』ネタバレ考察:明治の精神の滅び宣言
先生の自殺に関して、乃木希典という陸軍大将が、明治天皇の崩御(お亡くなり)をうけて、殉死(主君を追って自殺)したという事件が後押しになったという文章がある。
私は新聞で乃木大将の死ぬ前に書き残して行ったものを読みました。西南戦争の時敵に旗を奪られて以来、申し訳のために死のう死のうと思って、つい今日まで生きていたという意味の句を見た時、私は思わず指を折って、乃木さんが死ぬ覚悟をしながら生きながらえて来た年月を勘定して見ました。西南戦争は明治十年ですから、明治四十五年までには三十五年の距離があります。乃木さんはこの三十五年の間死のう死のうと思って、死ぬ機会を待っていたらしいのです。私はそういう人に取って、生きていた三十五年が苦しいか、また刀を腹へ突き立てた一刹那が苦しいか、どっちが苦しいだろうと考えました。それから二、三日して、私はとうとう自殺する決心をしたのです。私に乃木さんの死んだ理由がよく解らないように、あなたにも私の自殺する訳が明らかに呑み込めないかも知れませんが、もしそうだとすると、それは時勢の推移から来る人間の相違だから仕方がありません。引用元
先生が乃木大将の殉死をここまで真剣に受け止めていたことから、『こころ』という作品は、明治時代以降の、近代的民族主義(欧米の思想と日本思想の混在)における人々の精神の変容を内包しているといわれている。人のこころって変わっていくよね。わびさびだね〜ということなのだろう。
その理屈はわかるが、だからといって、『こころ』が名著だということとイコールにはならない。
時代背景や変容を、一見それとわからないように、別なストーリーで描くという手法は、もっと昔からあるし、今も普通に行われている。当時はある程度斬新だったかもしれないが、こころが確立したことでもないだろう。
疑問,現代人が心情を理解できないだけ!?
さらに『こころ』という作品の良さがわからない人については、こんな論議がある。
「先生は忠義などといった儒教精神、明治時代やそれ以前の美徳や倫理観を持っているがために悩みぬき、自殺したが、悩みの深さ自体が、今の読者の考え方とかけ離れていて、わからないだけ」
というものだ。
いや、そんなことはない。
なぜなら、それ以前の時代を美化した『忠臣蔵』など忠義・義理・人情や、それについての葛藤をテーマにしている、数多くの時代劇作品などは、現代日本人の大多数に馴染みがあるものであり、みんな楽しめているじゃないか。
もちろん、その時代に実際に生きてはいないので、忠義・義理・人情を完璧に理解している現代日本人は少ないと思うが、それでも雰囲気は感じ取れているはずである。
単純に文章から、先生の“憂い”からは大切にしてした倫理観を自分で裏切ってしまったという激情や葛藤の深さが伝わってこないというのが『こころ』が面白くない原因だろう。
夏目漱石の『こころ』はつまらない?書評まとめ
以上のことから、『こころ』はストーリーが画期的!というワケでもなければ、心情理解を現代人ができないからつまらなく感じる!ということでもない。
個々の文章自体の洞察力が低かったり、表現がそこまで面白くなくても、文学として評価できるのか?という疑問が消えない。
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